3節「お前はもう、独りじゃない 4」

文字数 1,845文字

!!
…………
宝生さんが眼を閉じ深呼吸すると、

胸の辺りが微かにザワついたような気がしました。


ここは私の夢の世界……。

何か異変があると、私には何となく

伝わるようになっているのでしょう……。

…………

宝生さんの手が光ったかと思うと、少し先で鈍く光る鞭のようなものが幾つか飛び出しました。


それらは歪んでいる空間の一部をきれいに囲い込み、宝生さんが手を強く握り締めるのと同時に固まって地面に落ちました。

『――――――!!』
フッ……!

捕縛成功。

その中には、黒くモヤがかかったような何かが、

閉じ込められているようでした。


大きさはかなり小さく……

40cmほど……でしょうか……。

え? え?
……ん? あぁ今のか?

ここは夢の世界だからな。ある程度超能力染みた技を使うことはできる。


もっとも、使えるものはお前の夢が処理できるものに限られるが……

こういう檻のような

一般的な物は使いやすい。

へ、へぇ……。
宝生さんは手をもう一度光らせて見せると、

満足そうにそれを戻しました。

このやり方に自信があるみたいです。


それを見た私は「夢魔の駆除って、

思っていたよりハードなんだ……」という感想ばかりが頭を巡りました。

それに、まず縛り付けるというのは俺の性にも合っている。
し、しばるのが……そう……


!? え!?

なんだ?

まず対象の動きを止めるのはセオリーだろう。それから処理する道具を考えればいい。

…………。
確かにその通りで……

別に変なことを言っているわけではないのですが……。


宝生さん自身が変なことを言っていると思っていないところがこう……良いところでもあり、悪いところでもある(のだろう)と言いますか……。

え、あ、そ、そうですよね! 

それだけですよね!

……?

不思議な奴だ。

さて、捕らえた夢魔だが……
!?

こいつは……。

捕まえた夢魔を見た宝生さんは、

少し顔を顰めてこちらに戻ってきました。


何か、おかしなことがあったみたいです……。

どうかしましたか?
やれやれ……

もう少し時間がかかるなこれは。

え……?
心配するな。

多少、厄介なだけだ。

( ……あれ……なんか……?)
このまま……ん?
突如として、空に亀裂が入り出し、ガラスがめくれ上がるかのように音を立てて崩れ始めました。


それに連れて私の意識も混濁し、だんだん考えがまとまらなくなって行きました。

う…………。
馬鹿な……!?

空間が崩壊する……!?

1枚……また1枚と……

その数はどんどん増えて行き、最後には数え切れない勢いで地面に破片が降り注ぎます。


そこで私の意識も完全に途絶えてしまいました。

クッ!

いかん!

ーーーーーーーーー
ん……あれ……?
お目覚めか、天崎 そら。

良い眠りは送れたか?

あれ、どうして?
何かの手違いでお前を眠りから醒ましてしまったようだ。眠っていなければ、当然夢の空間は保てなくなる。
夢空間の私が意識を失ったのは

現実の私が目を覚ましたから……。


何だかややこしくて頭がおかしくなりそうです……。

……しかし室内環境は最善に整えたはずだが、どうしてこんなことに……。
ん……?
……!!!
急に宝生さんは私の身体に触れてきました。


何かを確認しているようですが……。

あまりに突然触れられたものだから、

反射的に身体が強張ってしまいました。

これは……汗か?

何故……

……でも。

近くで見ると凄い整った顔をしていることがよく分かり、後から遅れてドキドキもやってきました。

!!

はっ……!?

え……した……!? えぇ!?

チッ……! 抜かったか……!

着衣も目視で確認できる範囲では対応しているが、流石に下着までは確認できん!


一般的な材質のもので考慮してしまったのが失敗だったか。

えっと、あの、宝生さん???
ドキドキを返してください。

!!

今後はマスターに頼んで、下着もチェック項目に加えてもらおう。トラブルの種は事前に摘んでおかなくては。

……あの……
問題は本当に下着でしょうか……?


と言うか、まず下着が思い浮かぶって一体過去に何が……いえ、それだけ他のものを完璧に整えている自信がある、ということなのかも……?

……すまなかったな。

下着を想像しながら室内環境を調整するのは困難を極める。

(え、そこ?)
一度、問題がないものに着替えてきてくれないか?
……宝生さん。
……ん? なんだ?
そういうところじゃないかと……。
え? そういうところ?
……どういうことだ?
……アハハハ……

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登場人物紹介

天崎 そら(あまさき そら)(20)※一章時

主人公。人々を悪夢から救う"夢うさぎ亭"で働く一般女性。

自分よりも相手のことを優先する心優しい性格で、大抵のことは受け止めてしまう。

一章では夢うさぎでの経験から、自分の意見を言う勇気を持てるようになった。

(※本作では主人公の個人設定はフリーなため、定まった容姿は存在しません)

早乙女 夢月(さおとめ むつき)(19)※一章時

まだ夢の世界で夢魔を祓ったことがない半人前の夢想師。

前向きで明るく裏表がない天真爛漫な性格で、深く強く他人の気持ちに寄り添える豊かな人間性を持つ。

そのおかげで、夢の世界を現出するために必要な「心のパイプ」を繋ぐところまでは誰よりも完璧にこなすことができ、秘めたるポテンシャルは天才的。

しかし、その事実を本人はまだ自覚できないでいる。

宝生 吏星(ほうしょう りせい)(24)※一章時

夢の空間の現出を得意とする夢想師。

他人のことを真剣に考えすぎてしまう性分で根が優しい。

反面、冷静で効率主義かつ真顔で言葉遣いがきつい。そのため人に避けられやすく、本人も少し気にしている。

実直で真面目すぎる苦労人気質。不測の事態に陥ると熱くなりやすい一面も。

夢うさぎの実質的なリーダーとして振る舞っている。後輩である夢月の指導について、自分とあまりにタイプが違うことにかなり悩んでいるらしい。

紫吹 蓮夜(しぶき れんや)(不明)※一章時

夢魔の駆除を得意とする夢想師。

天性のルックスと王子様気質により何もしなくてもモテる美男子。

いつもニヤニヤとしていて、何を考えているのかよく分からない。

自分の身内をからかって遊ぶのが趣味で周りも手を焼いているが、他人が本心から嫌がることは絶対しないバランス感覚を持っているため、何故か憎まれない。

吏星とは付き合いが長く、お互いがお互いの"扱い方"を熟知している節がある。

ヨウタ(5)

一章の核となる少年。来年度から小学生。

ある理由で夢魔に憑かれてしまい、夢うさぎを訪れる。

幼稚園などに通えておらず、家に1人でいる時間が長い。

テレビやおもちゃを心の拠り所にしており、最近は特撮作品ブレイブテイカーがお気に入り。家で何度も繰り返し見ては元気を貰っている。

ヨウタの母(33)

一章に登場。

息子 ヨウタの悪夢を治すため、夢うさぎを訪れる女性。

夢想師の治療には原則本人しか招待されないが、ある理由から付き添いが認められている(ただし、治療の実態を知ることはできない)

佐藤 アキラ(さとう あきら)(30)

一章に登場。

悪夢の治療を受けに夢うさぎ亭を訪れる研究者。

仕事の重圧に負けまいと日々頑張っているが、家族の理解を得られないことに頭を悩ませている。

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