2節「夢魔と夢想師 4」

文字数 1,499文字

む、夢月くん!

別に何でもないよ!

夢月くんには悪いけど、無理に話すと

面倒なことになりそうなので……。


そばにいた蓮夜さんが少しニヤついていたのを見て、それを確信しました。

……どう、落ち着いた?
うん、何とか。
……俺、なんかいつも泣いてばっかだ。

そらには、情けないところばっか

見せちゃってる気がするな。

…………。
男の子として考えたら、気にすることなのかもしれないけど……私はそうだとは思いません。
夢月くんが私に見せてくれているのは、

カッコ悪いところじゃなく、優しいところ。


私はそうやって、すごく良い意味で捉えられています。

そう……かな?
でもそらに言われると、

なんかそんな気がしてくるかも。

ヘヘッ! ありがとな!
うん!
こんな私の考えていることでも、

彼の力になっていたら嬉しいです!

…………。
なんだよ、蓮夜?
何でもないよ。

……単純だなって思っただけ。

施術を終えた吏星さんが、治療室から

涼しい顔で帰ってきました。

お! お疲れ吏星!
やっぱり僕の出番はなし?
憑いていたのはありふれた四足獣型の夢魔だった。取るに足らん。
夢魔は、真っ黒な影のような存在で、

動物の形を模していることが多いそう。


四足獣型というのは、その形を選べるほどの

力を持っていない個体のことを指すようです。

佐藤さんは?
今はよく眠っている。

しばらくあのままにしておいてやった方が良いだろう。

そっか、残念。

今日も待ち損だったなぁ。

 蓮夜さんは予想通りという顔で椅子に座り、

大きく身体を伸ばしてリラックスしています。

治療が上手く行ったのに何が残念だ。

口を慎め紫吹。

はーい。
それに……

今日の患者はやつれた勤め人だぞ。

お前の趣味じゃないだろう。

え、それはどうかな?
気が抜けた吏星さんの些細な一言を

蓮夜さんは見逃しませんでした……。

僕は性別や年齢で人を差別したりは

しないからなぁ。

え!?
なんだと……!?
あ~なになに2人とも?

今どんな想像したの?

驚く私たちを見て蓮夜さんは立ち上がり、

ありえないくらい嬉しそうな顔で近付いてきます……。

ねぇ?
ちょっと?
うっ……
それは……
…………。
り、吏星さん……!

ここは何とか……!

えぇ!? どんなパスですか!?

本当に!  本当に!!

そういうところ!!!
よく分かんないけど……
蓮夜は絶対に夢魔を

討ち漏らさないじゃん?

そんな私たちの焦りを知ってから知らずか……いえ、確実に知らずにでしょうが、夢月くんが蓮夜さんの問いに斜め上からの返答をぶつけてくれました!
……むt
そ、そう! そんな感じです!
私もその隙を見逃しませんでした!
……ふーん。
まぁ今日のところは夢月ちゃんに免じて、そういうことにしておくよ。
ホッ……。
こうして私は蓮夜さんの猛攻(?)を

何とか耐え切ったのでした。


ちなみに、夢うさぎではこういったこと

日常的に起こっています……。

ちなみに今のもいつもの冗談ですよね?
それはご想像にお任せするよ。

ねー吏星。

俺は何も言わん。
アハハハ……
こうやってお昼はカフェで街のみんなを元気にして、夜は悪夢に苦しむ人たちを助けていく。


夢うさぎはこうして二足の草鞋を履き替えて、日夜誰かの幸せのために頑張っています。

まぁ今日はこれでお開きかな。

明日もまた精一杯頑張ろう。

精一杯、な。

こんな人達のそばにいられて、

助けになることができて、


私は夢魔に憑かれた自分を忘れるくらい、

今とっても幸せです。

今日もお疲れ様、みんな!
うん!
でも……

夢魔を祓うというのは

そんな生易しい話ばかりじゃない。


心を侵されるというのは、

こんな単純な話ばかりではない。

『ナイキスTAS』の最新情報はTwitterをチェック!

@viewsquad_tw

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

天崎 そら(あまさき そら)(20)※一章時

主人公。人々を悪夢から救う"夢うさぎ亭"で働く一般女性。

自分よりも相手のことを優先する心優しい性格で、大抵のことは受け止めてしまう。

一章では夢うさぎでの経験から、自分の意見を言う勇気を持てるようになった。

(※本作では主人公の個人設定はフリーなため、定まった容姿は存在しません)

早乙女 夢月(さおとめ むつき)(19)※一章時

まだ夢の世界で夢魔を祓ったことがない半人前の夢想師。

前向きで明るく裏表がない天真爛漫な性格で、深く強く他人の気持ちに寄り添える豊かな人間性を持つ。

そのおかげで、夢の世界を現出するために必要な「心のパイプ」を繋ぐところまでは誰よりも完璧にこなすことができ、秘めたるポテンシャルは天才的。

しかし、その事実を本人はまだ自覚できないでいる。

宝生 吏星(ほうしょう りせい)(24)※一章時

夢の空間の現出を得意とする夢想師。

他人のことを真剣に考えすぎてしまう性分で根が優しい。

反面、冷静で効率主義かつ真顔で言葉遣いがきつい。そのため人に避けられやすく、本人も少し気にしている。

実直で真面目すぎる苦労人気質。不測の事態に陥ると熱くなりやすい一面も。

夢うさぎの実質的なリーダーとして振る舞っている。後輩である夢月の指導について、自分とあまりにタイプが違うことにかなり悩んでいるらしい。

紫吹 蓮夜(しぶき れんや)(不明)※一章時

夢魔の駆除を得意とする夢想師。

天性のルックスと王子様気質により何もしなくてもモテる美男子。

いつもニヤニヤとしていて、何を考えているのかよく分からない。

自分の身内をからかって遊ぶのが趣味で周りも手を焼いているが、他人が本心から嫌がることは絶対しないバランス感覚を持っているため、何故か憎まれない。

吏星とは付き合いが長く、お互いがお互いの"扱い方"を熟知している節がある。

ヨウタ(5)

一章の核となる少年。来年度から小学生。

ある理由で夢魔に憑かれてしまい、夢うさぎを訪れる。

幼稚園などに通えておらず、家に1人でいる時間が長い。

テレビやおもちゃを心の拠り所にしており、最近は特撮作品ブレイブテイカーがお気に入り。家で何度も繰り返し見ては元気を貰っている。

ヨウタの母(33)

一章に登場。

息子 ヨウタの悪夢を治すため、夢うさぎを訪れる女性。

夢想師の治療には原則本人しか招待されないが、ある理由から付き添いが認められている(ただし、治療の実態を知ることはできない)

佐藤 アキラ(さとう あきら)(30)

一章に登場。

悪夢の治療を受けに夢うさぎ亭を訪れる研究者。

仕事の重圧に負けまいと日々頑張っているが、家族の理解を得られないことに頭を悩ませている。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色