序節「目覚めた話」
文字数 755文字
"あぁ、まただ。またこの夢だ"と気付く。
いつ見ても色褪せない……
でも、どこかぼんやりとした景色。
いつも同じ場所で同じ男性が笑っている。
会ったことも見たこともないのに、
何故か懐かしさを感じる人だった。
何かを伝えようとしてくれる。
精一杯に何かを語りかけてくれる。
けれど……
一度としてその声を聞けたことはない。
景色が鈍く、暗く、昏く染まって行く。
……そう。
この夢は最後には決まってこうなるのだった。
遠くにいた彼はその闇の中に飲まれていく。
最後まで自分に何かを
伝えようともがきながら……
なんて惨めなんだろう。
自分の腕が目に入る。
それを静かにベッドの上へとずり降ろした。
いつもいつも同じような夢。
それを同じように見て、同じように起きて
そして同じように
自分が何を見て、何をしていたのか。
誰に会ったのか。
どうして腕を伸ばしているのか。
どうして言葉を発していたのか。
すら把握できないなんて、
恥ずかしくて誰にも話せない。
こんなだから自分は
いつまで経っても半人前なんだろう。
新しい一日を始めよう。
今日も自分のことを待ってくれている人達がいる。
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