序節「目覚めた話」

文字数 755文字

始まった時に

"あぁ、まただ。またこの夢だ"と気付く。


いつ見ても色褪せない……

でも、どこかぼんやりとした景色。

…………。
遠くを見ると、

いつも同じ場所で同じ男性が笑っている。


会ったことも見たこともないのに、

何故か懐かしさを感じる人だった。

…………?
彼は、いつも自分に

何かを伝えようとしてくれる。

精一杯に何かを語りかけてくれる。


けれど……

一度としてその声を聞けたことはない。

…………!?
突如として、

景色が鈍く、暗く、昏く染まって行く。


……そう。

この夢は最後には決まってこうなるのだった。

少しずつ少しずつ、

遠くにいた彼はその闇の中に飲まれていく。


最後まで自分に何かを

伝えようともがきながら……

いつもいつもいつも、助けられない。
なんて情けないんだろう。
なんて惨めなんだろう。
…………ま
……待って!!
ベッドの上から天井に向かって伸びた、

自分の腕が目に入る。
それを静かにベッドの上へとずり降ろした。

…………はぁ。
……まただ。またあの夢を見た。
いつもいつも同じような夢。


それを同じように見て、
同じように起きて

そして同じように

――忘れる。
……何なんだよもう。
思い出せない。

自分が何を見て、何をしていたのか。

誰に会ったのか。


どうして腕を伸ばしているのか。

どうして言葉を発していたのか。

……こんなんじゃ本当、

"夢想師"(むそうし)失格だな。

夢を扱う者なのに、自分の夢のこと

すら把握できないなんて、


恥ずかしくて誰にも話せない。


こんなだから自分は

いつまで経っても半人前なんだろう。

……って、やっべ、もうこんな時間!?
支度しなくちゃ!!
……気持ちを切り替えて

新しい一日を始めよう。


今日も自分のことを待ってくれている人達がいる。

……行こう、"夢うさぎ"に!

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登場人物紹介

天崎 そら(あまさき そら)(20)※一章時

主人公。人々を悪夢から救う"夢うさぎ亭"で働く一般女性。

自分よりも相手のことを優先する心優しい性格で、大抵のことは受け止めてしまう。

一章では夢うさぎでの経験から、自分の意見を言う勇気を持てるようになった。

(※本作では主人公の個人設定はフリーなため、定まった容姿は存在しません)

早乙女 夢月(さおとめ むつき)(19)※一章時

まだ夢の世界で夢魔を祓ったことがない半人前の夢想師。

前向きで明るく裏表がない天真爛漫な性格で、深く強く他人の気持ちに寄り添える豊かな人間性を持つ。

そのおかげで、夢の世界を現出するために必要な「心のパイプ」を繋ぐところまでは誰よりも完璧にこなすことができ、秘めたるポテンシャルは天才的。

しかし、その事実を本人はまだ自覚できないでいる。

宝生 吏星(ほうしょう りせい)(24)※一章時

夢の空間の現出を得意とする夢想師。

他人のことを真剣に考えすぎてしまう性分で根が優しい。

反面、冷静で効率主義かつ真顔で言葉遣いがきつい。そのため人に避けられやすく、本人も少し気にしている。

実直で真面目すぎる苦労人気質。不測の事態に陥ると熱くなりやすい一面も。

夢うさぎの実質的なリーダーとして振る舞っている。後輩である夢月の指導について、自分とあまりにタイプが違うことにかなり悩んでいるらしい。

紫吹 蓮夜(しぶき れんや)(不明)※一章時

夢魔の駆除を得意とする夢想師。

天性のルックスと王子様気質により何もしなくてもモテる美男子。

いつもニヤニヤとしていて、何を考えているのかよく分からない。

自分の身内をからかって遊ぶのが趣味で周りも手を焼いているが、他人が本心から嫌がることは絶対しないバランス感覚を持っているため、何故か憎まれない。

吏星とは付き合いが長く、お互いがお互いの"扱い方"を熟知している節がある。

ヨウタ(5)

一章の核となる少年。来年度から小学生。

ある理由で夢魔に憑かれてしまい、夢うさぎを訪れる。

幼稚園などに通えておらず、家に1人でいる時間が長い。

テレビやおもちゃを心の拠り所にしており、最近は特撮作品ブレイブテイカーがお気に入り。家で何度も繰り返し見ては元気を貰っている。

ヨウタの母(33)

一章に登場。

息子 ヨウタの悪夢を治すため、夢うさぎを訪れる女性。

夢想師の治療には原則本人しか招待されないが、ある理由から付き添いが認められている(ただし、治療の実態を知ることはできない)

佐藤 アキラ(さとう あきら)(30)

一章に登場。

悪夢の治療を受けに夢うさぎ亭を訪れる研究者。

仕事の重圧に負けまいと日々頑張っているが、家族の理解を得られないことに頭を悩ませている。

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