6節「夢月、考える 1」

文字数 1,681文字

――さぁ!

今日からどうする!?

夢想師の修行って何をすれば良いんだ!? って言うか、今までなんで何にも教えてくれなかったんだ!? こんなことになる前に始めておけば――
慌てるな。

順を追って説明する。

そもそも夢想師の才覚とは本来、自分で気付くものであって他者に教えられて学ぶものではない。
だから、明確にこうすればできるというやり方は存在しない。それがお前に何も教えてこなかった理由だ。
そ、そうだったんだ。難しいな。
まぁ倣うより慣れろ、見て覚えろってやつ? これで意外と職人気質な世界なんだよねぇ。
俺達が教えられるのは、成功に至るまでのヒントだけだ。役に立つかもしれないし、そうでないかもしれない。
……頼んだぞ。
プ、プレッシャーかかるなぁ……。
けど、頑張ってみせるよ!
頑張ってね、夢月くん。
私は見守ることしかできませんが……

一緒に勉強して、少しでも一緒に成長できれば……!

ひとまず、夢想師が他人の夢の中で何をするのか、改めて確認しておこう。
想像力をつけるには知識を持っておくことが大前提になる。
……感覚派のお前向きではないかもしれんが、だからこそ今は必要だろう。
……分かった。

正直、避けて通ってた部分では

あると思うし……

フフッ、急がば回れ。

基本は大事だからね。

治療を受けたことで私も理解した気にはなっていますが……こうやって実際に詳しく話を聞くのは、私も初めてです。
夢想師の仕事――"夢入り(ゆめいり)"とは、文字通り他人の夢に入り込むことを指す。心に巣食った夢魔を直接叩くのが目的だ。
心のパイプを繋いで、患者の夢の世界にアクセスする。そうして夢空間を現出することで、物理的な行動が可能になるんだ。
早乙女が普段やっているのは、最初の心のパイプを繋ぐところまで。
実際は夢の世界にアクセスするところまではできるはずだが……
あれ、そうだったの?
パイプを通って相手の心に触れるところまでは、

夢月くんにもできるということのよう。


つまり彼は、空間を構成するのが苦手みたいです。

空間の現出ができなければ、肝心の治療まで至れないからな。不要に患者の心に触れる人間を増やしても、不安を煽るだけで意味がない。
うう……きびしー……
こうやって指導を受ける話になると……吏星さんの物言いは心に突き刺さるものがあります……。


当事者でない私でさえ少しドキッとしてしまうので、夢月くんはなおさら色々なものを感じてしまうでしょう……。

逆に言えば課題は明確さ。
夢空間の現出さえできれば、夢魔を狩るのは遊びみたいなものだし。
蓮夜さんは相変わらずふざけているように見えますが、それでいて夢月くんの緊張を解きほぐせるような言葉を選んでいるような気がします。
自分を基準に物を語るのはやめろ。

全てに必要なノウハウはある。

それを諫める吏星さんも、

いつもよりはどこか優しげ……。


蓮夜さんの狙いを理解しているのかもしれません。

吏星や蓮夜は夢の世界で

どんなことしてるんだ?

いやまず、夢の世界って

どんな感じなんだ、かな?

今まで聞いても全然教えてくれなかっただろ? "いつもと変わらん"とか言ってさ!
どんな感じ、か。

吏星さんが困ったように眼鏡を直し、

固まってしまいます。


夢空間での行動や感覚は、夢想師が

現出した空間の強度に左右される。


一概には言い切れないのかもしれません。

空間さえ上手く現出できれば、実際ほとんど現実と変わらんのだが……
私も吏星さんと蓮夜さんからそれぞれ治療を受けましたが、その違いを言葉で説明しようと思うと……難しいものが……。
吏星は空間の構築が上手すぎるから

あんまり参考にならないかもね。

かと言って僕は慣れすぎてて、

やっぱり参考にならない。

……ここは、実際に治療を受けた

そらちゃんに聞くべきかな?

え?
わ、私ですか?
うん。

新鮮な感想をお願いね。

蓮夜さんは本気なのか楽しんでいるのか……

正直、全く分からないのですが……。


夢月くんに真剣に詰め寄られると私も

答えないというわけには……。

そ、そうだな……。
ズルい人だなぁと思います……。

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登場人物紹介

天崎 そら(あまさき そら)(20)※一章時

主人公。人々を悪夢から救う"夢うさぎ亭"で働く一般女性。

自分よりも相手のことを優先する心優しい性格で、大抵のことは受け止めてしまう。

一章では夢うさぎでの経験から、自分の意見を言う勇気を持てるようになった。

(※本作では主人公の個人設定はフリーなため、定まった容姿は存在しません)

早乙女 夢月(さおとめ むつき)(19)※一章時

まだ夢の世界で夢魔を祓ったことがない半人前の夢想師。

前向きで明るく裏表がない天真爛漫な性格で、深く強く他人の気持ちに寄り添える豊かな人間性を持つ。

そのおかげで、夢の世界を現出するために必要な「心のパイプ」を繋ぐところまでは誰よりも完璧にこなすことができ、秘めたるポテンシャルは天才的。

しかし、その事実を本人はまだ自覚できないでいる。

宝生 吏星(ほうしょう りせい)(24)※一章時

夢の空間の現出を得意とする夢想師。

他人のことを真剣に考えすぎてしまう性分で根が優しい。

反面、冷静で効率主義かつ真顔で言葉遣いがきつい。そのため人に避けられやすく、本人も少し気にしている。

実直で真面目すぎる苦労人気質。不測の事態に陥ると熱くなりやすい一面も。

夢うさぎの実質的なリーダーとして振る舞っている。後輩である夢月の指導について、自分とあまりにタイプが違うことにかなり悩んでいるらしい。

紫吹 蓮夜(しぶき れんや)(不明)※一章時

夢魔の駆除を得意とする夢想師。

天性のルックスと王子様気質により何もしなくてもモテる美男子。

いつもニヤニヤとしていて、何を考えているのかよく分からない。

自分の身内をからかって遊ぶのが趣味で周りも手を焼いているが、他人が本心から嫌がることは絶対しないバランス感覚を持っているため、何故か憎まれない。

吏星とは付き合いが長く、お互いがお互いの"扱い方"を熟知している節がある。

ヨウタ(5)

一章の核となる少年。来年度から小学生。

ある理由で夢魔に憑かれてしまい、夢うさぎを訪れる。

幼稚園などに通えておらず、家に1人でいる時間が長い。

テレビやおもちゃを心の拠り所にしており、最近は特撮作品ブレイブテイカーがお気に入り。家で何度も繰り返し見ては元気を貰っている。

ヨウタの母(33)

一章に登場。

息子 ヨウタの悪夢を治すため、夢うさぎを訪れる女性。

夢想師の治療には原則本人しか招待されないが、ある理由から付き添いが認められている(ただし、治療の実態を知ることはできない)

佐藤 アキラ(さとう あきら)(30)

一章に登場。

悪夢の治療を受けに夢うさぎ亭を訪れる研究者。

仕事の重圧に負けまいと日々頑張っているが、家族の理解を得られないことに頭を悩ませている。

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