8節「ヨウタを救い出せ 2」

文字数 1,122文字

ブレイブテイカーの最新話を見て興奮気味に語っている内に、ヨウタは徐々に疲れて船を漕ぎ始めた。


あとはベッドに入るように促したら、寝息を立て始めるまでそんなに時間はかからない。

…………。
こんな子に夢魔が憑くなんてな……。
ここまでは普段と変わらない。

慣れたものだと自分でも思う。


そして今日重要なのは、ここから……

……大丈夫。
俺が……

やらなきゃならないことをやる。

頭の中で想像していた言葉が、

思わず口をついて出てしまう。

それだけだ。
それだけ俺にも、気合いが入ってるってことだろう。
……絶対、助けてやるからな。
熟睡しているヨウタには伝わらないけど、

できる限り優しい気持ちは届けておきたい。


そう思って最後は笑顔で、

ヨウタに語り掛けることにした。

――――
行くぞ……!
ヨウタのそばで目を閉じて、心を通わせる……。

絶対に……成功させてみせる……!

心のパイプを通った感覚が、俺の心に宿った。


……口では説明できない。

ただ"通った"ことは分かった、そんな気がする。

――ここが……ヨウタの心の中……。

……何となく伝わってくる。

ヨウタの気持ちや声無き声……。

パイプを繋ぐのは……患者の心を開くこと……。

空間の現出は……患者の心を理解すること……。

そしてもう1つ……自分を理解すること……。
…………。
ハァ…………!!
ヨウタの心の動き、イメージを掴んで、

それを練り上げて空間を構成する。


吏星に教わった通り……

相手の心に寄り添って……

きっと……絶対に……

上手く行く……!!

何となく……

冷たい風が吹き抜けるような感覚を覚えた。

…………。

これは夢……?

それとも現実……?


俺は確か……ヨウタの……

う…………。
――――!!
先が見通せない広大な砂漠のような……。

薄暗くモノクロを基調とした空間……。


これは……間違いなく――!

やった……やった……!!
夢の世界に入れたー!!
今日までの努力が報われた!

本当に!  舞い上がるくらい!  嬉しい!

……っと、喜んでばかりもいられないや。ヨウタを探さないと!

浮かれ気分もそこそこに……

ヨウタを探すため、俺は走り出した。


夢想師は夢空間の中では、

患者や夢魔の存在を知覚できる……


らしいんだけど……


俺にはまだ、そこまで細かいことはできないみたいだ。

(積み木にミニカー……あっちにあるのはテレビ……。これはお絵かきボード、だっけ? 刺さってるのは……)
(ブレイブの人形か)
(それと至るところに落ちてる……お母さんの写真)
(夢の世界には本人の心を象徴するものが置いてあるとは聞いてたけど……実際に見てみると、なかなか異様な光景だな……)
おーい、ヨウター!
……?
お兄ちゃん……!?

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登場人物紹介

天崎 そら(あまさき そら)(20)※一章時

主人公。人々を悪夢から救う"夢うさぎ亭"で働く一般女性。

自分よりも相手のことを優先する心優しい性格で、大抵のことは受け止めてしまう。

一章では夢うさぎでの経験から、自分の意見を言う勇気を持てるようになった。

(※本作では主人公の個人設定はフリーなため、定まった容姿は存在しません)

早乙女 夢月(さおとめ むつき)(19)※一章時

まだ夢の世界で夢魔を祓ったことがない半人前の夢想師。

前向きで明るく裏表がない天真爛漫な性格で、深く強く他人の気持ちに寄り添える豊かな人間性を持つ。

そのおかげで、夢の世界を現出するために必要な「心のパイプ」を繋ぐところまでは誰よりも完璧にこなすことができ、秘めたるポテンシャルは天才的。

しかし、その事実を本人はまだ自覚できないでいる。

宝生 吏星(ほうしょう りせい)(24)※一章時

夢の空間の現出を得意とする夢想師。

他人のことを真剣に考えすぎてしまう性分で根が優しい。

反面、冷静で効率主義かつ真顔で言葉遣いがきつい。そのため人に避けられやすく、本人も少し気にしている。

実直で真面目すぎる苦労人気質。不測の事態に陥ると熱くなりやすい一面も。

夢うさぎの実質的なリーダーとして振る舞っている。後輩である夢月の指導について、自分とあまりにタイプが違うことにかなり悩んでいるらしい。

紫吹 蓮夜(しぶき れんや)(不明)※一章時

夢魔の駆除を得意とする夢想師。

天性のルックスと王子様気質により何もしなくてもモテる美男子。

いつもニヤニヤとしていて、何を考えているのかよく分からない。

自分の身内をからかって遊ぶのが趣味で周りも手を焼いているが、他人が本心から嫌がることは絶対しないバランス感覚を持っているため、何故か憎まれない。

吏星とは付き合いが長く、お互いがお互いの"扱い方"を熟知している節がある。

ヨウタ(5)

一章の核となる少年。来年度から小学生。

ある理由で夢魔に憑かれてしまい、夢うさぎを訪れる。

幼稚園などに通えておらず、家に1人でいる時間が長い。

テレビやおもちゃを心の拠り所にしており、最近は特撮作品ブレイブテイカーがお気に入り。家で何度も繰り返し見ては元気を貰っている。

ヨウタの母(33)

一章に登場。

息子 ヨウタの悪夢を治すため、夢うさぎを訪れる女性。

夢想師の治療には原則本人しか招待されないが、ある理由から付き添いが認められている(ただし、治療の実態を知ることはできない)

佐藤 アキラ(さとう あきら)(30)

一章に登場。

悪夢の治療を受けに夢うさぎ亭を訪れる研究者。

仕事の重圧に負けまいと日々頑張っているが、家族の理解を得られないことに頭を悩ませている。

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