13節「本心 3」

文字数 1,694文字

拘束を破った夢魔はノーチャージで

無数の光線を降らせてきた。


大した威力ではないが、そのあまりのスピードに

俺は防御行動も取れずに吹き飛ばされた。

クソッ……!!

――想像以上に攻め手が豊富らしい。

野放しにしてはまずい。


体勢を立て直すよりも早く再度の拘束を試みる。

しかし、その拘束は成立することすらなく、

夢魔の咆哮に弾き飛ばされてしまった。


無理もない……。

万全かつ不意をついてギリギリだった。

この状態で、同じ拘束が通用するわけがない。

うぅ……!!

クソ、駄目なのか……!

間髪入れず、夢魔の次弾準備が始まる。


先ほどとは違う脅威的な圧力。

紛れもなく、俺に止めを刺すための一撃だ。

――――――――
……今ならまだ間に合う。

夢空間を離脱して、この状況をリセットする。


紫吹に情報を伝達、駆除を委託すれば

より確実にこいつを仕留められるはずだ。


いつも通り……

いつも通りにすれば……

――できない。

それは、できない。


あいつが今もどこかで戦っているのなら……

ヨウタ少年の治療を諦めていないのなら……

俺が逃げるわけには――いかない!!

それは……今まで現出したことがないほど

強力で光り輝く"檻"だった。


夢空間にいる俺の力はイコール心の強さ。

俺の"気持ち"が、この技を実現する源となったのかもしれない。

夢魔風情が……

調子に乗るなよ……!

俺は負けん……!
負けるわけには、いかない!!

危なくなったら撤退するんじゃなかったのかよ……!?

気付くと自分の奥底にあった言葉が

声となり口から漏れ出していた。


早乙女に届くかもしれないし、

届かないかもしれない。


ただ、そのどちらであったとしても俺は

もう言わずにはいられなかった。

え……

俺があの時……

お前を軽んじたりしなければ……!

吏星……!?

取り返しのつかないことをしてしまった。

俺はあの日、確かにそう思った。


もうお前は夢うさぎには来ない。

ヨウタ少年も助けられない。


その原因を作ったのは俺だと、

心から自分を責めた。

あの時……!

言葉を交わすことができていれば……!

だが……お前はやって来た。

誰に言われるでもなく、自分から。


こんなに傷付きボロボロになって、

自分のことで手一杯のはずなのに


お前は、最後には決して逃げ出さなかった。

お前のことを考えているつもりで……

最もお前を傷付ける選択をしてしまった……

俺がもっとお前のように……

他人の"気持ち"に気付ける男だったなら……

吏星さん……!

俺はそんなお前に――


1つでも何かしてやれただろうか。

力になって、やれただろうか。


お前の"気持ち"に……

寄り添えてやれただろうか。

だから……俺は……

今この時くらい……全てを……
全身から力が抜けていく。

こんな大技を、加減なく撃ち込んだのだから当然だ。

くっ……

……結局俺はまた、間違ったということか。
すまない……皆……
慣れないことは、するものじゃない、な。
――――――――!!
――刹那。

天空から風が吹き抜けるのを感じた。


それは力強いのに、決して荒々しくない。

包み込まれるような温かさが心地良い……


そんな一陣の嵐。

その中心を切り裂くように

煌めく光が一直線に駆け抜け、夢魔の懐に飛び込んだ。


これは……一体……?

真一文字に刻まれた夢魔の大きな傷口から、

無色の体液のようなものが吹き出し、一瞬で空中に溶けていく。


赤い光の行き着いた先を見ると、

煌びやかに彩られた長物が刺さっているのが分かった。

――――剣……?

早乙女……なのか……!?
吏星さん!

天崎……!

彼女がこの空間に立てている。

清々しい笑顔を浮かべている。

そしてあの早乙女が、夢魔と対峙している。


全ての結果は、火を見るより明らかだった。

上手く、行ったんだな……。

はい!

吏星さんのおかげで!

……俺が戦っている間に何があったのか、

それは全くわからない。

……そうか。
ただ、今はこの結果を素直に喜ぼう。

後悔と反省は、終わってからすれば良い。

2人とも下がってて。

こいつは……俺がやる!

剣を堂々と構え、曇りなき瞳で夢魔を見据えた早乙女が、一心不乱に叫ぶ。

――月は満ちた。

その事実を、高らかに。

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登場人物紹介

天崎 そら(あまさき そら)(20)※一章時

主人公。人々を悪夢から救う"夢うさぎ亭"で働く一般女性。

自分よりも相手のことを優先する心優しい性格で、大抵のことは受け止めてしまう。

一章では夢うさぎでの経験から、自分の意見を言う勇気を持てるようになった。

(※本作では主人公の個人設定はフリーなため、定まった容姿は存在しません)

早乙女 夢月(さおとめ むつき)(19)※一章時

まだ夢の世界で夢魔を祓ったことがない半人前の夢想師。

前向きで明るく裏表がない天真爛漫な性格で、深く強く他人の気持ちに寄り添える豊かな人間性を持つ。

そのおかげで、夢の世界を現出するために必要な「心のパイプ」を繋ぐところまでは誰よりも完璧にこなすことができ、秘めたるポテンシャルは天才的。

しかし、その事実を本人はまだ自覚できないでいる。

宝生 吏星(ほうしょう りせい)(24)※一章時

夢の空間の現出を得意とする夢想師。

他人のことを真剣に考えすぎてしまう性分で根が優しい。

反面、冷静で効率主義かつ真顔で言葉遣いがきつい。そのため人に避けられやすく、本人も少し気にしている。

実直で真面目すぎる苦労人気質。不測の事態に陥ると熱くなりやすい一面も。

夢うさぎの実質的なリーダーとして振る舞っている。後輩である夢月の指導について、自分とあまりにタイプが違うことにかなり悩んでいるらしい。

紫吹 蓮夜(しぶき れんや)(不明)※一章時

夢魔の駆除を得意とする夢想師。

天性のルックスと王子様気質により何もしなくてもモテる美男子。

いつもニヤニヤとしていて、何を考えているのかよく分からない。

自分の身内をからかって遊ぶのが趣味で周りも手を焼いているが、他人が本心から嫌がることは絶対しないバランス感覚を持っているため、何故か憎まれない。

吏星とは付き合いが長く、お互いがお互いの"扱い方"を熟知している節がある。

ヨウタ(5)

一章の核となる少年。来年度から小学生。

ある理由で夢魔に憑かれてしまい、夢うさぎを訪れる。

幼稚園などに通えておらず、家に1人でいる時間が長い。

テレビやおもちゃを心の拠り所にしており、最近は特撮作品ブレイブテイカーがお気に入り。家で何度も繰り返し見ては元気を貰っている。

ヨウタの母(33)

一章に登場。

息子 ヨウタの悪夢を治すため、夢うさぎを訪れる女性。

夢想師の治療には原則本人しか招待されないが、ある理由から付き添いが認められている(ただし、治療の実態を知ることはできない)

佐藤 アキラ(さとう あきら)(30)

一章に登場。

悪夢の治療を受けに夢うさぎ亭を訪れる研究者。

仕事の重圧に負けまいと日々頑張っているが、家族の理解を得られないことに頭を悩ませている。

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