6節「夢月、考える 4 〜ある雑貨屋にて〜」

文字数 2,524文字

噛み砕くのに時間が必要だろうし、一旦自分で考えてみろ。
座学はここまで。

と言っても、実践も座学に近いとは思いますが、

夢月くんにすぐ対応するのは厳しそうです。

りょ、了解!
明日は表も休業日だからな。

早乙女は裏にも出勤しなくていい。

"分からないところが分かる"くらいまでは煮詰めておけ。
それじゃ、今日は店じまいってことで。

お先に失礼するよ。

あー疲れた。

夢月ちゃん、頑張ってね。

う、うん!
何故だか楽しそうにお店を去った蓮夜さん。

彼のプライベートは謎なのですが、お休みに何かあるのでしょうか?

――翌日。


カフェが休業の時は、私もこうして羽を伸ばします。

香澄市は町の外に出なくても大抵のレジャーが揃う、暮らしやすい地域です。

……えっと、ここかな?
今日は、最近オープンしたばかりの

雑貨屋さんに来てみました。


人気のカフェで働く身としては、

女子っぽいこともしておかないと!

……思ってたよりかなり広いなぁ。
香澄市にあるこういうお店では

最大規模の1つになりそうな予感……。


品揃えも豊富そうです。

どこから見て良いのやら……

……!
とりあえず店の全体を見てみようと

周りをフラついていると……

あれ……!?
この場に似つかわしくない方を見つけてしまい、思わず声が出てしまいました……。
…………。
(何か物凄く真剣に選んでるみたい……)
彼が立っているのは、特別催事のコーナー。

オープン記念で今人気のアイテムが満遍なく展示されています。

…………うーむ。
何かを物凄い剣幕で睨みつけていて……?


お休みを邪魔しては悪いとも思いましたが、

後から確認するのも恐いので、とりあえず……。

……何かお悩みですか?
声をかけます……!
いや、このマスコットが最近流行っていると聞いてな。
仕事柄、流行というのも一応押さえておいた方が良いのでは……と。
そうなんですね。

……なるほど。

治療室の環境を整えて共感覚を得る吏星さんは、

患者さんの好みに幅広く対応できねばならない。


こういうところにも、仕事道具を探しに来るんですね。
諸事情で子供の心を掴むものが必要で……。人相が悪いせいで苦労させられる……。
子供の心を……?

でもそれは夢月くんが……

あ……
(もしかしてめちゃくちゃ気にしてる……!?)
調べたら、一番流行っているのはこのオレンジだと出てきたんだが。
部屋に飾ることも考えると、青の方が好みなもので悩んでしまっている……。
(……部屋に飾る?)
…………部屋に飾る???
お前はどう思――
キャッ!?
突然聞いたこともないような大きな声を上げる吏星さんを前に、私も物凄くビックリして仰け反ってしまいました……!
あ、あ、天崎……!?

な、何故ここに……!?

え、何故って……

気付いてなかったんですか!?

て、てっきり店員が話しかけてきたのかと……!
ど、どうりで少し会話が噛み合わないと……!

いやどれだけ真剣に悩んでるんですか……!?

ハッ……!
もしや今の会話……聞いていたのか?


え……いや……

聞いてるも何も、話してたの私ですし……?
お、そ、そうだったな……
動揺しすぎでは?
あ、あれだ。

少しでも早乙女の助けになれればと思ってな。……他意はないぞ。

でも部屋に飾るって――
あ、はい。
突っ込まない方が良さそうですね。
ゆ、夢うさぎに飾ったら喜ばれるのではと思っただけだ。
ほら、店に飾ると言うと話が拡がって面倒臭いだろう? そういうことだ。
そうですね。
私に一通り言い訳し終えた吏星さんは、

足早にその場を後にして出入り口に向かいます。

あれ、買って行かないんですか?
……今日は視察に来ただけだ。

他の物も調べて改めて出直すことにする。

天崎も休日を楽しむんだぞ。
は、はい、ありがとうございます。
吏星さんは珍しく微笑みながらそう言い残し、

お店の自動ドアを潜って行きました。

…………。
ええと……普通に「仕事道具を買いに来た」と言えば済む話だったと……思うのですが……。


吏星さんもこう……嘘をつくのが上手ではない人と言うか……その……いや私は別に良いんですよ……?

(お、お見送りしようかな!)
店の外に出ると、吏星さんは物すごい速足でその場を去ろうとしていました。


そんなに私に見られたくなかったんでしょうか……。

あれ……?
吏星さんの次の行動を予想した私は、

思わず大きな声で呼びかけてしまいます。

ちょっと! 吏星さーん!

なんだ!

どこ行かれるんですかー!?
夢うさぎに戻る!

やることがあるのでな!

ですよね。帰るんですよね。

そうだとしたら――

――――
…………。
あれ……?

私、なんかまずいことを……?

…………。
……遠回りしたくなっただけだ!
そう言いながら、吏星さんは私の言った通り

左から帰ることを選んで去って行きました……。

…………
??????

い、今のは一体……。


こ、これは夢……?

それとも現実――

キャッ!?
気付いた時には私の後ろで紫吹蓮夜さんが、

最高にニコニコした顔で立っていました……。

れ、蓮夜さん……!?

いつからそこに……!?

えー最初からいたよ。

気付いてなかった?

(うそ……!?)
いや"最初"っていつ……!?
まぁ僕、こう見えて影薄い人間だからねぇ。
(うそ……!?!?)
もう何が何だか……!!!
そんなことよりさ、これ見てよ。

かわいいマスコット見つけちゃった。流行ってるんだって。

(さっき吏星さんが見てたやつだ……)
夢月ちゃんが赤、吏星が青、僕が紫。

そらちゃんはピンクにしたよ。オレンジの方が良かった?

いえ、ピンクで良いですけど……
そっか、なら良かった。

4つ揃えて夢うさぎに飾ろうよ。きっと人気出るよ~。

そ、そうですね?

なんでここに……?

どうしてここに……?

どのようにここに……?


いや全部同じ質問な気がしてきましたが……

とにかく私の頭の中は最高に混乱しています……。

じゃあ、僕はこれで。

そらちゃんもせっかくの休日なんだから、しっかり休んでね。

あ、ありがとうございます。
せ、せめて……
……あっ、れ、蓮夜さん。
質問……くらいは……。
ん、なに?
……何しに来てたんですか?
買物だけど?
……本当に?
……まぁ強いて言うなら
言うなら?
アッハハハハハハ……
これは私……何かに巻き込まれた……?

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登場人物紹介

天崎 そら(あまさき そら)(20)※一章時

主人公。人々を悪夢から救う"夢うさぎ亭"で働く一般女性。

自分よりも相手のことを優先する心優しい性格で、大抵のことは受け止めてしまう。

一章では夢うさぎでの経験から、自分の意見を言う勇気を持てるようになった。

(※本作では主人公の個人設定はフリーなため、定まった容姿は存在しません)

早乙女 夢月(さおとめ むつき)(19)※一章時

まだ夢の世界で夢魔を祓ったことがない半人前の夢想師。

前向きで明るく裏表がない天真爛漫な性格で、深く強く他人の気持ちに寄り添える豊かな人間性を持つ。

そのおかげで、夢の世界を現出するために必要な「心のパイプ」を繋ぐところまでは誰よりも完璧にこなすことができ、秘めたるポテンシャルは天才的。

しかし、その事実を本人はまだ自覚できないでいる。

宝生 吏星(ほうしょう りせい)(24)※一章時

夢の空間の現出を得意とする夢想師。

他人のことを真剣に考えすぎてしまう性分で根が優しい。

反面、冷静で効率主義かつ真顔で言葉遣いがきつい。そのため人に避けられやすく、本人も少し気にしている。

実直で真面目すぎる苦労人気質。不測の事態に陥ると熱くなりやすい一面も。

夢うさぎの実質的なリーダーとして振る舞っている。後輩である夢月の指導について、自分とあまりにタイプが違うことにかなり悩んでいるらしい。

紫吹 蓮夜(しぶき れんや)(不明)※一章時

夢魔の駆除を得意とする夢想師。

天性のルックスと王子様気質により何もしなくてもモテる美男子。

いつもニヤニヤとしていて、何を考えているのかよく分からない。

自分の身内をからかって遊ぶのが趣味で周りも手を焼いているが、他人が本心から嫌がることは絶対しないバランス感覚を持っているため、何故か憎まれない。

吏星とは付き合いが長く、お互いがお互いの"扱い方"を熟知している節がある。

ヨウタ(5)

一章の核となる少年。来年度から小学生。

ある理由で夢魔に憑かれてしまい、夢うさぎを訪れる。

幼稚園などに通えておらず、家に1人でいる時間が長い。

テレビやおもちゃを心の拠り所にしており、最近は特撮作品ブレイブテイカーがお気に入り。家で何度も繰り返し見ては元気を貰っている。

ヨウタの母(33)

一章に登場。

息子 ヨウタの悪夢を治すため、夢うさぎを訪れる女性。

夢想師の治療には原則本人しか招待されないが、ある理由から付き添いが認められている(ただし、治療の実態を知ることはできない)

佐藤 アキラ(さとう あきら)(30)

一章に登場。

悪夢の治療を受けに夢うさぎ亭を訪れる研究者。

仕事の重圧に負けまいと日々頑張っているが、家族の理解を得られないことに頭を悩ませている。

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