2節「ずっと君の力になりたい 1」
文字数 1,231文字
夢月で良いよ。
裏のお客さんには、下の名前で呼んでほしいんだ。
どう? ちょっと落ち着かないか?
さっき聞いた話を踏まえて、吏星が君のために環境を整えてくれてるんだ。
治療の前に、少しだけヒアリングの時間がありました。どうやら、この治療室の空間を私の好みに合うようにセッティングしてくれているみたいです。
けれど……
手を加えてくれていたのが、
あの宝生さんだったというのには、思わず驚いてしまいました。
俺にはよく分からないんだけど、君の心が一番落ち着くような工夫をしてくれてるんだってさ。
悪い人ではないんだろうけど、宝生さんは何だかいつもピリピリしているイメージがあって……。
私は少し苦手なタイプです……。
ハハ、平気平気!
ああ見えて、吏星は優しい奴だから。話せばきっと君にも分かると思うよ。
夢月くんが言うようには今は思えないけれど……想像していたより繊細な人なのは確かみたいです。
私の中の宝生さんのイメージと、宝生さん自身は結構違う人なのかも……。
思わず、身体が震えてしまいます。
ベッドに入る……。
それは眠るということ……。
当たり前のことが、今の私にとっては最も恐怖を覚える瞬間になってしまっていました。
――大丈夫、君がどういう状態なのかはよく分かってる。眠れって言われて、簡単に眠れるわけじゃないこともな。
夢魔を退治するには、まず正しい夢を君に見てもらう必要があるんだ。
ほら、夢って、本来は幸せな気持ちから始まるものだろ?
苦痛を求める夢魔にとって、夢こそ一番忌み嫌うものらしいんだ。
夢を消そうと現れたところを叩くってわけ。自分も夢を見せる存在のくせに、ちょっとおかしいだろ?
正直、言っていることは半分くらいよく分からないんですが……。
私に話しかけてくれる夢月くんの姿に、思わず顔がほころんでしまうんです。そんな、人にはない魅力がある人なんだなと思います。
……でもなんか変な感じだなー。
表のお客さんがこうやって夢想師の施術を受けに来たことって、今までなかったから。
顔を知ってる人とこうして二人きりでこの部屋に入るのって……実は初めてかも。
表はああいうアットホームなお店だからさ、常連さんのことは結構覚えてるんだけど――
今までと違い、少し言い辛そうにしながら、夢月くんは口を開きました。
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