5節「勇気ある前進 2」

文字数 1,716文字

夢想師ではない私は、残念ながら彼の

悩みの真意を知ることはできません。


けれど……

夢月くんならきっと、

できるようになると思うから。

夢月くんに治療してもらった時のあの温かい気持ち、私は忘れてない。これからもきっと忘れない。
だからもっと自分に自信を持って大丈夫。

施術を受けた私が言うんだから間違いないよ!

夢月くんの治療を受けた1人の人間として、

彼の良いところを伝えられるのは今、私だけ。


お節介化もしれないけれど、その想いを精一杯言葉にして行きます。

そら……
それにさっき言ってたじゃない?

えっと、恐がることが駄目なんじゃない――

そうそれ!
楽しそうに笑ういつもの夢月くんの姿。

それを思い返していたら、自然とこの言葉に行き着いてしまいました。

ブレイブテイカー……
…………。
大きなお世話だ……と言われても、

おかしくない立場です。


沈黙が続くに連れて、「やっぱり出しゃばらない方が良かったかな……」という後悔が、だんだん大きくなって行きます。

……そうだな。
その沈黙を、夢月くんは小さな肯定の

意思で破ってくれました。

ヨウタが勇気を出して頑張るって言ってくれたのに、俺がこんなんじゃ駄目だよな。
……分かった。

俺、やってみる。

夢月くん……!

彼のその変化を見て、私も自然と顔が綻びます。

正直、嬉しさより安堵感の方が大きくはあるのですが……。
ありがとう、そら。

おかげで目が覚めたよ。


俺が絶対、ヨウタを悪夢から救い出してみせる。

その意気だよ! 夢月くん!
ヘヘッ!

サンキューそら!

やっぱり夢月くんには前向きな姿がよく似合う。

どんな形であれ、私はキラキラしている彼が好きなのだと、改めて認識する瞬間でした。

何やら方向性がよく分からなくなってきたが……。早乙女がやる気になったのなら……まぁ良いか。
ねぇそれよりさ!

そらちゃんって、本当にブレイブテイカーってやつ見てないと思う?

知るか!

どうでもいい!

吏星!  蓮夜! 俺やるよ!

まずは何から始めたらいい!?

思い立ったらすぐ行動……!

切り替えの早さも夢月くんらしいところです。

……悪いが1日だけ時間をくれ。

俺達も何を教えるべきか考えなくてはならんからな。

早乙女と天崎は先に帰って休むと良い。今日はご苦労だった。
OK分かった!

俺も明日までにしっかり準備しておく!

あまり気負いすぎるなよ。

施術は平常心が基本だ。

分かってるって!
――それじゃな、そら。また明日。
うん、お疲れ様。
夢月くんは小走りで扉に手を掛け、

意気揚々とお店を後にしました。

……私も失礼しますね。

お2人とも無理しないでくださいね。

フフッ、ありがとうそらちゃん。

お疲れ様。

治療が別日に持ち越されること自体が、

私にとっては初めての経験です。


心配と不安感はゼロではないけれど、

新しいことを知れるのは悪くない。


そう思っている私がいるのも感じていました。

……ふう。
さぁ2人きりで熱い夜を過ごそうか。
ふざけるのもいい加減にしろ。

この大変な時に。

僕は真剣だよ。
むしろ熱くなっちゃうのは、吏星の方だと思うけど?
…………。
話せ。
……分かった。

僕の見立てでは――

何だと……?
可能性は高いと思うよ。
確かに辻褄は合うが……

そんな文献はどこにも……

記述なんてのは過去の偉人が残した、彼らにとって都合の良い歴史さ。口伝でしか伝わっていない真実もある。
存在しないことこそがその証明、だと思わない?
完全に悪魔の証明だがな。
……しかし、そういうことか。

こちらも併せて調査せねば……

あれ?

何だかんだ言って信じてくれるんだ?

夢想師という存在の特殊性を鑑みれば、ない話ではないと考えられる。
それに……
……素直じゃないなぁまったく。
これ、夢月ちゃんには伝える?
……いや、やめておこう。

良い結果を生むとは思えない。

これ以上、早乙女に何かを背負わせたら、あいつの方が駄目になってしまう。
…………。

了解――

吏星がそう言うならそうしよう。

良いねぇ、だんだん保護者らしくなってきたじゃん。

やめろ。

そう幾つも歳は離れていないぞ。

……上手く行くと良いね。
信じよう早乙女を。

あいつならきっと、乗り越えられるはずだ。

…………。

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登場人物紹介

天崎 そら(あまさき そら)(20)※一章時

主人公。人々を悪夢から救う"夢うさぎ亭"で働く一般女性。

自分よりも相手のことを優先する心優しい性格で、大抵のことは受け止めてしまう。

一章では夢うさぎでの経験から、自分の意見を言う勇気を持てるようになった。

(※本作では主人公の個人設定はフリーなため、定まった容姿は存在しません)

早乙女 夢月(さおとめ むつき)(19)※一章時

まだ夢の世界で夢魔を祓ったことがない半人前の夢想師。

前向きで明るく裏表がない天真爛漫な性格で、深く強く他人の気持ちに寄り添える豊かな人間性を持つ。

そのおかげで、夢の世界を現出するために必要な「心のパイプ」を繋ぐところまでは誰よりも完璧にこなすことができ、秘めたるポテンシャルは天才的。

しかし、その事実を本人はまだ自覚できないでいる。

宝生 吏星(ほうしょう りせい)(24)※一章時

夢の空間の現出を得意とする夢想師。

他人のことを真剣に考えすぎてしまう性分で根が優しい。

反面、冷静で効率主義かつ真顔で言葉遣いがきつい。そのため人に避けられやすく、本人も少し気にしている。

実直で真面目すぎる苦労人気質。不測の事態に陥ると熱くなりやすい一面も。

夢うさぎの実質的なリーダーとして振る舞っている。後輩である夢月の指導について、自分とあまりにタイプが違うことにかなり悩んでいるらしい。

紫吹 蓮夜(しぶき れんや)(不明)※一章時

夢魔の駆除を得意とする夢想師。

天性のルックスと王子様気質により何もしなくてもモテる美男子。

いつもニヤニヤとしていて、何を考えているのかよく分からない。

自分の身内をからかって遊ぶのが趣味で周りも手を焼いているが、他人が本心から嫌がることは絶対しないバランス感覚を持っているため、何故か憎まれない。

吏星とは付き合いが長く、お互いがお互いの"扱い方"を熟知している節がある。

ヨウタ(5)

一章の核となる少年。来年度から小学生。

ある理由で夢魔に憑かれてしまい、夢うさぎを訪れる。

幼稚園などに通えておらず、家に1人でいる時間が長い。

テレビやおもちゃを心の拠り所にしており、最近は特撮作品ブレイブテイカーがお気に入り。家で何度も繰り返し見ては元気を貰っている。

ヨウタの母(33)

一章に登場。

息子 ヨウタの悪夢を治すため、夢うさぎを訪れる女性。

夢想師の治療には原則本人しか招待されないが、ある理由から付き添いが認められている(ただし、治療の実態を知ることはできない)

佐藤 アキラ(さとう あきら)(30)

一章に登場。

悪夢の治療を受けに夢うさぎ亭を訪れる研究者。

仕事の重圧に負けまいと日々頑張っているが、家族の理解を得られないことに頭を悩ませている。

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