2節「夢魔と夢想師 3」
文字数 2,075文字
治療室の扉に手をかけました。
控えに回ることが多い蓮夜さんですが、
実はこの夢うさぎの……切り札的存在です。
出てきた時だけ夢想師として仕事をします。
吐き捨てるように背中で語り、
吏星さんは治療室へと消えて行きました。
実は吏星さんは……
蓮夜さんを患者さんの前に、できるだけ出したくないみたいなんです。
その理由は……
蓮夜さんの治療中の振る舞いにあるんですが……。
私の口からはちょっと……
言えません……。
夢月くんはずっと部屋の陰で涙を拭っています。
夢の世界では吏星さんの治療を受けました。
だからあの日、治療中に夢月くんがどんな
様子だったかは、今初めて聞いています。
私にとって「人生が変わった瞬間」とも言うべき、あの時間を。
ついて、酷く驚かれたことがあります。
とても珍しいことだとも、聞いています。
けれど……
どうしてもそう感じて、首を大きく横に振ってしまいます。
私の顔を見てどこか愛おしそうに微笑みました。
現実離れしすぎているのに鮮明で……。
今思い出しても、身体が強張るほどの体験でした。
肯定しようとしてくれている。
それは本当にありがたいこと……。
でも私は、その厚意にどうしても
納得ができませんでした。
引き下がって私を尊重してくれました。
このバランス感覚が"あの紫吹蓮夜さん"の
魅力の根源だと私は思っています。
相手は"あの紫吹蓮夜"さんでした……!
これは簡単に首を縦に振れません……!
いやむしろどこからが冗談だったのか……。
本当は詳しく聞きたいけれど、それはこちらから
墓穴を掘ることになりそうなのでやめておきます。
自然と笑みを零している私がいました。
あの時は、空っぽで何もなかった私の夢の世界……。
今は"大切なもの"に彩られていてほしい。
そう自分でも思います。
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