11節「夢想師と共心者 1」

文字数 1,082文字

……最悪の展開を迎えたあの日から2日。

私たちは変わらず夢うさぎに出勤しています。


お昼は吏星さんの判断で臨時休業となり、

昼夜問わずヨウタくんの治療に集中ことになりました。


――来ていない、夢月くんを除いて……。

……どうですか、ヨウタくん。
今は安定しているが、

長くは保つまい……。

あの感じだと……

あと1週間ってところかな。

そんな……!
何とか……

何とかせねば……。

――早乙女は?
まだ来てないよ。

一昨日を最後に連絡もない。

……もう来ないかもしれないね。
そんなことありません!

夢月くんは……夢月くんは絶対に来ます!

……そうだね。
でも来たところで、どうする?
そ、それは……
そう言われると……返す言葉がありません。

私はただ、そうであってほしいと思っただけだから……。

そらちゃんのそういうところ嫌いじゃないよ。
けど今は……現実を見ないとね。
来ても来なくても一緒なら、来る必要はない……。

現実的に考えれば、蓮夜さんの言う通り……。


けれど……夢月くんが……

あの時私を気遣って笑顔を向けてくれた夢月くんが……

そんな選択をするなんて、私にはどうしても思えませんでした。

…………。

――そんなことを考えながらも、蓮夜さんに何も言い返せずにいると、不意にお店の扉が小さな音を立てて開きました。

夢月くん!
…………。
息も絶え絶えでお店に現れた夢月くんを見て、

吏星さんは複雑そうな表情を浮かべます。


夢月くんが来てくれたことは嬉しいはずです。

でも、一昨日をなかったことにはできませんから……。

ごめん、みんな……

昨日は連絡もなしに……。

ヨ、ヨウタは……?
安定はしてるけど、芳しくはないね。

いつどうなってもおかしくない。

そうか……。
……た――
む、夢月くん……!?
早乙女!?
「助けないと……」

そう何度も呟いた夢月くんは、急に全身の力を失ってその場に崩れ落ちてしまいました。


咄嗟に動いた吏星さんが、

その身体を受け止め抱えます。

ハァハァ……うう……
――こ、これは……!
蓮夜さんが、吏星さんに抱えられたままの夢月くんの身体に掌を押し付け、這わせていきます。
ごめんね、夢月ちゃん。

ちょっと痛むよ。

これは私の知っている通りなら蓮夜さんの……


でも、それを夢月くんに行う意味が、

私には飲み込めませんでした。

――――う、うぁ!
重い息を切らせ、呻いているだけだった夢月くんが、一瞬だけ顔を歪め大きな声を出しました。


蓮夜さんの行いによって、

相当の激痛が身体を襲ったようです……。

――はぁ……マジかー。
え、これってどういう……?
…………。
え、えぇ!?

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登場人物紹介

天崎 そら(あまさき そら)(20)※一章時

主人公。人々を悪夢から救う"夢うさぎ亭"で働く一般女性。

自分よりも相手のことを優先する心優しい性格で、大抵のことは受け止めてしまう。

一章では夢うさぎでの経験から、自分の意見を言う勇気を持てるようになった。

(※本作では主人公の個人設定はフリーなため、定まった容姿は存在しません)

早乙女 夢月(さおとめ むつき)(19)※一章時

まだ夢の世界で夢魔を祓ったことがない半人前の夢想師。

前向きで明るく裏表がない天真爛漫な性格で、深く強く他人の気持ちに寄り添える豊かな人間性を持つ。

そのおかげで、夢の世界を現出するために必要な「心のパイプ」を繋ぐところまでは誰よりも完璧にこなすことができ、秘めたるポテンシャルは天才的。

しかし、その事実を本人はまだ自覚できないでいる。

宝生 吏星(ほうしょう りせい)(24)※一章時

夢の空間の現出を得意とする夢想師。

他人のことを真剣に考えすぎてしまう性分で根が優しい。

反面、冷静で効率主義かつ真顔で言葉遣いがきつい。そのため人に避けられやすく、本人も少し気にしている。

実直で真面目すぎる苦労人気質。不測の事態に陥ると熱くなりやすい一面も。

夢うさぎの実質的なリーダーとして振る舞っている。後輩である夢月の指導について、自分とあまりにタイプが違うことにかなり悩んでいるらしい。

紫吹 蓮夜(しぶき れんや)(不明)※一章時

夢魔の駆除を得意とする夢想師。

天性のルックスと王子様気質により何もしなくてもモテる美男子。

いつもニヤニヤとしていて、何を考えているのかよく分からない。

自分の身内をからかって遊ぶのが趣味で周りも手を焼いているが、他人が本心から嫌がることは絶対しないバランス感覚を持っているため、何故か憎まれない。

吏星とは付き合いが長く、お互いがお互いの"扱い方"を熟知している節がある。

ヨウタ(5)

一章の核となる少年。来年度から小学生。

ある理由で夢魔に憑かれてしまい、夢うさぎを訪れる。

幼稚園などに通えておらず、家に1人でいる時間が長い。

テレビやおもちゃを心の拠り所にしており、最近は特撮作品ブレイブテイカーがお気に入り。家で何度も繰り返し見ては元気を貰っている。

ヨウタの母(33)

一章に登場。

息子 ヨウタの悪夢を治すため、夢うさぎを訪れる女性。

夢想師の治療には原則本人しか招待されないが、ある理由から付き添いが認められている(ただし、治療の実態を知ることはできない)

佐藤 アキラ(さとう あきら)(30)

一章に登場。

悪夢の治療を受けに夢うさぎ亭を訪れる研究者。

仕事の重圧に負けまいと日々頑張っているが、家族の理解を得られないことに頭を悩ませている。

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