1節「安らかな夢の世界へ ~悪夢の治療をする人達~ 2」
文字数 1,251文字
でもそれは表向きの話。
この夢うさぎ亭は夜、閉店の後に開かれる。
ここに来たってことは、
君も苦しんでいるんだろ?
毎日見る悪夢にさ。
安心して。
俺達が今日、君をその苦しみから解放してみせるから。
……確認しておきたいんだけど、
君が見ている夢は、毎日同じような内容――
まるで前日の続きを見ているような、不思議な夢。それで間違いない?
何かに追いかけられたり、気が付いたら知らない空間に閉じ込められていたり……。
心が追いつめられる夢を、毎日見る。
そうだよね?
まるで私の心の内を見透かしているかのように、
3人は私に言葉をかけてくれます。
細かいことはよく分からないけれど、
ここで悪夢を治療してもらえるというのは本当のような気がします……。
言うまでもないことだが、夢を見るというのは人間に備わっている当たり前の機能。
内容に一貫性はなく、経験や睡眠環境によって異なったものを見るのが正常だ。
同じような夢を毎日見続けるというのは普通じゃない。しかもそれが悪い夢なら尚更のことさ。
だから君は今、本来君自身が見るはずのない夢を見ているってことなんだ。
夢を……見せられている?
そんな話、聞いたことがありません……。
つ、つまり!
君の身体の中に、その夢を見せている奴がいるってことなんだけど!
ごめんな、難しい話で。
この2人はいつもこんな感じで……。
夢を見せているやつ……。
脳に巣食う寄生虫みたいなもの……?
え……私、本当に大丈夫なんでしょうか……。
……夢月ちゃーん、
それで説明した気になってるのもどうかと思うよ。
何かに夢を見せられているなんて話を、一般の人間が信じるわけないだろう。
雰囲気は違うけど……
彼らから感じる温かい空気は、お昼にお店に来る時と全然変わらないみたい。
この人達を信じてみよう。
何となくそう思わせてくれるんです。
フフ、良いかいお嬢さん。
今君の身体には、悪夢を見せる存在が取り憑いている。
すぐには理解できないかもしれないけど、これは本当のことなんだ。
俺達はそれらのことを”夢魔”と呼んでいる。
とりあえずは、そういうウィルスのようなものがいると考えてくれれば良いだろう。
夢魔は人の苦痛を食べる生き物だって言われてるんだ。だから睡眠中っていう、人が一番無防備な時間に、それを引き出そうとしてるんだって。
人の頭ではなく、心に巣食う悪玉存在。
それが夢魔だ。
夢魔……。
おとぎ話の世界の中のような話……。
けれど、私の悪夢はどこに行っても、何をしても治してもらうことができませんでした。
そういう存在がいる……ということは、受け入れなければならない真実なのかもしれません。
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