15節「明日を照らす光 4」
文字数 1,894文字
今の彼はただワガママを言う、普通の男の子。
そのはずなのに、私にはとてもそう思えませんでした。
何か暗いものを抱える人に、年齢の差は関係ない。
そういうことなのかもしれません。
もちろん私達はその気持ちに気付いてはいましたが、その事実と彼が自分から気持ちを口に出すことは、全然意味合いが違うと思います。
しかし……
その恐怖からは解放されるはずなんです。
それなのに……
ヨウタくんは「このままが良い」と言いました。
夢魔を守ってまでそうしたい理由が、彼には……。
……そう、か。
ヨウタくんの家族はもう、お母さんしかいないんでした。
彼女が独りで、必死にヨウタくんを育てている。
でも裏を返せばそれは、ヨウタくんにとって独りの時間が長いということにもなります。
そしてお母さんは、そんなヨウタくんを看病するため、付きっ切りで彼のそばにいるようになった……。
経緯は歪んでいても、その結果ヨウタくんが最も求める時間が生まれた、ということ……。
その時間が得られるならば「このままが良い」。
でもその願いが最初からヨウタくんの
心の奥底に眠っていたとしたら……
まさか……前回の治療で攻撃が
"途中から"出なくなったのは……
ヨウタ少年が……
それを望んでしまったから……?
ヨウタくんがそう願ったからで……夢月くんのせいじゃない……。
これまでの苦悩も全て私達の見当違いで……
その原因は別にあったことになる……。
……不穏な静寂が辺りを包みます。
ヨウタくんを怒ることも、叱ることもできる。
責めることも、否定することだってできる立場です。
"優しさ"も成立すると言って良い。
選択肢は、無限にあるはずです。
全てを知った上で、なおヨウタくんの心を受け止める。
それが全てを乗り越えた夢月くんが、
至って"自然に"選んだ解決策……。
声は震え、顔はぐしゃぐしゃになりました。
夢月くんはその場にしゃがみこんで、
そんなヨウタくんに目線を合わせて語り掛けます。
子供には、難しいことは分からなくとも、
心が感じるものに大きな差はないはず。
夢月くんは「子供なんだから」と言いながら、
ヨウタくんを1人の人間として見てあげているように、私には感じられます。
笑顔で彼の心に寄り添って行きます。
同化している私には、彼の心が落ち着いていくのが分かります。でも言葉で解決できるほど、彼の抱えている闇は深くない……。それもまた、分かってしまうのです……。
その場から立ち上がり、決意を感じる顔でヨウタくんに背を向けました。
一体、夢月くんは……何を……。
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