7節「あの日からの気持ち 3」

文字数 1,321文字

え?
私を治療してくれた時も、

そんな風に思ってた?

――自分だけが不幸だ。

――自分が悪いからこんなに苦しむんだ。


そう思っていた時の私は、自分より輝いている人たちを、ただただ眩しいとだけ感じていました。

いや……その……

あの時は必死で……

自分とは全然違って、人生が楽しそうで……。

私もそうなれたらどんなに良かっただろうと、

醜く妬むことしかできなかったんです。

私はね、あの時嬉しかったよ。
夢月くんが自分の話をしてくれて。

独りじゃないんだよって言ってくれて。

あぁこんなに明るい人でも、こうやって壁にぶつかることがあるんだ。自分と同じように毎日悩んでるんだ。


……そう分かったから。

でも夢月くんはそうじゃないことを……

誰もが完璧じゃないということを、

私に教えてくれました。


それも言葉ではなく、気持ちで……です。

…………。
私はあの日まで、本当に自分が嫌いだった。悩んでばかり、人に合わせてばかりの自分が大嫌いだった。
けど、夢月くんのおかげで私は……そんな自分をほんの少しだけ認めてあげられたと思う。
頑張っている夢月くんを見て……

頑張っている自分を褒めてあげようと思った。


こんなに素敵な人と、同じように私も苦しんで、

同じように頑張ってきたと思えたこと。

それが私にとって大きな救いになったんです。

そんな夢月くんの気持ちが、

偽物だなんてこと……あるわけない。

夢月くんの気持ちは、夢月くんが思ってるよりもずっと皆に伝わってるよ。
ヨウタくんにだってきっと……。
そんなに不安がらなくても大丈夫だよ。夢月くんの「誰かの力になりたい」って気持ちは絶対本物。

……私が保証する。
そら……。
ふと自分を振り返る時は、

悪いことばかりに目が行くもの。


他人には言えても、自分ではできない。

……誰だってそう。

何となくだけど……夢月くんが知らなきゃいけないのは、相手のことじゃなくて……
自分自身の良いところ、

なんじゃないかな。

だから私は見てほしい。

あなた自身に見えていない、あなたの良いところを。


私が知ってるあなたの……素敵なところを。

自分……自身……。
うん!
…………。
……ってごめんなさい!

勝手なことばかり言っちゃって……!

考え込む夢月くんの顔を見ていたら、

スッと我に返りました……。


慣れないことをしたから、

つい歯止めが利かなくなっちゃって……。


さすがに余計なお世話、だったかも……。

……そんなことないよ。

今の話で俺、やっと分かった気がする。

何が……見えてなかったのか。
夢月くん……!
ありがとう。

そらのおかげだよ。

そらが近くにいてくれて、良かった。

そ、そんなことないよ……。

油断した……。

今まで向けられたことがないようなとびっきりの優しい笑顔に、思わずドキッとしてしまいました……。

あれ?

ちょっと顔赤くなってるけど、大丈夫?

き、気のせいだから……!

もう……!

アハハハ!

蓮夜さんみたいなこと言わないでよ……。

まぁ夢月くんの場合、無意識なんだろうけど……。


でも……こんな冗談が言えるくらい、私の気持ちが伝わったということだったら、嬉しいです。


上手く……行きますように……。

……頑張らなくちゃ。

待ってろよ、ヨウタ。

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登場人物紹介

天崎 そら(あまさき そら)(20)※一章時

主人公。人々を悪夢から救う"夢うさぎ亭"で働く一般女性。

自分よりも相手のことを優先する心優しい性格で、大抵のことは受け止めてしまう。

一章では夢うさぎでの経験から、自分の意見を言う勇気を持てるようになった。

(※本作では主人公の個人設定はフリーなため、定まった容姿は存在しません)

早乙女 夢月(さおとめ むつき)(19)※一章時

まだ夢の世界で夢魔を祓ったことがない半人前の夢想師。

前向きで明るく裏表がない天真爛漫な性格で、深く強く他人の気持ちに寄り添える豊かな人間性を持つ。

そのおかげで、夢の世界を現出するために必要な「心のパイプ」を繋ぐところまでは誰よりも完璧にこなすことができ、秘めたるポテンシャルは天才的。

しかし、その事実を本人はまだ自覚できないでいる。

宝生 吏星(ほうしょう りせい)(24)※一章時

夢の空間の現出を得意とする夢想師。

他人のことを真剣に考えすぎてしまう性分で根が優しい。

反面、冷静で効率主義かつ真顔で言葉遣いがきつい。そのため人に避けられやすく、本人も少し気にしている。

実直で真面目すぎる苦労人気質。不測の事態に陥ると熱くなりやすい一面も。

夢うさぎの実質的なリーダーとして振る舞っている。後輩である夢月の指導について、自分とあまりにタイプが違うことにかなり悩んでいるらしい。

紫吹 蓮夜(しぶき れんや)(不明)※一章時

夢魔の駆除を得意とする夢想師。

天性のルックスと王子様気質により何もしなくてもモテる美男子。

いつもニヤニヤとしていて、何を考えているのかよく分からない。

自分の身内をからかって遊ぶのが趣味で周りも手を焼いているが、他人が本心から嫌がることは絶対しないバランス感覚を持っているため、何故か憎まれない。

吏星とは付き合いが長く、お互いがお互いの"扱い方"を熟知している節がある。

ヨウタ(5)

一章の核となる少年。来年度から小学生。

ある理由で夢魔に憑かれてしまい、夢うさぎを訪れる。

幼稚園などに通えておらず、家に1人でいる時間が長い。

テレビやおもちゃを心の拠り所にしており、最近は特撮作品ブレイブテイカーがお気に入り。家で何度も繰り返し見ては元気を貰っている。

ヨウタの母(33)

一章に登場。

息子 ヨウタの悪夢を治すため、夢うさぎを訪れる女性。

夢想師の治療には原則本人しか招待されないが、ある理由から付き添いが認められている(ただし、治療の実態を知ることはできない)

佐藤 アキラ(さとう あきら)(30)

一章に登場。

悪夢の治療を受けに夢うさぎ亭を訪れる研究者。

仕事の重圧に負けまいと日々頑張っているが、家族の理解を得られないことに頭を悩ませている。

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