1節「安らかな夢の世界へ ~悪夢の治療をする人達~ 3」

文字数 1,618文字

何となく理解できたか?

故に夢魔に憑かれても肉体に異常は出ず、医者などに掛かっても一連の悪夢を見る原因は一切分からない。

正に「心の病気」って感じかな。

仮にこの話が全て本当ならば、

普通の方法で治らないのも無理はありません。


でも、だとしたら……私は……。

つまり……

どうしようもないってことですか?

案ずるな。

ちゃんと解決策はある。

そのために僕たちがいるんだから。
え……?
身構える私を目の当たりにしたはずの彼らから返ってきた言葉は、思いの外軽いものでした。


「いつものこと」と言わんばかりの彼らの余裕を前に、私はたくさんの動揺と同時に、ほんの少しの安心感を覚えていました。

夢魔を退治して、君の心を元の状態に戻すのが、俺達の仕事なんだ!
退治って……
でも、心に巣食うということ自体よく分からないのに、それをどうにかする方法があると言われても、余計に頭がぐちゃぐちゃになってしまいます……。
……どうやってって顔だね。

うーん、そうだなぁ。

どう話すと分かりやすいかな。

端的に言えば……

お前の夢の中に俺達が入って行って、夢魔を直接叩くことになる。

え、えぇ!?
まぁそうなるよね。
ハハハ……。

こればっかりは実際体感してもらわないとな……。

でも、俺たちは本当にそういうことができる、特別な人間なんだ。

周りからは"夢想師"(むそうし)って呼ばれてる。

夢想師……
聞いたことのない職業……。


人の心の中で夢魔を駆除する存在……。

何が分からなくて、何に驚いているのか、自分でもだんだん分からなくなってきてしまいました……。

今日はウェイターとしてじゃなくて、

夢想師として君の力になれたらなって思ってるぜ!

君のような重症化したお客さんを助けられるのは、僕達だけなんだ。
(か、顔が近い……!)
(可愛い反応する子だねぇ)
早乙女、紫吹、そして俺。

それぞれが夢想師としての施術を行うことで、心に巣食う夢魔を誘い出し、消滅させる。


今日お前にはその全て……

いや2つを受けてもらうことになる。

そこはもう全てで良いんじゃない?

冷静に考えて紫吹の出番はないかもしれん。
えー悲しいなぁ。

潔癖すぎるんだよ吏星は。

…………。
彼らを……信用していないわけではありません……。


だけど……

……不安?
早乙女さんの言葉に、

とにかく大きく首を縦に振ってしまいました。

…………。
こわい。

ただただこわい。


今の自分が置かれている状況が"普通ではなかった"という事実が、私の心を強く強く、締め付けてきたのです。

そうだよな……。

急にこんな話されて不安にならないわけないしな。

でも大丈夫。

君には、ただ眠って夢を見てもらえれば良いんだ。俺達は君が怖い思いをしないように、横でそのサポートをするだけ。

けれど……

彼らにとってはそれは"普通のこと"のようでした。


そしてだからこそ、夢想師という仕事に勤しむ者として、私が抱えているものをすごく分かってくれようとしてくれている。


それが伝わってきたんです。

……今の君は、普通に眠るだけでも恐怖を感じてしまっているんじゃないかな。けど、それだと夢魔は君の心から出てきたがらないから。

君が安らかに眠ることが夢魔にとって一番の毒になる。だから安心して僕たちに任せてほしいな。

夢魔による苦痛は並みの病を遥かに上回ることを、俺達はよく知っている。死に迫る苦痛であることも少なくない。


それと闘い続けたお前のことを、俺達は決して無下にしたりしない。

全力でお前の心を救い出そう。
この人達になら任せられる。

私の心を、見せられる。


素の姿で接してくれるからこそ、

そう思えるのかもしれません。

"味方"……。


あらゆる人や場所に匙を投げられていた私にとって、

その言葉は何よりも"心"の支えになるものでした。

……はい!

それじゃ、参りましょうか。

安らかな夢の世界へ―――

俺たちと一緒に……!

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登場人物紹介

天崎 そら(あまさき そら)(20)※一章時

主人公。人々を悪夢から救う"夢うさぎ亭"で働く一般女性。

自分よりも相手のことを優先する心優しい性格で、大抵のことは受け止めてしまう。

一章では夢うさぎでの経験から、自分の意見を言う勇気を持てるようになった。

(※本作では主人公の個人設定はフリーなため、定まった容姿は存在しません)

早乙女 夢月(さおとめ むつき)(19)※一章時

まだ夢の世界で夢魔を祓ったことがない半人前の夢想師。

前向きで明るく裏表がない天真爛漫な性格で、深く強く他人の気持ちに寄り添える豊かな人間性を持つ。

そのおかげで、夢の世界を現出するために必要な「心のパイプ」を繋ぐところまでは誰よりも完璧にこなすことができ、秘めたるポテンシャルは天才的。

しかし、その事実を本人はまだ自覚できないでいる。

宝生 吏星(ほうしょう りせい)(24)※一章時

夢の空間の現出を得意とする夢想師。

他人のことを真剣に考えすぎてしまう性分で根が優しい。

反面、冷静で効率主義かつ真顔で言葉遣いがきつい。そのため人に避けられやすく、本人も少し気にしている。

実直で真面目すぎる苦労人気質。不測の事態に陥ると熱くなりやすい一面も。

夢うさぎの実質的なリーダーとして振る舞っている。後輩である夢月の指導について、自分とあまりにタイプが違うことにかなり悩んでいるらしい。

紫吹 蓮夜(しぶき れんや)(不明)※一章時

夢魔の駆除を得意とする夢想師。

天性のルックスと王子様気質により何もしなくてもモテる美男子。

いつもニヤニヤとしていて、何を考えているのかよく分からない。

自分の身内をからかって遊ぶのが趣味で周りも手を焼いているが、他人が本心から嫌がることは絶対しないバランス感覚を持っているため、何故か憎まれない。

吏星とは付き合いが長く、お互いがお互いの"扱い方"を熟知している節がある。

ヨウタ(5)

一章の核となる少年。来年度から小学生。

ある理由で夢魔に憑かれてしまい、夢うさぎを訪れる。

幼稚園などに通えておらず、家に1人でいる時間が長い。

テレビやおもちゃを心の拠り所にしており、最近は特撮作品ブレイブテイカーがお気に入り。家で何度も繰り返し見ては元気を貰っている。

ヨウタの母(33)

一章に登場。

息子 ヨウタの悪夢を治すため、夢うさぎを訪れる女性。

夢想師の治療には原則本人しか招待されないが、ある理由から付き添いが認められている(ただし、治療の実態を知ることはできない)

佐藤 アキラ(さとう あきら)(30)

一章に登場。

悪夢の治療を受けに夢うさぎ亭を訪れる研究者。

仕事の重圧に負けまいと日々頑張っているが、家族の理解を得られないことに頭を悩ませている。

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