おまけ13「耽る」

文字数 601文字

……本当はね、さっき吏星を突っ撥ねてでも僕が行くって方法もあったんだ。
その方が確実に夢月ちゃんを助けられた。状況から察するに、夢月ちゃんに憑いている夢魔は恐らく……
だとしたら吏星には荷が勝ちすぎてる。あいつのやり方じゃ、万全の状態だって互角以下にしか戦えないだろうね。
そしてまた"戦略的撤退"ってことにして、僕に泣きついてくるのかもしれない。


まったく、いつまで経っても一人前にならないんだから。

でもね……
それでも僕は、今回は賭けることにしたよ。
良かれと思って

良かれと想って

相手のことを思って

相手の気持ちを想って


そうやって夢うさぎはバラバラになった。

だとしたらこの際、落ちるところまで落ちてみるのも一興さ。個々の痛みが混ざり合って同じものになるほどに、深く昏い闇の中まで。

そこまで行って初めて……分かり合えることもある。

それで最悪の結末を迎えるなら、それまでの話さ。残念ながらね。
……その可能性があるのだとしても、僕はそうじゃない方を追いかけたいんだ。


彼らは、きっとそれを成し遂げられる子達だと思うから。

それに、それ以外……

君に辿り着く方法も残ってないからね。

う……うう……
おっといけない。

長話が過ぎたかな。

聞いてくれてありがとう、坊や。

できれば、次がないことを祈っているよ。

…………。
…………。
信じているよ。

吏星、夢月ちゃん、そらちゃん。

僕の大好きな夢うさぎを、こんなところで終わりになんかしないでよ。
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登場人物紹介

天崎 そら(あまさき そら)(20)※一章時

主人公。人々を悪夢から救う"夢うさぎ亭"で働く一般女性。

自分よりも相手のことを優先する心優しい性格で、大抵のことは受け止めてしまう。

一章では夢うさぎでの経験から、自分の意見を言う勇気を持てるようになった。

(※本作では主人公の個人設定はフリーなため、定まった容姿は存在しません)

早乙女 夢月(さおとめ むつき)(19)※一章時

まだ夢の世界で夢魔を祓ったことがない半人前の夢想師。

前向きで明るく裏表がない天真爛漫な性格で、深く強く他人の気持ちに寄り添える豊かな人間性を持つ。

そのおかげで、夢の世界を現出するために必要な「心のパイプ」を繋ぐところまでは誰よりも完璧にこなすことができ、秘めたるポテンシャルは天才的。

しかし、その事実を本人はまだ自覚できないでいる。

宝生 吏星(ほうしょう りせい)(24)※一章時

夢の空間の現出を得意とする夢想師。

他人のことを真剣に考えすぎてしまう性分で根が優しい。

反面、冷静で効率主義かつ真顔で言葉遣いがきつい。そのため人に避けられやすく、本人も少し気にしている。

実直で真面目すぎる苦労人気質。不測の事態に陥ると熱くなりやすい一面も。

夢うさぎの実質的なリーダーとして振る舞っている。後輩である夢月の指導について、自分とあまりにタイプが違うことにかなり悩んでいるらしい。

紫吹 蓮夜(しぶき れんや)(不明)※一章時

夢魔の駆除を得意とする夢想師。

天性のルックスと王子様気質により何もしなくてもモテる美男子。

いつもニヤニヤとしていて、何を考えているのかよく分からない。

自分の身内をからかって遊ぶのが趣味で周りも手を焼いているが、他人が本心から嫌がることは絶対しないバランス感覚を持っているため、何故か憎まれない。

吏星とは付き合いが長く、お互いがお互いの"扱い方"を熟知している節がある。

ヨウタ(5)

一章の核となる少年。来年度から小学生。

ある理由で夢魔に憑かれてしまい、夢うさぎを訪れる。

幼稚園などに通えておらず、家に1人でいる時間が長い。

テレビやおもちゃを心の拠り所にしており、最近は特撮作品ブレイブテイカーがお気に入り。家で何度も繰り返し見ては元気を貰っている。

ヨウタの母(33)

一章に登場。

息子 ヨウタの悪夢を治すため、夢うさぎを訪れる女性。

夢想師の治療には原則本人しか招待されないが、ある理由から付き添いが認められている(ただし、治療の実態を知ることはできない)

佐藤 アキラ(さとう あきら)(30)

一章に登場。

悪夢の治療を受けに夢うさぎ亭を訪れる研究者。

仕事の重圧に負けまいと日々頑張っているが、家族の理解を得られないことに頭を悩ませている。

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