7節「あの日からの気持ち 1」

文字数 1,914文字

最初に指導を受けてから、数日が経ちました。


夢月くんは、なかなか自分の中での答えが

出せないままでいます……。

……今日もあんな感じか。
ちょっと思い悩みすぎちゃってるかもねぇ。
夢月くん、大丈夫かな……。
考えるのが不得意だからこそ、

その時間を設けさせたのだが。

……限界だな。
吏星さんは少し申し訳なさそうな顔で

私の方を見て口を開きました。

……天崎、早乙女の話を聞いてやってくれないか。俺達には話し辛いこともあるだろうからな。
分かりました。

吏星さんからは事前に相談がありました。

もし夢月くんが袋小路にハマってしまった時には、彼の話を聞いてあげてほしいと。もちろん私はそれを快諾して、今に至ります。
本当にいつもすまない。
こちらこそ、本当に大丈夫ですよ。私も夢月くんの力になりたいのは同じです。
……よろしく頼む。
吏星さんはいつも通り治療室の準備。

蓮夜さんは買い出しに出るという体で、

私たちは夢うさぎに2人きりになりました。

…………。
挑戦を決めた時から真剣だった夢月くんの顔は、

いつからか思い詰めたような色を醸すように……。

……夢月くん、大丈夫?

……無理もありません。

自分に不足しているものを自分自身で見つけるなんて、何か大きな経験があって初めてできることだと思います。


夢月くんはゼロの状態からその……答えのない答えを探す作業にずっと勤しんでいます。

そら……。
大丈夫。ありがとな。
彼は、自分が困った時でさえも、こうして

私に笑いかけてくれることが多いです。


けれど……私にはその笑顔の意味が

分かってしまうから……。

でもやっぱ難しくてさー。

相手を理解するってのがよく分からなくて。

精一杯相手のことを考えているつもりなんだけど、これだって感覚が掴めないんだ。
…………ごめんなさい。

私には何て言ったら良いのかよく分からなくて。

……夢想師ではない私には、夢月くんを

どうしてあげることもできない。


それが私と彼を隔てる、逃れようのない現実です。

あ、こっちこそごめん!

そらにこんなこと言っても

仕方ないのにな……!

本当に迷惑ばっかかけちゃって……

駄目駄目だ俺。

ううん、そんなことないよ。

私には今、夢月くんの話を聞いてあげることしかできないから……。

……けど、伝えたいと思った。

あの時に夢月くんから受け取った気持ち。


私だから感じられた……あなたの気持ちの全てを。

……私ね、夢月くんは絶対にできる人だって思ってる。

前と同じ内容の繰り返しにしか、

ならないかもしれません。


それでも……何度だって言葉にしたかった。

今は何かが歯止めになってしまっているだけで、必ずすごい夢想師になれると思うんだ。

だって、恐がる私を一番最初に勇気付けてくれた人は……紛れもないあなただったから。

私はその何かを、夢月くんと一緒に探したい。悩んでいることがあるなら、それを一緒に解決したいって思う。
"強い気持ちが人の心を動かす"と教えてくれたのは、夢月くんだったから。
そら……。
私は夢月くんのもっと色んな話が聴きたい。
夢月くんが抱えている不安や悩み。

私にも一緒に背負わせてほしいから。

あなたが困って道に迷うことがあったなら、

今度は私があなたの力になりたい。


あなたが惑って立ち止まることがあったなら、

今度は私があなたを導いてあげたい。


そのために、私はここに――

夢うさぎに来たんですから。

……何だか
あの時と逆になったみたいだな。
あ……私……
無意識に私の口から紡がれた言葉。

それは治療をしてくれた夢月くんが私にくれた言葉と、ほとんど変わらないものでした。


ちょっとだけ、恥ずかしいですね……。

…………。
じゃあ……聞いてくれる?

俺がずっと、悩んでること。

しかしそのおかげで……

夢月くんから学んだことのおかげで、

夢月くん本人の心を開くことができたんです。

もちろんだよ!
何だか……運命のようなものを、感じます。
……そらはさ、夢想師が本来どんな人がなるものかは聞いてる?
夢月くんから最初に飛び出したのは、

私にとっては予想外の質問でした。

ううん、聞いてないと思う。
ま、まぁ実は俺も詳しくは知らないんだけどさ……。
血筋とか止むに止まれぬ事情があるとか、そういう理由が多いんだって。
そうなんだね。
だから吏星や蓮夜が、どんな理由で夢想師になったかは知らない。
それは、本人が話してくれるまでは聞いちゃいけないことだと思うから。
そこまで、話して夢月くんは

一旦私から顔を反らしました。


ここから先が……彼が本当に話したいことなのでしょう。

……でも俺は全然そういうのがないのに、夢想師になっちゃった。なれちゃったから、ここにいるんだ。
……どういうこと?

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登場人物紹介

天崎 そら(あまさき そら)(20)※一章時

主人公。人々を悪夢から救う"夢うさぎ亭"で働く一般女性。

自分よりも相手のことを優先する心優しい性格で、大抵のことは受け止めてしまう。

一章では夢うさぎでの経験から、自分の意見を言う勇気を持てるようになった。

(※本作では主人公の個人設定はフリーなため、定まった容姿は存在しません)

早乙女 夢月(さおとめ むつき)(19)※一章時

まだ夢の世界で夢魔を祓ったことがない半人前の夢想師。

前向きで明るく裏表がない天真爛漫な性格で、深く強く他人の気持ちに寄り添える豊かな人間性を持つ。

そのおかげで、夢の世界を現出するために必要な「心のパイプ」を繋ぐところまでは誰よりも完璧にこなすことができ、秘めたるポテンシャルは天才的。

しかし、その事実を本人はまだ自覚できないでいる。

宝生 吏星(ほうしょう りせい)(24)※一章時

夢の空間の現出を得意とする夢想師。

他人のことを真剣に考えすぎてしまう性分で根が優しい。

反面、冷静で効率主義かつ真顔で言葉遣いがきつい。そのため人に避けられやすく、本人も少し気にしている。

実直で真面目すぎる苦労人気質。不測の事態に陥ると熱くなりやすい一面も。

夢うさぎの実質的なリーダーとして振る舞っている。後輩である夢月の指導について、自分とあまりにタイプが違うことにかなり悩んでいるらしい。

紫吹 蓮夜(しぶき れんや)(不明)※一章時

夢魔の駆除を得意とする夢想師。

天性のルックスと王子様気質により何もしなくてもモテる美男子。

いつもニヤニヤとしていて、何を考えているのかよく分からない。

自分の身内をからかって遊ぶのが趣味で周りも手を焼いているが、他人が本心から嫌がることは絶対しないバランス感覚を持っているため、何故か憎まれない。

吏星とは付き合いが長く、お互いがお互いの"扱い方"を熟知している節がある。

ヨウタ(5)

一章の核となる少年。来年度から小学生。

ある理由で夢魔に憑かれてしまい、夢うさぎを訪れる。

幼稚園などに通えておらず、家に1人でいる時間が長い。

テレビやおもちゃを心の拠り所にしており、最近は特撮作品ブレイブテイカーがお気に入り。家で何度も繰り返し見ては元気を貰っている。

ヨウタの母(33)

一章に登場。

息子 ヨウタの悪夢を治すため、夢うさぎを訪れる女性。

夢想師の治療には原則本人しか招待されないが、ある理由から付き添いが認められている(ただし、治療の実態を知ることはできない)

佐藤 アキラ(さとう あきら)(30)

一章に登場。

悪夢の治療を受けに夢うさぎ亭を訪れる研究者。

仕事の重圧に負けまいと日々頑張っているが、家族の理解を得られないことに頭を悩ませている。

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