5節「君のこと、本気にさせてみたい 2」
文字数 1,519文字
君の身体に直接触れないといけないんだ。
それも……身体の隅から隅まで、ね。
……夢魔は心に巣食うけど、深く痛めつけられた心は身体にも悪影響を及ぼす。
だから、君の身体の痛みが出るところを探れば、心のどこに夢魔が潜んでいるかを確認できるってわけ。
夢想師にはそれぞれ、他人と共感触を生むための得意分野がある。宝生さんが教えてくれたことが、だんだんと分かってきたような気がします。
けれど……嫌なわけではないんですが……
抵抗がないと言えば嘘になりますね……。
……びっくりした?
まぁちゃんと話するのも今日が初めてだし、無理もないよ。
……でも、夢月ちゃんと吏星の二人から施術を受けて、夢想師の力については、信用してもらえたんじゃないかと思う。
だから……
ここは僕に任せてくれないかな?
正直、紫吹さんがどんな人なのかはまだ分かりません。
けど、あの夢月くんと宝生さんが信頼している人だから、きっと私が本当に嫌がることはしない。
そんな気がしています。
身体を触られる……と聞いてビックリしてしまったけど、実際に紫吹さんが施術してくれたのはごく普通のマッサージでした。
自己流らしいのですが、とても気持ちが良くて……。
この仕事のために自分に合った技術を磨いている人なんだということが……それだけ彼が優しい人なんだということが伝わってきました。
元々容姿端麗で、何もしなくたって注目の的だったと思うのに……。そこから更に妥協なく努力してきたこの人は、本当にすごい人なんだと思います。
フフ、ありがとう。
もし不自然に強い痛みが出るところがあったら教えて。そこに夢魔が潜んでいるからね。
……仕方がない。
仕方がないんです。
何が夢魔の治療と結びついているかなんて、
私には一切分からないんですから……。
けど……けど……
こんなのずるい!!
ふふーん、そっかー。
見つけちゃった君の弱点。
ちゃーんと覚えておくね。いつか役に立つ時が来るかもだし?
謎の敗北感。
……いや私、あの紫吹さんとこんなやり取りしてて……
明日から夜道を歩けるんでしょうか……。
……フフッ、君には何て言うか、夢月ちゃんと吏星みたいな魅力があるね。
まっすぐで女の子らしくて……僕風に言えば、からかい甲斐のある子、かな。
……施術が終わってもさ、またここにおいでよ。カフェ夢うさぎじゃなくて、夢うさぎ亭にさ。
君みたいな純粋な人には、まだまだ夢想師の力が必要だと思うから。
……こういう時にかけてくれる言葉は、本当にとてもとても優しくて温かい。
何を考えているのかは分からないけど、嘘でこういうことを言う人じゃない。それが絶対に伝わるようなトーンで、紫吹さんは私の心に話しかけてくれます。
やっぱりずるい人だなと、ちょっとだけ思います。
……ここか。
ネズミの分際でずいぶんと色気づいた場所を選んだもんだ。
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