5節「君のこと、本気にさせてみたい 2」

文字数 1,519文字

僕は接触によって共感覚を生む夢想師。

つまり……

君の身体に直接触れないといけないんだ。

それも……身体の隅から隅まで、ね。

え……!? それは……!?
……夢魔は心に巣食うけど、深く痛めつけられた心は身体にも悪影響を及ぼす。
だから、君の身体の痛みが出るところを探れば、心のどこに夢魔が潜んでいるかを確認できるってわけ。
そ、そういうことなんですね……
夢想師にはそれぞれ、他人と共感触を生むための得意分野がある。宝生さんが教えてくれたことが、だんだんと分かってきたような気がします。


けれど……嫌なわけではないんですが……

抵抗がないと言えば嘘になりますね……。

……びっくりした?

まぁちゃんと話するのも今日が初めてだし、無理もないよ。

……でも、夢月ちゃんと吏星の二人から施術を受けて、夢想師の力については、信用してもらえたんじゃないかと思う。


だから……

ここは僕に任せてくれないかな?

正直、紫吹さんがどんな人なのかはまだ分かりません。


けど、あの夢月くんと宝生さんが信頼している人だから、きっと私が本当に嫌がることはしない。

そんな気がしています。

……分かりました。

お願いします。

フフッ、ありがとう。
それじゃ、ベッドに横になって。
……はい。
身体を触られる……と聞いてビックリしてしまったけど、実際に紫吹さんが施術してくれたのはごく普通のマッサージでした。


自己流らしいのですが、とても気持ちが良くて……。

この仕事のために自分に合った技術を磨いている人なんだということが……それだけ彼が優しい人なんだということが伝わってきました。


元々容姿端麗で、何もしなくたって注目の的だったと思うのに……。そこから更に妥協なく努力してきたこの人は、本当にすごい人なんだと思います。

すごいですね、何でもできて……。
フフ、ありがとう。

もし不自然に強い痛みが出るところがあったら教えて。そこに夢魔が潜んでいるからね。

はい。うっ……

おっとごめん痛かった?

どちらかと言うと……

くすぐったいですけど……?

え?
…………。
……仕方がない。
仕方がないんです。

何が夢魔の治療と結びついているかなんて、

私には一切分からないんですから……。


けど……けど……


こんなのずるい!!

ふふーん、そっかー。

見つけちゃった君の弱点。

ちゃーんと覚えておくね。いつか役に立つ時が来るかもだし?

そ、そういうのはやめてください!
冗談だよ。

ほら、ちゃんと横になって。続けるよ。

もう……
謎の敗北感。


……いや私、あの紫吹さんとこんなやり取りしてて……

明日から夜道を歩けるんでしょうか……。

……フフッ、君には何て言うか、夢月ちゃんと吏星みたいな魅力があるね。

まっすぐで女の子らしくて……僕風に言えば、からかい甲斐のある子、かな。
( 喜んで良いのかな、それ……)
……施術が終わってもさ、またここにおいでよ。カフェ夢うさぎじゃなくて、夢うさぎ亭にさ。


君みたいな純粋な人には、まだまだ夢想師の力が必要だと思うから。

……こういう時にかけてくれる言葉は、本当にとてもとても優しくて温かい。


何を考えているのかは分からないけど、嘘でこういうことを言う人じゃない。それが絶対に伝わるようなトーンで、紫吹さんは私の心に話しかけてくれます。


やっぱりずるい人だなと、ちょっとだけ思います。

紫吹さん……

ありがと――ッ!!

……ここか。

ネズミの分際でずいぶんと色気づいた場所を選んだもんだ。

紫吹さん……?

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登場人物紹介

天崎 そら(あまさき そら)(20)※一章時

主人公。人々を悪夢から救う"夢うさぎ亭"で働く一般女性。

自分よりも相手のことを優先する心優しい性格で、大抵のことは受け止めてしまう。

一章では夢うさぎでの経験から、自分の意見を言う勇気を持てるようになった。

(※本作では主人公の個人設定はフリーなため、定まった容姿は存在しません)

早乙女 夢月(さおとめ むつき)(19)※一章時

まだ夢の世界で夢魔を祓ったことがない半人前の夢想師。

前向きで明るく裏表がない天真爛漫な性格で、深く強く他人の気持ちに寄り添える豊かな人間性を持つ。

そのおかげで、夢の世界を現出するために必要な「心のパイプ」を繋ぐところまでは誰よりも完璧にこなすことができ、秘めたるポテンシャルは天才的。

しかし、その事実を本人はまだ自覚できないでいる。

宝生 吏星(ほうしょう りせい)(24)※一章時

夢の空間の現出を得意とする夢想師。

他人のことを真剣に考えすぎてしまう性分で根が優しい。

反面、冷静で効率主義かつ真顔で言葉遣いがきつい。そのため人に避けられやすく、本人も少し気にしている。

実直で真面目すぎる苦労人気質。不測の事態に陥ると熱くなりやすい一面も。

夢うさぎの実質的なリーダーとして振る舞っている。後輩である夢月の指導について、自分とあまりにタイプが違うことにかなり悩んでいるらしい。

紫吹 蓮夜(しぶき れんや)(不明)※一章時

夢魔の駆除を得意とする夢想師。

天性のルックスと王子様気質により何もしなくてもモテる美男子。

いつもニヤニヤとしていて、何を考えているのかよく分からない。

自分の身内をからかって遊ぶのが趣味で周りも手を焼いているが、他人が本心から嫌がることは絶対しないバランス感覚を持っているため、何故か憎まれない。

吏星とは付き合いが長く、お互いがお互いの"扱い方"を熟知している節がある。

ヨウタ(5)

一章の核となる少年。来年度から小学生。

ある理由で夢魔に憑かれてしまい、夢うさぎを訪れる。

幼稚園などに通えておらず、家に1人でいる時間が長い。

テレビやおもちゃを心の拠り所にしており、最近は特撮作品ブレイブテイカーがお気に入り。家で何度も繰り返し見ては元気を貰っている。

ヨウタの母(33)

一章に登場。

息子 ヨウタの悪夢を治すため、夢うさぎを訪れる女性。

夢想師の治療には原則本人しか招待されないが、ある理由から付き添いが認められている(ただし、治療の実態を知ることはできない)

佐藤 アキラ(さとう あきら)(30)

一章に登場。

悪夢の治療を受けに夢うさぎ亭を訪れる研究者。

仕事の重圧に負けまいと日々頑張っているが、家族の理解を得られないことに頭を悩ませている。

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