3節「お前はもう、独りじゃない 1」

文字数 1,687文字

……あれ……ここは?
!?!?
夢の中で目覚めというのも変な話だがな。
え、えっと、ほ、宝生さん……?
ようこそ天崎 そら。

ここからは俺、宝生 吏星が担当だ。

は、はい……!
そっか……。

ここが"夢の世界"みたいです。


夢月くんはまだ、夢の世界に入れないと言っていました。だからこうして、宝生さんが私の夢に出てきている……ということ……だと思います。


現実ではないとは言え……

上手くやれるかな……この人と……。

どうだ夢の世界は?

まるで現実かのように鮮明だろう?


夢空間の現出は

俺が最も得意とする分野だ。

そ、そうなんですか……。
む、何故自分の夢の世界に、俺が先にいるのかという顔だな。
全うな疑問だが、簡単な話だ。

夢とは必ずしも寝てすぐに見るわけではない。お前が眠りに就いている間に、俺が先にお前の夢の世界にアクセスしただけのことだ。

え、えっと……?

精神、肉体共に最も安定した状態で睡眠を維持できる環境になっているはずだ。そうでないと、夢の世界が揺らぐリスクが高まってしまう。

( ……い、意外とよく喋るんだなぁ……)
もっと寡黙な人だと思っていましたが……

こっちのお仕事では違うみたいです……。


少し話が難しくて大変ですが……

私が不安がらないように説明してくれているのだということは、何となく伝わってきます。

夢想師が他人の夢にアクセスするには、患者との間に強い共感触を生む必要がある。


早乙女はそれを心で結び付けるタイプ、俺は環境を利用して行うタイプだ。

早乙女がお前の気持ちを解きほぐしてくれたおかげで、随分と楽をさせてもらった。


やはりあいつは優秀だ。

え、でも、夢月くんは……
ん?
夢の世界には……入れないと……
真顔で見詰められると目つきが……。

まだまっすぐお話するのには勇気がいりそうです……。

……あぁ。

早乙女がお前に何か言ったのか?

まったくあいつは。

ついでだから覚えておけ。

夢想師にとって一番難しいのは、患者の心を開いて夢を見てもらうことだ。


それに比べれば夢魔の駆除など大した問題じゃない。才覚さえあれば、いつかは必ずできるようになる。


あいつはそれをどうも勘違いしている節がある。

( でも……言い方は厳しいけど……)

早乙女が羨ましい限りだ。

( ……何だか面白い人)
私に話してくれる時も、夢月くんの話をする時も……。私たちのことを真剣に考えてくれていることが話しぶりから分かるんです。本当に、分かりすぎるくらいに。
おい、何がおかしい?

夢月くんが言っていた「優しい人」というのは

本当みたい。


その喋り方と中身とのギャップに、

思わず吹き出してしまいました。

い、いえ、接し方じゃないかな……って。

……接し方、だと?

俺は俺でそれなりに気を遣っているつもりなんだが、駄目だろうか?

何と言うか、その……
そうか……。

……まぁ、よく言われる。


固いとか、恐いとか、笑顔が少ないとか、話が長いとか。

一生懸命やっているつもりなんだがな。
そ、そうなん、ですね……。
その反応1つ1つがおかしくて、

ついつい笑いそうになってしまうのですが……。


実はこの人も少し、かわいそうな人なのかも……

と思えてしまう面もあります。

お前も何か不安なことがあったら言ってくれ。極力直せるように努力はする。

……はい、任せてください。
ああ、よろしく頼む。

人には、直そうと思っても直らないところがある。

自分で嫌いだと思っていても、そのままにしてしまうところがあります。


そんな"なりたい自分"とのギャップに、

宝生さんも苦しんでいるのかもしれません。

……しかし、お前の夢の世界は本当に何もないな。見渡す限りの平面で驚いた。
これは確かに夢魔に狙われるわけだ。
ど、どういうことですか?
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登場人物紹介

天崎 そら(あまさき そら)(20)※一章時

主人公。人々を悪夢から救う"夢うさぎ亭"で働く一般女性。

自分よりも相手のことを優先する心優しい性格で、大抵のことは受け止めてしまう。

一章では夢うさぎでの経験から、自分の意見を言う勇気を持てるようになった。

(※本作では主人公の個人設定はフリーなため、定まった容姿は存在しません)

早乙女 夢月(さおとめ むつき)(19)※一章時

まだ夢の世界で夢魔を祓ったことがない半人前の夢想師。

前向きで明るく裏表がない天真爛漫な性格で、深く強く他人の気持ちに寄り添える豊かな人間性を持つ。

そのおかげで、夢の世界を現出するために必要な「心のパイプ」を繋ぐところまでは誰よりも完璧にこなすことができ、秘めたるポテンシャルは天才的。

しかし、その事実を本人はまだ自覚できないでいる。

宝生 吏星(ほうしょう りせい)(24)※一章時

夢の空間の現出を得意とする夢想師。

他人のことを真剣に考えすぎてしまう性分で根が優しい。

反面、冷静で効率主義かつ真顔で言葉遣いがきつい。そのため人に避けられやすく、本人も少し気にしている。

実直で真面目すぎる苦労人気質。不測の事態に陥ると熱くなりやすい一面も。

夢うさぎの実質的なリーダーとして振る舞っている。後輩である夢月の指導について、自分とあまりにタイプが違うことにかなり悩んでいるらしい。

紫吹 蓮夜(しぶき れんや)(不明)※一章時

夢魔の駆除を得意とする夢想師。

天性のルックスと王子様気質により何もしなくてもモテる美男子。

いつもニヤニヤとしていて、何を考えているのかよく分からない。

自分の身内をからかって遊ぶのが趣味で周りも手を焼いているが、他人が本心から嫌がることは絶対しないバランス感覚を持っているため、何故か憎まれない。

吏星とは付き合いが長く、お互いがお互いの"扱い方"を熟知している節がある。

ヨウタ(5)

一章の核となる少年。来年度から小学生。

ある理由で夢魔に憑かれてしまい、夢うさぎを訪れる。

幼稚園などに通えておらず、家に1人でいる時間が長い。

テレビやおもちゃを心の拠り所にしており、最近は特撮作品ブレイブテイカーがお気に入り。家で何度も繰り返し見ては元気を貰っている。

ヨウタの母(33)

一章に登場。

息子 ヨウタの悪夢を治すため、夢うさぎを訪れる女性。

夢想師の治療には原則本人しか招待されないが、ある理由から付き添いが認められている(ただし、治療の実態を知ることはできない)

佐藤 アキラ(さとう あきら)(30)

一章に登場。

悪夢の治療を受けに夢うさぎ亭を訪れる研究者。

仕事の重圧に負けまいと日々頑張っているが、家族の理解を得られないことに頭を悩ませている。

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