11節「夢想師と共心者 3」

文字数 2,234文字

まず夢想師は全体の9割以上が男性だ。

女性は何故か、夢入りしても夢魔を攻撃する術を持てないことが多い。

性別で心の在り方が異なるからだって言われてる。
は、はい……
じゃあこの世界では女性は役立たずかって言うとそうじゃない。


逆に女性にしかできないことがある。

きょ、共心者(きょうしんしゃ)……
夢うさぎに来てから初めて耳にする言葉……。

先ほどから目まぐるしく展開される情報に……

正直、翻弄され続けています……。

共心者は患者の心と自分の心を完全に"同化"させることで、その心の強度と大きさを補完できる人間のこと。
同化する夢想師と共心者の心の距離が近ければ……夢入りの障害となる要素をほぼないことにできる。
それどころか、夢の世界での意識をより明白なものにできるし……空間もより強固になって攻撃のバリエーションも増やせる。
正に、夢想師最強のサポーターになれるんだ。
言わば……女性の夢想師と言ったところ……?

だとすれば……私も彼らと一緒に……他人の夢の世界に行くということに……。

そ、そんな大役が……私に……?
できるよ。
そらちゃんは僕が見てきた中でも、群を抜いて広く純粋な心を持っていたし、それでいて欲望というものが異常に少ない在り様をしていた。
共心者として、この上ないレベルの才能を持っていると言えるね。
私が……
私が……彼らと一緒に……

夢想師と一緒に……行動する……。

夢月くんの……夢の世界に入って……。

今、夢月ちゃんを助け、その先でヨウタくんの治療を考えるなら……確実な方法はこれしかない。
……やってみる勇気はある?

そらちゃん?

…………。
他人の夢の世界に……。

そんなこと、今まで一度だって考えもしなかった……。


突然の話で……恐怖がないと言えば、嘘になります。


でも……今はそれ以上に――

り、吏星さん……?
確かに天崎には共心者としての才能がある。それは認めよう。
だが、今その話を知ったばかりのお前に、そんな危険なことはさせられない。
…………。
…………。
……吏星さんはさっきから否定ばかり口にする。

でもこの話を聞いて、その理由もはっきりしました。

患者と心を同化させるということは……お前も夢魔の侵食を同時に受けるということだ。
また天崎に……あの苦痛を味わってもらわなければならなくなる。
吏星さん……
あなたはいつもそうやって守ろうとしてくれる。

何かを隠してまで……嘘をついてまで……。

私を……皆を……夢うさぎを……。

同化が上手く行かなければ、お前の心もどうなるか分からない。その時治療に当たっている俺達も早乙女も、無事でいられる確証がない。
そんな責任を負わせて、お前がもし早乙女の二の舞になったら……
本当に……本当に吏星さんは、優しい人。
…………。
……彼の心配はもっともです。

この状況……不安なこと、不確定なことが多すぎるのは、私にだって分かります。


吏星さんの頭の中には、私の何倍もの"それ"が渦巻いているに違いありません。

……ありがとうございます、吏星さん。

いつも私たちのことを一番に考えてくれて。

でも――
でも……その話を聞いても、

私の気持ちはさっきと変わりませんでした。

――私やってみたい。
やってみたいです!
天崎……!?
気付くと……今まで出したことがないくらい大きな声で、私は吏星さんに向かってそう宣言していました。
私は皆さんの力になりたくて、この夢うさぎに来ました。そのためなら、どんなことでもやろうって決めたんです。
夢うさぎに来て、実際に私がしてきたことは

彼らの身の回りの雑用くらい……。


もっと彼らの力になりたい。

そう思いながらもずっと、本当の意味で彼らの

仲間になれはしないのだろうと感じていました。

吏星さんが言ってくれてること、分かります。

でも……そうじゃなかった。

私にも、夢うさぎにいる資格があった。


そして、夢月くんとヨウタくんを

助けるために行動できる。


それが今は何よりも嬉しい……!

普通に考えたらやるべきじゃないことも……吏星さんが私のことを本当に理解して言ってくれてることも……
全部、伝わってるんです。
だからこれは私のワガママ。

誰かより自分を優先する、初めての――"私"。

だけど……それでも私やってみたい。

それで夢月くんとヨウタくんを、救えるかもしれないなら……

私、頑張ります!

何があっても受け容れます!

私の意志を……想いを……気持ちを……!

優しい吏星さんにも、届けます……!

――――!
…………フフッ!
…………。
――そうか。

俺はいつもこうやって……

"他人のため"と誤魔化して……。

吏星さん!
だが早乙女に憑いた夢魔の駆除は俺が行う。それが条件だ。
えーそれは僕で良いじゃん。

もう夢魔の居場所も特定できてるしさ。

この非常事態、せめて空間の現出が得意な夢想師と組むべきだ。
それに紫吹では攻撃の威力が高すぎて、天崎に被害が出る可能性がある。
……へぇ、結構冷静じゃん。
当然の選択をしているだけだ。
…………。
まぁ良いよ。
蓮夜さんは吏星さんの肩を軽く叩いて、

耳元で何かを……囁いているようです。

夢の世界でしっかり語り合ってきなよ、夢月ちゃんとさ。
……言われなくてもそのつもりだ。
(夢月くん……大丈夫……)
……上手く行くか分からないなんて、

そんな甘えたことは言わない。


これは私が決めたこと。

(私たちが必ず、何とかしてみせるから!)

あの日……

あなたがしてくれたように、私も……!

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登場人物紹介

天崎 そら(あまさき そら)(20)※一章時

主人公。人々を悪夢から救う"夢うさぎ亭"で働く一般女性。

自分よりも相手のことを優先する心優しい性格で、大抵のことは受け止めてしまう。

一章では夢うさぎでの経験から、自分の意見を言う勇気を持てるようになった。

(※本作では主人公の個人設定はフリーなため、定まった容姿は存在しません)

早乙女 夢月(さおとめ むつき)(19)※一章時

まだ夢の世界で夢魔を祓ったことがない半人前の夢想師。

前向きで明るく裏表がない天真爛漫な性格で、深く強く他人の気持ちに寄り添える豊かな人間性を持つ。

そのおかげで、夢の世界を現出するために必要な「心のパイプ」を繋ぐところまでは誰よりも完璧にこなすことができ、秘めたるポテンシャルは天才的。

しかし、その事実を本人はまだ自覚できないでいる。

宝生 吏星(ほうしょう りせい)(24)※一章時

夢の空間の現出を得意とする夢想師。

他人のことを真剣に考えすぎてしまう性分で根が優しい。

反面、冷静で効率主義かつ真顔で言葉遣いがきつい。そのため人に避けられやすく、本人も少し気にしている。

実直で真面目すぎる苦労人気質。不測の事態に陥ると熱くなりやすい一面も。

夢うさぎの実質的なリーダーとして振る舞っている。後輩である夢月の指導について、自分とあまりにタイプが違うことにかなり悩んでいるらしい。

紫吹 蓮夜(しぶき れんや)(不明)※一章時

夢魔の駆除を得意とする夢想師。

天性のルックスと王子様気質により何もしなくてもモテる美男子。

いつもニヤニヤとしていて、何を考えているのかよく分からない。

自分の身内をからかって遊ぶのが趣味で周りも手を焼いているが、他人が本心から嫌がることは絶対しないバランス感覚を持っているため、何故か憎まれない。

吏星とは付き合いが長く、お互いがお互いの"扱い方"を熟知している節がある。

ヨウタ(5)

一章の核となる少年。来年度から小学生。

ある理由で夢魔に憑かれてしまい、夢うさぎを訪れる。

幼稚園などに通えておらず、家に1人でいる時間が長い。

テレビやおもちゃを心の拠り所にしており、最近は特撮作品ブレイブテイカーがお気に入り。家で何度も繰り返し見ては元気を貰っている。

ヨウタの母(33)

一章に登場。

息子 ヨウタの悪夢を治すため、夢うさぎを訪れる女性。

夢想師の治療には原則本人しか招待されないが、ある理由から付き添いが認められている(ただし、治療の実態を知ることはできない)

佐藤 アキラ(さとう あきら)(30)

一章に登場。

悪夢の治療を受けに夢うさぎ亭を訪れる研究者。

仕事の重圧に負けまいと日々頑張っているが、家族の理解を得られないことに頭を悩ませている。

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