現実と変わらないっていうのは
本当にそうだったかも。
夢だって言われても信じられないくらい、はっきりしてたと思う。
まずは思い出せるものの中から、最初に頭に浮かんだことを正直に。
率直に当時思った驚きを彼に伝えます。
真剣に私の言葉を求めてくれる彼に応えたいその一心で、懸命にあの時の記憶を辿ります。
でも何だかそこにいる私は、
いつもの自分じゃないみたいで……。
良くも悪くも、色んなことに素直に反応できてた気がする……かな。
それに強く反応を示したのは夢月くん……ではなく、何故か吏星さんなのでした……。
それは貴重な感想だ。
夢空間は患者の最も根源的な部分から作り出されるからな。素直な反応ができるというのは的を射ているはずだ。
吏星さん……どこからともなく取り出したメモ帳に、
凄い勢いで何かを書いています……。
何故かとても満足そうに……
と言うか私のちょっとの発言から、
そんなにたくさんのものを見出したんですか……?
は、はい。
あとは……ちょっと寝不足っぽい感じっていうのかな。はっきりしているけど、視界がぼんやりしているというか。
意識ははっきりしていても……
すっきりはしてなかったかも……?
あまり言葉選びは得意ではないのですが、私の語彙力ではこう言うしかなく……
逆に彼を混乱させてしまわないか心配で――
心配通りに……。努めて真剣に聞く彼の姿が、逆に私の無力感を増長してきます……。
蓮夜さん……その発言は……フォローなのか……何なのか……。
空気を破る吏星さんの的確な一言が、私の意思を代弁してくれました。
こういう時、彼は本当に頼りになります。
天崎は自分の夢の世界だったからその程度で済んでいるが、夢想師は他人の夢の中で動かなければならない。
空間の現出が甘いとそれだけ夢の世界での行動が制限されてしまうから、夢魔を祓うのも難しくなる。
……最悪、空間が崩壊して1からやり直しというパターンもあるからな。
自分の解説に違和感を覚えた吏星さんが、私の方を一瞬だけ見てまた目を背けた
ことに気付いてしまいました……。
何故なら私の治療では、吏星さんが原因でそれを引き起こしてしまったから……。
せ、精神だけでなく肉体的な事情も現出には絡んでくる。ベストを目指そうと思うと、意外と調整が難しいんだ。
え、あ、いやどちらかと言うと……別に求めてもいない言い訳を始めたことを微笑ましく思ってしまっただけで……何とも思っていないのですが……。
ちなみに、空間の崩壊に夢想師が巻き込まれると、しばらく意識を持って行かれちゃうから注意してね。危なくなったら自分から離脱するのが基本だよ。
夢の世界では、俺達と同じように夢魔も実体を持つ。だから武器を用意して、直接攻撃すればいいだけだ。
夢想師は患者のイメージできる範囲の中でなら自由に行動可能だ。武器を即座に生成できるし、魔法のように光弾を打ち出したりもできる。
初めて吏星さんの戦うところを見た時は本当に驚いたものです。
夢の中とは言え、現実離れした動きと技。
あれを見ているからこそ私は、夢魔の駆除はリスクの高い行為だということに思いを馳せることができます。
考え方としてはそれでいい。
だがあくまでも"他人の夢の中にいる"ということだけは忘れるな。
"夢の世界"は人の心象を具現化したもの。夢想師はその中に立っているに過ぎません。
現実では不可能な芸当もこなせるが、それだけに自身の想像力が試される。ある程度何でもできるとは言え、そこに向き不向きはあるからな。
最終的には自分に合ったやり方を、自分で見つけていかなければならない。
特に今回は子供の治療になるからね。
できると思っていたことができなかったという状況にも陥りやすい。
ヨウタくんが理解できることを事前にリサーチして、使う選択肢を絞っておいた方が確実かもね。
早乙女にいきなりそんな器用なことができるとは思えんがな。
仮に夢想師本人が理解して知っているものでも、患者の心が追いつかない、知らないものは使うことができないんだと、あの時に吏星さんから聞きました。
だからそれを踏まえて"誰でも知っている方法"を軸にしておく必要がある、らしいです……。
話の内容がイマイチ理解できていなさそうな夢月くんでしたが……、突然何か閃いたとばかりに前のめりになり、元気良く話し始めました。
吏星と蓮夜にも必殺技? みたいなのがあるってこと?
その彼らしいと言うか何と言うか微妙な質問を受けて困惑する吏星さんに対し……
もちろんあるよ。
例えば吏星はカタストロフィジエンドって技名をつけてて――
流石の吏星さんもこれには声を荒げます。なら、ここは私も助け舟を出すべき……!
吏星さんは確か、夢魔を檻に閉じ込めてから攻撃するんでしたよね?
あ、そっか。
そらは2人が戦うところも見てるんだったな。
檻に入れる時「カタストロフィ……」って言ってたでしょ?
え……? 言って……?
自信満々に問いかけてくる蓮夜さんを見ていると……何故だかこっちが自信を無くしてしまいます……。