6節「夢月、考える 2」

文字数 2,417文字

現実と変わらないっていうのは

本当にそうだったかも。


夢だって言われても信じられないくらい、はっきりしてたと思う。

まずは思い出せるものの中から、

最初に頭に浮かんだことを正直に。


率直に当時思った驚きを彼に伝えます。

…………。
真剣に私の言葉を求めてくれる彼に応えたい

その一心で、懸命にあの時の記憶を辿ります。

でも何だかそこにいる私は、

いつもの自分じゃないみたいで……。

良くも悪くも、色んなことに素直に反応できてた気がする……かな。
それに強く反応を示したのは夢月くん……ではなく、何故か吏星さんなのでした……。
それは貴重な感想だ。

夢空間は患者の最も根源的な部分から作り出されるからな。素直な反応ができるというのは的を射ているはずだ。

吏星さん……

どこからともなく取り出したメモ帳に、

凄い勢いで何かを書いています……。

流石だな天崎。

これは俺も1つ勉強になった。

え、あ、ありがとうございます……?

何故かとても満足そうに……


と言うか私のちょっとの発言から、

そんなにたくさんのものを見出したんですか……?

……あれ?

もしかして話がズレてる?

続けて良いよ、そらちゃん。
は、はい。

あとは……ちょっと寝不足っぽい感じっていうのかな。はっきりしているけど、視界がぼんやりしているというか。

意識ははっきりしていても……

すっきりはしてなかったかも……?

あまり言葉選びは得意ではないのですが、

私の語彙力ではこう言うしかなく……


逆に彼を混乱させてしまわないか心配で――

心配通りに……。

努めて真剣に聞く彼の姿が、逆に私の無力感を増長してきます……。

ご、ごめん。

やっぱり分かりにくかったよね。

分かりやすかったけどなぁ。
蓮夜さん……その発言は……

フォローなのか……何なのか……。

要は完璧に動けるわけではないということだ。
空気を破る吏星さんの的確な一言が、

私の意思を代弁してくれました。


こういう時、彼は本当に頼りになります。

天崎は自分の夢の世界だったからその程度で済んでいるが、夢想師は他人の夢の中で動かなければならない。
空間の現出が甘いとそれだけ夢の世界での行動が制限されてしまうから、夢魔を祓うのも難しくなる。
……最悪、空間が崩壊して1からやり直しというパターンもあるからな。
自分の解説に違和感を覚えた吏星さんが、

私の方を一瞬だけ見てまた目を背けた

ことに気付いてしまいました……。

あ……
何故なら私の治療では、吏星さんが原因で

それを引き起こしてしまったから……。

せ、精神だけでなく肉体的な事情も現出には絡んでくる。ベストを目指そうと思うと、意外と調整が難しいんだ。
…………。
……すまん。
え、あ、いやどちらかと言うと……別に求めてもいない言い訳を始めたことを微笑ましく思ってしまっただけで……何とも思っていないのですが……。
ちなみに、空間の崩壊に夢想師が巻き込まれると、しばらく意識を持って行かれちゃうから注意してね。危なくなったら自分から離脱するのが基本だよ。
あ、頭が割れそうだ……
……そうだ夢魔!

夢魔を祓う時は何をしてるんだ?

夢の世界では、俺達と同じように夢魔も実体を持つ。だから武器を用意して、直接攻撃すればいいだけだ。
夢想師は患者のイメージできる範囲の中でなら自由に行動可能だ。武器を即座に生成できるし、魔法のように光弾を打ち出したりもできる。
初めて吏星さんの戦うところを見た時は

本当に驚いたものです。


夢の中とは言え、現実離れした動きと技。

あれを見ているからこそ私は、夢魔の駆除はリスクの高い行為だということに思いを馳せることができます。

つまりは明晰夢……みたいな?
考え方としてはそれでいい。

だがあくまでも"他人の夢の中にいる"ということだけは忘れるな。

わ、分かった。
"夢の世界"は人の心象を具現化したもの。

夢想師はその中に立っているに過ぎません。

現実では不可能な芸当もこなせるが、それだけに自身の想像力が試される。ある程度何でもできるとは言え、そこに向き不向きはあるからな。
最終的には自分に合ったやり方を、自分で見つけていかなければならない。
特に今回は子供の治療になるからね。

できると思っていたことができなかったという状況にも陥りやすい。

ヨウタくんが理解できることを事前にリサーチして、使う選択肢を絞っておいた方が確実かもね。
早乙女にいきなりそんな器用なことができるとは思えんがな。
仮に夢想師本人が理解して知っているものでも、患者の心が追いつかない、知らないものは使うことができないんだと、あの時に吏星さんから聞きました。


だからそれを踏まえて"誰でも知っている方法"を軸にしておく必要がある、らしいです……。

えーっと、だからその……
話の内容がイマイチ理解できていなさそうな夢月くんでしたが……、突然何か閃いたとばかりに前のめりになり、元気良く話し始めました。
吏星と蓮夜にも必殺技? みたいなのがあるってこと?
ひ、必殺技……?
その彼らしいと言うか何と言うか微妙な

質問を受けて困惑する吏星さんに対し……

楽しそうなのはこの人です……。
もちろんあるよ。

例えば吏星はカタストロフィジエンドって技名をつけてて――

ない!

つけていない!

流石の吏星さんもこれには声を荒げます。

なら、ここは私も助け舟を出すべき……!

吏星さんは確か、夢魔を檻に閉じ込めてから攻撃するんでしたよね?
あ、そっか。

そらは2人が戦うところも見てるんだったな。

うん、一応ね。
これで何とか話を元の方向に……
檻に入れる時「カタストロフィ……」って言ってたでしょ?
方向に……?
え?
…………。

え……? 言って……?

自信満々に問いかけてくる蓮夜さんを見ていると……何故だかこっちが自信を無くしてしまいます……。
えっと……言ってましたっけ?
助けて、吏星さん――!
天崎、それは本当に確認が必要か?
す、すみません。
…………。
――え、なんで私が……!?

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登場人物紹介

天崎 そら(あまさき そら)(20)※一章時

主人公。人々を悪夢から救う"夢うさぎ亭"で働く一般女性。

自分よりも相手のことを優先する心優しい性格で、大抵のことは受け止めてしまう。

一章では夢うさぎでの経験から、自分の意見を言う勇気を持てるようになった。

(※本作では主人公の個人設定はフリーなため、定まった容姿は存在しません)

早乙女 夢月(さおとめ むつき)(19)※一章時

まだ夢の世界で夢魔を祓ったことがない半人前の夢想師。

前向きで明るく裏表がない天真爛漫な性格で、深く強く他人の気持ちに寄り添える豊かな人間性を持つ。

そのおかげで、夢の世界を現出するために必要な「心のパイプ」を繋ぐところまでは誰よりも完璧にこなすことができ、秘めたるポテンシャルは天才的。

しかし、その事実を本人はまだ自覚できないでいる。

宝生 吏星(ほうしょう りせい)(24)※一章時

夢の空間の現出を得意とする夢想師。

他人のことを真剣に考えすぎてしまう性分で根が優しい。

反面、冷静で効率主義かつ真顔で言葉遣いがきつい。そのため人に避けられやすく、本人も少し気にしている。

実直で真面目すぎる苦労人気質。不測の事態に陥ると熱くなりやすい一面も。

夢うさぎの実質的なリーダーとして振る舞っている。後輩である夢月の指導について、自分とあまりにタイプが違うことにかなり悩んでいるらしい。

紫吹 蓮夜(しぶき れんや)(不明)※一章時

夢魔の駆除を得意とする夢想師。

天性のルックスと王子様気質により何もしなくてもモテる美男子。

いつもニヤニヤとしていて、何を考えているのかよく分からない。

自分の身内をからかって遊ぶのが趣味で周りも手を焼いているが、他人が本心から嫌がることは絶対しないバランス感覚を持っているため、何故か憎まれない。

吏星とは付き合いが長く、お互いがお互いの"扱い方"を熟知している節がある。

ヨウタ(5)

一章の核となる少年。来年度から小学生。

ある理由で夢魔に憑かれてしまい、夢うさぎを訪れる。

幼稚園などに通えておらず、家に1人でいる時間が長い。

テレビやおもちゃを心の拠り所にしており、最近は特撮作品ブレイブテイカーがお気に入り。家で何度も繰り返し見ては元気を貰っている。

ヨウタの母(33)

一章に登場。

息子 ヨウタの悪夢を治すため、夢うさぎを訪れる女性。

夢想師の治療には原則本人しか招待されないが、ある理由から付き添いが認められている(ただし、治療の実態を知ることはできない)

佐藤 アキラ(さとう あきら)(30)

一章に登場。

悪夢の治療を受けに夢うさぎ亭を訪れる研究者。

仕事の重圧に負けまいと日々頑張っているが、家族の理解を得られないことに頭を悩ませている。

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