15節「明日を照らす光 5」

文字数 1,451文字

む、夢月くん!?
完全な丸腰で夢月くんは、夢魔に向かって一歩ずつ、力強く歩みを進めて行きます。武器の再度の現出を試みることすらしないままに……!

何をしている早乙女!?

今のお前はそいつに攻撃できんのだぞ! 一旦戻ってこい!

いくら弱っているとは言え相手は超巨大な夢魔。

何の攻撃もできない今の状況では、危険な相手に違いありません……!

大丈夫だよ。

絶対に大丈夫。

私達の制止の声を無視して夢月くんは、

遂には顔に触れられる距離まで夢魔に近付きました。


夢魔の息が微かに荒くなったのを感じます。

…………!
次の瞬間、一際大きな夢魔の絶叫が空間中に響き渡ります。しかし、夢魔は夢月くんに攻撃しようとはしません。


震える身体で懸命に地面を踏み抜き、

空間に干渉しようと試みています。

無駄だよ。

今のお前じゃ、この空間は壊せない。

夢魔は地面を踏み抜くことをやめません。

何度も、何度も、何度も……。


目の前の仇敵を手にかけることの方が

遥かに簡単なはずなのに……。


夢魔は痛々しいまでに空間への干渉にこだわり続けます……。

……最初から変だと思ってた。

空間を壊すのが目的で、自分から攻撃しようって気が感じられなかったから。

そんな夢魔の姿を見て確信を持ったように、

夢月くんは夢魔に言葉を投げかけました。

何か理由があって、子供に憑くことになったけど……本当はこんなことしたかったわけじゃない。
そうなんだろ?
その言葉に呼応するように、唐突に夢魔の動きが止まりました。


そして……まるで安心したと言わんばかりにその場に身体を崩し、もう、ピクリとも動かなくなりました。

ずっと……ずっと悩んでたんだ。

俺達は俺達の都合でお前達を祓うけど……本当はお前達にも何か理由があるんじゃないかって。

一方的に悪だと決めつけるのが、本当に良いことなのかって。
さ、早乙女……?
…………。

初めて夢うさぎに来た時、私は夢魔について「ウィルスのようなもの」だという説明を受けた覚えがあります。


だから、夢魔を祓うのは病気を治すのと同じこと。

私もそう思っていたし、皆がその認識で治療に当たっていると、当たり前に思ってきました。

(けれど……)

夢月くんはそうじゃなかった。


できることなら、夢魔とも対話したい。

それが彼の心の底にある想いで……だからこそ夢魔に止めを刺すのを躊躇っていたのでしょう……。

でも、お前と出会って心が決まったよ。

優しく、普通の動物の頭を触るように、

夢月くんは苦しみ横たわる夢魔の頭に手を這わせて行きます。

……俺は、夢魔も否定したくない。

理由があるならそれを知りたい。

みんなの本当の気持ちに……気付いてあげたいんだ。

…………。

臆することなく、当たり前のように夢魔と対話する夢月くんから、ヨウタくんは全く目を離そうとしませんでした。


彼の目はヒーローを見る時のキラキラした目とは違っていて……


真ん丸な目で、ただ"凄いもの"に釘付けにされている。そんな印象を受けました。

俺のところに来い。

俺は夢魔だからって気にしない。

お前達ともいつか分かり合えるって信じたい……!

これからは俺も一緒に、それを担っていくから。
夢月くんが手を拡げると、辺りに無数の光の弾が出現。

夢魔を取り囲むようにグルグルと回転を始めました……!

徐々にそれが夢魔の身体に集まっていくと強く発光し、やがて夢魔の全身を……そのまま空間全体を煌めく光で覆い隠します。
私達の目の前は完全な真っ白になり、

最後には……何も見えなくなりました。

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登場人物紹介

天崎 そら(あまさき そら)(20)※一章時

主人公。人々を悪夢から救う"夢うさぎ亭"で働く一般女性。

自分よりも相手のことを優先する心優しい性格で、大抵のことは受け止めてしまう。

一章では夢うさぎでの経験から、自分の意見を言う勇気を持てるようになった。

(※本作では主人公の個人設定はフリーなため、定まった容姿は存在しません)

早乙女 夢月(さおとめ むつき)(19)※一章時

まだ夢の世界で夢魔を祓ったことがない半人前の夢想師。

前向きで明るく裏表がない天真爛漫な性格で、深く強く他人の気持ちに寄り添える豊かな人間性を持つ。

そのおかげで、夢の世界を現出するために必要な「心のパイプ」を繋ぐところまでは誰よりも完璧にこなすことができ、秘めたるポテンシャルは天才的。

しかし、その事実を本人はまだ自覚できないでいる。

宝生 吏星(ほうしょう りせい)(24)※一章時

夢の空間の現出を得意とする夢想師。

他人のことを真剣に考えすぎてしまう性分で根が優しい。

反面、冷静で効率主義かつ真顔で言葉遣いがきつい。そのため人に避けられやすく、本人も少し気にしている。

実直で真面目すぎる苦労人気質。不測の事態に陥ると熱くなりやすい一面も。

夢うさぎの実質的なリーダーとして振る舞っている。後輩である夢月の指導について、自分とあまりにタイプが違うことにかなり悩んでいるらしい。

紫吹 蓮夜(しぶき れんや)(不明)※一章時

夢魔の駆除を得意とする夢想師。

天性のルックスと王子様気質により何もしなくてもモテる美男子。

いつもニヤニヤとしていて、何を考えているのかよく分からない。

自分の身内をからかって遊ぶのが趣味で周りも手を焼いているが、他人が本心から嫌がることは絶対しないバランス感覚を持っているため、何故か憎まれない。

吏星とは付き合いが長く、お互いがお互いの"扱い方"を熟知している節がある。

ヨウタ(5)

一章の核となる少年。来年度から小学生。

ある理由で夢魔に憑かれてしまい、夢うさぎを訪れる。

幼稚園などに通えておらず、家に1人でいる時間が長い。

テレビやおもちゃを心の拠り所にしており、最近は特撮作品ブレイブテイカーがお気に入り。家で何度も繰り返し見ては元気を貰っている。

ヨウタの母(33)

一章に登場。

息子 ヨウタの悪夢を治すため、夢うさぎを訪れる女性。

夢想師の治療には原則本人しか招待されないが、ある理由から付き添いが認められている(ただし、治療の実態を知ることはできない)

佐藤 アキラ(さとう あきら)(30)

一章に登場。

悪夢の治療を受けに夢うさぎ亭を訪れる研究者。

仕事の重圧に負けまいと日々頑張っているが、家族の理解を得られないことに頭を悩ませている。

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