3節「”外”からの来訪者 1」

文字数 1,750文字

うーーん、今日も疲れたな~。
お疲れ様、夢月くん。

コーヒーでも淹れようか?

カフェの営業を終え、

私たちは束の間のひと時を過ごしています。

あ、良いよ良いよ、自分でやるからさ。そらこそ何か飲みたいものない?
僕はお水で良いよ。
自分でやらんかまったく。
……水なら俺も飲むから、

ついでに全員分持ってきてやる。

吏星さんは言うよりも早く、

厨房に向かって歩き出しました。


本来は私がやるべきなのですが……。

気を抜いていると、いつも先を越されてしまいます……。

お、ありがと吏星。
今日は裏には予約があるんだっけ?
いや。

しばらくそれらしい患者も見つかっていないと聞いている。

吏星さんは人数分のグラスに水を注ぎ、

器用にそれら全てを一度で運んでくれます。

そっか。

じゃあ今日も待ちぼうけだ。

最近ずっとこんなだよなぁ。
何もないのが一番とは言え、

正直張り合いがないな~。

実は裏の患者さんはそれほど多くありません。

平均して週に一度来客があるかないかのペースです。

天崎が来た時のことをもう忘れたのか。待つのも俺達の仕事だ。
ですが予約なしで現れる急患が稀にあるため、

準備をせずに休業するわけにも行きません。


夢想師の世界ではそれを"飛び込み"と呼んでいます。

あの時は何とも思ってなかったですけど、飛び込みで来る人ってあまりいないんですね。
私もその飛び込みの1人だったので、

最初はそれが当たり前だと思い込んでいました。

夢入りは事前準備が大事な仕事だからな。よほど経過が悪くない限りは、連絡から数日は空けるのが普通だ。

この辺りは普通に医者に通うのと、そう大差はないと言える。
なるほど……。

あの時の自分が想像以上に酷い状態だった。

その事実には、少し身の毛がよだつ思いです。

そうしないとミスがあったりするからね。
例えばそらちゃんの時の――
私の時の治療上のミス――と言えば、

吏星さんのあの下着騒動で……。

まぁあれはね……
私の治療は、とある理由で

少しだけ難航しました。


最初に治療してくれた吏星さんでは、

治療が上手く行かず……

だからその……

軽率だったと反省している……。


ああいったミスは

あまりないことだったものでつい……

その結果……まぁ色々あって……。
あんなこと言っちゃってぇ……。

よくそらちゃん、この店で働きたいって言ってくれたよねぇ?

ウッ……!!
わ、私はそんなに気にしてないですよ!?  仕事熱心な人だなぁって思っただけですし!
それ以外の感情がゼロって言ったら嘘ですけど、

い、言えません!!

そうか……なら良いが……。
少しは俺の「そういうところ」

直っているだろうか……?

え! た、多分!

(意外とずっと気にしてるんだ……)

そんな日常を私たちが過ごしていると、

突然扉の開く大きな音が鳴り響き、

私たちの注意を引きました。

は、はい!?
現れたのは慌てふためく1人の女性でした。

年齢は30代前半……といったところでしょうか。

あ、あの……!

ここが悪夢を治してくれる病院ですか……!?

い、いらっしゃいませ……!?

そ、そうですけど……

良かった……。

ここに来れば何とかなるかもって言われて……その……

ま、まぁ一旦落ち着いて!

大丈夫ですから!

完全に錯乱し、しどろもどろになる女性を

夢月くんがしっかりとなだめて行きます。


呼吸が整ってきたところで、

吏星さんが彼女に声をかけました。

取り乱しているところ悪いが、ここは通常の医療機関ではない。
急患の場合、招待状が無ければ受け入れることはできないが、準備はあるか?
招待状……これで良いでしょうか……?
飛び込みで治療を受けるには"招待状"が必要……。

自分が治療を受けた時のことを思い出します。


病院で受け取るものですが、医療機関同士で発行し合う紹介状とは別に、夢想師を統括する組織が用意しているものだそうです。

……うむ、確かに受理した。

照会を行うのでしばらくここで

待っていてくれないか。

は、はい……。
吏星さんは招待状に書かれたコードを確認。

お店の裏にある専用のPCまで処理しに向かいます。

でも、今日きっと良くなりますよ。
はい……

もう私もどうしていいか分からなくて……。

そばで見ていてあげることしかできず……
え? そばで?
…………。
ん……これは……?

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登場人物紹介

天崎 そら(あまさき そら)(20)※一章時

主人公。人々を悪夢から救う"夢うさぎ亭"で働く一般女性。

自分よりも相手のことを優先する心優しい性格で、大抵のことは受け止めてしまう。

一章では夢うさぎでの経験から、自分の意見を言う勇気を持てるようになった。

(※本作では主人公の個人設定はフリーなため、定まった容姿は存在しません)

早乙女 夢月(さおとめ むつき)(19)※一章時

まだ夢の世界で夢魔を祓ったことがない半人前の夢想師。

前向きで明るく裏表がない天真爛漫な性格で、深く強く他人の気持ちに寄り添える豊かな人間性を持つ。

そのおかげで、夢の世界を現出するために必要な「心のパイプ」を繋ぐところまでは誰よりも完璧にこなすことができ、秘めたるポテンシャルは天才的。

しかし、その事実を本人はまだ自覚できないでいる。

宝生 吏星(ほうしょう りせい)(24)※一章時

夢の空間の現出を得意とする夢想師。

他人のことを真剣に考えすぎてしまう性分で根が優しい。

反面、冷静で効率主義かつ真顔で言葉遣いがきつい。そのため人に避けられやすく、本人も少し気にしている。

実直で真面目すぎる苦労人気質。不測の事態に陥ると熱くなりやすい一面も。

夢うさぎの実質的なリーダーとして振る舞っている。後輩である夢月の指導について、自分とあまりにタイプが違うことにかなり悩んでいるらしい。

紫吹 蓮夜(しぶき れんや)(不明)※一章時

夢魔の駆除を得意とする夢想師。

天性のルックスと王子様気質により何もしなくてもモテる美男子。

いつもニヤニヤとしていて、何を考えているのかよく分からない。

自分の身内をからかって遊ぶのが趣味で周りも手を焼いているが、他人が本心から嫌がることは絶対しないバランス感覚を持っているため、何故か憎まれない。

吏星とは付き合いが長く、お互いがお互いの"扱い方"を熟知している節がある。

ヨウタ(5)

一章の核となる少年。来年度から小学生。

ある理由で夢魔に憑かれてしまい、夢うさぎを訪れる。

幼稚園などに通えておらず、家に1人でいる時間が長い。

テレビやおもちゃを心の拠り所にしており、最近は特撮作品ブレイブテイカーがお気に入り。家で何度も繰り返し見ては元気を貰っている。

ヨウタの母(33)

一章に登場。

息子 ヨウタの悪夢を治すため、夢うさぎを訪れる女性。

夢想師の治療には原則本人しか招待されないが、ある理由から付き添いが認められている(ただし、治療の実態を知ることはできない)

佐藤 アキラ(さとう あきら)(30)

一章に登場。

悪夢の治療を受けに夢うさぎ亭を訪れる研究者。

仕事の重圧に負けまいと日々頑張っているが、家族の理解を得られないことに頭を悩ませている。

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