15節「明日を照らす光 2」

文字数 1,791文字

気になるの?

そんなことはない、と言えば嘘になる。

まぁそりゃそうだよね。

……良いよ、見ておいでよ。

何を言ってる?

ヨウタくんに夢入りするのは無理だけど……吏星なら、そらちゃんが拡張した範囲から眺めることくらいはできるはず。

見届けてあげたら?

夢月ちゃんの、ここまでの成果をさ。

…………。

うんうん。

終わったら報告だけよろしくね~。

気になってるのは僕も同じだから。

……善処しよう。

(分かりやすくて良いことだ)
(さぁ、僕は僕のやるべきことを始めよう)
しばらく2人きりですね、お母さん。
何もしてないと落ち着かないでしょうし、僕とお茶でもしませんか?
…………。

大丈夫か、そら?

うん、全然平気みたい。
意識を保ったまま夢の世界に降り立つのは、

これが初めてのこと。


今までの「目覚めたらそこにいた」とは

全然違う、不思議な感覚です。


ワープというものが現実になったら、

こういう感じなんでしょうか……。

ここがヨウタ君の夢の世界……。

おもちゃやフィギュアが至る所に

突き刺さっています。


これがヨウタくんの欲望を反映した世界。


でもその多くが壊れたり欠けたりしてしまっていて……どこか痛々しい雰囲気です……。

初めて来た時より、全体的に薄暗い感じがする。夢魔の侵食がそれだけ進んでるってことか……。

急がないと。

うん。

まずはヨウタと合流しなきゃ。

ちょっと待ってて。

……よし、こっちだ。

う、うん……。

夢月くんが指し示した方へ向かって、

私たちは走り出しました。


夢想師は完全な夢の世界が構築できれば、

患者や夢魔の位置をある程度知覚できる。


そう施術の前に吏星さんが教えてくれました。


そして同化した私がいれば、夢月くんでも

間違いなくそれが可能だろうと。

俺1人の時よりずっと空間が安定してるから、色んなことが分かるや。

そらのおかげだな。

彼はどんな時でも、得られた結果を

自分の成果だとは言いません。


いつだって周りを褒めて、他人の

おかげだと言い切ります。


だからこそ……

……ううん。

私がスムーズに同化できたのは、夢月くんがしっかり心のパイプを繋いでくれてたから。

空間が安定したのだって、夢月くん自身が迷いを吹っ切ったからだよ。
私は彼を褒めてあげたい。

他人の私が彼の良いところを見てあげたい。


夢月くんが迷いを振り切った今だからこそ、

余計にそう思えるんです。

じゃあ……

独りじゃできないことも、

たくさんあるって分かったからさ。

……うん、そうだね!

夢月くん独りでは、

気負いすぎてしまったかもしれない。


私独りでは、

夢魔の駆除は行えない。


2人だからこそ、

今こうして自信を持って立ち向かえている。


誰も否定しない夢月くんらしい言葉に、

私はつい笑みを零してしまいます。

――いた、ヨウタだ。

お兄ちゃん……!

来てくれたんだ!

当たり前だろ!

子供のピンチに駆けつけてこそ、ヒーローだからな!

ヘヘッ! うん!

ヨウタくんは、現実でも見せたことがないような

とびっきりの笑顔で夢月くんに飛びつきました。


夢魔に憑かれる苦痛は私にも理解できますが、

彼は子供独りで私以上のものを味わっているんです。


心細くないわけがありません……。

……すぐにまた、悪い奴がお前を襲いに来る。ヨウタはお姉ちゃんと一緒に、物陰に隠れてるんだ。

心配するな、俺があいつをぶっ倒す。

……うん。

ヨウタくん、こっちだよ。

私は隠れられそうな大きさのものを見つけ、

ヨウタくんとそちらに向かって駆け出しました。


よく見るとそれは、大きなお母さんの写真。


これは目立った欠損もなく、綺麗なまま保たれています。

ん?  なんだヨウタ?

…………。

……何でもない。

頑張ってね!

…………?
ヨウタくんは何か言いたそうに見えましたが……。

私の気のせい、でしょうか。


自分の夢の世界では気持ちに正直になれるはず。

隠し事をしているわけはないんですから。

あぁ!

私たちが写真の後ろに隠れたのを確認すると

夢月くんは真剣な面持ちで剣を現出し、構えます。


いよいよ夢魔との戦いの幕開けです……。

(……分かる。

あいつが近付いてきてるのが、

前よりもはっきりと)

(ビビるな……あの時とは違う……

今はもう独りじゃない……)

――俺が、俺達が……

ヨウタを……守る……!

出てこい!

俺が相手になってやる!!

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登場人物紹介

天崎 そら(あまさき そら)(20)※一章時

主人公。人々を悪夢から救う"夢うさぎ亭"で働く一般女性。

自分よりも相手のことを優先する心優しい性格で、大抵のことは受け止めてしまう。

一章では夢うさぎでの経験から、自分の意見を言う勇気を持てるようになった。

(※本作では主人公の個人設定はフリーなため、定まった容姿は存在しません)

早乙女 夢月(さおとめ むつき)(19)※一章時

まだ夢の世界で夢魔を祓ったことがない半人前の夢想師。

前向きで明るく裏表がない天真爛漫な性格で、深く強く他人の気持ちに寄り添える豊かな人間性を持つ。

そのおかげで、夢の世界を現出するために必要な「心のパイプ」を繋ぐところまでは誰よりも完璧にこなすことができ、秘めたるポテンシャルは天才的。

しかし、その事実を本人はまだ自覚できないでいる。

宝生 吏星(ほうしょう りせい)(24)※一章時

夢の空間の現出を得意とする夢想師。

他人のことを真剣に考えすぎてしまう性分で根が優しい。

反面、冷静で効率主義かつ真顔で言葉遣いがきつい。そのため人に避けられやすく、本人も少し気にしている。

実直で真面目すぎる苦労人気質。不測の事態に陥ると熱くなりやすい一面も。

夢うさぎの実質的なリーダーとして振る舞っている。後輩である夢月の指導について、自分とあまりにタイプが違うことにかなり悩んでいるらしい。

紫吹 蓮夜(しぶき れんや)(不明)※一章時

夢魔の駆除を得意とする夢想師。

天性のルックスと王子様気質により何もしなくてもモテる美男子。

いつもニヤニヤとしていて、何を考えているのかよく分からない。

自分の身内をからかって遊ぶのが趣味で周りも手を焼いているが、他人が本心から嫌がることは絶対しないバランス感覚を持っているため、何故か憎まれない。

吏星とは付き合いが長く、お互いがお互いの"扱い方"を熟知している節がある。

ヨウタ(5)

一章の核となる少年。来年度から小学生。

ある理由で夢魔に憑かれてしまい、夢うさぎを訪れる。

幼稚園などに通えておらず、家に1人でいる時間が長い。

テレビやおもちゃを心の拠り所にしており、最近は特撮作品ブレイブテイカーがお気に入り。家で何度も繰り返し見ては元気を貰っている。

ヨウタの母(33)

一章に登場。

息子 ヨウタの悪夢を治すため、夢うさぎを訪れる女性。

夢想師の治療には原則本人しか招待されないが、ある理由から付き添いが認められている(ただし、治療の実態を知ることはできない)

佐藤 アキラ(さとう あきら)(30)

一章に登場。

悪夢の治療を受けに夢うさぎ亭を訪れる研究者。

仕事の重圧に負けまいと日々頑張っているが、家族の理解を得られないことに頭を悩ませている。

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