3節「”外”からの来訪者 3」

文字数 2,356文字

…………。
夢月くんが話しかけても、ヨウタくんは

ぶすっとして俯いたまま……。


話を聞いてすらくれません……。

俺は早乙女 夢月っていうんだ。

よろしくな。

こっちは吏星と蓮夜とそら。
…………。

なるべく微笑みかけたつもりですが、

ヨウタくんは心を開いてくれません。


チラッと私たちの方を見たかと思うと、

またすぐに俯いてしまいました。

……ヨウタ。

ちゃんと挨拶しなさい。

…………。
お母さんに言われてもそっぽを向いて、

一言も口を利いてくれず……。


不安定な情緒には、夢魔に憑かれたことも

影響しているのかもしれません。

相当警戒されているな……。
吏星の顔が恐いからじゃない?
お前の全身が胡散臭すぎるからかもな。
や、やめましょうよ……。

これ以上警戒されたらどうするんですか……。


こんな状況でもふざけっ放しの蓮夜さんに、

吏星さんもつい癖で返してしまったようです。

ヨウタくんは……いくつなのかな?
…………。
ヨウタくんは口こそ開いてくれませんでしたが、手のひらを拡げて、5歳だと教えてくれました。


歳の割には、ちょっと大人びて見える気がします。


夢魔に憑かれてしまった男の子……。

やはり何か特別な理由があるんでしょうか……。

……恐がらなくて良いよ。

俺達は君の味方だから。

君が毎日見る嫌な夢を、

見ないようにしてあげられるんだ。

……そんな夢見たことない。
え?

全く目線を合わせてはくれないままの、

不機嫌そうな返答……難しい……。


ですがここで初めてヨウタくんの

声を聞くことができました。

恐い夢なんて見てないもん。

恐くなんかないもん。

その言葉で静かに話を聞いていたはずの

吏星さんが、一歩前に踏み出しました。

……そういう強がりはやめた方が良い。現実を受け入れて――
うるさい。お前きっと悪い奴だな。ママをいじめるつもりだろ。あっち行け。
あえなく撃沈……

という結果ですが……。

ちょ、ちょっとヨウタ!

す、すみません息子が粗相を……!

……いや良い。

こういうのは慣れている。

(ちょっと蓮夜さん……!)

顔を背けて天を仰ぐ蓮夜さんですが……。

今にも声を出して大笑いしそうなのを

必死に堪えています……。


彼のこんなツボに入ったような顔を

見るのは、初めてかもしれません……。

なぁ、ヨウタ君が最近見る夢ってどんなのなんだ? 俺に教えてくれないか?

夢月くんはしゃがみ込んでヨウタくんに目線を

合わせ、さらなる会話を試みています。


私たちのことは意に介さずという感じ。

優しそうな笑顔からは真剣さが伝わってきます。

……変なのに追いかけられたり、高いところから落ちたり、真っ暗なところに閉じ込められてたり、火に囲まれてたり……。
ヨウタくんも少しずつですが、

言葉数が増えて行っています。


夢月くんに、心を開き始めているのかもしれません。

あと……ママがどっか行っちゃったり。
へぇ、なんか恐そうな夢ばっかなのに、ヨウタ君は平気なんだな。
夢月くんのその肯定の言葉を聞いて、ヨウタくんの顔がパーッと明るくなったのが分かりました。
そうだよ。すごいでしょ。

お兄ちゃんとは違うんだ。

僕は強い男だからね。

ママは僕が守るから。

自分の強さを認めてもらえたのが、

本当に嬉しかったみたい。


その辺りの選択の上手さは、さすが夢月くん……と言ったところです。

そっちのお姉ちゃんも、

僕が守ってあげてもいいよ。

え、私?
生意気とも取れる態度ではありますが……
……フフッ、ありがとうヨウタくん。

逆に歳相応の男の子らしさが見えたと思い、

私はつい笑顔になってしまいました。

それは困るなぁ。
そらを守るのは俺の仕事だからさ!

こういう不意打ちは……ちょっと……。

他意はない……んでしょうけど……。

え~お兄ちゃんにできるの?

恐いんでしょ? 弱虫なんでしょ?

へへ、大丈夫だよ。
……知ってるか?

恐がることが駄目なんじゃない。

逃げることが駄目なんだ!

前を見て進めば、

きっと明るい明日は訪れる!

いつになく勇ましくはっきりと

声高に宣言する夢月くん……。


これは……何かの受け売りでしょうか?

お、なかなか良い台詞だね。
……そうか?
――――――――
しかしヨウタくんはその夢月くんの姿を見て、

口を開けたまま静かに静止してしまいます。


まるでそれは、存在するはずがないものを

見つけてしまったかのような顔でした。

それ……

今週のブレイブテイカーじゃない!?

お兄ちゃん見てるの!?

お、よく分かったな!

なに? ヨウタも見てるの?

もちろん! 毎週絶対見てるよ!
先ほどよりも……いや最早別人のように

目をキラキラ輝かせたヨウタくん。


ブレイブテイカー……と言えば……

本当の勇気ってやつを教えてやる!
 喰らえ必殺!
2人で独特の言い回しの台詞を叫び、

これまた独特の決めポーズで着地。


……間違いありません。

これは日曜朝の――アレです。

うわああああ!!!
ハハハハ!

よく覚えてるな! やるじゃんヨウタ!

お兄ちゃんみたいな人でも見てるんだ! すげー! やっぱブレイブすげー!!
今週のブレイブ、

すげーカッコ良かったよな!

うん!

崖の上から飛び降りた女の子を片手で受け止めて、親指を立てるところとか最高だった!

分かる!

あれができるのはブレイブだけだよなー!

ねぇねぇ、先週のは見た?
もちろん!

先週はさ――

さぁ?

盛り上がってるし良いんじゃない?

何かのアニメとかじゃないの?

多分、日曜の朝とかにやってる

特撮のシリーズじゃないですか?

あれ、そらちゃんそういうの詳しいの?
いえ、まったく。

でもテイカーシリーズはなんか

どこかで聞いたことあるなぁって。

盛り上がっている2人を微笑ましく

眺めながら、何気なく答えると……

…………。
何故だか物凄く強い視線を感じます……。
……本当に見てませんからね?
この人は本当に……本当に……。


本当に……!!

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登場人物紹介

天崎 そら(あまさき そら)(20)※一章時

主人公。人々を悪夢から救う"夢うさぎ亭"で働く一般女性。

自分よりも相手のことを優先する心優しい性格で、大抵のことは受け止めてしまう。

一章では夢うさぎでの経験から、自分の意見を言う勇気を持てるようになった。

(※本作では主人公の個人設定はフリーなため、定まった容姿は存在しません)

早乙女 夢月(さおとめ むつき)(19)※一章時

まだ夢の世界で夢魔を祓ったことがない半人前の夢想師。

前向きで明るく裏表がない天真爛漫な性格で、深く強く他人の気持ちに寄り添える豊かな人間性を持つ。

そのおかげで、夢の世界を現出するために必要な「心のパイプ」を繋ぐところまでは誰よりも完璧にこなすことができ、秘めたるポテンシャルは天才的。

しかし、その事実を本人はまだ自覚できないでいる。

宝生 吏星(ほうしょう りせい)(24)※一章時

夢の空間の現出を得意とする夢想師。

他人のことを真剣に考えすぎてしまう性分で根が優しい。

反面、冷静で効率主義かつ真顔で言葉遣いがきつい。そのため人に避けられやすく、本人も少し気にしている。

実直で真面目すぎる苦労人気質。不測の事態に陥ると熱くなりやすい一面も。

夢うさぎの実質的なリーダーとして振る舞っている。後輩である夢月の指導について、自分とあまりにタイプが違うことにかなり悩んでいるらしい。

紫吹 蓮夜(しぶき れんや)(不明)※一章時

夢魔の駆除を得意とする夢想師。

天性のルックスと王子様気質により何もしなくてもモテる美男子。

いつもニヤニヤとしていて、何を考えているのかよく分からない。

自分の身内をからかって遊ぶのが趣味で周りも手を焼いているが、他人が本心から嫌がることは絶対しないバランス感覚を持っているため、何故か憎まれない。

吏星とは付き合いが長く、お互いがお互いの"扱い方"を熟知している節がある。

ヨウタ(5)

一章の核となる少年。来年度から小学生。

ある理由で夢魔に憑かれてしまい、夢うさぎを訪れる。

幼稚園などに通えておらず、家に1人でいる時間が長い。

テレビやおもちゃを心の拠り所にしており、最近は特撮作品ブレイブテイカーがお気に入り。家で何度も繰り返し見ては元気を貰っている。

ヨウタの母(33)

一章に登場。

息子 ヨウタの悪夢を治すため、夢うさぎを訪れる女性。

夢想師の治療には原則本人しか招待されないが、ある理由から付き添いが認められている(ただし、治療の実態を知ることはできない)

佐藤 アキラ(さとう あきら)(30)

一章に登場。

悪夢の治療を受けに夢うさぎ亭を訪れる研究者。

仕事の重圧に負けまいと日々頑張っているが、家族の理解を得られないことに頭を悩ませている。

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