7節「あの日からの気持ち 2」

文字数 1,290文字

その1つが見たことない建物を、その場に突っ立ったまま眺めている夢。
ただじーっとその建物だけを眺めて、そのまま終わるんだ。
小さい頃から、変な夢だなってずっと思ってた。
…………。
今度は夢月くんがよく見る夢の話。


夢月くんが夢想師になったことと何か関係が

あると感じ、彼の話に聞き入ります。

4年くらい前、その建物と全く同じ形のお店を偶然見つけたんだ。
それがこの……カフェ夢うさぎだった。
え……?
それは……おかしい……。

だってカフェ夢うさぎがこの街にできたのは、まだ4,5年ほど前……。夢月くんがこのお店を見つけた時は、まだオープンして間もない頃のはず……。

最初見た時は本当にびっくりしたよ。

夢に出てくる建物が本当にあるなんて思ってなかったから。

彼が小さい頃から夢に見ているとしたら、

存在しないお店の夢を見ていたことになる……。

それから俺はこの店に通うようになって、吏星や蓮夜とも仲良くなった。
――それでも、その夢を見続ける日は終わらなかったんだ。
だから俺は、意を決してその話を2人にしてみることにした。
繰り返しこの店の前に立つ夢を見る……? それも10年以上前からだと……?
馬鹿な。

至極普通の一般人だぞ。

そんな人生で、

才覚が宿るはずがない。

…………?
話を聞いているに、

夢と心のリンクが極めて強そうだ。

生まれながらの――というのも極わずかだけどいるにはいる。……試してみる価値はありそうだよ。
……むう。

お前がそう言うなら、止めはしないが……。

えっと……?
夢月くんだったよね?
今から君に、大切な話をするよ。

ちゃんと聞いてくれるかな?

見たこともないものを夢に見る少年……。

普通の人であれば、在り得ないこと……。


2人はそこから素質を見出して夢月くんを……。

そこで俺は夢想師としての才能を見出されて、この店で働くようになった。それからは何故か、その夢はパタリと見なくなったんだ。
それが――2年くらい前の話かな。
そうだったんだ……。
夢想師という存在を知らず、宿命も背負わず、

ただ変な夢を見るだけでこの世界に飛び込んだ。


それが夢月くんの心に、歯止めをかけてしまっている……ということですね……。

俺はポッと出の新人で、何の根拠も後ろ盾もない夢想師なんだ。
だから、1人前の夢想師になれる日なんて、このまま一生来ないんじゃないかって思っちゃう時がある。
俺はその穴を埋めるためだけに"誰かのために"って、躍起になってるのかもしれない。
夢月くん……
初めて聴いた夢月くんの過去……。

こんな深いコンプレックスを抱えていたなんて、

全く知りませんでした。

誰かのためじゃなくて、本当は自分のため。もし俺の思ってる通りだったら、俺はずっとこのままでもおかしくない。
けど……そこの違いって、何なんだろうな。
…………。

今の私には、それを消してあげることは

できないかもしれません……。


けれど……



……私の時もそうだった?
私の中には、私だけが知ってる夢月くんがいる。

彼自身が知らない彼の魅力を、私は知っています。


それを彼に伝えることは……できるはずです。

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登場人物紹介

天崎 そら(あまさき そら)(20)※一章時

主人公。人々を悪夢から救う"夢うさぎ亭"で働く一般女性。

自分よりも相手のことを優先する心優しい性格で、大抵のことは受け止めてしまう。

一章では夢うさぎでの経験から、自分の意見を言う勇気を持てるようになった。

(※本作では主人公の個人設定はフリーなため、定まった容姿は存在しません)

早乙女 夢月(さおとめ むつき)(19)※一章時

まだ夢の世界で夢魔を祓ったことがない半人前の夢想師。

前向きで明るく裏表がない天真爛漫な性格で、深く強く他人の気持ちに寄り添える豊かな人間性を持つ。

そのおかげで、夢の世界を現出するために必要な「心のパイプ」を繋ぐところまでは誰よりも完璧にこなすことができ、秘めたるポテンシャルは天才的。

しかし、その事実を本人はまだ自覚できないでいる。

宝生 吏星(ほうしょう りせい)(24)※一章時

夢の空間の現出を得意とする夢想師。

他人のことを真剣に考えすぎてしまう性分で根が優しい。

反面、冷静で効率主義かつ真顔で言葉遣いがきつい。そのため人に避けられやすく、本人も少し気にしている。

実直で真面目すぎる苦労人気質。不測の事態に陥ると熱くなりやすい一面も。

夢うさぎの実質的なリーダーとして振る舞っている。後輩である夢月の指導について、自分とあまりにタイプが違うことにかなり悩んでいるらしい。

紫吹 蓮夜(しぶき れんや)(不明)※一章時

夢魔の駆除を得意とする夢想師。

天性のルックスと王子様気質により何もしなくてもモテる美男子。

いつもニヤニヤとしていて、何を考えているのかよく分からない。

自分の身内をからかって遊ぶのが趣味で周りも手を焼いているが、他人が本心から嫌がることは絶対しないバランス感覚を持っているため、何故か憎まれない。

吏星とは付き合いが長く、お互いがお互いの"扱い方"を熟知している節がある。

ヨウタ(5)

一章の核となる少年。来年度から小学生。

ある理由で夢魔に憑かれてしまい、夢うさぎを訪れる。

幼稚園などに通えておらず、家に1人でいる時間が長い。

テレビやおもちゃを心の拠り所にしており、最近は特撮作品ブレイブテイカーがお気に入り。家で何度も繰り返し見ては元気を貰っている。

ヨウタの母(33)

一章に登場。

息子 ヨウタの悪夢を治すため、夢うさぎを訪れる女性。

夢想師の治療には原則本人しか招待されないが、ある理由から付き添いが認められている(ただし、治療の実態を知ることはできない)

佐藤 アキラ(さとう あきら)(30)

一章に登場。

悪夢の治療を受けに夢うさぎ亭を訪れる研究者。

仕事の重圧に負けまいと日々頑張っているが、家族の理解を得られないことに頭を悩ませている。

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