14節「夢月の世界 2」

文字数 1,976文字

こいつまさか天崎を……!?

当然のことに、私は全くその場から

動くことができませんでした……。


ただあるのは、ここで――

――いえ、その実感を確実なものにするより早く、

夢月くんが間に割って入ってきたのが見えました。

彼が振り下ろした真一文字の斬撃。

それが夢魔をその攻撃ごと両断して行きます。

夢魔は黒い煙となって完全に消滅。


大きな身体はその痕跡すら残さず、

大気に混じって見えなくなりました。

ごめん、そら!  大丈夫!?
う、うん……何ともない、よ。
実際は腰を抜かしてしまい、

身体の震えが止まらなかったのですが……。


それでも夢月くんのおかげで、

何とか無傷には違いありませんでした。

何故止めを躊躇った!?

あれさえなければ天崎は……!

吏星さんは相変わらず、

真っ先に私の心配をしてくれます。

それは、本当にとても嬉しいんです。


でも今は……

り、吏星さん!

今は私のことは良い!  良いですから!

もっと大事なことが、ありますから。

……そう、だったな。

…………。

…………。
……早乙女。
ただいま、吏星。

…………。

…………。

吏星……。
俺さ、聞こえてたよ。

さっきの吏星の言葉。

……そうか。

情けないところを見せてしまったな。

そうじゃないよ。

……嬉しかったんだ。

吏星が俺のこと認めてくれてたんだって……吏星にできないことを、俺もちゃんとやれてたんだって分かって。

ずっと……出来の悪い後輩で……

お荷物だって思われてるんじゃないかって不安だったんだ……。

……そんなわけがあるか。

お前には類い稀な才能がある。

どんなものよりも尊い……他人を思いやる心という才能が。

吏星……。

俺はそれを伝えないでおくことが、お前の為になると思っていた。

だが……その判断のせいでこんな……
それは言いっこなしだよ、吏星。

早乙女……?

どっちにしたって俺は……

痛い目に遭わなきゃ分からなかったと思うよ。

誰のせいでもないし、

誰かが気に病むことでもない。

全て必要なことだったんだって思うんだ。

…………。

それに今はそれを乗り越えられたことが、何より嬉しいんだ!!

あ、いやみんなに迷惑かけちゃったのは悪いと思ってるけどね……。

フフッ、気にしないで、そんなこと。

私も新しいことたくさん教えてもらったから。

吏星さんだって、きっと。
…………。
……そう、だな。

ありがとう、そら。

うん!
ヨウタを救い出してみせる、絶対に。
だから……2人とも、

最後まで俺に力を貸してくれ!

もちろんだよ!

……良い顔になったな、早乙女。

吏星のおかげでね。

……さぁ、戻りましょう、夢うさぎに!

蓮夜さんも待ってますよ!

うむ!

あぁ!
これが……私たちの初めての治療です。

最高の結果を得ることができたと思います。


晴れやかな気持ちを持って、ヨウタくんを

診てくれている蓮夜さんに報告します!

……っと、

まだすることがあるみたいでした……。

なんだよ?

剣のような得物を用いる場合、

今使ったような装飾や形状が複雑なものは避けた方が良い。

吏星さん?

今回は自分の夢の世界だったから良いが、他人の夢の中では正確に精製できない可能性もあるしリスクが高い。それにこだわりが必要な割にコストパフォーマンスが微妙だし――

吏星さん…………

あーもー……

アハハハハ…………

――人間、変わるところもあれば、

変わらないところもある。


なんて……言ってみたりして……。

上手く行っていると良いけどなぁ。
…………。
……次は君の番か。

大丈夫、夢月ちゃんがきっと何とかしてくれる。

…………。

…………。

楽しみだ。

憑き物が落ちたみたい!

すっかり元通りだ!

実際落ちてるんだがな。

ハハハ……

……でも、その気持ち分かるなぁ。

まぁ経験者は一様に似たようなことを言う。
無理もない。

夢魔に憑かれるというのは、得体の知れない苦痛との戦いだからな。

はい……。

おつかれ~。

その調子だと大丈夫そうだね。

蓮夜……
ただいま!
フフッ……おかえり、夢月ちゃん。

信じてたよ、僕は。

いや……この場合は……

僕も、かな?

……ヘヘッ!  ありがとう!

……早速で悪いけどヨウタくんの容体……想像より侵食が早そうだ。もう数日と持ちそうにないって感じ。

今晩にでも行ける?

お母さんも来られると思うし、早いに越したことはないから。

もちろん。

そのために戻ってきたんだから。

ありがとう。
よし、準備に取り掛かろう。
この一件……今日で片を付けるぞ。

あぁ!

もちろんハッピーエンドでね。

はい!

夢想師として覚醒した夢月くんと

共心者になった私……。


これで夢うさぎ亭は4人全員が

夢魔の治療に当たれるようになりました。


残るはヨウタくんの治療だけ……

絶対に、みんなで成功させてみせます!

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登場人物紹介

天崎 そら(あまさき そら)(20)※一章時

主人公。人々を悪夢から救う"夢うさぎ亭"で働く一般女性。

自分よりも相手のことを優先する心優しい性格で、大抵のことは受け止めてしまう。

一章では夢うさぎでの経験から、自分の意見を言う勇気を持てるようになった。

(※本作では主人公の個人設定はフリーなため、定まった容姿は存在しません)

早乙女 夢月(さおとめ むつき)(19)※一章時

まだ夢の世界で夢魔を祓ったことがない半人前の夢想師。

前向きで明るく裏表がない天真爛漫な性格で、深く強く他人の気持ちに寄り添える豊かな人間性を持つ。

そのおかげで、夢の世界を現出するために必要な「心のパイプ」を繋ぐところまでは誰よりも完璧にこなすことができ、秘めたるポテンシャルは天才的。

しかし、その事実を本人はまだ自覚できないでいる。

宝生 吏星(ほうしょう りせい)(24)※一章時

夢の空間の現出を得意とする夢想師。

他人のことを真剣に考えすぎてしまう性分で根が優しい。

反面、冷静で効率主義かつ真顔で言葉遣いがきつい。そのため人に避けられやすく、本人も少し気にしている。

実直で真面目すぎる苦労人気質。不測の事態に陥ると熱くなりやすい一面も。

夢うさぎの実質的なリーダーとして振る舞っている。後輩である夢月の指導について、自分とあまりにタイプが違うことにかなり悩んでいるらしい。

紫吹 蓮夜(しぶき れんや)(不明)※一章時

夢魔の駆除を得意とする夢想師。

天性のルックスと王子様気質により何もしなくてもモテる美男子。

いつもニヤニヤとしていて、何を考えているのかよく分からない。

自分の身内をからかって遊ぶのが趣味で周りも手を焼いているが、他人が本心から嫌がることは絶対しないバランス感覚を持っているため、何故か憎まれない。

吏星とは付き合いが長く、お互いがお互いの"扱い方"を熟知している節がある。

ヨウタ(5)

一章の核となる少年。来年度から小学生。

ある理由で夢魔に憑かれてしまい、夢うさぎを訪れる。

幼稚園などに通えておらず、家に1人でいる時間が長い。

テレビやおもちゃを心の拠り所にしており、最近は特撮作品ブレイブテイカーがお気に入り。家で何度も繰り返し見ては元気を貰っている。

ヨウタの母(33)

一章に登場。

息子 ヨウタの悪夢を治すため、夢うさぎを訪れる女性。

夢想師の治療には原則本人しか招待されないが、ある理由から付き添いが認められている(ただし、治療の実態を知ることはできない)

佐藤 アキラ(さとう あきら)(30)

一章に登場。

悪夢の治療を受けに夢うさぎ亭を訪れる研究者。

仕事の重圧に負けまいと日々頑張っているが、家族の理解を得られないことに頭を悩ませている。

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