14節「夢月の世界 1」

文字数 1,628文字

大丈夫ですか、吏星さん!
……あぁ。

同化が完全化したことで、不自由はなくなった。

だが……ッ!

膝を折った吏星さんは、立ち上がろうとして

バランスを崩してしまいました。


目立った怪我はないようですが、何か

大きなダメージを受けているようです。

無理しないでください!

……面目ない。
ここは……大人しく早乙女のお手並み拝見と行こう。
あいつの、真の初陣だからな。
……はい。
……夢月くんが迷いを振り切ったことで、

私の同化も成功したようです。


私も鮮明な感覚で夢の世界に立てています。

心の外側から飛来した夢月くんが持っていたのは、

まるでヒーローが持つような煌びやかな剣……。


遂に彼が自分を侵していた夢魔と戦います。

一人前の……"夢想師"として……!

――――!!
新たな脅威を察知した夢魔の強烈な咆哮。


それと同時に夢月くんは勢いよく跳躍。


その高さは巨大な夢魔を遥かに上回り、

上空から叩きつけるように剣を振り下ろします!

すかさず二撃目……三撃目……

目にも止まらぬ速さで斬撃を繰り出し、

夢魔に反撃の隙を与えません……!

どうした?  大したことないな!

夢魔は動きを鈍らせたまま、

夢月くんの攻撃を受け続けました。


心の外側を突き破った最初の一撃が、

響いていたのかもしれません……!

ここんところお前に、散々苦しめられてきたおかげかもな。お前の動きが手に取るように分かるぜ!
しかし、夢魔も夢月くんの攻撃の隙間を見逃さず、

反撃の構えを取り始めます。


吏星さんに行った攻撃と同じなら、

見た目より素早い攻撃が飛んでくるはず……!  

夢月くん……!

…………!!
そんな私の心配もどこ吹く風と、

夢月くんは余裕の動きでそれを回避します……!

よっと!
遅いな!

そんなのバレバレだよ!

――ハアアアアアァァァッ!!

夢月くんはすかさず天を駆け、

怒涛の攻撃を繰り出し続けます。


……思えばさっきも夢月くんは、

狙って攻撃を出させたのかもしれません……。

間合いと敵の攻撃スピードを測るために……。

す、すごい……

とにかくこの時の夢月くんは圧倒的で……


自信に満ち溢れた彼の勇ましさは、

状況を忘れて見惚れてしまうほどでした。

正に水を得た魚、だな。

しかしよりによって選んだ得物が剣とは……あいつらしいと言う他ないな。

フフッ、良いじゃないですか……。

――夢想師は好きに攻撃の種類を選べる。


だから吏星さんや蓮夜さんのように、

飛び道具を利用した攻撃を扱えば

より確実で安全なはずです。


でも夢月くんは"自分に合った手段"として、

あえて剣を持つことを選んだ。

……まぁな。

私も吏星さんも、ここまでの流れを思うと、

その事実につい笑みが零れてしまいました。

――――――――!!
夢魔が衰弱し、攻撃の素振りを全く見せなくなったのを確認した夢月くんは、重めの跳躍と振り被りを伴った渾身の一撃を放ちました!


斬撃の軌跡からその威力が伺えます……!

大きく身体を抉られた夢魔は、

その場に崩れ落ちて小刻みに痙攣し始めました。


もう、まともに動くことはできなさそうです。

ヘヘッ、どんなもんだい!

全てを乗り越えた先のこの戦いで、

得体の知れない強力な夢魔をこんな一方的に……。


すごい……本当にすごいよ、夢月くん……!!

…………?

…………。

どうしたのでしょう……。


夢月くんはビクビクと震える夢魔を、

ジッと見据えて動かなくなりました。

……?
??
……何か……考え事をしているようですが……。

何をしている早乙女!

早く止めを刺せ!

…………もし

その空気を破ったのは、突然の夢魔の咆哮。


耳を劈くような勢いのそれは、

悲鳴とも取れる痛々しい響きでした。

身体をビクつかせながらエネルギーを溜め、

油断していた夢月くんと正面から相対します……!


しかし……

夢魔が突如として身体をぐるりと回し、

夢月くんから狙いを大きく逸らしました。


そして、新たに向き直ったその先は――

!?

――私……?

こいつまさか天崎を……!?

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登場人物紹介

天崎 そら(あまさき そら)(20)※一章時

主人公。人々を悪夢から救う"夢うさぎ亭"で働く一般女性。

自分よりも相手のことを優先する心優しい性格で、大抵のことは受け止めてしまう。

一章では夢うさぎでの経験から、自分の意見を言う勇気を持てるようになった。

(※本作では主人公の個人設定はフリーなため、定まった容姿は存在しません)

早乙女 夢月(さおとめ むつき)(19)※一章時

まだ夢の世界で夢魔を祓ったことがない半人前の夢想師。

前向きで明るく裏表がない天真爛漫な性格で、深く強く他人の気持ちに寄り添える豊かな人間性を持つ。

そのおかげで、夢の世界を現出するために必要な「心のパイプ」を繋ぐところまでは誰よりも完璧にこなすことができ、秘めたるポテンシャルは天才的。

しかし、その事実を本人はまだ自覚できないでいる。

宝生 吏星(ほうしょう りせい)(24)※一章時

夢の空間の現出を得意とする夢想師。

他人のことを真剣に考えすぎてしまう性分で根が優しい。

反面、冷静で効率主義かつ真顔で言葉遣いがきつい。そのため人に避けられやすく、本人も少し気にしている。

実直で真面目すぎる苦労人気質。不測の事態に陥ると熱くなりやすい一面も。

夢うさぎの実質的なリーダーとして振る舞っている。後輩である夢月の指導について、自分とあまりにタイプが違うことにかなり悩んでいるらしい。

紫吹 蓮夜(しぶき れんや)(不明)※一章時

夢魔の駆除を得意とする夢想師。

天性のルックスと王子様気質により何もしなくてもモテる美男子。

いつもニヤニヤとしていて、何を考えているのかよく分からない。

自分の身内をからかって遊ぶのが趣味で周りも手を焼いているが、他人が本心から嫌がることは絶対しないバランス感覚を持っているため、何故か憎まれない。

吏星とは付き合いが長く、お互いがお互いの"扱い方"を熟知している節がある。

ヨウタ(5)

一章の核となる少年。来年度から小学生。

ある理由で夢魔に憑かれてしまい、夢うさぎを訪れる。

幼稚園などに通えておらず、家に1人でいる時間が長い。

テレビやおもちゃを心の拠り所にしており、最近は特撮作品ブレイブテイカーがお気に入り。家で何度も繰り返し見ては元気を貰っている。

ヨウタの母(33)

一章に登場。

息子 ヨウタの悪夢を治すため、夢うさぎを訪れる女性。

夢想師の治療には原則本人しか招待されないが、ある理由から付き添いが認められている(ただし、治療の実態を知ることはできない)

佐藤 アキラ(さとう あきら)(30)

一章に登場。

悪夢の治療を受けに夢うさぎ亭を訪れる研究者。

仕事の重圧に負けまいと日々頑張っているが、家族の理解を得られないことに頭を悩ませている。

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