第198話 俺たちは悪霊に嗤われる
文字数 3,702文字
「きゃああああああああああああああああっ!」
宿屋の主人がドアを開け、俺たちが中に入ると若い女性の悲鳴が響いた。
パリンッ!
ドガッ!
バキッ!
花瓶が割れたような音や壁が凹んだような音さらには柱が折れたような音が続け様に聞こえる。
ただ、室内にこれといった異常はなかった。
続き部屋が寝室になっているようでこの部屋には寝具の類はない。あるのは三人がけのソファーが二つとローテーブル、それに飾り棚と本棚だ。いずれも暗いため細部は見えないが凝った装飾や高価そうなデザインの物ばかりで成金趣味が大爆発していた。俺ならこんな部屋には泊まらない。無料(タダ)でもお断りだ。
この部屋に窓はあるにはあるが鎧戸で閉められていた。そのためかまだ日中だというのに部屋の中は暗かった。
なお、壁と天井に明かりの魔道具が設置してある。それなのに位?
「また悪霊の仕業ですかな?」
宿屋の主人が微笑みを絶やさずに部屋の人物に尋ねる。しかしその声には疲れの色があった。
「お客様を驚かせて楽しんでいるのよ」
壁側のソファーに座った少女がため息混じりに応える。
クスクスと別の声が笑った。それを合図にしたかのように室内の全ての明かりが点る。
ソファーに座っていたのは色白で華奢な少女だった。
ハニーブロンドの長い髪を縦巻きロールにして顔の左右に垂らしている。
「指名依頼を受けた冒険者の人たちね。私はアリス・カセイダー。カセイダー伯爵家の一人娘よ」
「きゃははははははははっ、ワタシはカーリー。アリスの唯一のお友だちで親友で恋人で妹よ♪」
ポンッとアリスの頭上に彼女そっくりの少女が現れた。
いや、そっくりはそっくりなんだが少し違うか。
まず髪の色が異なっていた。アリスはハニーブロンドなのにカーリーはプラチナブロンドだ。おまけにちょい淡く光っている(まあ全身が発光しているのだが)。
そして、カーリーは幽霊のように半透明だった。
ま、それはさておき。
ソファーに座っているアリスとその頭上に浮かぶカーリーを俺はしばし見つめた。
そして、クエストの大体の内容を察した。つーかこれ冒険者ではなくて教会に頼むべき案件じゃね?
俺たちが何一つ声を発しなかったからかカーリーと名乗った半透明の少女が中空で笑い転げた。
「きゃはははは、ワタシに吃驚してみーんな言葉を失ってやがんの。ほらほらアリス、ワタシのことちゃんと説明してあげて♪」
「えっと、まあご覧の通りよ」
「……」
いや、それじゃ説明になってないだろ。
とは言えず。
「どうやらアリスお嬢様は悪霊に取り憑かれてしまったようでして……それでその、退治をお願いしたいのです」
宿屋の主人が補足する。
あ、やっぱりそうなんだ。
俺が納得しているとイアナ嬢が口を挟んだ。
「悪霊退治? そういうのは冒険者より教会に任せた方がいいわよ。安心と長い経験に基づく実績があるし何より安いから」
「……」
イアナ嬢。
俺も同じこと思っていたんだよ。
でも、このクエストきっとそんなに単純なものじゃないぞ。
とか俺が思っていたら。
「ドラちゃんゴーッ!」
ニジュウがカーリーを指差して叫んだ。
ニジュウの魔力操作により部屋の外にあったドラゴンランスのドラちゃんが勢い良く飛んでくる。
そしてそのままカーリーへと直進し半透明の身体を貫……かなかった。
ドラちゃんはカーリーを擦り抜け背後の壁に命中。当たり前のように壁へのダメージはなかった。
「え」
ニジュウが目を丸くする。
「ドラちゃん普通の槍じゃないのに。幽霊(ゴースト)程度なら余裕で退治できるのに。何で?」
ジュークが万能銃のバンちゃんを握り締めながら疑問を口にする。
「ききききっと超高速か何かのトリックを使って躱したのよ。それがあまりにも速過ぎて身体を通り抜けたように見えただけ。うん、きっとそう」
イアナ嬢の口調が速い。
「この幽霊……いや悪霊、何かおかしいよ。何だ?」
シュナの頭の上に疑問符が並んでいる。
「あの悪霊は攻撃を受けても効きません。もう既に何人もの僧侶様や魔導師様が退治に失敗なされました。
宿屋の主人の眉がハの字になった。
俺たちが次の攻撃に移らなかったからかカーリーは嗤った。
「きゃはははははははははっ。あっれれー? どうしちゃったのかなぁ? もっとワタシと遊ぼうよぉ」
「……」
俺はカーリーからアリスへと視線を向けた。
とても深いため息をついている。
余程あの悪霊に手を焼いているのだろう。
宿屋の主人がイアナ嬢に訊いた。
「悪霊と言ってもアンデッドの一種。ならば浄化の魔法でどうにかなりませんか」
「えっと」
イアナ嬢がカーリーを見つめた。
カーリーが挑発するように中空で手を振っている。こいつ完全に俺たちを嘗めているな。
「い、いいわ。やってみましょ」
イアナ嬢が承諾するとニジュウが「おおっ」と喜んだ。
「おっかない聖女やったれ!」
ジュークも応援する。
「ぶった斬ったれ!」
「……」
いや、ぶった斬るのは浄化と違うぞ。
それに円盤ではカーリーをぶった斬れないだろう。そんな気がする。
イアナ嬢が一歩前に出るとカーリーはにいっと笑みを広げた。それはもう普通の人間ならあり得ないくらい……てかあれ口が裂けてないか?
「あれあれあれあれあれ? やるのやるのやるのやるの? ワタシとやりあうのぉ? ふふーん、ワタシに勝つなんて無理無理無理無理無理無理無理無理! それでもやるってんなら遊んであげるよぉ」
中空で宙返りしたり左右に身を揺すったりしながらカーリーが嘲笑する。イアナ嬢、めっさ侮られているな。
イアナ嬢が深呼吸し、カーリーに向けて右手人差し指を突きつけた。
ん、こんな動作の浄化ってあるのか?
俺がそう内心疑っていると。
「悪・霊・退・散ッ!」
その叫びとともにイアナ嬢の僧服の右袖口から一筋の光線が発射された。
光線は一直線に伸びてカーリーに命中する。
眩い光を発してカーリーが消滅した。
「おおっ」とギロックたちと宿屋の主人が盛り上がる。
「必殺の一撃、さすがおっかない聖女」
「『一生ついていきます』とかワンワンに言われそう」
「ほっほっほ、これはまた大したものですな」
まわりから褒められてイアナ嬢が調子こいたのか両手を腰に当ててふんぞり返っている。こっちに背を向けているので見えないがきっと鼻が高くなってるぞあいつ。
「ま、まあね。あたしがちょっと本気になればこれくらい楽勝?」
「……」
イアナ嬢。
お前、そんなにチョロいとそのうち痛い目を見るぞ。
とか思ってたら急にこっちに振り向いて睨んで来やがった。何故だ。
「皆、気を抜くのはまだ早いよ」
シュナの硬い声が場に緊張を戻す。
悪霊の被害者のアリスも苦い顔をしていた。なかなかに可愛い顔なのにこれでは勿体ない。
可愛さ半減である。
「しぶといわね。さっさと成仏しなさいよ」
ぼそりと漏らした言葉には忌々しさが溢れていた。それだけ悪霊に迷惑をかけられていたということなのだろう。
ま、それはともかく。
俺はイアナ嬢に声をかけた。
「おい、さっきのあれドモンドが撃ってた光線だろ。あんなもん隠し持ってたのか」
イアナ嬢が肩をビクッとさせる。
彼女はギギギと擬音がしそうな動きでこちらに振り向いた。
「ななな、何をいってるのかなぁ? あたし全然わかんないんだけどぉ?」
「……」
俺はイアナ嬢を睨んだ。
イアナ嬢がだらだらと汗をかき始める。
うん。
あれやっぱりドモンドの撃ってた光線だ。
別に収納で亜空間に納めていた物をどうしようとイアナ嬢の勝手だ。
だが、ランドの森で強欲のラ・プンツェルと一緒に俺たちを襲撃したドモンドの放った光線は滅茶苦茶危険だった。何せあれの一撃を浴びたウサミンは一瞬で消滅してしまったんだからな。
そんなもん悪霊退治とは言え軽々しく使うもんじゃない。まして室内。下手すれば俺たちの誰かが巻き添えになる危険性もあった。
アリスに当たる可能性だってあっただろう。
少しは考えて攻撃して欲しい。
「ねぇ」
俺がイアナ嬢を睨んでいるとカーリーが腕組みして口を尖らせた。
「ワタシを無視しないでよ。遊んでくれないんなら帰ってもらうよ」
「あ、いや別に無視した訳じゃないぞ」
俺が否定してもカーリーはむっとしたままだ。
「……」
「……」
数秒無言で俺たちを睨むとカーリーは廊下側のドアを指差した。
「もういいや。バイバイ」
「いやちょっと待……」
俺の視界からカーリーが消えた。
*
消えたのはカーリーではなく俺たちの方だった。
気づくとアリス以外の全員が宿屋の外に出ていた。
何が起きたのかとイアナ嬢とニジュウがあたりをキョロキョロしている。二人とも顔が間抜けだ。
ジュークと宿屋の主人はやれやれと肩をすくめていた。どうやらこの二人は自分たちの身に受けたことを理解したようだ。
そして、シュナは。
「ジェイ、ここは一旦出直そうよ」
「……そうだな。とりあえずこのクエストの用件はわかった。ただその前に……」
俺は宿屋の主人に歩み寄り乱暴に胸ぐらを掴んだ。
「あんた事情を知ってるよな? 詳細を聞かせてもらうぞ」
宿屋の主人がドアを開け、俺たちが中に入ると若い女性の悲鳴が響いた。
パリンッ!
ドガッ!
バキッ!
花瓶が割れたような音や壁が凹んだような音さらには柱が折れたような音が続け様に聞こえる。
ただ、室内にこれといった異常はなかった。
続き部屋が寝室になっているようでこの部屋には寝具の類はない。あるのは三人がけのソファーが二つとローテーブル、それに飾り棚と本棚だ。いずれも暗いため細部は見えないが凝った装飾や高価そうなデザインの物ばかりで成金趣味が大爆発していた。俺ならこんな部屋には泊まらない。無料(タダ)でもお断りだ。
この部屋に窓はあるにはあるが鎧戸で閉められていた。そのためかまだ日中だというのに部屋の中は暗かった。
なお、壁と天井に明かりの魔道具が設置してある。それなのに位?
「また悪霊の仕業ですかな?」
宿屋の主人が微笑みを絶やさずに部屋の人物に尋ねる。しかしその声には疲れの色があった。
「お客様を驚かせて楽しんでいるのよ」
壁側のソファーに座った少女がため息混じりに応える。
クスクスと別の声が笑った。それを合図にしたかのように室内の全ての明かりが点る。
ソファーに座っていたのは色白で華奢な少女だった。
ハニーブロンドの長い髪を縦巻きロールにして顔の左右に垂らしている。
「指名依頼を受けた冒険者の人たちね。私はアリス・カセイダー。カセイダー伯爵家の一人娘よ」
「きゃははははははははっ、ワタシはカーリー。アリスの唯一のお友だちで親友で恋人で妹よ♪」
ポンッとアリスの頭上に彼女そっくりの少女が現れた。
いや、そっくりはそっくりなんだが少し違うか。
まず髪の色が異なっていた。アリスはハニーブロンドなのにカーリーはプラチナブロンドだ。おまけにちょい淡く光っている(まあ全身が発光しているのだが)。
そして、カーリーは幽霊のように半透明だった。
ま、それはさておき。
ソファーに座っているアリスとその頭上に浮かぶカーリーを俺はしばし見つめた。
そして、クエストの大体の内容を察した。つーかこれ冒険者ではなくて教会に頼むべき案件じゃね?
俺たちが何一つ声を発しなかったからかカーリーと名乗った半透明の少女が中空で笑い転げた。
「きゃはははは、ワタシに吃驚してみーんな言葉を失ってやがんの。ほらほらアリス、ワタシのことちゃんと説明してあげて♪」
「えっと、まあご覧の通りよ」
「……」
いや、それじゃ説明になってないだろ。
とは言えず。
「どうやらアリスお嬢様は悪霊に取り憑かれてしまったようでして……それでその、退治をお願いしたいのです」
宿屋の主人が補足する。
あ、やっぱりそうなんだ。
俺が納得しているとイアナ嬢が口を挟んだ。
「悪霊退治? そういうのは冒険者より教会に任せた方がいいわよ。安心と長い経験に基づく実績があるし何より安いから」
「……」
イアナ嬢。
俺も同じこと思っていたんだよ。
でも、このクエストきっとそんなに単純なものじゃないぞ。
とか俺が思っていたら。
「ドラちゃんゴーッ!」
ニジュウがカーリーを指差して叫んだ。
ニジュウの魔力操作により部屋の外にあったドラゴンランスのドラちゃんが勢い良く飛んでくる。
そしてそのままカーリーへと直進し半透明の身体を貫……かなかった。
ドラちゃんはカーリーを擦り抜け背後の壁に命中。当たり前のように壁へのダメージはなかった。
「え」
ニジュウが目を丸くする。
「ドラちゃん普通の槍じゃないのに。幽霊(ゴースト)程度なら余裕で退治できるのに。何で?」
ジュークが万能銃のバンちゃんを握り締めながら疑問を口にする。
「ききききっと超高速か何かのトリックを使って躱したのよ。それがあまりにも速過ぎて身体を通り抜けたように見えただけ。うん、きっとそう」
イアナ嬢の口調が速い。
「この幽霊……いや悪霊、何かおかしいよ。何だ?」
シュナの頭の上に疑問符が並んでいる。
「あの悪霊は攻撃を受けても効きません。もう既に何人もの僧侶様や魔導師様が退治に失敗なされました。
宿屋の主人の眉がハの字になった。
俺たちが次の攻撃に移らなかったからかカーリーは嗤った。
「きゃはははははははははっ。あっれれー? どうしちゃったのかなぁ? もっとワタシと遊ぼうよぉ」
「……」
俺はカーリーからアリスへと視線を向けた。
とても深いため息をついている。
余程あの悪霊に手を焼いているのだろう。
宿屋の主人がイアナ嬢に訊いた。
「悪霊と言ってもアンデッドの一種。ならば浄化の魔法でどうにかなりませんか」
「えっと」
イアナ嬢がカーリーを見つめた。
カーリーが挑発するように中空で手を振っている。こいつ完全に俺たちを嘗めているな。
「い、いいわ。やってみましょ」
イアナ嬢が承諾するとニジュウが「おおっ」と喜んだ。
「おっかない聖女やったれ!」
ジュークも応援する。
「ぶった斬ったれ!」
「……」
いや、ぶった斬るのは浄化と違うぞ。
それに円盤ではカーリーをぶった斬れないだろう。そんな気がする。
イアナ嬢が一歩前に出るとカーリーはにいっと笑みを広げた。それはもう普通の人間ならあり得ないくらい……てかあれ口が裂けてないか?
「あれあれあれあれあれ? やるのやるのやるのやるの? ワタシとやりあうのぉ? ふふーん、ワタシに勝つなんて無理無理無理無理無理無理無理無理! それでもやるってんなら遊んであげるよぉ」
中空で宙返りしたり左右に身を揺すったりしながらカーリーが嘲笑する。イアナ嬢、めっさ侮られているな。
イアナ嬢が深呼吸し、カーリーに向けて右手人差し指を突きつけた。
ん、こんな動作の浄化ってあるのか?
俺がそう内心疑っていると。
「悪・霊・退・散ッ!」
その叫びとともにイアナ嬢の僧服の右袖口から一筋の光線が発射された。
光線は一直線に伸びてカーリーに命中する。
眩い光を発してカーリーが消滅した。
「おおっ」とギロックたちと宿屋の主人が盛り上がる。
「必殺の一撃、さすがおっかない聖女」
「『一生ついていきます』とかワンワンに言われそう」
「ほっほっほ、これはまた大したものですな」
まわりから褒められてイアナ嬢が調子こいたのか両手を腰に当ててふんぞり返っている。こっちに背を向けているので見えないがきっと鼻が高くなってるぞあいつ。
「ま、まあね。あたしがちょっと本気になればこれくらい楽勝?」
「……」
イアナ嬢。
お前、そんなにチョロいとそのうち痛い目を見るぞ。
とか思ってたら急にこっちに振り向いて睨んで来やがった。何故だ。
「皆、気を抜くのはまだ早いよ」
シュナの硬い声が場に緊張を戻す。
悪霊の被害者のアリスも苦い顔をしていた。なかなかに可愛い顔なのにこれでは勿体ない。
可愛さ半減である。
「しぶといわね。さっさと成仏しなさいよ」
ぼそりと漏らした言葉には忌々しさが溢れていた。それだけ悪霊に迷惑をかけられていたということなのだろう。
ま、それはともかく。
俺はイアナ嬢に声をかけた。
「おい、さっきのあれドモンドが撃ってた光線だろ。あんなもん隠し持ってたのか」
イアナ嬢が肩をビクッとさせる。
彼女はギギギと擬音がしそうな動きでこちらに振り向いた。
「ななな、何をいってるのかなぁ? あたし全然わかんないんだけどぉ?」
「……」
俺はイアナ嬢を睨んだ。
イアナ嬢がだらだらと汗をかき始める。
うん。
あれやっぱりドモンドの撃ってた光線だ。
別に収納で亜空間に納めていた物をどうしようとイアナ嬢の勝手だ。
だが、ランドの森で強欲のラ・プンツェルと一緒に俺たちを襲撃したドモンドの放った光線は滅茶苦茶危険だった。何せあれの一撃を浴びたウサミンは一瞬で消滅してしまったんだからな。
そんなもん悪霊退治とは言え軽々しく使うもんじゃない。まして室内。下手すれば俺たちの誰かが巻き添えになる危険性もあった。
アリスに当たる可能性だってあっただろう。
少しは考えて攻撃して欲しい。
「ねぇ」
俺がイアナ嬢を睨んでいるとカーリーが腕組みして口を尖らせた。
「ワタシを無視しないでよ。遊んでくれないんなら帰ってもらうよ」
「あ、いや別に無視した訳じゃないぞ」
俺が否定してもカーリーはむっとしたままだ。
「……」
「……」
数秒無言で俺たちを睨むとカーリーは廊下側のドアを指差した。
「もういいや。バイバイ」
「いやちょっと待……」
俺の視界からカーリーが消えた。
*
消えたのはカーリーではなく俺たちの方だった。
気づくとアリス以外の全員が宿屋の外に出ていた。
何が起きたのかとイアナ嬢とニジュウがあたりをキョロキョロしている。二人とも顔が間抜けだ。
ジュークと宿屋の主人はやれやれと肩をすくめていた。どうやらこの二人は自分たちの身に受けたことを理解したようだ。
そして、シュナは。
「ジェイ、ここは一旦出直そうよ」
「……そうだな。とりあえずこのクエストの用件はわかった。ただその前に……」
俺は宿屋の主人に歩み寄り乱暴に胸ぐらを掴んだ。
「あんた事情を知ってるよな? 詳細を聞かせてもらうぞ」