第191話 俺にお人形遊びの趣味なんてないぞ
文字数 3,944文字
立体に見える映像で中空に映し出した物は妖精のような姿をした何かだった。
腹部を割かれており歯車とか金属の部品みたいな物が覗けている。この妖精のような物は既に死んでおり、あるいは壊れて動かなくなっておりこれ自体に脅威を感じるものではないがいろいろと疑問を抱かせる代物ではあった。
俺と同じ長椅子に座るお嬢様が中空に指を走らせ立体映像を消す。
彼女は俺に告げた。
「私見ですが、まだこの国の技術力ではさっきの妖精のような物は作れないと思います」
「え」
俺は目を瞬いた。
それはつまり……どういうことだ?
「あれは恐らくマジンシアの遺失技術(ロストテクノロジー)で作られた魔道機械人形です。ジェイ、マリコーのラボで見たサンジュウのことは憶えて……いえ、現物を出した方が早いですね」
言うが早いか、お嬢様は修道服の袖口から首に紫のチョーカーをつけた若い女性の姿のギロックを取り出した。チョーカーには30の数字が記されている。
ジュークやニジュウと同じ銀髪を腰のあたりまで伸ばした十七もしくは十八歳くらいの年齢に見える綺麗な外見の最新型ギロックだ。
胸元にある窪みと身体のラインがはっきりとわかる銀色のスーツがとても印象的である。
てか、この胸はマリコーの胸よりおっきいよな?
おや?
確かマリコーはこのサンジュウを自分の新しい身体にするつもりだったんだよな?
このお胸のサイズは図々しくないか?
「このサンジュウは魔道機械人形ではなく精霊とホムンクルスを合成したキメラですがマジンシアの遺失技術(ロストテクノロジー)を使っています。アルガーダ王国にもキメラを作る技術はありますがマリコーのはより高性能なキメラとするための技術が活かされているんです」
と、そこでお嬢様は言葉を切り俺を見遣った。
「ジェイ、これはあなたが持っていてください」
「え」
俺が頓狂に返すとお嬢様は僅かに口の端を緩ませた。
「データは取りましたし、私が使うよりジェイに任せた方が面白そうですからねぇ。このままでは起動させるための魔力も足りないでしょうがジェイは先日のワークエで良い物を手に入れていますし」
小声で。
「それにこれ、アリスのイベントに必要なアイテムだと思うんですよねぇ。となるとカセイダー伯爵のクエストがそろそろ始まるってことになる訳で……わぁ、すっごく見てみたいです。あの伯爵どう考えても本編とは無関係なのにキャラデザがとーっても力入ってて……。ユカちゃんも『実は仲間になるとか?』て予想してたんですよねぇ」
「……」
お嬢様。
めっちゃ独り言が聞こえるんですけど。
何ですか「カセイダー伯爵のクエスト」って。
意味不明過ぎて目眩がしそうですよ。
あと、ユカちゃん。
誰なんですか?
なーんか口ぶりから察するにお嬢様のご友人のようですが俺の記憶にそんな呼ばれ方をされそうな御令嬢が思い浮かばないのですが。
つっこみたいがお嬢様から「訊くな」という猛烈な圧を感じる。この圧を撥ね除けられる胆力は俺にはなかった。これ悪魔だったら魔王級相当なんじゃね?
ともあれ、俺は最新型ギロック「サンジュウ」を手に入れた。
収納に仕舞おうとするとあの天の声が聞こえてくる。
『確認しました』
『ジェイ・ハミルトンに称号「お人形遊びしたいかも?」が授与されました』
『なお、この情報は一部秘匿されます』
「は?」
「あらあら」
またも声が頓狂になる俺。
何故かすんごい愉しそうなお嬢様。
いやいや、その目は止めてくださいよ。
俺、そんなお人形遊びなんてする趣味はありませんから。
そ、そうだ。この称号授与は拒否しないと。
こんな変な称号誰かにバレたら絶対馬鹿にされる。
「き、拒否だ。こんな変な称号断固として拒否するっ!」
『ぶっぶー、その訴えは受け付けません。本称号授与はイベント進行に関する規定により拒否できないものとされています』
「そんな滅茶苦茶な話があるかっ、とにかくこんな恥ずかしい称号は無しだ! どうしても授けたいなら他を当たれっ!」
『称号授与はジェイ・ハミルトンに授与されました。そういうことだから諦めてね♪』
「……」
わぁ、これもう駄目だ。。
天の声もお嬢様の声になってるし……ん?
俺はお嬢様を見た。
お嬢様が微笑んでいる。可愛い。天使。。
「……」
「……」
俺はお嬢様を見ている。
お嬢様は微笑みを崩さない。やっぱ可愛い。マジ天使。
「……」
「……」
俺はお嬢様を見ている。
お嬢様は微笑みを絶やさない。あれか、可愛いの限界突破でも狙っているのか? 楽々突破していると思います。むっちゃ可愛い。
外で誰かの声がする。
その声はしだいに近づいてきてやがて俺とお嬢様のいる礼拝堂にやってきた。外から聞こえてきただけあってうるさいくらい大きな声だ。
「あ、ジェイ」
緑竜族の竜人アミンだった。胸元にはエメラルドのペンダントがぶら下がっている。
このペンダントはシスター仮面一号(お嬢様の仮の姿の一つ)から渡された物で竜人のアミンを人間の姿に変える効果を持っていた。
なので今のアミンは人間の姿をしている。
イアナ嬢よりやや低い身長。でも身体のラインはイアナ嬢より少しだけ女性らしい。修道服ではなくただのワンピースなのは修道女(シスター)ではないからだろう。サイズに余裕がないのはご愛敬だ。
ベリーショート(という髪型は昔お嬢様から教わった)の金髪はアミンには似合っていた。健康的な美人を連想させる顔はちょっとエキゾチックでマルソー夫人と同郷と言っても不自然ではない。その上で可愛らしさがあり彼女の魅力を上乗せしていた。
ま、それでも俺のお嬢様の可愛らしさの足下にも及ばないけどね。お嬢様最高。
なお、尻尾と翼がどうなっているかは謎。
俺がそのことを訊こうとしたら女性陣(お嬢様も含む)から変態でも見るような目をされてしまった。何故だ。
で。
アミンは両手に抱えるくらいの花束を持っていた。赤白黄色それにピンクやオレンジといった花の色合いでとても華やかだ。
ちなみに、アミンは現在ウィル教の教会で暮らしている。
ついでに言えばギロックたちも教会の世話になっている。
さらにおまけで追加すると黒猫も教会に居着いている。
おのれ黒猫、猫の癖にお嬢様と同じ屋根の下とは生意気な。羨ましいから俺と替われっ。
えっ、それよりサンジュウはどうしただって?
もちろんアミンが姿を見せる前に収納しましたとも。あんなのそうそうやたらに見せられないからね。
アミンは俺が教会に来た目的を察したのか軽くうなずいた。
「そっか、いつもの礼拝ね。偉い偉い」
「何故俺はお前に上から目線で褒められてるんだ?」
「だってアミン教会関係者だし」
「……」
これ、納得するべきところなのか?
なーんか釈然としないのだが。
「それよりエミリアさん、今朝もどこぞの大店の坊ちゃんとやらが花束を届けてくれましたよ。それと騎士団の副団長さんと商業ギルドの副ギルドマスターさんとスケベーナ男爵さんと冒険者パーティー『蛮族上等』のリーダーさんとそれとランバダさんとかいう顔色の悪くて陰気そうな魔導師さんから花束を貰いました」
「あら、今朝も沢山ねぇ。後でお礼状を書いておかなくちゃ」
「……」
ちょい待って。
何気におかしな奴から花束届いてるんですが。
いや、スケベーナ男爵とかも何だか破廉恥そうでアレなんだけどそこはひとまず脇に置くとして、おいランバダ。
お前、どういうつもりだ?
事と次第によっては最優先でぶん殴りに行くからな。
とか俺が拳を握っていると。
「あら、これランバダさんの名前になってますけどメラニアさんの筆跡ですねぇ。ええっと何々?」
お嬢様が花束に刺さっていた手紙を開いていた。
「へぇ、カール殿下とラブラブなんですか。ふふっ、こんな物で私の心を乱そうとするなんてメラニアさんも案外小っちゃいですねぇ。春先の大規模討伐の折に会いましょうとか書いてますけど、まあやはりと言うか覚醒イベントを外すって選択肢はないですよねぇ。わかりますわかります」
「……」
お嬢様。
声は笑っているのに目が笑ってないんですけど。
めっさ怖いです。
それとあの女(メラニア)が手紙を寄越してくるとはなぁ。
あの婚約破棄の一件を思うと俺ならそんな真似できないんだけどなぁ。いや、だって自分が婚約者を奪った相手だよ。そんな相手に手紙なんか書けないでしょ。
お嬢様の恐い反応にアミンがややびくつきつつ言った。
「そ、それとエミリアさん宛にお肉とか野菜とかパンとかお菓子(という名の単に果物を干しただけの物)とか宝石とか魔石とか釣書とか他にもいろいろ届いています。あ、お金って人もいましたけどそれはキャロルさんの方に振りました。それで良かったんですよね?」
「ええ」
お嬢様の笑顔から黒さが消える。
「キャロに任せてしまうのが一番ですからね。他の物も教会の皆で消費しきれない分は孤児院の方に渡してください。釣書もキャロ任せでいいですよ」
「はい」
「あ、ジェイ」
お嬢様が俺に釘を刺した。
「くれぐれも釣書の相手を襲いに行ったりしないでくださいね。先々月のキザデス伯爵の件とかその二週前のガッポーリ商会の次男さんの件とか他にもちゃーんと把握していますよ」
「……」
ワォ。
何故バレた?
ま、まあここは知らないふりをしておこう。
……などと俺が逃げの一手を打っていると付近の住民たちがちらほらと礼拝にやって来た。
この教会では毎週末に信徒を集めての礼拝があるがそれ以外の礼拝は各自に任されている。来れるタイミングで来て祈ればいいって感じだ。だからこうやってバラバラの時間に人がくる。
さて、俺もそろそろ冒険者ギルドに行くとするかな。
腹部を割かれており歯車とか金属の部品みたいな物が覗けている。この妖精のような物は既に死んでおり、あるいは壊れて動かなくなっておりこれ自体に脅威を感じるものではないがいろいろと疑問を抱かせる代物ではあった。
俺と同じ長椅子に座るお嬢様が中空に指を走らせ立体映像を消す。
彼女は俺に告げた。
「私見ですが、まだこの国の技術力ではさっきの妖精のような物は作れないと思います」
「え」
俺は目を瞬いた。
それはつまり……どういうことだ?
「あれは恐らくマジンシアの遺失技術(ロストテクノロジー)で作られた魔道機械人形です。ジェイ、マリコーのラボで見たサンジュウのことは憶えて……いえ、現物を出した方が早いですね」
言うが早いか、お嬢様は修道服の袖口から首に紫のチョーカーをつけた若い女性の姿のギロックを取り出した。チョーカーには30の数字が記されている。
ジュークやニジュウと同じ銀髪を腰のあたりまで伸ばした十七もしくは十八歳くらいの年齢に見える綺麗な外見の最新型ギロックだ。
胸元にある窪みと身体のラインがはっきりとわかる銀色のスーツがとても印象的である。
てか、この胸はマリコーの胸よりおっきいよな?
おや?
確かマリコーはこのサンジュウを自分の新しい身体にするつもりだったんだよな?
このお胸のサイズは図々しくないか?
「このサンジュウは魔道機械人形ではなく精霊とホムンクルスを合成したキメラですがマジンシアの遺失技術(ロストテクノロジー)を使っています。アルガーダ王国にもキメラを作る技術はありますがマリコーのはより高性能なキメラとするための技術が活かされているんです」
と、そこでお嬢様は言葉を切り俺を見遣った。
「ジェイ、これはあなたが持っていてください」
「え」
俺が頓狂に返すとお嬢様は僅かに口の端を緩ませた。
「データは取りましたし、私が使うよりジェイに任せた方が面白そうですからねぇ。このままでは起動させるための魔力も足りないでしょうがジェイは先日のワークエで良い物を手に入れていますし」
小声で。
「それにこれ、アリスのイベントに必要なアイテムだと思うんですよねぇ。となるとカセイダー伯爵のクエストがそろそろ始まるってことになる訳で……わぁ、すっごく見てみたいです。あの伯爵どう考えても本編とは無関係なのにキャラデザがとーっても力入ってて……。ユカちゃんも『実は仲間になるとか?』て予想してたんですよねぇ」
「……」
お嬢様。
めっちゃ独り言が聞こえるんですけど。
何ですか「カセイダー伯爵のクエスト」って。
意味不明過ぎて目眩がしそうですよ。
あと、ユカちゃん。
誰なんですか?
なーんか口ぶりから察するにお嬢様のご友人のようですが俺の記憶にそんな呼ばれ方をされそうな御令嬢が思い浮かばないのですが。
つっこみたいがお嬢様から「訊くな」という猛烈な圧を感じる。この圧を撥ね除けられる胆力は俺にはなかった。これ悪魔だったら魔王級相当なんじゃね?
ともあれ、俺は最新型ギロック「サンジュウ」を手に入れた。
収納に仕舞おうとするとあの天の声が聞こえてくる。
『確認しました』
『ジェイ・ハミルトンに称号「お人形遊びしたいかも?」が授与されました』
『なお、この情報は一部秘匿されます』
「は?」
「あらあら」
またも声が頓狂になる俺。
何故かすんごい愉しそうなお嬢様。
いやいや、その目は止めてくださいよ。
俺、そんなお人形遊びなんてする趣味はありませんから。
そ、そうだ。この称号授与は拒否しないと。
こんな変な称号誰かにバレたら絶対馬鹿にされる。
「き、拒否だ。こんな変な称号断固として拒否するっ!」
『ぶっぶー、その訴えは受け付けません。本称号授与はイベント進行に関する規定により拒否できないものとされています』
「そんな滅茶苦茶な話があるかっ、とにかくこんな恥ずかしい称号は無しだ! どうしても授けたいなら他を当たれっ!」
『称号授与はジェイ・ハミルトンに授与されました。そういうことだから諦めてね♪』
「……」
わぁ、これもう駄目だ。。
天の声もお嬢様の声になってるし……ん?
俺はお嬢様を見た。
お嬢様が微笑んでいる。可愛い。天使。。
「……」
「……」
俺はお嬢様を見ている。
お嬢様は微笑みを崩さない。やっぱ可愛い。マジ天使。
「……」
「……」
俺はお嬢様を見ている。
お嬢様は微笑みを絶やさない。あれか、可愛いの限界突破でも狙っているのか? 楽々突破していると思います。むっちゃ可愛い。
外で誰かの声がする。
その声はしだいに近づいてきてやがて俺とお嬢様のいる礼拝堂にやってきた。外から聞こえてきただけあってうるさいくらい大きな声だ。
「あ、ジェイ」
緑竜族の竜人アミンだった。胸元にはエメラルドのペンダントがぶら下がっている。
このペンダントはシスター仮面一号(お嬢様の仮の姿の一つ)から渡された物で竜人のアミンを人間の姿に変える効果を持っていた。
なので今のアミンは人間の姿をしている。
イアナ嬢よりやや低い身長。でも身体のラインはイアナ嬢より少しだけ女性らしい。修道服ではなくただのワンピースなのは修道女(シスター)ではないからだろう。サイズに余裕がないのはご愛敬だ。
ベリーショート(という髪型は昔お嬢様から教わった)の金髪はアミンには似合っていた。健康的な美人を連想させる顔はちょっとエキゾチックでマルソー夫人と同郷と言っても不自然ではない。その上で可愛らしさがあり彼女の魅力を上乗せしていた。
ま、それでも俺のお嬢様の可愛らしさの足下にも及ばないけどね。お嬢様最高。
なお、尻尾と翼がどうなっているかは謎。
俺がそのことを訊こうとしたら女性陣(お嬢様も含む)から変態でも見るような目をされてしまった。何故だ。
で。
アミンは両手に抱えるくらいの花束を持っていた。赤白黄色それにピンクやオレンジといった花の色合いでとても華やかだ。
ちなみに、アミンは現在ウィル教の教会で暮らしている。
ついでに言えばギロックたちも教会の世話になっている。
さらにおまけで追加すると黒猫も教会に居着いている。
おのれ黒猫、猫の癖にお嬢様と同じ屋根の下とは生意気な。羨ましいから俺と替われっ。
えっ、それよりサンジュウはどうしただって?
もちろんアミンが姿を見せる前に収納しましたとも。あんなのそうそうやたらに見せられないからね。
アミンは俺が教会に来た目的を察したのか軽くうなずいた。
「そっか、いつもの礼拝ね。偉い偉い」
「何故俺はお前に上から目線で褒められてるんだ?」
「だってアミン教会関係者だし」
「……」
これ、納得するべきところなのか?
なーんか釈然としないのだが。
「それよりエミリアさん、今朝もどこぞの大店の坊ちゃんとやらが花束を届けてくれましたよ。それと騎士団の副団長さんと商業ギルドの副ギルドマスターさんとスケベーナ男爵さんと冒険者パーティー『蛮族上等』のリーダーさんとそれとランバダさんとかいう顔色の悪くて陰気そうな魔導師さんから花束を貰いました」
「あら、今朝も沢山ねぇ。後でお礼状を書いておかなくちゃ」
「……」
ちょい待って。
何気におかしな奴から花束届いてるんですが。
いや、スケベーナ男爵とかも何だか破廉恥そうでアレなんだけどそこはひとまず脇に置くとして、おいランバダ。
お前、どういうつもりだ?
事と次第によっては最優先でぶん殴りに行くからな。
とか俺が拳を握っていると。
「あら、これランバダさんの名前になってますけどメラニアさんの筆跡ですねぇ。ええっと何々?」
お嬢様が花束に刺さっていた手紙を開いていた。
「へぇ、カール殿下とラブラブなんですか。ふふっ、こんな物で私の心を乱そうとするなんてメラニアさんも案外小っちゃいですねぇ。春先の大規模討伐の折に会いましょうとか書いてますけど、まあやはりと言うか覚醒イベントを外すって選択肢はないですよねぇ。わかりますわかります」
「……」
お嬢様。
声は笑っているのに目が笑ってないんですけど。
めっさ怖いです。
それとあの女(メラニア)が手紙を寄越してくるとはなぁ。
あの婚約破棄の一件を思うと俺ならそんな真似できないんだけどなぁ。いや、だって自分が婚約者を奪った相手だよ。そんな相手に手紙なんか書けないでしょ。
お嬢様の恐い反応にアミンがややびくつきつつ言った。
「そ、それとエミリアさん宛にお肉とか野菜とかパンとかお菓子(という名の単に果物を干しただけの物)とか宝石とか魔石とか釣書とか他にもいろいろ届いています。あ、お金って人もいましたけどそれはキャロルさんの方に振りました。それで良かったんですよね?」
「ええ」
お嬢様の笑顔から黒さが消える。
「キャロに任せてしまうのが一番ですからね。他の物も教会の皆で消費しきれない分は孤児院の方に渡してください。釣書もキャロ任せでいいですよ」
「はい」
「あ、ジェイ」
お嬢様が俺に釘を刺した。
「くれぐれも釣書の相手を襲いに行ったりしないでくださいね。先々月のキザデス伯爵の件とかその二週前のガッポーリ商会の次男さんの件とか他にもちゃーんと把握していますよ」
「……」
ワォ。
何故バレた?
ま、まあここは知らないふりをしておこう。
……などと俺が逃げの一手を打っていると付近の住民たちがちらほらと礼拝にやって来た。
この教会では毎週末に信徒を集めての礼拝があるがそれ以外の礼拝は各自に任されている。来れるタイミングで来て祈ればいいって感じだ。だからこうやってバラバラの時間に人がくる。
さて、俺もそろそろ冒険者ギルドに行くとするかな。