第115話 俺はギロックたちと合流する

文字数 4,053文字

「ジェイっ」
「わーい、無事。良かったぁ」

 廃教会の前。

 俺がイアナ嬢とファミマを伴って外に出ると二人のギロックたちが大はしゃぎで駆け寄ってきた。

「わぁ、本物だぁ」
「この匂い本物、ジェイだぁ」
「……」

 俺のズボンにそれぞれ貼り付いてクンクン匂いを嗅ぐと何やら妙なことを言い出したお子様たち。見た目が五歳児だから二人が駆け寄ってきた時は小さな姪っ子たちに懐かれたおじさ……いや、お兄さんといった気分になっていたのだが気になってしまったので訊いてみた。

「その本物ってのは何だ? ひょっとして偽者でもいたのか?」

 お嬢様とかイアナ嬢に化けた奴もいたしな。

「そんなのいない」
「ジェイ、唯一無二」
「……」

 どうしよう。

 再会の喜びより面倒くささの方が強くなってきた。

「ず、随分と賑やかな子たちね」

 イアナ嬢が顔を引きつらせている。あ、こいつ軽く引いてるな。

 俺は彼女にギロックたちを紹介した。

「イアナ嬢、この子はジューク。それでこっちがニジュウだ」
「よ、よろしくね」
「……」
「……」

 イアナ嬢が挨拶するがギロックたちの反応は薄い。

 二人はペコリと会釈するともう興味を失ったかのように俺に話しだした。

「ねぇねぇ、聞いて聞いて」
「ニジュウたち、女神様に会った」
「……」

 お前ら。

 それ、イアナ嬢に失礼だぞ。

 とか思っていたら天の声が聞こえた。


 確認しました。

 イアナ・グランデに「お子様たちのライバル(*ジュークちゃんたちは見た目がお子様なので実年齢が十五歳でもお子様なんですっ)」の称号が授与されました。

 なお、この称号授与は拒否できません。


「……」
「ええっと、これ嬉しくないんだけど」
「うーん、僕ちゃん的にもこれは微妙だなぁ」

 俺、イアナ嬢、そしてファミマ。

 つーか拒否できないってのは酷いな。

 本人の意思はまるっと無視かよ。

 ……て。

 ちょい待て。

「おいニジュウ、お前さっき何て言った?」
「ほえ?」

 阿呆面でニジュウが首を傾げる。

 俺は若干の目眩を覚えながら聞き直した。

「女神様に会ったって言ってたよな?」
「うん」

 即答された。おい。

 俺が詳しく聞こうとするとジュークがズボンを引っ張った。

「女神様、凄かった」
「凄い?」

「ジューク、見たこともない食べ物いっぱい貰った。タコヤキすっごい美味だった」
「あ、ニジュウも。あと、ワンタンラーメン美味しかった」
「……」

 あれ?

 何故だろう、お嬢様の顔が頭に浮かんでくるのだが。

 ワンタンラーメンで思い浮かぶならシスター仮面一号だよな。でなければクロネコ仮面。ワンタンが大好物みたいだし。

 それなのにお嬢様?

 何でだ?

 ファミマがふわふわと漂いながらうんうんとうなずいた。

「そだね、やっぱり美味しいよね。僕ちゃんもワンタンラーメン大好き」
「あ、いいなぁ。あたしも食べたいなぁ」
「……」

 イアナ嬢。

 お前、前にもそんなこと言ってたよな?

 そうやって何でもかんでも食べたがっているとそのうち痛い目を見るぞ。

 ……じゃなくて!

「お前ら本当に女神様に会ったのか?」
「うん」
「ここに来る前まで、女神様一緒だった」

 ジューク、ニジュウ。

 俺、絶句。

 いやいやいやいや。

 女神様ってそんな簡単に会えるものなの?
 いや、俺も精霊王とかならめっちゃ会うようになってきたけどさ。

 やっぱ、女神様と精霊王は違うでしょ。

 ほら、幾ら精霊王がウィル教的に十天使と呼ばれる程特別な存在だったとしても神よりは下な訳だし。

 てか、え?

 俺の認識がおかしいの?

 普通、女神様になんて会えないよね?

 あれ?

「ジェイ、変な顔。ころころ変わってる」
「ニジュウ知ってる、これ二十面相」
「あ、それ百面相じゃないかな?」

 ジューク、ニジュウ、そしてイアナ嬢。

 ニジュウ、俺は知ってるぞ。

 お前が言ったのは有名な異国の怪盗のことだ。以前お嬢様から教わったことがある。

 ……じゃなくて!

「ニャー(やれやれだな。小僧、そんな細かいことを気にしていたら強くなれんぞ)」

 当然のように黒猫が現れた。

 相変わらず太々しい態度である。

「ダニーさんもワンタンラーメン食べてた。黒猫の兄貴とワンタン取り合ってた」

 ジュークが俺のズボンに貼り付くのを止めて黒猫を抱き上げる。

 あ、黒猫の奴今俺に猫パンチしようとしてたな。そんな気配を発してたぞ。

「……」
「……ニャン♪」

 俺がじっと見つめると黒猫が可愛らしく鳴いた。

 誤魔化そうとするんじゃねぇ。

「あら可愛い猫ちゃん」

 イアナ嬢がキラキラした目をしながら身を乗り出した。

 しゃがんで黒猫と目線を合わせる。

「ダニーさん、だっけ? あたしイアナ、よろしくね」
「ニャ(おう、こっちこそよろしくな嬢ちゃん)」

 黒猫が右前足を上げて応じた。何だか滲み出る雰囲気がダンディーだ。

 て。

 あれ? こいつさっきから鳴き声に親父の声が重なってないか?

「……」
「ジェイ、どした?」
「いや、気のせいだよな」
「?」

 俺が黒猫をじっと見ながらそう判断するとニジュウが首を傾げた。頭の上に疑問符が五個くらい並んでいるぞ。

「うーん、案外気づかないものかなぁ」

 ふわふわと宙に浮かんだ格好でそんなことを言うファミマに俺は訊いた。

「何の話だ?」
「あ、こっちの話。あはははは」

 あからさまに笑って誤魔化してきた。

 めっちゃ気になる。

 と、そのタイミングで天の声が聞こえてきた。


 お知らせします。

 魔力吸いの大森林エリア・日陰坂にて中ボス・四十六人食いのスリーアイズオーガが冒険者パーティー・栄光の剣に討伐されました。

 スリーアイズオーガの所持する増幅装置がニコル・マルソーにより完全破壊されました。


 お知らせします。

 新たに3基の増幅装置が魔力吸いの大森林エリア中央のラボに設置されました。

 美貌の科学者にして大天才のマリコー・ギロックから本ワールドクエストの参加者の皆さんへのメッセージが発信されています。


 俺たちの前に宙に浮かぶ半透明の大きな板が現れた。

 どこかの研究室らしき部屋の薬品棚をバックに一人の女が映る。貴族の館の執務室にありそうな豪華な椅子に座っていた。

 二十代後半くらいの少し痩せた女だった。色白で肩まで伸ばした黒髪を綺麗に切り揃えたやたら眼力の強そうな女だ。シンプルなデザインのシャツと短いスカートを身に付けており、その上に白衣を着ていた。。

「……」
「えっ、何これ」
「わぁ、マムだ」
「髪の毛ボサボサじゃない。化粧もしてる。何かムカつく」
「ニャー(こいつが親玉かよ。若作りしてるがババァだな。俺は騙されんぞ)」

 俺、イアナ嬢、ジューク、ニジュウ、そして黒猫。

 あれか、普段のマリコーは残念な感じなのか。

 まあ人前に出るでもなければ身だしなみに気を遣わない奴っているよな。


「今私のことババァとか普段だらしなくしてそうな女だと思った人、後でそう思ったことを後悔させてあげるからね」


 マリコーが喋った。あ、ちょい声が色っぽい。


「さて、一応自己紹介しておくわ。私はマリコー・ギロック。この世界の管理者の一人にして美貌の天才科学者。まあ管理者云々は大してやってないから別にそっちは忘れてもいいわ。大事なのは私が美貌の天才科学者だということ」


「……」

 いや、そこまで美人じゃないぞ。

 確かに平均よりは美人かもしれないが。ちょっとした町に一人はいそうって程度だな。


「ちなみに今私のことそんなに美人じゃないとか言った人、ちゃんとチェックしてるから。絶対にあなたの魔力は優先的に吸い尽くしてあげるからね」


「……」

 やべぇ、俺声にしてなかったよな?

 こんな自分の姿を遠隔で投影できる奴ならもしかしたら自分の悪口を言った人の居場所も簡単に見つけられるのかもしれない。

 底が読めないからなぁ。

 精霊王より上らしいし。


「マム、妖精型偵察ドローン完成させた?」
「虫型の方かも」

 ジュークとニジュウが何やら不穏なことを言っている。何だその偵察ドローンって。

「あぁ、あのちっちゃい羽根のある女の子みたいな奴とかハエみたいな奴ね。そういやカプセルの中で量産していたなぁ」

 ファミマの発現もなかなかに聞き捨てならない。

 イアナ嬢が目を白黒させた。

「な、何だかよくわからないけどやばそうな物があちこちにいるってこと?」
「ニャ、ニャー(そんなちっこい奴なんぞ気合いでぶっ潰せるだろ。心配無用だな)」

 黒猫は余裕そうだな。

 まあ黒猫の言う通りぶっ潰してしまえば怖くはないか。それっぽい奴を見かけたらぶん殴っておくことにしよう。


「私、このメメント・モリ大実験のためにかなりの準備をしてきたの。だからあなたたちに邪魔されたとしても必ず成功させるつもりよ」


 マリコーが手で合図すると彼女の左側から三人の男女が現れた。角やら翼やらがあってとても普通の人間には見えない。

 つーか、あいつらって……。


「この三人は私の助手の竜人たちよ。右から赤竜族のドモンド、青竜族のウサミン、そして緑竜族のアミン」


 三人が挑戦的な笑みをこちらに向けてきた。

 ドモンドは大柄でいかにもな戦士タイプだ。燃えるような赤髪と獰猛そうな鋭い目が印象的だ。

 ウサミンはドモンドと対照的ですらりとした中背の魔導師タイプ。知的そうだがその細い目は何を考えているかわからない不気味さがある。要注意だ。

 そして、紅一点のアミンは小柄な可愛らしい少女。何となく癒やし系に見えるので回復役(ヒーラー)タイプかもしれない。それにしても目が大きい子だな。

 マリコーは自分が話し続けたいからか三人の助手たちに発現を許さなかった。三人もそれに不満はないようだ。


「私のラボに設置した3基の増幅装置は彼らに守らせるから。どうしても早死にしたいって人はどんどん彼らに挑戦してね。まあ、勝てるとは思えないけど」


 マリコーが馬鹿にしたように笑った。

 同調するように竜人たちも笑いだす。

 そこに……。


「あーら、あなたたちしばらく見ないと思ったらそんなところにいたの?」


 めっちゃ聞き覚えのある声が映像の中から聞こえてきた。
 
 
 
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