第138話 俺に命令が下る
文字数 3,463文字
「エミリア様」
俺が他の管理者の存在を知って遠い目をしていると時空の精霊王リーエフが近づいてきた。
細い目がさらに細くなっている。口も真一文字だ。
「そろそろ時間なので麿はお暇するでおじゃる。また何かあったらいつでも気軽に呼んでほしいでおじゃる」
「ああ、そうですね。ラテにはちゃんと言っておきましたから遠慮なく鍛えてあげてください。リーエフに教わりながらプログラムの修正をすれば覚えも早いでしょうし」
「むふふっ、麿も新人管理者への指導は楽しみで仕方ないでおじゃる。それと島にはぶるーはわいとやらがあるとファストが自慢しておったのでそちらも楽しみでおじゃる。麿も口の中を真っ青にしてみたいでおじゃる」
「あ、幾ら楽しみだからって全部飲もうとしたら駄目ですよ。島の皆さんは精霊王相手に飲み過ぎを注意したりできないんですからね。立場の強いリーエフがそのあたりをわかってあげないと」
「むふふっ、麿はファミマやウェンディとは違うので心配無用でおじゃる。では!」
一礼するとふっとリーエフが消えた。
お嬢様が見送るようにリーエフのいた場所を見つめながら微笑む。その笑顔も可愛い。どうしよう永久保存したい。
「……ジェイ」
お嬢様が俺へと向いた。
「さっきリーエフと話した時に出た子が件の管理者です。今はちょっと会わせるタイミングではないので会わせられませんがその時が来たら必ず会えますから楽しみに待っていてくださいね。一応まだジェイの守備範囲だと思いますよ」
「……」
あれ?
俺の守備範囲って、お嬢様もしかして妙な勘違いしてね?
これはきちんと訂正する必要があるのかも。
「あの、お嬢様。俺は別に……」
「ま、それはそれとして。ジェイにはプーウォルトの下に行ってもらいます」
「はい?」
言いかけた言葉を遮られた上に突然の命令が下ってしまった。
てか、プーウォルト?
ええっと、どっかで聞いたような?
「ジェイはマジンガの腕輪をアップグレードしたじゃないですか。あれでジェイの身体もいろいろ改造されているんです。そのことは美少年やマリコーと戦っているからわかりますよね?」
「……」
え、そっち?
むしろ俺としては一時的にせよ第一級管理者になったことの方が身体への負担になったんじゃないかって不安だったんですけど。
腕輪だって、魔神化の腕輪てのに変わっていたし。あれ絶対に負担がかかってるよね。
マリコーもやばい代物だって言ってたし。
「ジェイにはもっと強くなってもらわないと困りますし、今後のことも思えばより多くの戦い方を身に付けてもらわなくてはならないでしょう。ああ、そうなるとプーウォルトだけでは足らないかもしれませんね」
お嬢様は決心したように大きく首肯した。
「シーサイドダックにも協力してもらうことにしましょう。彼ならバーチャルファイトステージ……ではなくて仮想戦闘領域を作れますし。あ、リーエフからあれも借りるといいかもしれませんね」
「……」
わぁ、またお嬢様があっち側に行きかけてるぞ。
ただ、これ止めようとしてもなかなかうまくいかないんだよなぁ。
俺がそう内心嘆息しているとお嬢様の傍に控えていたリアさん(分身体)が口を開いた。
「エミリア様、王都で動きがありました」
「あら、思ったより早いですね」
「どうやらメラニア妃がロンド枢機卿とともに国王に働きかけたようです。教会との合同で大規模の調査団が編成されるみたいですよ」
ん?
調査団?
俺が疑問に思っているとお嬢様が教えてくれた。
「今回のことをきっかけに魔力吸いの大森林の中のラボをしらべる調査団が送られることになったんですよ。ワークエのせいで大々的にラボの存在が知られてしまいましたからねぇ」
「まあ、あれだけ派手にマリコーがやらかしてくれましたからね。それにしたって動きが速くないですか?」
「うーん、ラボの存在自体は二作目で明らかにされていましたからねぇ。三作目のファンディスクの方でも探索シナリオがありましたから」
「はい?」
「あ、こっちの話です。それよりジェイはマリコーから『ときめきファンタジスタ』のことをどの程度聞きました?」
「ええっと」
その名称は記憶にあった。
マリコーがやたら馬鹿にしていたからだ。ファンタジスタという単語はどうやらファンタジー用語とやらではないらしい。じゃあ何だという感じではあるが。
「そ、そう言えばその『ときめきファンタジスタ』によると魔王が必ず復活することになっている、とマリコーが言っていました。つまり、予言所の類ですか?」
「全く違いますが……ちょっと説明し難いですね。たぶんジェイには受け容れられないかもしれません」
「?」
「この世界はいわゆる神の想像の産物でしかないんです。私たちは運命(シナリオ)によって定められた道を進むしかなく、より良い道を進むには途中の分岐を正しく選ばなくてはなりません」
お嬢様はそこで一拍置き、強い口調で続けた。
「ただ、どうあがいても変わらない運命(シナリオ)があります。ええ、物凄く腹立たしいことにそういうクソ運命(シナリオ)があるんです」
「お、お嬢様?」
クソとか言っちゃったよこの人。
つーか、めっちゃ怒ってるし。
あ、あれ?
なーんかめっさドス黒いオーラがお嬢様から立ち上ってね?
「そのクソ運命(シナリオ)によれば私は魔王の復活のせいで命を落とすことになっています」
「!」
え。
ちょい待って。
それどゆこと?
えっ、お嬢様死ぬの?
いやいやいやいや。
そんなの駄目でしょ。
お嬢様が死ぬなんて世界の損失だよ。許されないことだよ。
たとえ神が許しても俺は許さないよ。
絶対に阻止するよ。
「私、自分の運命(シナリオ)をぶっ壊すことにしたんです。そうしないと私に未来はないので」
「お、俺も協力します。と言うか俺がお嬢様を守ります。魔王なんかに殺させません」
「ありがとう。その言葉が欲しかったんです」
お嬢様がにこりとした。
天の声が聞こえてくる。
確認しました。
ジェイ・ハミルトンに称号「誓いをせし者」が授与されました。
以降、ジェイ・ハミルトンに(ピーッと雑音が入る)。
なお、この情報は秘匿されます。
「……」
あのー、伏せられた部分がすげぇ気になるんですけど。
わぁ、めっちゃモヤモヤする。
新しく称号を得て、それでこれからの俺に何かあるのか? ないのか? いや、何かあるからお知らせが入るんだよな。
俺が若干パニクっているとお嬢様がそっと俺の頬に触れた。
いつの間にか立ち上がってこちらに回り込んでるし。
あ、ドス黒いオーラが消えてる。
「ジェイ」
お嬢様の声が優しい。
「大丈夫ですか? ひょっとして魔神化の腕輪の影響を受けたりしてませんか? 体内のマナに過剰な変動とかないですか?」
頬から額、額から頬へとお嬢様の手が滑っていく。ちょいくすぐったい。
ペタペタと俺の顔に触れまくってからお嬢様はうんとうなずいた。
「まだ腕輪の影響はなさそうですね。でも、万が一がありますから後でファストに診てもらいましょう」
「……」
何だろう。
心なしかお嬢様に誤魔化された気がする。
ただ、何を誤魔化そうとしたのかがわからない。
何だ?
訊いてみた。
「ええっと、何か誤魔化そうとしていませんか?」
「私がジェイに何を誤魔化すと?」
「……」
にっこりしながらそう返されてしまう。
てか、お嬢様可愛い。天使。
「まあ誤魔化す云々というのは脇に置くとして」
お嬢様が一度言葉を切り。
「ジェイにマジンガの腕輪(L)を渡した時に付与魔法の練習ついでに作ったみたいなことを言ったじゃないですか」
「そう言えばそんなこと言ってましたね」
「あれ、嘘なんです。本当はあの時点でもっと凄い魔道具とか作ってました」
「え」
何か聞いちゃいけないこと聞いちゃったよ。
わぁ、どうしよう。
いやどうしようもないんだろうけど。
俺はゆっくりと息を吸って吐いてから質問した。
「た、たとえばどんな物を作ったんですか」
「ふふっ、それ聞いちゃいます?」
「……」
お嬢様の天使スマイルがめっちゃ可愛い。やばい、俺もう死ぬかも。可愛過ぎて死にそう。
と、そこに。
「もうっ、どういうことよっ! あたしもジェイとシュナのパーティーの一人なのよっ。それなのにあたしだけマリコーと戦えなかったなんておかしいでしょっ!」
「……」
聞き覚えのある声に何故かどっと疲れが押し寄せてきた。
イアナ嬢。
お前までこっちに来たのかよ。
わぁ、めんどいからもうちょい他所にいてくれないかなぁ。
俺が他の管理者の存在を知って遠い目をしていると時空の精霊王リーエフが近づいてきた。
細い目がさらに細くなっている。口も真一文字だ。
「そろそろ時間なので麿はお暇するでおじゃる。また何かあったらいつでも気軽に呼んでほしいでおじゃる」
「ああ、そうですね。ラテにはちゃんと言っておきましたから遠慮なく鍛えてあげてください。リーエフに教わりながらプログラムの修正をすれば覚えも早いでしょうし」
「むふふっ、麿も新人管理者への指導は楽しみで仕方ないでおじゃる。それと島にはぶるーはわいとやらがあるとファストが自慢しておったのでそちらも楽しみでおじゃる。麿も口の中を真っ青にしてみたいでおじゃる」
「あ、幾ら楽しみだからって全部飲もうとしたら駄目ですよ。島の皆さんは精霊王相手に飲み過ぎを注意したりできないんですからね。立場の強いリーエフがそのあたりをわかってあげないと」
「むふふっ、麿はファミマやウェンディとは違うので心配無用でおじゃる。では!」
一礼するとふっとリーエフが消えた。
お嬢様が見送るようにリーエフのいた場所を見つめながら微笑む。その笑顔も可愛い。どうしよう永久保存したい。
「……ジェイ」
お嬢様が俺へと向いた。
「さっきリーエフと話した時に出た子が件の管理者です。今はちょっと会わせるタイミングではないので会わせられませんがその時が来たら必ず会えますから楽しみに待っていてくださいね。一応まだジェイの守備範囲だと思いますよ」
「……」
あれ?
俺の守備範囲って、お嬢様もしかして妙な勘違いしてね?
これはきちんと訂正する必要があるのかも。
「あの、お嬢様。俺は別に……」
「ま、それはそれとして。ジェイにはプーウォルトの下に行ってもらいます」
「はい?」
言いかけた言葉を遮られた上に突然の命令が下ってしまった。
てか、プーウォルト?
ええっと、どっかで聞いたような?
「ジェイはマジンガの腕輪をアップグレードしたじゃないですか。あれでジェイの身体もいろいろ改造されているんです。そのことは美少年やマリコーと戦っているからわかりますよね?」
「……」
え、そっち?
むしろ俺としては一時的にせよ第一級管理者になったことの方が身体への負担になったんじゃないかって不安だったんですけど。
腕輪だって、魔神化の腕輪てのに変わっていたし。あれ絶対に負担がかかってるよね。
マリコーもやばい代物だって言ってたし。
「ジェイにはもっと強くなってもらわないと困りますし、今後のことも思えばより多くの戦い方を身に付けてもらわなくてはならないでしょう。ああ、そうなるとプーウォルトだけでは足らないかもしれませんね」
お嬢様は決心したように大きく首肯した。
「シーサイドダックにも協力してもらうことにしましょう。彼ならバーチャルファイトステージ……ではなくて仮想戦闘領域を作れますし。あ、リーエフからあれも借りるといいかもしれませんね」
「……」
わぁ、またお嬢様があっち側に行きかけてるぞ。
ただ、これ止めようとしてもなかなかうまくいかないんだよなぁ。
俺がそう内心嘆息しているとお嬢様の傍に控えていたリアさん(分身体)が口を開いた。
「エミリア様、王都で動きがありました」
「あら、思ったより早いですね」
「どうやらメラニア妃がロンド枢機卿とともに国王に働きかけたようです。教会との合同で大規模の調査団が編成されるみたいですよ」
ん?
調査団?
俺が疑問に思っているとお嬢様が教えてくれた。
「今回のことをきっかけに魔力吸いの大森林の中のラボをしらべる調査団が送られることになったんですよ。ワークエのせいで大々的にラボの存在が知られてしまいましたからねぇ」
「まあ、あれだけ派手にマリコーがやらかしてくれましたからね。それにしたって動きが速くないですか?」
「うーん、ラボの存在自体は二作目で明らかにされていましたからねぇ。三作目のファンディスクの方でも探索シナリオがありましたから」
「はい?」
「あ、こっちの話です。それよりジェイはマリコーから『ときめきファンタジスタ』のことをどの程度聞きました?」
「ええっと」
その名称は記憶にあった。
マリコーがやたら馬鹿にしていたからだ。ファンタジスタという単語はどうやらファンタジー用語とやらではないらしい。じゃあ何だという感じではあるが。
「そ、そう言えばその『ときめきファンタジスタ』によると魔王が必ず復活することになっている、とマリコーが言っていました。つまり、予言所の類ですか?」
「全く違いますが……ちょっと説明し難いですね。たぶんジェイには受け容れられないかもしれません」
「?」
「この世界はいわゆる神の想像の産物でしかないんです。私たちは運命(シナリオ)によって定められた道を進むしかなく、より良い道を進むには途中の分岐を正しく選ばなくてはなりません」
お嬢様はそこで一拍置き、強い口調で続けた。
「ただ、どうあがいても変わらない運命(シナリオ)があります。ええ、物凄く腹立たしいことにそういうクソ運命(シナリオ)があるんです」
「お、お嬢様?」
クソとか言っちゃったよこの人。
つーか、めっちゃ怒ってるし。
あ、あれ?
なーんかめっさドス黒いオーラがお嬢様から立ち上ってね?
「そのクソ運命(シナリオ)によれば私は魔王の復活のせいで命を落とすことになっています」
「!」
え。
ちょい待って。
それどゆこと?
えっ、お嬢様死ぬの?
いやいやいやいや。
そんなの駄目でしょ。
お嬢様が死ぬなんて世界の損失だよ。許されないことだよ。
たとえ神が許しても俺は許さないよ。
絶対に阻止するよ。
「私、自分の運命(シナリオ)をぶっ壊すことにしたんです。そうしないと私に未来はないので」
「お、俺も協力します。と言うか俺がお嬢様を守ります。魔王なんかに殺させません」
「ありがとう。その言葉が欲しかったんです」
お嬢様がにこりとした。
天の声が聞こえてくる。
確認しました。
ジェイ・ハミルトンに称号「誓いをせし者」が授与されました。
以降、ジェイ・ハミルトンに(ピーッと雑音が入る)。
なお、この情報は秘匿されます。
「……」
あのー、伏せられた部分がすげぇ気になるんですけど。
わぁ、めっちゃモヤモヤする。
新しく称号を得て、それでこれからの俺に何かあるのか? ないのか? いや、何かあるからお知らせが入るんだよな。
俺が若干パニクっているとお嬢様がそっと俺の頬に触れた。
いつの間にか立ち上がってこちらに回り込んでるし。
あ、ドス黒いオーラが消えてる。
「ジェイ」
お嬢様の声が優しい。
「大丈夫ですか? ひょっとして魔神化の腕輪の影響を受けたりしてませんか? 体内のマナに過剰な変動とかないですか?」
頬から額、額から頬へとお嬢様の手が滑っていく。ちょいくすぐったい。
ペタペタと俺の顔に触れまくってからお嬢様はうんとうなずいた。
「まだ腕輪の影響はなさそうですね。でも、万が一がありますから後でファストに診てもらいましょう」
「……」
何だろう。
心なしかお嬢様に誤魔化された気がする。
ただ、何を誤魔化そうとしたのかがわからない。
何だ?
訊いてみた。
「ええっと、何か誤魔化そうとしていませんか?」
「私がジェイに何を誤魔化すと?」
「……」
にっこりしながらそう返されてしまう。
てか、お嬢様可愛い。天使。
「まあ誤魔化す云々というのは脇に置くとして」
お嬢様が一度言葉を切り。
「ジェイにマジンガの腕輪(L)を渡した時に付与魔法の練習ついでに作ったみたいなことを言ったじゃないですか」
「そう言えばそんなこと言ってましたね」
「あれ、嘘なんです。本当はあの時点でもっと凄い魔道具とか作ってました」
「え」
何か聞いちゃいけないこと聞いちゃったよ。
わぁ、どうしよう。
いやどうしようもないんだろうけど。
俺はゆっくりと息を吸って吐いてから質問した。
「た、たとえばどんな物を作ったんですか」
「ふふっ、それ聞いちゃいます?」
「……」
お嬢様の天使スマイルがめっちゃ可愛い。やばい、俺もう死ぬかも。可愛過ぎて死にそう。
と、そこに。
「もうっ、どういうことよっ! あたしもジェイとシュナのパーティーの一人なのよっ。それなのにあたしだけマリコーと戦えなかったなんておかしいでしょっ!」
「……」
聞き覚えのある声に何故かどっと疲れが押し寄せてきた。
イアナ嬢。
お前までこっちに来たのかよ。
わぁ、めんどいからもうちょい他所にいてくれないかなぁ。