第147話 俺は竜人を餌付けしてしまったようです

文字数 3,359文字

 竜人のアミンはワールドクエストで他の竜人二人と共にマリコー・ギロック側についていた。

 メメント・モリ大実験で使われる増幅装置の守護者としてマリコー・ギロックに雇われていたのだ。

 しかし、天の声を使った紹介の直後に古代紫竜(エンシェントパープルドラゴン)のラキアの横槍が入ってアミンたちは逃げるようにマリコーから離れた。あの時、彼女たちがラキアにすっげえビビっていたのを俺もよく憶えている。

 実はアルガーダ王国の開祖の姫が亡くなった内乱でアミンたちはその首謀者側についていた。どうやらそのことをラキアは快く思ってなかったみたいなんだよね。

 ちなみに闇の精霊王のリアさんと水の精霊王のウェンディがシャーリー姫ととても親しかったそうだ。そのためシャーリー姫の死をきっかけにリアさんは長期に渡って引き篭もりウェンディは人間嫌いになってしまった。

 シャーリー姫の生まれ変わりであるシャルロット姫が現在の王家に誕生してからはリアさんは引き篭もるのを止め姫付きの侍女として傍についている。。それはもうロリ好きのストーカーなのではないかというくらいやばい人に……て、人じゃなくて精霊王か。でも精霊王としてあれはどうかと思います。

 とにかく、リアさんもウェンディもアミンたちに対して怒っているらしい。もしアミンたちがリアさんとウェンディに見つかったらただでは済まないだろう。

 そんな訳でアミンたちは長い間隠れ潜むようにして暮らしていた。報酬に目が眩んでマリコーに協力しなければ今でも潜伏生活は続いていたのかもしれない。まあ何となく続かなかったんじゃないかって気はするけど。

 で、マリコーの下を去ってからアミンたちがどうしたのかと言うと……。

「前に隠れていた浮島はもう危険かなあってことになってあそこに戻るのは止めたの。古代金竜(エンシェントゴールドドラゴン)とかもいて魔力探知のいいカモフラージュになっていたんだけどねぇ」
「へぇ」

 古代金竜(エンシェントゴールドドラゴン)か。

 それはさぞかし強大な魔力の持ち主だろうな。他の小さな魔力は古代金竜(エンシェントゴールドドラゴン)の魔力に圧倒されて探知で引っかからなくなっていたんじゃないか?

 強すぎる魔力のせいで他の魔力が探知で反応しなくなることはあるからな。そう考えると古代金竜(エンシェントゴールドドラゴン)はアミンたちにとっていい隠れ蓑になっていたのだろう。

 とは言え、一度露出してしまったアミンたちが再び古代金竜(エンシェントゴールドドラゴン)のいる浮島に戻って潜伏生活を送れるかと問われたら俺は「無理」と答える。

 少なくともラキアはあのワークエの最中に見つけたアミンたちの魔力をマークしているだろうしひょっとするとウェンディもアミンたちの存在に気づいたかもしれない。リアさんは調整中だしどうなのかなぁ。

 つーことは今俺の前にいるアミンのこともラキアなら認識している……のか? うん、認識しているだろうな。

 リアさんは調整中だからアレとして、ウェンディも気づいているならそろそろ現れてもおかしくないよな。

 俺はアミンがこの森に隠れている理由を訊いたのだがそれについての答えは「他の二人が森の中に強大な魔力を感じたから」というものだった。

 まあ、浮島では古代金竜(エンシェントゴールドドラゴン)の魔力を隠れ蓑にしていたのだし、それと同じことをしようとしていたとしても不思議ではない。その強大な魔力の持ち主が何なのかは気になるところだが。

 まあ、それについては後で調べよう。

 俺は質問を変えた。

「ところで、他の二人はどうした?」
「知らない」

 アミンが即答した。

「食料を調達するとか言って隠れ家から出て行ったきり帰ってないの。もうあれから2日も経つってのに」
「……」

 おや?

 これ、まさかこいつを置いて逃げた?

 俺はアミンを見た。

 小柄で可愛らしい感じのする竜人だがどこか頼りなさそうな雰囲気がある。

 さっきもフォレストウルフ(通常よりでかかった)に追われて逃げ回っていたし。

 あと、食費とかもかかりそうだし。これ地味に大問題だよね。

 あ、何だかこいつが本当に他の二人に捨てられたような気がしてきた。

 俺が可哀想な子を見るような目をしていたのだろう。アミンが睨んできた。

「な、何よ」
「いや、あんたこれから強く生きろよ」
「はぁ?」
「女一人の潜伏生活なんて俺には想像もつかないくらいきつそうだが自分で撒いた種だ。最後まで頑張れ」
「……」

 別に俺はこいつをラキアたちに突き出すつもりなんてない。

 シャーリー姫のことを思えば許せるものでもないがそれにしたってもう遠い過去の話だ。

 ウェンディたちがどうしても許せないというならそれはそれ。自分たちで断罪なり何なりすればいい。俺は知らん。

 てことで。

 俺は空になった大皿とコップを回収するとアミンに背を向けた。

「じゃあな、もうフォレストウルフなんかに追われるなよ」

 *

「なあ」

 キャンプ地へと向かいながら俺は後ろからついてくる人物に声をかけた。

「何故、俺の後をついてくる?」
「べべべ別にアミンがどこに行こうと勝手でしょ」
「……」

 怒ったような恥ずかしがっているような声に俺は頭を抱えたくなる。

 こいつツンデレかよ。

 あ、ツンデレという言葉は昔お嬢様から教わった言葉です。イアナ嬢とかもツンデレに分類されますね。

 わぁ、そうなるとアミンとイアナ嬢がキャラ被るのか。二人とも大食いだし。面倒くさい感じも似てるし。

 うーん、ツンデレは二人も要らないなぁ。

「ついてくるな」
「やだっ」

 俺が追い払おうとするとアミンが拒否した。

 思わずため息が出る。

「他の二人が隠れ家に帰ってくるかもしれないぞ。その時にあんたがいなければ心配するだろ」
「二人ともアミンの魔力をすぐ見つけられるし、その気になればすぐ追ってこれると思う」
「そうなのか? なら、あんたも二人の魔力を探るとか……」
「アミン、そういうの苦手なの」
「……」

 しゅんとなった後ろの気配に俺は肩を落とした。こいつマジめんどい。

「俺が戻る場所には他に俺の仲間とかがいるんだが」
「大丈夫、アミンそういうの気にしないから」
「いや気にしろよ」

 こいつ一度は俺たちと敵対関係にあったんだぞ。離脱したとは言えワークエでマリコー側についていたんだし。

 ああ、そうか。別に俺たちと直接相対した訳じゃないんだよな。わぁ、何かモヤモヤする。

「それにまたあのパンみたいな美味しい物を食べられるかもしれないし」

 ぼそっと漏らしたアミンの言葉を俺は聞き逃さなかった。

「おい、さっき食べたばかりでまだ食う気かよ」

 俺が振り向くとアミンが顔を背けた。

「べべべ別に食べ物に釣られてついてきた訳じゃないんだからねっ」
「……」

 真っ赤になったアミンを凝視しながら俺は無言でつっこんだ。

 嘘つけ。

 試しに収納からウマイボー(チーズ味)を取り出してみる。

 アミンの目がウマイボー(チーズ味)に釘付けになった。

 ウマイボー(チーズ味)を右に振ると右に左に振ると左にアミンの視線が動く。わぁ、面白い。

 これ、ポイっとどっかに投げたら取りに行くんじゃないか? やってみたいが……ま、まあ食べ物を粗末にするのは良くないか。勿体ないしな。

 とか思っているとアミンの口から涎が垂れた。

 慌てて口を拭うアミンの顔が赤く……って、こいつどんだけ赤くなるんだよ。

 なーんか可愛かったのでウマイボー(チーズ味)を差し出した。

 遠慮がちに俺をちらちらと見てきたのでうなずいてやる。

 瞬間、俺の手からウマイボー(チーズ味)が消えた。

 モグモグと咀嚼するアミン。

 うわっ、一瞬でウマイボー(チーズ味)を奪って食いやがった。マジかこいつ。

「これも美味しいわね(モグモグ)。サクサクした食感とかチーズの塩気とか(ゴックン)」
「……」

 何だろう。

 こいつにイアナ嬢の姿がダブって見えるのだが。

 あれか、やっぱりキャラが被っているからか?

「ねぇ、今のもっとないの? あれっぽっちじゃ全然食べ足りないんだけど。せめてあと100本くらいはないと」
「……」

 俺はこの場にいないもう一人のツンデレに言った。

 イアナ嬢。

 お前の存在を脅かす奴が現れたぞ。

 しかも(大食い的に)強敵だ。
 
 
 
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