第202話 俺たちは再び悪霊に挑む

文字数 3,332文字

 冒険者ギルドでイアナ嬢たちと合流してからアリス・カセイダーのいる宿屋に向かった。

 ジュークとニジュウは無断外泊をしたため孤児院でお説教アンド外出禁止の罰を受けている。なので本日は「聖なる意思(ホーリーウィル)」の正規メンバーのみの活動となった(ワンワンは冒険者ではないので非正規メンバーの数にも入っていない)。

 ……て、思っていたんだが。

「……」
「ん? 俺の顔に何かついとるか?」
「いや」

 なぜか俺たちに同行しているアロハシャツと短パン姿のイケメン。

 おい、この冬空にその格好はないだろ。せめて上着を着ろ。

 エディオンが金髪の上に疑問符を並べながら首を傾げた。

「この国の王様とやらの依頼した仕事なんじゃろ? 俺も一応この街に来てから冒険者登録をしたけぇお前らの手伝いをさせろや」
「あ、あのーエディオン様の冒険者ランクは幾つなんですか?」

 おずおずといった感じでイアナ嬢が質問した。

 エディオンがにやりとする。

「最初はFじゃったんじゃがのう、なーんかラキアに教えてもろうた森ででっかい鳥っつーかクマみたいなんを五体ほどしばいて来たらいきなりCになった」
「……」

 イアナ嬢、絶句。

 てか、その鳥っつーかクマみたいなんってバンタムベアなのでは?

 ラキア、お前こいつにもアーワの森を教えたのかよ。

 いやこいつならバンタムベアどころかザワワ湖のレイクガーディアンだって余裕で討伐できそうだけどさ。何せ古代金竜(エンシェントゴールドドラゴン)な訳だし。

「そ、そんなに一気にランクアップしたのって僕聞いたことないよ」
「落ち着けシュナ、前例ならここにいる」

 俺はイアナ嬢を指差した。

 イアナ嬢もランクFからCになったからなぁ。シュナとパーティー組ませるためだけど。俺もそれでランクDからCになったし。

「まあ俺はランクなんぞどうでもええがな。それよりお前らと楽しく遊べることの方が大事じゃけぇ」

 エディオンがそう言って笑うがどうにも笑顔が胡散臭い。どこまで本心なのやら。

「おいあんた、浮島はいいのか? 兄貴分のあんたがいなくなって舎弟たちが困ってるんじゃないのか?」

 できればさっさと帰って欲しい気持ちから俺は尋ねた。

 既にラキアもいるし古代竜(エンシェントドラゴン)なんて二頭もいなくていいだろ。

 この流れでまた別の古代竜なんて現れた日には……ああ、想像しただけでもめんどい。

「別に俺がおらんでも何とかなるじゃろ。それよりアミンを知らん土地に放っておく方が心配じゃけぇ」
「……」

 アミン。

 こいつ、何とかしてくんない?

 げんなりしつつ目的地に着くとエディオンが露骨に顔をしかめた。

 じっと件の宿屋を睨みつけている。

「こいつはまた、えらく珍しいもんがおるようじゃのう」
「珍しいもの?」

 イアナ嬢が頭の上に疑問符を浮かべた。

 彼女の影から笑い声がする。

「ぷーくすくす。姐さんはわかってないですねぇ。うぷぷっ、古代金竜(エンシェントゴールドドラゴン)が珍しがるものと言ったら、ぷぷぷっ、食い物か財宝でしょうに」
「ああなるほど」
「いや全然違うぞ」

 失礼な主従にエディオンがやや冷たい声でつっこんだ。

「俺は美食を極めたけえのう、食い物に珍しい物なんぞのうなっとるぞい」
「あ、そうなんですか。それは羨ましい」
「ぷぷっ、そいつは新しい食の発見とかもなさそうでつまらなそうですねぇ。ぷぷぷぷっ、おいらだったら悲しいなぁ」

 古代金竜(エンシェントゴールドドラゴン)の言葉に何とも微妙な感想を述べる主従。

 あ、エディオンが反応に困ってる。

 こいつら地味に失礼だから叱ってもいいですよ。てかむしろ叱ってください。

 特にワンワンには厳しい躾が必要かもしれませんよ。

「きっとアリス・カセイダーに憑いてる悪霊のことを言ってるんだと思うよ」

 俺でもわかってたことをシュナが改めて言った。

 そして彼の右肩には本日も不機嫌そうな雷の精霊ラ・ムー。

「こんなクエストどうでもいいから帰ろう」と言いたげにシュナの髪を引っ張って宿とは反対方向に連れて行こうとしている。

「ラ・ムー、構って欲しいのかもしれないけど今は我慢してよ。僕たちこれから大事な仕事をしないといけないんだからさ」

 俺なら「邪魔くさいっ」て振り払ってしまうんだがシュナはさすが勇者というか対応が優しい。

 ……じゃなくて。

 おいシュナ、そいつは構って欲しいからではなくこの宿屋に入りたくないだけだと思うぞ。

 でもまあ本気で嫌ならシュナを雷で感電させて動けなくするとか色々妨害する方法はあるんだからそうしないってことは……うん、そこまで嫌じゃないんだろうな。

 精霊も案外可愛いなぁ(ほっこり)。


 *


 宿屋の主人に挨拶すると彼はエディオンをしげしげと見つめてきた。

 エディオンはニコニコと胡散臭い笑みを浮かべている。

「こちらの方は?」
「臨時メンバー」

 さすがにCランク冒険者となったエディオンをギロックたちと同じ扱いにするのは気が引けたのでそういうことにした。

 ワンワンはイアナ嬢の従者なので説明は不要だろう。前回も影の中にいたんだし。

 いたよね?

「ああ、それと」

 若干気まずそうにイアナ嬢が告げた。

「今日はあたしの駄犬がついてきてるから。大丈夫、迷惑はかけないようにするわ」
「犬、ですかな? はて?」

 と、宿屋の主人があたりを見回すがそこにワンワンの姿はない。

 イアナ嬢の影の中にいたんじゃ見つからないよね。

 て、ちょい待て。

 今「今日は」って言わなかったか?
 今日は、て。

 おいおい。

「ポチ、ご挨拶なさい」
「ぷーくすくす、どうも。おいらは姐さんの忠実なる超有能な従者ワンフーワン・ジルベール・ケンネル・デル・ゴールデンレトリーバー。よろしくぅ! ぷーくすくす」
「この駄……おほほ、ごめんなさいね。まだ躾が不十分みたいで」
「い、いえ」

 イアナ嬢の影から出ずにワンワンが宿屋の主人に挨拶した。むっちゃ無作法である。

 イアナ嬢がこめかみをピクピクさせながら取り繕うとするが……おいイアナ嬢、お前動揺して口調がおかしくなってるぞ。

 そんなやりとりのお陰かエディオンのことはうやむやになった。

 なお、ワンワンはイアナ嬢が銀の鈴亭に戻った時に合流したとかでその時に彼の不在が発覚したとのこと。

「お腹空いたから適当に食べ歩きしてました」そうなんだけどめっさ嘘臭いなぁ。

 イアナ嬢は「あんただ犬の癖に主人を放って食べ歩きなんて良い度胸ね!」て怒ったそうだ。いや信じちゃうのかよ。


 *


 俺たちは宿屋の主人を先頭にアリスのいる部屋に進んだ。

 例によって廊下から既にやばい気配がする。何というか、これはもうただの魔力じゃなくて邪気だな。めっちゃ悪そう。

 そして、アリスの部屋に近づく度にご機嫌がどんどん斜めになっていくラ・ムー。これ一周回って機嫌直ったりしないか……はいはい、しないですよね、ごめんなさい。

 とか思っていたらエディオンも表情を険しくしていた。

「こいつはあれじゃな。放置できん最悪じゃけぇ」
「そんなにやばいのか?」

 あまりにも声のトーンがマジだったので俺は聞き返してしまった。

 エディオンが重々しくうなずく。

「下手すりゃ死人が出るぞい」
「……」

 うん。

 そんな気してた。

 昨日よりスムーズに部屋の前まで来た。

 宿屋の主人がドアをノックする。

「アリスお嬢様、昨日の冒険者の方たちを連れて来ました」
「入って頂戴」

 パリーンッ!

 ドゴッ!

 バキッ!

 アリスが返事をすると続け様に破壊音が響く。

 そして若い女性の悲鳴。

「きゃああああああああっ!」

 その聞いたことのある声に俺たちは顔を見合わせる。

 あの悪霊だ。

 ええっと、カーリーだっけ?

 まあ入室の許可も下りているので部屋に入るとしよう。

 と、俺が宿屋の主人にうなずきドアを開けさせようとすると中性的な声が聞こえてきた。

「!」


『警告! 警告!』
『これよりイベント戦闘「カーリー&ブラックサーバント戦」を開始します』

『勝利条件 ブラックサーバントの駆逐』
『完全勝利条件 このイベント先頭では完全勝利条件はありません』
『敗北条件 冒険者パーティーの全滅』


「……」

 ワォ。

 俺はつい苦笑してしまった。

 ここで天の声かよ。
 
 
 
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