第205話 俺たちは呼び出される
文字数 3,554文字
魔核を摘出されたアリス・カセイダー(状態も安定したしもうこの名で呼んでいいはず)はエディオンによって完全回復した。
アリスを包んでいたあの巨大な黒い人型も魔核を失ったからか消滅している。それはもうあっさりという言葉が似合うくらいの消え方だった。
ただ騒動によって宿屋が崩壊してしまったため別の宿屋で休んでもらっている。崩れてしまった宿屋の主人がカセイダー伯爵と連絡をとっているのでじきに迎えが来るだろう。クエスト達成の手続きも宿屋の主人が代理してくれたため指名依頼の件も一応の解決とできるはずだ。
つーか、あの宿屋の主人って実は結構な立場の人物だったのかもな。
ほら、カセイダー伯爵の代わりにクエスト達成の承認もしてくれた訳だし。
カセイダー伯爵家の家令とかだったり?
いや、さすがにそれはないか。
まあ、あんまり深掘りはしないでおこう。めんどいしね。
宿屋の壁が壊れなかった謎とかまだ解決していない疑問もあるけどそれも後でいいや。
お嬢様あたりが何か知ってるかもしれないし(お嬢様に会う口実にもなるしね)。
*
冒険者ギルドの受付でクエスト達成報告をするとギルドマスターの部屋に案内された。
「おう、早くもクエスト達成だな。感心感心」
執務机で書類仕事をしていた手を止め、禿げ頭をてかてかさせながらギルドマスターのウィッグ・ハーゲンが出迎えた。目が笑っていないのでとても胡散臭い。
「……」
「ん? ジェイどうした? 俺の顔に何かついちょるか?」
俺がついエディオンを見てしまうと彼は首を傾げた。
胡散臭い笑顔の奴がここにもいたよ。
とりあえず流れでそのまま執務机の前に俺たちは並んだ。
ギルドマスターに向かう形で右からエディオン、俺、イアナ嬢、そしてシュナという順番だ。
執務机を挟んで対面にギルドマスターのウィッグ・ハーゲンが座っている。彼の前には筒状に丸めた羊皮紙の山と書きかけの書類があった。
キラリと禿げ頭を光らせてからギルドマスターが身を乗り出す。
「で、伯爵令嬢に取り憑いてた悪霊ってのはどんなだった? やっぱ強かったのか? 何でも王都の高ランク冒険者や教会の奴らが何人もしくじったって話じゃねぇか」
「……」
ええっと。
このクエストはフィリップ陛下からの指名依頼で実質王命みたいなものなんだよな。
その割に秘密保持ができてないんじゃないか?
ああでもこいつギルドマスターだし別に何か知られても問題ないのか。ある程度話を通し易くしないとギルドも何かあった時の対処ができないもんな。
とか俺が思っている間に他の三人が口を開いた。
「強さはまあまあじゃ。ほんじゃが俺が本気を出したら即でこの大陸ごと滅ぼしてしまうけぇ適度に手を抜かんといけんかったのう」
エディオン。
「巨大化して宿屋を壊したりしてたけどどうってことなかったわ。あたしがいるから他の建物とかに被害を出したなんてこともないし」
イアナ嬢。
「僕たちにかかれば大した相手ってこともなかったよ。宿屋は壊れちゃったけど主人や従業員は全員無事だし。これ事前にもう少し相手の情報を貰えていたらもっと被害を小さくできたんじゃないかな」
シュナ。
三人のコメントを受けてギルドマスターが鼻を鳴らした。
あれ何か不満そう?
「んだよ弱いのかよつまんねぇな。俺が聞いた話だと攻撃が全く通らねぇって……」
「いや弱かった訳ではないですよ。ただ俺たちが奴より強かっただけです」
俺はとりあえず訂正した。
自分でもちょい生意気な発言っぽくなってしまったが事実なので仕方ない。
ギルドマスターが片眉を上げた。
「言ってくれるねぇ。だが、お前さんのそういうところは好きだぜ、ハミルトン」
「……」
ぞくり。
ギルドマスターの視線に俺は背中に冷たいものを感じた。
めっちゃ嫌な予感がする。
そういや貸し一つあったんだよな。不本意だが。
ふっと笑んでからギルドマスターはエディオンに顔を向けた。
「で? お前さんはいつからこいつらのパーティーに加入したんだ?」
「いつも何も、俺は別にパーティーに入ってなんかおらんぞ」
「おいハミルトン」
ギルドマスターの禿げ頭が光った。いや、光ったのは鋭い眼光もか。
「このクエスト、お前さんたち『聖なる意思(ホーリーウィル)』を指名した依頼だったんだぜ? しかもフィリップ陛下の御指名だ。それなのに無関係の奴を関わらせるとはどういう了見だコラッ!」
「あ、いやそれは」
俺が言い訳しようとしたらそれより先に他の三人が口答えした。
「そんならそうと先に俺に言うたらええやないか。ジェイを攻めるんは筋違いじゃろ」
エディオン。
「あたしたちが好き好んで連れて行った訳じゃないわよ。勝手についてきた人の分まで責任取れとか言われても困るわ」
イアナ嬢。
「勇者の僕が同行を許したんだけど問題あるの? きっとフィリップ陛下も僕が『連れて行きたい』って頼んだら許可してくれたと思うよ?」
シュナ。
何だろう、シュナがめっさ頼もしく見えるんだが。
あれか、勇者って伊達じゃないのか。
おっかしいなぁ、この三人の中だとエディオンが一番偉い(つーかギルドマスターより偉い)はずなんだけど一番そうじゃなく見えるんだよなぁ。
何でだろうなぁ?
とか俺が思ってたらどこからか鐘の音が聞こえた。
教会の鐘ではない。それよりももっと小規模で音域の高い響きだ。
ピンポンパンぽん。
『はいはーい、天の声ですよぉ』
『おい、そのふざけた喋り方は止めろ。気が抜ける』
『ええっ、こっちの方が親しみ易いのにぃ』
『親しみとかは要らん。むしろ敵意を持たせろ』
『それじゃ楽しくなさそう』
『楽しさも要らん。余計なことはいいから本題をさっさと話せ』
『もう(ピーと雑音が入る)はしょうがないなぁ。あ、アルガーダ王国の国民の皆さんこんにちは。こちら(またピーと雑音)ですぅ』
『しゃきっと話せんのかこいつは』
『(無視して)あのね、実はもう少ししたら楽しいワークエが始まるのぉ。だからアルガーダ王国の国民の皆さんにはそのことを留意しながら待っていて欲しいなあってぇ』
『死にたくなければせいぜい鍛えるんだな。まあ、何をしたところでお前らには死しかないのだが』
『もうっ、そういうこと言わないでよぉっ! 楽しいワークエが殺伐としたものになっちゃうじゃない』
『命のやりとりに楽しさを求めるな』
『そんなんだからぁ(ピーと雑音)は皆に誤解されるのよぉ。本当は可愛い物大好きな……』
『だあーっ! 止めろこの馬鹿!』
ぷつっ。
突然何かが斬れたような音がして謎の二人の会話が途絶えた。
「……」
えっ、今の何?
天の声とか自称してたけどそうは聞こえなかったよ。
てことは……あの二人って誰?
やっぱり天の声?
うーん?
「あちゃー、あいつらこんなことするとは思わなかったよ」
声。
しかも、どこかで聞いた声だった。
ギルドマスターの部屋で俺たちが顔を見合わせているとさらにさっきの声がした。
「緊急事態(エマージェンシー)につきコードD51を発動。ディメンションコアからの承認プロセスを無視してユニットを召喚するよ!」
「おいジョウ、あいつらをユニット呼ばわりかよ」
「そういうつっこみは要らないからっ!」
あ、こいつらランドの森で会ったあいつらだ。
そう俺が思った時、俺たちの足下が光った。
足下からの青白い光が強烈に俺たちを照らす。
ギルドマスターのウィッグ・ハーゲンが驚愕の表情をしたまま固まった。
まるでこの部屋で彼だけが時間を止められてしまったかのように動かずにいる。生きたまま石化したという表現でもいいかもしれない。そのくらいピクリともしない。
「ふむ」
俺がギルドマスターの変化に驚いているとエディオンが納得したように息をついた。
「これはあれじゃ、呼び出しじゃけぇ」
「呼び出し? 一体誰が?」
イアナ嬢が俺の腕にしがみついている。締め付けがきつくて痛い。ちょっとは加減しろ。
「さっきの声どこかで聞いたことあるんだけど」
シュナが「うーん?」と首を傾げている。
彼の右肩で現出したラ・ムーが「逃げよう」といった感じで何やら騒いでいるが通じていないようだ。それとも無視しているのか?
そして、そうしている間にも足下の光が強まっていく。
光の中に銀色の光で魔方陣が描かれていた。なかなかに興味深い術式だ。それに芸が細かい。光の中に別の光で魔方陣を描くだなんて俺が宮廷魔導師だったら調べまくりたくなるぞ。
お嬢様とかもめっちゃ興味を示すだろうなぁ。
それはもう大喜びで調べるだろうなぁ。可愛い。想像した姿も可愛いです。さすがお嬢様。
一気に青白い光が爆発し、堪えきれなかった俺は反射的に目を閉じる。
目を開くと俺たちは白い空間に来ていた。
アリスを包んでいたあの巨大な黒い人型も魔核を失ったからか消滅している。それはもうあっさりという言葉が似合うくらいの消え方だった。
ただ騒動によって宿屋が崩壊してしまったため別の宿屋で休んでもらっている。崩れてしまった宿屋の主人がカセイダー伯爵と連絡をとっているのでじきに迎えが来るだろう。クエスト達成の手続きも宿屋の主人が代理してくれたため指名依頼の件も一応の解決とできるはずだ。
つーか、あの宿屋の主人って実は結構な立場の人物だったのかもな。
ほら、カセイダー伯爵の代わりにクエスト達成の承認もしてくれた訳だし。
カセイダー伯爵家の家令とかだったり?
いや、さすがにそれはないか。
まあ、あんまり深掘りはしないでおこう。めんどいしね。
宿屋の壁が壊れなかった謎とかまだ解決していない疑問もあるけどそれも後でいいや。
お嬢様あたりが何か知ってるかもしれないし(お嬢様に会う口実にもなるしね)。
*
冒険者ギルドの受付でクエスト達成報告をするとギルドマスターの部屋に案内された。
「おう、早くもクエスト達成だな。感心感心」
執務机で書類仕事をしていた手を止め、禿げ頭をてかてかさせながらギルドマスターのウィッグ・ハーゲンが出迎えた。目が笑っていないのでとても胡散臭い。
「……」
「ん? ジェイどうした? 俺の顔に何かついちょるか?」
俺がついエディオンを見てしまうと彼は首を傾げた。
胡散臭い笑顔の奴がここにもいたよ。
とりあえず流れでそのまま執務机の前に俺たちは並んだ。
ギルドマスターに向かう形で右からエディオン、俺、イアナ嬢、そしてシュナという順番だ。
執務机を挟んで対面にギルドマスターのウィッグ・ハーゲンが座っている。彼の前には筒状に丸めた羊皮紙の山と書きかけの書類があった。
キラリと禿げ頭を光らせてからギルドマスターが身を乗り出す。
「で、伯爵令嬢に取り憑いてた悪霊ってのはどんなだった? やっぱ強かったのか? 何でも王都の高ランク冒険者や教会の奴らが何人もしくじったって話じゃねぇか」
「……」
ええっと。
このクエストはフィリップ陛下からの指名依頼で実質王命みたいなものなんだよな。
その割に秘密保持ができてないんじゃないか?
ああでもこいつギルドマスターだし別に何か知られても問題ないのか。ある程度話を通し易くしないとギルドも何かあった時の対処ができないもんな。
とか俺が思っている間に他の三人が口を開いた。
「強さはまあまあじゃ。ほんじゃが俺が本気を出したら即でこの大陸ごと滅ぼしてしまうけぇ適度に手を抜かんといけんかったのう」
エディオン。
「巨大化して宿屋を壊したりしてたけどどうってことなかったわ。あたしがいるから他の建物とかに被害を出したなんてこともないし」
イアナ嬢。
「僕たちにかかれば大した相手ってこともなかったよ。宿屋は壊れちゃったけど主人や従業員は全員無事だし。これ事前にもう少し相手の情報を貰えていたらもっと被害を小さくできたんじゃないかな」
シュナ。
三人のコメントを受けてギルドマスターが鼻を鳴らした。
あれ何か不満そう?
「んだよ弱いのかよつまんねぇな。俺が聞いた話だと攻撃が全く通らねぇって……」
「いや弱かった訳ではないですよ。ただ俺たちが奴より強かっただけです」
俺はとりあえず訂正した。
自分でもちょい生意気な発言っぽくなってしまったが事実なので仕方ない。
ギルドマスターが片眉を上げた。
「言ってくれるねぇ。だが、お前さんのそういうところは好きだぜ、ハミルトン」
「……」
ぞくり。
ギルドマスターの視線に俺は背中に冷たいものを感じた。
めっちゃ嫌な予感がする。
そういや貸し一つあったんだよな。不本意だが。
ふっと笑んでからギルドマスターはエディオンに顔を向けた。
「で? お前さんはいつからこいつらのパーティーに加入したんだ?」
「いつも何も、俺は別にパーティーに入ってなんかおらんぞ」
「おいハミルトン」
ギルドマスターの禿げ頭が光った。いや、光ったのは鋭い眼光もか。
「このクエスト、お前さんたち『聖なる意思(ホーリーウィル)』を指名した依頼だったんだぜ? しかもフィリップ陛下の御指名だ。それなのに無関係の奴を関わらせるとはどういう了見だコラッ!」
「あ、いやそれは」
俺が言い訳しようとしたらそれより先に他の三人が口答えした。
「そんならそうと先に俺に言うたらええやないか。ジェイを攻めるんは筋違いじゃろ」
エディオン。
「あたしたちが好き好んで連れて行った訳じゃないわよ。勝手についてきた人の分まで責任取れとか言われても困るわ」
イアナ嬢。
「勇者の僕が同行を許したんだけど問題あるの? きっとフィリップ陛下も僕が『連れて行きたい』って頼んだら許可してくれたと思うよ?」
シュナ。
何だろう、シュナがめっさ頼もしく見えるんだが。
あれか、勇者って伊達じゃないのか。
おっかしいなぁ、この三人の中だとエディオンが一番偉い(つーかギルドマスターより偉い)はずなんだけど一番そうじゃなく見えるんだよなぁ。
何でだろうなぁ?
とか俺が思ってたらどこからか鐘の音が聞こえた。
教会の鐘ではない。それよりももっと小規模で音域の高い響きだ。
ピンポンパンぽん。
『はいはーい、天の声ですよぉ』
『おい、そのふざけた喋り方は止めろ。気が抜ける』
『ええっ、こっちの方が親しみ易いのにぃ』
『親しみとかは要らん。むしろ敵意を持たせろ』
『それじゃ楽しくなさそう』
『楽しさも要らん。余計なことはいいから本題をさっさと話せ』
『もう(ピーと雑音が入る)はしょうがないなぁ。あ、アルガーダ王国の国民の皆さんこんにちは。こちら(またピーと雑音)ですぅ』
『しゃきっと話せんのかこいつは』
『(無視して)あのね、実はもう少ししたら楽しいワークエが始まるのぉ。だからアルガーダ王国の国民の皆さんにはそのことを留意しながら待っていて欲しいなあってぇ』
『死にたくなければせいぜい鍛えるんだな。まあ、何をしたところでお前らには死しかないのだが』
『もうっ、そういうこと言わないでよぉっ! 楽しいワークエが殺伐としたものになっちゃうじゃない』
『命のやりとりに楽しさを求めるな』
『そんなんだからぁ(ピーと雑音)は皆に誤解されるのよぉ。本当は可愛い物大好きな……』
『だあーっ! 止めろこの馬鹿!』
ぷつっ。
突然何かが斬れたような音がして謎の二人の会話が途絶えた。
「……」
えっ、今の何?
天の声とか自称してたけどそうは聞こえなかったよ。
てことは……あの二人って誰?
やっぱり天の声?
うーん?
「あちゃー、あいつらこんなことするとは思わなかったよ」
声。
しかも、どこかで聞いた声だった。
ギルドマスターの部屋で俺たちが顔を見合わせているとさらにさっきの声がした。
「緊急事態(エマージェンシー)につきコードD51を発動。ディメンションコアからの承認プロセスを無視してユニットを召喚するよ!」
「おいジョウ、あいつらをユニット呼ばわりかよ」
「そういうつっこみは要らないからっ!」
あ、こいつらランドの森で会ったあいつらだ。
そう俺が思った時、俺たちの足下が光った。
足下からの青白い光が強烈に俺たちを照らす。
ギルドマスターのウィッグ・ハーゲンが驚愕の表情をしたまま固まった。
まるでこの部屋で彼だけが時間を止められてしまったかのように動かずにいる。生きたまま石化したという表現でもいいかもしれない。そのくらいピクリともしない。
「ふむ」
俺がギルドマスターの変化に驚いているとエディオンが納得したように息をついた。
「これはあれじゃ、呼び出しじゃけぇ」
「呼び出し? 一体誰が?」
イアナ嬢が俺の腕にしがみついている。締め付けがきつくて痛い。ちょっとは加減しろ。
「さっきの声どこかで聞いたことあるんだけど」
シュナが「うーん?」と首を傾げている。
彼の右肩で現出したラ・ムーが「逃げよう」といった感じで何やら騒いでいるが通じていないようだ。それとも無視しているのか?
そして、そうしている間にも足下の光が強まっていく。
光の中に銀色の光で魔方陣が描かれていた。なかなかに興味深い術式だ。それに芸が細かい。光の中に別の光で魔方陣を描くだなんて俺が宮廷魔導師だったら調べまくりたくなるぞ。
お嬢様とかもめっちゃ興味を示すだろうなぁ。
それはもう大喜びで調べるだろうなぁ。可愛い。想像した姿も可愛いです。さすがお嬢様。
一気に青白い光が爆発し、堪えきれなかった俺は反射的に目を閉じる。
目を開くと俺たちは白い空間に来ていた。