第137話 俺、お嬢様に告白される

文字数 3,261文字

 お嬢様とリーエフが少し話をした後、俺だけが皆から離された。

 同じ白い空間にいるのだが俺とお嬢様の二人だけになると白い壁と小さな丸いテーブル、それに白い椅子が二脚現れる。ご丁寧なことにテーブルの上にはティーセットと菓子器まであった。

 菓子器の中は……ん? 何だこれ?

「ああ、これは羊羹ですね。甘くて美味しいですよ」

 そう言いながらウサミミと仮面を外すと、お嬢様は菓子器に付属してあった短い串で一切れ取り品良く囓って見せた。

「ジェイも遠慮せずに食べてくださいね」
「は、はぁ」

 促されたので俺はお嬢様を真似て食べてみる。

「……!」

 一口囓っただけで口内に上品な甘さが広がった。しっとりとした触感もいい。

 そしてこのお茶は……おや、すっきりした苦みがあるな。

 緑茶というのはアルガーダ王国に広く出回っていないが一部の地域では少量飲まれている。

 ライドナウ領だと港町ポートブロッサムの北側の地域で栽培が行われているはずだった。

「……」

 て。

 ええっと、当たり前のようにメイド姿のリアさんが給仕をし始めているんですが。

 この人、どっから湧いたの?

「ジェイ、どうかしましたか?」
「いや、リアさんが……」

 動揺した俺にお嬢様が訊いてきたので思わずそう応えてしまった。

 ちらとリアさんに目を遣ってからお嬢様が微笑む。あ、何かわざとらしい。

「ふふっ、こういう場所でお茶をする時に仕えてくれる人がいると便利でしょ? ほら、どうしたって普通の人には任せられないし」
「いや確かに普通の人ではありませんが……て言うかこの人闇の精霊王ですよね? しかも、調整送りになってるはずの」
「ええ。ちなみにこちらは分身体の方で本体は現在進行形で調整中です」
「……」

 リアさん。

 まさかとは思いますが別の分身体をシャルロット姫の傍に置いてませんよね?

「それと離宮の方にもう一人の分身体がいますね。ほら、いきなりシャルロット姫付きの侍女がいなくなったら問題ですし」
「……」

 うん。

 精霊王って便利だね。

 ちょいつっこみたいけど疲れそうだから止めておこうっと。

 俺がそう心に決めて緑茶を飲むとお嬢様が告げた。

「私、ジェイに嘘をついていたんです」
「!」

 不意の告白に吃驚して飲んでいた緑茶を吹き出しそうになったのをグッと堪えた。よし、セーフ。

「あ、あのそれはどういう……」
「私がただの元公爵令嬢ではないってことはジェイも知ってますよね?」
「は、はい」

 そりゃ、さすがに俺でもそのくらいわかる。

 大体、普通の元公爵令嬢はあんなウサミミと仮面をつけたりしない。いやまあ仮装好きな人ならあり得るのかもだがそういうレアケースをここで挙げるのは何か違うだろう。

 それと、あの店。

 両腕にマジンガの腕輪をつけ、体内にマナドレインキャンセラーやら何やらを備えた俺はとてつもない魔力を保有している。そのお陰でお嬢様の仕掛けた認識阻害を看破できるようになっているのだ。

 お嬢様がシスター仮面一号であるのと同じように、シスターラビットの正体もお嬢様だったのだ。

 つーか、ウサミミ少女やクロネコ仮面の言動からも察することができるんだけどね。たまに言い直したりしてたし。

 そうなるとウサミミ少女とクロネコ仮面の正体もあの二人ってことになるんだな。

 あの黒猫の獣人があーんな格好をして……ぷぷっ、いや笑っちゃ可哀想か。

「王都での活動……いえ、王都だけではなくノーゼア以外での活動は私が学園と王都からの追放処分を受けている関係でああするしかありませんでした。正体を隠して秘密のヒーローごっこをしたかったとかそういうのは微塵もありませんよ」
「……」

 お嬢様はとてもにこやかだ。

 うん、ヒーローごっこをしたかったんですね。わかります。

 ヒーローごっこが何かはよくわかりませんけどわかったことにします。

 こういう時はあえてわかったことにした方が楽だと思い知ってますからね。これでもお嬢様との付き合いは長いんですよ。

「あの二人、クロネコ仮面ことシャムちゃんとシスター仮面二号ことアンゴラちゃんとは王都で知り合いました。同時期に栄光の剣のニコルくんたちとも縁がありまして、その関係でお店の方を手伝ってもらったりしてたんですよ」
「そうなんですか。そういや彼らはどうなったんですか? マリコーに亜空間送りにされていましたよね?」
「あら、気になります?」

 いえ、そんなには。

 とは言えず。

 お嬢様が訊いて欲しそうだったからというのは言わないことにした。まあ、バレバレだろうけど。

「彼らはジェイがマリコーと戦っている間に救出しましたよ。まあ正確にはクロネコ仮面に行ってもらいましたけど。私はマリコーの真の目的がわかったのでそちらの対処を優先しました」
「と言うと?」
「これを回収しちゃいました」

 悪戯っぽく笑い、お嬢様が修道服の袖口から何かを出す。

 それは俺たちのいるテーブルのすぐ傍に現れた。

「……」

 て。

 いやいやいやいや。

 それ、持ってきたんですか?

 えっ、じゃあマリコーが必死こいてやってた大実験て……。

 俺はそのギロックと言うか人形と言うか、まあ人形でいいか……を見つめた。

 最初にマリコーのラボに転移した時に見つけたあの「サンジュウ」だ。

「マリコーのこだわりを感じる逸品ですね。小型ですが疑似ディメンションコアを内臓していますし、エレメンタルリンクとエーテルリンクのアクセス効率も良い感じになっていますから身体強化や魔法・能力がかなり自在に使用可能のようです。難があるとしたらこれを起動させるための魔力量とエーテル含有量ですかねぇ。高性能にし過ぎたせいで思わぬ落とし穴があったといったところでしょうか」
「マリコーはそいつを自分の新しい身体にするつもりだったみたいですよ」
「あぁ、なるほど」

 お嬢様はサンジュウをしばし見つめ、はぁっとため息をついた。

「気持ちはわからなくもないですけど、しょうがない人ですねぇ」
「わかるんですか? お嬢様にも」
「案外、同じことを望む人は多いと思いますよ」

 吐き捨てるようにお嬢様は言った。

「若く綺麗なままで永遠に生き続けたい。まして常人には得られない力を持ったのならなおさらそう思うでしょう。特にマリコーは自分をおばさんと認めたくなかったようですし」
「……」

 わぁ。

 言われてみるとあのおばさんはおばさんって言われるのをすげぇー嫌がっていたな。

 ウサミミ少女の可愛さにめっちゃ嫉妬していたし。

 と、そこで俺は一つ質問が浮かんだ。

「マリコーは管理者なんですよね?」
「ええ」

 お嬢様がこくりとうなずいた。。

 俺は今さら感を抱きながらも訊いた。

「その……管理者って何なんですか?」
「ああ、そう言えばジェイはそういうことをほとんど知らないんですよねぇ」

 お嬢様が中空を見つめ、ため息混じりに言った。

「ただ、私自身も女神プログラムのルールに縛られていますのであんまり詳しいことを話す訳にもいかないんです」
「そもそもその女神プログラムとは何なんですか?」
「この世界の根幹となるシステムのようなものです。大本となるプログラムがあり枝葉のように細かなプログラムが存在しています。それは魔術法則だったり物理法則だったりしますし、生命の転生や消滅に関するものだったりもします。もちろん、精霊や別の世界からの魂の取り扱いに関するものもあったりしますよ」
「……えっと」

 な、何だか聞いちゃいけない類の話な気がしてきたぞ。

「マリコーはどうもプログラムの一部に介入したみたいですね。そのせいで天の声にも影響があったようですし、彼女の実験も必要以上に広範囲に作用したようです」
「ああ、あの薄い板とかですか?」

 その場にいなくても突撃決死隊の全滅を見せられたりしたものなぁ。

「マリコーの介入によるプログラムの影響は別の管理者が修正しますのでじきに元に戻るでしょう。私も後でチェックしますから影響は長引かないと思いますよ」
「別の管理者?」

 思わず頓狂な声になってしまった。

 え、他にも管理者っているの?
 
 
 
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