第149話 俺たちは過去の遺物に襲われる

文字数 2,902文字

 突然上空から放たれた一筋の光。

「アミンっ!」

 ウサミンが叫びながらアミンに体当たりした。

 アミンの魔法で回復したのかそれとも元々そのくらいの体力が残っていたのかわからないが、ウサミンの体当たりはアミンを吹っ飛ばすには充分なものだった。

 そして、そのお陰でアミンは上空から撃たれた光線の被害を免れた。

 ジュッという短い音とともにウサミンは消滅した。

 焦げ跡も肉片も血液の一滴すら残さずウサミンは消えてしまった。

「もうっ、いきなり何するのよ」

 尻餅をつき痛みに顔を歪めつつ半身を起こしたアミンが目を見張った。

「え……ウサミン?」

 目を白黒させ、アミンが慌ててウサミンのいた位置に駆け寄る。もちろんそこにウサミンはいない。

「え、何で? ウサミン?」

 俺はあまりのことに衝撃を受けていたがアミンたちに気をとられている訳にもいかなかった。

 上空から降下してくる人影が二つ。

 それが視認できる高さまで降りてきたとき黒猫が吠えた。

「シャーッ!(対空奥義、猛虎撃墜拳(タイガーパトリオット)!」

 黒猫が空に向かって猫パンチを繰り出し極小の光の塊のような何かを撃ち出した。

 自分の放った光の小ささに納得いかなそうな顔をしながらもう一発放ち、黒猫が苦々しげにその弾道を見つめる。

「……」

 いや、お前弱体化している状態でそれだけできれば大したもんだぞ。。

 俺はそう思ったが口にはしない。黒猫が調子に載っても困るからな。

 黒猫の撃った極小サイズの二つの光が目標に迫り……。

 見えない壁に阻まれるように弾け、消えた。

「……ま、まあいかにも威力がなさそうだったしな。仕方ない」
「ニャ(ちっ、やはり今の状態ではこんなもんか)」

 俺と黒猫がそれぞれ呟いていると別の声が響いた。

 イアナ嬢だ。

「クイックアンドデッド!」

 空へと延びる四つの光。

 しかし、それも見えない壁に阻まれる。

 攻撃されながらも降下し続ける謎の人影たち。

 プーウォルトが唸った。

「この反応、奴か」
「わぁ面倒くせぇ。誰だよ封印解いたの」

 心底嫌そうなシーサイドダック。

 俺はマジンガの腕輪に魔力を流した。

 チャージ。

 マルチロック機能で何度も二つの標的に狙いをつけた。一発ずつなんてしょぼいことはしない。

 誰だか知らないがとっとと終わらせる。

 先に攻撃してきたのはあっちだしな、敵認定して討っても問題ないだろ。

「ウダァッ!」

 俺はマジックパンチを連射した。

 魔力コーティングされた左右の拳が発射されさらに魔力で作られた拳弾が連続で撃ち出される。

「ウダダダダダダダダ……ウダァッ!」

 見えない壁に着弾し爆発音にも似た打撃音を轟かせる。最初に命中した両拳は傷一つなく俺の手首に戻ってくるが拳弾は魔力を拳の形にして撃っているだけなので撃ちっぱなしだ。

「……っ!」
「ニャア(おいおい)」

 相手は無傷だった。

 うーん、と悩ましげにシュナガ首を傾ける。

「僕、あんまり対空技って得意じゃないんだよね」

 カチャリ、と金属音を建てつつ聖剣ハースニールを握り直した。

 シュナの肩に現れるラ・ムー。

 刀身に放電が走り激しくあたりを明滅させた。

 シュナが上空の敵を睨みつけ下段の構えをとる。そのまま腰を低くした。

「届くといいんだけど」

 跳躍。

 常人には不可能な高さまで跳び上がるとシュナは上に向けて聖剣ハースニールを振った。

「トゥルーライトニングエンジェルショット!」

 刀身から放たれた雷撃が雷球と化して降下する敵を襲う。

 見えない壁が阻もうとするがバチバチと雷球の放電が壁の一部を穿って穴を開けた。

 それ自体に意思があるかのようにスパークする雷球が穴から見えない壁の内側へと飛び込んでいく。

「ぬぅ、小癪な」

 色気のある女の声。

 俺の聴覚ではなく直接頭の中に届く声だった。どこかの国の女王様あたりが発していそうな威厳と色気のある声だ。

「これはあの忌々しいラ・ムーの雷球か。またしても妾の前に立ちはだかるとは腹立たしい」

 二つの人影が爆発するように白く光った。

 その威力に内側から破壊されたのか見えない壁が半透明な膜となってさらに崩壊していく。

 やったか。

 俺は期待を込めてそう思ったのだが……。

「やはりあの程度では殺られぬか」
「あいつ、しぶといからなぁ」

 プーウォルトとシーサイドダック。

 どうやら敵が誰だかわかっているようだ。

 俺は二人に訊いた。

「あいつは誰なんだ? 何故攻撃してきた?」
「過去の遺物だ」

 プーウォルトが答え、鋭い視線を俺に向けた。

「それよりサーを忘れているぞ。ミジンコの貴様は上官の言ったこと一つ守れんのか」
「いやそれどころじゃねーだろ」

 呆れるシーサイドダック。

 近づくにつれて人影がはっきりしてきた。

 一人は竜人だ。

 翼を広げ、もう一人を守護するように自身を盾にして降りてきている。いかにも戦士といった感じで武器こそ所持していないが肉弾戦となったら手こずりそうだった。

 そしてもう一人は……。

「ラ・ムー以外は妾の復活祝いにしてはしけた獲物よのぅ。とは言え、まだまだ妾には力が足りぬ。選り好みをする余裕はない……か」

 銀色のドレスを身に纏った長い金髪の女。十代後半くらいに見えるが外見上の年齢より年を重ねているであろうことは容易に想像できた。

 というかあれきっと中身ババァだな。プーウォルトたちの言葉から推測してもそうとしか思えん。

 悪魔の顔を連想させるデザインのサークレットを彼女は装着していた。その二つの目が妖しく赤く光る。

「下僕よ、どうにもミジンコ共が五月蠅くて適わん」
「すぐに処理します」

 竜人が俺たちに向けて指を突きつけた。

 その指先に光が宿る。

「ニャー(さっきのがまた来るぞ)」

 黒猫が吠えた。

 俺たちは全員大急ぎでその場から離れる。攻撃を防御しようとする者はいなかった。ウサミンを一瞬で消滅させた威力を目の当たりにすれば誰でも逃げ出したくなるというものである。

 てかプーウォルトとシーサイドダックも逃げるんかい。

 あいつらなら対抗しそうだったんだけどなぁ。特にプーウォルトとか。

「おいプーウォルト、ご自慢の腕力でどうにかしろよ」
「貴様は本官を何だと思ってる?」
「脳味噌まで筋肉のクマゴリラ」
「……後でぶん殴る」
「そういうところだぞ」

 並んで走るプーウォルトたちの真後ろで光線が降り注いだ。

 かなりギリギリの距離だ。もうちょい足が遅かったら食らっていただろう。

「もうっ、あんなの反則よっ」

 イアナ嬢が立ち止まって背後の上空を見上げ、両手を腰に当てる。

「でも、シュナガあの透明な壁を壊してくれたんだからこっちの攻撃はもう通るわよね」

 素早く両手を前に突き出した。

「クイックアンドデッド!」

 四つの光が空を舞う。

 二つが竜人、もう二つがサークレットの女に迫るが……。

 悪魔の顔を模したサークレットの目が光り、突然、四つの光が輝きを失いただの円盤となった。

 空中で停止した円盤を留任が手刀で叩き壊す。

「こんな程度か。つまらぬのう。これならマンディの時代の連中の方がよほど楽しめたぞ」

 サークレットの女。

 竜人に。

「下僕よ、次はあのミジンコを所望する」
「御意」
 
 
 
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