第100話 俺のパーティーメンバーが大活躍している件

文字数 3,793文字

「以前からマリコーには注意してたんだ」

 場を変えて現在食事中。

 テーブルを囲んで俺とファミマ、ジュークとニジュウが座っている。黒猫は床だ。

 俺の隣の席に座りたがったギロックたちがちょい争ったりしたがそれは割愛。最終的にファミマが俺の隣になることで落ち着きました。

 黒猫がテーブルの上に陣取ろうとしたのは四人がかりで阻止。

 いや、一柱と三人と言うべきか?

 大皿に盛られた謎肉と野草の炒め物から美味そうな匂いが漂っている。もちろん豆のスープとコメと呼ばれる穀物を調理した物も並んでいるが、大皿の肉料理から匂う香辛料の強烈さの前ではどうしても存在感が薄れてしまっている。

 それにしてもこの匂いは凄いな。ちょっと嗅いだだけで食欲を刺激しまくっているぞ。

 まあ、ニジュウだけはめっちゃ嫌そうな顔をしているが。

 ファミマが言葉を接いだ。

「人には手を出してはいけない領分があるんだよ。生命を悪戯に翫ぶのもその一つだ。そして、マリコーのしている実験も生命を玩具にしている。絶対に見過ごせないよね」
「そうだそうだ」
「天使様、もっと言ったレ」

 見た目お子様のギロックたちが囃し立てる。

 気を良くしたのかファミマが鷹揚にうなずいた。

「実験の名の下に村を襲って村人の血液を採取しまくったり、旅人を騙してラボに連れ込んで解剖しまくったり、魔物を狩りまくって魔石を集めまくったり……とにかくマリコーは限度なしにやりたい放題なんだ。そのせいでどれだけの生命が失われたことか。ああっもうっ、思い出しただけでも腹が立つッ!」
「マム、それ全部ジューニたちにやらせてた」
「マム、基本自分の手は汚さない」
「……」

 ふむ。

 俺はジュークたちを見た。

 ジューニというのはジュークとニジュウの姉になるのだろう。ちゃんと聞いてはいないが生まれた順に名前(番号)を付けたのは容易に想像できる。

 それはそれとして、マリコーは何を目的に実験しまくっているんだ?

 訊いてみた。

「なぁ、マリコーは何のために実験しているんだ?」
「あれは無目的だね」
「マム、実験したいからやってるだけ」
「マム、実験したい病患者。しかも治らない確率1000%」

 ファミマ、ジューク、ニジュウ。

 つーかニジュウ、治らない確率1000%ってそれもう駄目だろ。

 ……じゃなくて。

「おいおい、そんな目的もないのに実験しまくってるなんてどこのマッドサイエンティストだよ。てか、俺が思うにマッドサイエンティストだって普通は何かしらの目的があって実験しているはずだぞ」

 ちなみにマッドサイエンティストという言葉もお嬢様から教わりました。

 うん、あの当時のお嬢様もプチマッドサイエンティストだったね。まあ可愛いから無問題だけど。

「うーん」

 ファミマが目を瞑りながら腕組みした。

「本当に目的もなく実験しているようにしか見えないんだよねぇ。強いて言えば自分が楽しむためかな。何にしてもかなり出鱈目だよ彼女は」
「俺たちがあの四人と戦っていた時も実験していたな。遠隔でこちらの様子を見聞きしていたぞ。詳しいやり方は皆目見当もつかんが」

 あのアッザムタートルの召喚も実験だったようだし。

 となると、生命関連以外でも実験してるってことか。

 そういや、万能銃で広範囲殲滅魔法(ニュークリアブラスト)を撃とうとしてたんだよな。失敗したみたいだけど。

 それで手榴弾にしたんだっけ?

 ああ、黒猫が防いだニジュークの手榴弾って安全ピンを抜かないタイプだったな。あれって実験しつつ改良したとかかな?

 ていうか、本当にいろんなこと実験していそうだなぁ。

「マムの実験でジュークとニジュウの無限袋出来た」

 ジュークが腰の小袋を持ち上げた。見た目はただの革袋だ。

「あと照明の光球とかも実験の成果」
「家を出る時に結構パクった」

 ジュークとニジュウがいろいろと魔道具をテーブルの上に積み上げていく。

 おいおい、まだ食ってる最中なんだから余計な物出すなよ。

 魔道具の山から一つ手に取るとファミマがため息をついた。

 円筒形の黒光りする棒である。ぼんやりと薄青い文様が現れたり消えたりしている。

「あちゃあ、これ女神様がバランスクラッシャーって言ってた奴だよ。なーんでこんなのまで持ち出しちゃうかなぁ」
「バランスクラッシャー?」

 めっちゃ不穏である。

「うん、これジェイの拳くらいの大きさだけどアルガーダ王国どころかこの世界の半分を焦土に変えちゃう代物だよ。」
「はぁ?」

 思わず声が頓狂になった。

 ファミマが問答無用で自分の収納に棒を仕舞った。どうやら没収らしい。

「マリコーが世界征服とか始めないのがせめてもの救いだよ。彼女がその気になったら一日で達成しかねないからね」
「……」

 マジか。

 いや、確かにちっちゃい棒一本で世界の半分を焦土にできるのなら世界征服なんて楽勝か。

 とんでもないな。

「マム、世界征服なんかしない」

 ジューク。

「そんなことする暇あったら実験してる」

 ニジュウ。

 うんうんとファミマがうなずいた。

「だよねー。それにマリコーなら世界征服のために動くというより実験した結果世界を征服したって方がありそうだし」
「……」

 何それ怖い。

 俺たちが話しに夢中になっていたからかいつの間にか黒猫がテーブルの天板に上がっていた。

 ゆらりゆらりと尻尾を振りながら謎肉の炒め物の大皿に頭を突っ込んでいる。

「わぁ、ダニーさん止めて止めてッ!」

 ジュークが気づいて黒猫を大皿から引き離した。

 口のまわりどころか頭をベトベトにした黒猫が不満げに「ウニャア」と鳴く。

 つーかこいつ肉ばっかり食いやがった。どうせなら野菜も食え。

「ああ、これじゃニジュウの分はない」

 何だかニジュウは嬉しそうだ。

 そんなニジュウの取り皿にジュークがまだ手を付けていない自分の分から分ける。

 これほぼ意地悪だね。だってほら、半笑いだし。

「ニジュウ嬉しい? ジュークのおかず半分あげた」
「嬉しくない。これ色が真っ赤。絶対辛い」
「人の好意、無碍にしたら駄目」
「これ好意違う。ジューク、マムより悪質」
「それ言い過ぎ。ジューク、あんなのと一緒にされたくない」
「じゃあこれ食べて」

 と、ニジュウが問題の皿をジュークに差し出した。

 真っ赤な炒め物をしばし見つめ、仕方ないといったふうにジュークが受け取り自分の前に置く。

 黒猫が「ニャア」と鳴いた。

 すっげぇ呆れた声だ。

 炒め物をパスしたニジュウが豆のスープをスプーンでかき混ぜた。

「もういい。食後にジェイのおやつ貰う」
「はぁ?」

 そんな約束した憶えはないぞ。

「おい、俺はいつお前におやつをやるなんて言った?」
「言ってない」

 ニジュウ。

「でもニジュウがお腹空いてたら可哀想。違う?」
「いやここでちゃんと食べれば済む話しだろうに」
「えー、ニジュウ辛いの苦手」
「……」

 子供かっ。

 あーうん、外見は子供なんだよな。中身は十五歳だけど。

 てことは大人か(アルガーダ王国では十五歳で成人扱い)。

 わぁ、めんどい。

 マリコーの実験のせいでこっちもプチ被害だよ。

「わぁ、ニジュウおやつ貰えるんだ。いいなぁ」

 ファミマがさり気なく自分の取り皿をジュークの前に移動させた。

 こいつも辛いの苦手かよ。

 パンを千切ってスープに浸しながら物欲しそうな視線を俺に投げてくる。

「いいなー、ニジュウだけずるいなぁ、僕ちゃん精霊王なのにおやつ貰えなくて可哀想だなぁ」
「……」

 わぁ、マジで面倒くせぇ。

「わかった。ファミマにもやるから。けど、食事はちゃんと摂ろうな」
「えっ、いいの? やったあ」

 ファミマがそう喜んでからスープを浸したパンをパクリ。

 じっとりとした視線が二方向から俺に放たれる。

 ジュークと黒猫だ。

 てか、ジュークはともかく黒猫もかよ。

 猫の癖におやつなんて欲しがるなよなぁ……て、こいつ既にウマイボー食ってたんだった。さては味を憶えやがったな。

 やれやれだぜ、と肩をすくめていると天の声が聞こえてきた。


 お知らせします。

 ノーゼアエリア・旧領主館において悪魔ブレイクが勇者シュナにソロ討伐されました。

 なお、この情報は一部秘匿されます。


「……」
「おおっ、悪魔討伐」
「勇者、格好良いっ」
「これまたロッテ絡みかなぁ」
「ニャア」

 俺、ジューク、ニジュウ、ファミマ、そして黒猫。

 えっと、あれだ。

 俺とイアナ嬢がいない方がシュナにとっていいんじゃないか? 大活躍のようだし。

 あとロッテは何をしているのやら。

 あんまり無茶なことしていると調整とやらが待ってるぞ。

 などと考えているとまた天の声がした。


 お知らせします。

 魔力吸いの大森林エリア・奇跡の一本ギスギスギ付近において一角獣ショジョスキーホースが次代の聖女イアナ・グランデにソロ討伐されました。

 なお、この情報は一部秘匿されます。


「……」
「おおっ、またソロ討伐」
「今度は次代の聖女……痺れるっ、憧れるっ!」
「こっちはラキアさん絡みかぁ。皆自由すぎて僕ちゃん反応に困るよぉ」
「ニャ」

 俺、ジューク、ニジュウ、ファミマ、そして黒猫。

 あれか、俺のパーティーって実はソロ活動の方が向いているんじゃないか?

 じゃなくて!

 ちょい待て、ファミマの奴今何て言った?

 ラキア……ラキアだと?

「おい、ラキアってまさかあの……」

 俺が立ち上がってファミマに詰問しようとした時、三度天の声が聞こえた。
 
 
 
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