第152話 俺を魅了できるのは
文字数 3,287文字
「……くっ、この魔力……あの時以上か」
プーウォルトが絞り出すような声を発する。
その身体は固められたかのように微塵も動かない。
「ちっ、マジで誰だよ、あいつを解放したのは……それにビホルダの指輪だと? あんなやばい物まだ持ってたのかよ」
シーサイドダックも辛そうだ。
二人の言葉が聞こえたからかラ・プンツェルが上機嫌に応えた。
「ふふっ、妾の力はまだまだこんなものではないぞ」
「ざけんなっ、てめーはまた他人の魔力と生命力を指輪を通して奪う気かよ」
「ビホルダの指輪は妾の下僕にのみ与えておるだけだ。別に無差別に妾の糧としている訳ではない」
シーサイドダックの批難にラ・プンツェルが何の罪悪感もないといったふうに返す。
「魔力と生命力を吸い尽くされた者は命を落とすどころか砂になってしまうがな。貴様はそれで自分に仕えていた者すら砂にしてしまったではないか」
プーウォルト。
ラ・プンツェルが嗤う。
「それがどうした? 妾のために働けるだけでなく魔力と生命力をも捧げることができるのだぞ。とても名誉なことではないか。何の問題がある?」
「そういう考えは本官は好かん」
「そなたは昔から妾と意見が合わぬのう」
「プーウォルトはてめーと違ってまともなんだよ」
シーサイドダックの言葉にラ・プンツェルが鼻で笑った。
「くだらぬ。そなたたちは実にくだらぬわ。まあ、せいぜい囀っているが良い」
ラ・プンツェルから立ち上るオーラが人の形をとる。
それは長い髪の女の姿をしていた。ゆらゆらと女の姿が揺れている。あくまでも形だけなので顔はなかった。
「今は目覚めたばかり故この程度しか力を使えぬがいずれはこの国……いや大陸をも支配できる力を得るであろう。さすればいかにリビリシアの意思(ウィル)であろうと妾を邪魔できぬ」
ラ・プンツェルが高笑いすると女の姿も同じように嗤う仕草をした。ただし、声はない。
「アルガーダ王国の支配だけでなく大陸制覇も望むか」
「ざけんなよっ、てめーみたいのが支配者なんかになったらこの世の終わりだぞ」
プーウォルト。、そしてシーサイドダック。
ラ・プンツェルが二人を睨むとその魔力の縛めが増したらしくプーウォルトたちは口を利けなくなった。 再びラ・プンツェルが俺を見る。
「さて、妾がつまらぬ相手に構っている間に決心はついたか? まあそんなものが無くてもそなたは妾の下僕になると決定しているのだがな」
「……」
俺が返事をせずにいるとまたあの赤い光が俺を照らした。
身体に染みる光が暖かい。
これ、本当に寒さ対策になりそうだぞ。
とか思えるうちはまだ余裕があるってことだよな?
俺は拳に力を込めた。
煽ってくる「それ」の声が騒がしい。
怒れ。
怒れ。
怒れ。
拳の甲に一対の宝石を浮かび上がらせた黒い光のグローブがどくんどくんと脈打つ。目の前の敵を早くぶちのめしたいと訴えているかのようだ。
ラ・プンツェルが首を傾げる。
「そなた、何故妾の物にならぬ? 魅了の光りは十分に浴びておるだろうに」
「……」
ラ・プンツェルの魔力が俺を縛っている。
だが、俺の内から溢れる魔力がその戒めを打ち破ろうとしていた。
叫びにも近い「それ」の煽りが繰り返される。
怒れ!
怒れ!
怒れ!
全身を熱いものが駆け巡る。
燃え上がる熱が俺の鼓動を加速させた。
震える心音が黒い光のグローブと連動するように脈を打つ。。
俺はさらに拳を強く握った。
ラ・プンツェルが目を見張り、怯えたように一歩後退る。
「何故だ、何故妾の魅了が効かぬっ!」
「思い上がるんじゃねぇ」
俺はラ・プンツェルを見据え拳を構える。
身体を巡る魔力は完全にラ・プンツェルの魔力による縛めを上回っていた。
もう俺を縛ることはできない。
「てめーなんかに俺を魅了できやしねぇんだよ。俺を魅了できるのはこの世にただ一人だけ」
一呼吸置き。
「それは俺のお嬢様だっ!」
拳を放った。
ラ・プンツェルが見えない壁を張るがそんなものは知らん。
ラッシュを繰り出すだけだ。
「ウダダダダダダダダダダダダダダダダ……ウダァッ!」
ぴし。
ラ・プンツェルを守る見えない壁に亀裂が入る。
俺はラッシュを重ねた。
黒い光のグローブの光が残像となり幾筋もの黒い光の帯が走る。
攻撃に堪えきれなくなった見えない壁が砕けた。
俺はそのままラ・プンツェルへと肉迫する。
ラ・プンツェルが息を呑み。
悪魔を模したサークレットの目が光った。
「!」
強大な魔力の塊が俺を襲う。
後方へと吹っ飛ばされながら俺はマジンガの腕輪に魔力を流した。
チャージ。
そして……食らえっ!
俺は左拳をぶっ放した。
轟音とともに左拳がラ・プンツェルへと飛んでいく。
これならどうだ。
しかし、ラ・プンツェルのサークレットの目が輝き衝撃で左拳が弾かれた。
ダメージを与えられぬまま左拳が俺の左腕に戻ってくる。
ちっ、駄目か。
そう俺が舌打ちしていると。
「ニャーッ!(隙ありっ!)」
黒猫がラ・プンツェルに飛びかかった。
その猫パンチがラ・プンツェルの顔面にヒット……しなかった。
惜しい、右手でガードされたか。
だが、黒猫の爪がラ・プンツェルの右手の中指に傷をつけていた。小さな傷ではあるが赤い血が僅かに流れている。
「ニャン(へへっ、傷をつけてやったぜ、)」
「……」
ラ・プンツェルが無言で中指の傷を見つめ、きっと黒猫を睨んだ。
サークレットの目が光り、黒猫が魔力の衝撃で宙を舞う。
「おのれっ、汚らしい畜生の分際でっ!」
ラ・プンツェルの後頭部から幾つもの触手が生える。
それは先端に赤い瞳の目を付けた不気味な触手だった。怒り狂ったように瞳を赤々と光らせている。
「塵も残さず滅びるが良い!」
全ての触手が着地した黒猫へと向き、目から光線を発射した。
幾筋もの光が黒猫を襲う。
黒猫は避けようとするが光線の数が多過ぎる。とてもではないが避けきれない。
だが。
いきなり黒猫の前の空間が歪み光線が全て吸い込まれた。
それはまるで収納の能力を使って攻撃を防いだかのようだった。
声。
「やれやれでおじゃるな。麿はものすごーく忙しいのでおじゃるぞ?」
すうっと空間から浮き出るようにエボシ(?)を被ったドジョウ髭の男が現れる。
その手にはシャク(?)。
「麿の眷族が慌てていたから来てみれば何とまあ、随分と久しい顔がおるでおじゃるな」
「……じ、時空の精霊王リーエフ」
ラ・プンツェルが忌々しそうに顔を歪ませた。
対してリーエフはただでさえ細い目をさらに細めて微笑む。
「麿の眷族であるタッキーからの知らせを受けて分身体にアーカイブを調べさせてみれば、アルガーダ王国の開祖の姫が亡くなった内戦でリアやウェンディを怒らせた竜人が封印を解いていたでおじゃる。いやはや、運命(シナリオ)とは誠に奇妙で因縁めいているでおじゃるな」
と、リーエフがわざとらしくため息をつき。
「そして、そちは再びこの世に現れて己の欲望を満たすつもりでおじゃるか」
「妾はマンディの願いを叶えようとしておるだけだが? もちろんそのついでに妾も楽しみを享受させてもらうがな」
「そちのついでの方が比重が大きいようでおじゃるが?」
「そのような細かいことを気にする輩は嫌われるぞ」
「麿はそちに嫌われても一向に構わぬでおじゃる」
「くっ、いちいちこんなところに出向く程度のつまらぬ精霊王の分際で」
「この麿も分身体なのでおじゃるが? ああ、ろくに分身体も生み出せぬ程度の分際で麿を軽んじるとは愚かなことこの上ないでおじゃるな。むしろ哀れでおじゃる」
「「ぐぬぬぬぬぬ」」
言い争うリーエフとラ・プンツェル。
余程リーエフが嫌いなのかラ・プンツェルの意識がリーエフに集中している。
だからだろうか、タッキーが背後に回り込んでもラ・プンツェルに気づいた様子はなかった。
つーかタッキー、いつからいたの?
小狡そうに笑んだタッキーが構えた両手の中に光の球を作り出し……。
「トゥルーライトニングショット!」
タッキーが攻撃しようとした刹那、シュナが叫び声とともに電撃を放った。
プーウォルトが絞り出すような声を発する。
その身体は固められたかのように微塵も動かない。
「ちっ、マジで誰だよ、あいつを解放したのは……それにビホルダの指輪だと? あんなやばい物まだ持ってたのかよ」
シーサイドダックも辛そうだ。
二人の言葉が聞こえたからかラ・プンツェルが上機嫌に応えた。
「ふふっ、妾の力はまだまだこんなものではないぞ」
「ざけんなっ、てめーはまた他人の魔力と生命力を指輪を通して奪う気かよ」
「ビホルダの指輪は妾の下僕にのみ与えておるだけだ。別に無差別に妾の糧としている訳ではない」
シーサイドダックの批難にラ・プンツェルが何の罪悪感もないといったふうに返す。
「魔力と生命力を吸い尽くされた者は命を落とすどころか砂になってしまうがな。貴様はそれで自分に仕えていた者すら砂にしてしまったではないか」
プーウォルト。
ラ・プンツェルが嗤う。
「それがどうした? 妾のために働けるだけでなく魔力と生命力をも捧げることができるのだぞ。とても名誉なことではないか。何の問題がある?」
「そういう考えは本官は好かん」
「そなたは昔から妾と意見が合わぬのう」
「プーウォルトはてめーと違ってまともなんだよ」
シーサイドダックの言葉にラ・プンツェルが鼻で笑った。
「くだらぬ。そなたたちは実にくだらぬわ。まあ、せいぜい囀っているが良い」
ラ・プンツェルから立ち上るオーラが人の形をとる。
それは長い髪の女の姿をしていた。ゆらゆらと女の姿が揺れている。あくまでも形だけなので顔はなかった。
「今は目覚めたばかり故この程度しか力を使えぬがいずれはこの国……いや大陸をも支配できる力を得るであろう。さすればいかにリビリシアの意思(ウィル)であろうと妾を邪魔できぬ」
ラ・プンツェルが高笑いすると女の姿も同じように嗤う仕草をした。ただし、声はない。
「アルガーダ王国の支配だけでなく大陸制覇も望むか」
「ざけんなよっ、てめーみたいのが支配者なんかになったらこの世の終わりだぞ」
プーウォルト。、そしてシーサイドダック。
ラ・プンツェルが二人を睨むとその魔力の縛めが増したらしくプーウォルトたちは口を利けなくなった。 再びラ・プンツェルが俺を見る。
「さて、妾がつまらぬ相手に構っている間に決心はついたか? まあそんなものが無くてもそなたは妾の下僕になると決定しているのだがな」
「……」
俺が返事をせずにいるとまたあの赤い光が俺を照らした。
身体に染みる光が暖かい。
これ、本当に寒さ対策になりそうだぞ。
とか思えるうちはまだ余裕があるってことだよな?
俺は拳に力を込めた。
煽ってくる「それ」の声が騒がしい。
怒れ。
怒れ。
怒れ。
拳の甲に一対の宝石を浮かび上がらせた黒い光のグローブがどくんどくんと脈打つ。目の前の敵を早くぶちのめしたいと訴えているかのようだ。
ラ・プンツェルが首を傾げる。
「そなた、何故妾の物にならぬ? 魅了の光りは十分に浴びておるだろうに」
「……」
ラ・プンツェルの魔力が俺を縛っている。
だが、俺の内から溢れる魔力がその戒めを打ち破ろうとしていた。
叫びにも近い「それ」の煽りが繰り返される。
怒れ!
怒れ!
怒れ!
全身を熱いものが駆け巡る。
燃え上がる熱が俺の鼓動を加速させた。
震える心音が黒い光のグローブと連動するように脈を打つ。。
俺はさらに拳を強く握った。
ラ・プンツェルが目を見張り、怯えたように一歩後退る。
「何故だ、何故妾の魅了が効かぬっ!」
「思い上がるんじゃねぇ」
俺はラ・プンツェルを見据え拳を構える。
身体を巡る魔力は完全にラ・プンツェルの魔力による縛めを上回っていた。
もう俺を縛ることはできない。
「てめーなんかに俺を魅了できやしねぇんだよ。俺を魅了できるのはこの世にただ一人だけ」
一呼吸置き。
「それは俺のお嬢様だっ!」
拳を放った。
ラ・プンツェルが見えない壁を張るがそんなものは知らん。
ラッシュを繰り出すだけだ。
「ウダダダダダダダダダダダダダダダダ……ウダァッ!」
ぴし。
ラ・プンツェルを守る見えない壁に亀裂が入る。
俺はラッシュを重ねた。
黒い光のグローブの光が残像となり幾筋もの黒い光の帯が走る。
攻撃に堪えきれなくなった見えない壁が砕けた。
俺はそのままラ・プンツェルへと肉迫する。
ラ・プンツェルが息を呑み。
悪魔を模したサークレットの目が光った。
「!」
強大な魔力の塊が俺を襲う。
後方へと吹っ飛ばされながら俺はマジンガの腕輪に魔力を流した。
チャージ。
そして……食らえっ!
俺は左拳をぶっ放した。
轟音とともに左拳がラ・プンツェルへと飛んでいく。
これならどうだ。
しかし、ラ・プンツェルのサークレットの目が輝き衝撃で左拳が弾かれた。
ダメージを与えられぬまま左拳が俺の左腕に戻ってくる。
ちっ、駄目か。
そう俺が舌打ちしていると。
「ニャーッ!(隙ありっ!)」
黒猫がラ・プンツェルに飛びかかった。
その猫パンチがラ・プンツェルの顔面にヒット……しなかった。
惜しい、右手でガードされたか。
だが、黒猫の爪がラ・プンツェルの右手の中指に傷をつけていた。小さな傷ではあるが赤い血が僅かに流れている。
「ニャン(へへっ、傷をつけてやったぜ、)」
「……」
ラ・プンツェルが無言で中指の傷を見つめ、きっと黒猫を睨んだ。
サークレットの目が光り、黒猫が魔力の衝撃で宙を舞う。
「おのれっ、汚らしい畜生の分際でっ!」
ラ・プンツェルの後頭部から幾つもの触手が生える。
それは先端に赤い瞳の目を付けた不気味な触手だった。怒り狂ったように瞳を赤々と光らせている。
「塵も残さず滅びるが良い!」
全ての触手が着地した黒猫へと向き、目から光線を発射した。
幾筋もの光が黒猫を襲う。
黒猫は避けようとするが光線の数が多過ぎる。とてもではないが避けきれない。
だが。
いきなり黒猫の前の空間が歪み光線が全て吸い込まれた。
それはまるで収納の能力を使って攻撃を防いだかのようだった。
声。
「やれやれでおじゃるな。麿はものすごーく忙しいのでおじゃるぞ?」
すうっと空間から浮き出るようにエボシ(?)を被ったドジョウ髭の男が現れる。
その手にはシャク(?)。
「麿の眷族が慌てていたから来てみれば何とまあ、随分と久しい顔がおるでおじゃるな」
「……じ、時空の精霊王リーエフ」
ラ・プンツェルが忌々しそうに顔を歪ませた。
対してリーエフはただでさえ細い目をさらに細めて微笑む。
「麿の眷族であるタッキーからの知らせを受けて分身体にアーカイブを調べさせてみれば、アルガーダ王国の開祖の姫が亡くなった内戦でリアやウェンディを怒らせた竜人が封印を解いていたでおじゃる。いやはや、運命(シナリオ)とは誠に奇妙で因縁めいているでおじゃるな」
と、リーエフがわざとらしくため息をつき。
「そして、そちは再びこの世に現れて己の欲望を満たすつもりでおじゃるか」
「妾はマンディの願いを叶えようとしておるだけだが? もちろんそのついでに妾も楽しみを享受させてもらうがな」
「そちのついでの方が比重が大きいようでおじゃるが?」
「そのような細かいことを気にする輩は嫌われるぞ」
「麿はそちに嫌われても一向に構わぬでおじゃる」
「くっ、いちいちこんなところに出向く程度のつまらぬ精霊王の分際で」
「この麿も分身体なのでおじゃるが? ああ、ろくに分身体も生み出せぬ程度の分際で麿を軽んじるとは愚かなことこの上ないでおじゃるな。むしろ哀れでおじゃる」
「「ぐぬぬぬぬぬ」」
言い争うリーエフとラ・プンツェル。
余程リーエフが嫌いなのかラ・プンツェルの意識がリーエフに集中している。
だからだろうか、タッキーが背後に回り込んでもラ・プンツェルに気づいた様子はなかった。
つーかタッキー、いつからいたの?
小狡そうに笑んだタッキーが構えた両手の中に光の球を作り出し……。
「トゥルーライトニングショット!」
タッキーが攻撃しようとした刹那、シュナが叫び声とともに電撃を放った。