第170話 俺の同時発動可能な魔法・能力数が

文字数 4,201文字

 大技でラ・プンツェルの頭上から聖剣ハースニールを食い込ませたシュナだったが剣が抜けなくなってしまった。

 そこにラ・プンツェルの後頭部から伸びた触手の先端の一つ目たちによる一斉攻撃が放たれる。


 *


「くっ」

 シュナが聖剣ハースニールから左手を離し天に振り上げる。

「収納」

 幾筋もの光線がシュナから彼の左手へと軌道を変え、導かれるかのようにその中指の指輪に吸い込まれていった。

 そういや、ワークエの報酬でシュナは収納の指輪を手に入れていたな。

 シュナが呼吸を荒くしている。

 その顎を汗が伝い、ポタリと落ちた。

 一瞬の静寂。

 絶体絶命の危機を乗り切ったシュナを誰もが信じられないという顔で見つめていた。そのくらいさっきの状況はやばかったのだ。

 そして、その中にはラ・プンツェルも含まれていた。

 唖然としたラ・プンツェルの力が弱まったお陰か頭に食い込んだまま抜けなかった聖剣ハースニールが容易に抜けた。

 シュナがラ・プンツェルの頭を蹴りつつ彼女から距離をとる。

 離れていくシュナの右肩でラ・ムーが「べぇーだ」と舌を出していた。

「おのれ、よくも妾を足蹴にしてくれたな」

 ラ・プンツェルの悪魔の顔を模したサークレットの目が怒りに赤々と光る。

 シュタッと地に降りたシュナは聖剣ハースニールを中段に構え直した。

 刀身に走る電撃。

 バチバチバチバチバチバチバチバチッ!
 凄まじいスパークが周囲を明滅させる。

 そして、その放電の轟音に負けないくらいの雄叫びを上げて駆けて来る者が一人。

 プーウォルトだ。

 彼は走りながら真っ直ぐ水平に右腕を伸ばし、その腕に魔力の光を宿らせた。

 右腕の光がどんどんその輝きを強めていく。

「うおおおおおおおおっ!」

 ぐらり、とラ・プンツェルの身体が揺れてバランスを失ったまま彼女は落下していく。

 シーサイドダックがガッツポーズをした。

「よっしゃぁ、魔法が効いてるぜ」

 ラ・プンツェルの真下には淡く緑色に光る魔方陣。

 そこから強烈な吸引の力が放射されていた。

「大人しく亜空間に吸い込まれやがれっ、このあばずれがぁっ」

 ラ・プンツェルが抵抗しようとするが吸引力に負けているようだ。

 しだいにその身体が魔方陣の方へと引き寄せられていく。

 ラ・プンツェルの頭部と水平に伸ばしたプーウォルトの右腕の高さが同じになった時、プーウォルトの右腕がラ・プンツェルの顔面を捉えた。

「ハイパーイースタンラリアットォォォッ!」

 炸裂したプーウォルトの必殺技でラ・プンツェルの顔面が陥没する。

 聞こえてはいけないぐちゃりとした音が聞こえているがそういうのは気にしてはいけないので俺はなるたけ気にしないことにした。

「おおっ、これはクリティカル」
「さすがクマ教官、その強さに痺れる憧れる」
「うわっ、グロッ!」
「ニャ(勝ったな)」

 ジューク、ニジュウ、アミン、そして黒猫。

 おい黒猫。

 この時点でその発言はフラグになるから止めろ。

 あ、フラグという言葉は昔お嬢様に教わりました。

 使い方、合ってるよね?

 ……とか俺が思っていると。

「ちっ、ギリギリで外したか」

 苦々しげにプーウォルトが言った。

 彼の右腕はラ・プンツェルの顔に命中しているものの、悪魔の顔を模したサークレットには当たっていなかった。

 つまり……。

「くくく、惜しかったのう」

 イースタンラリアットの威力で骨だけでなく歯も砕け肉も潰れているのにラ・プンツェルの声は明瞭だった。

「くっ、ならばもう一撃……」
「させぬわ」

 ピカッとサークレットの目が光り、プーウォルトが吹き飛ばされた。

 衝撃が凄まじかったからかろくに受け身も取れずに背中から地に倒れる。

「プーウォルト!」
「そなたもだ、この低俗なアヒルめッ」

 再びサークレットの目が光り、シーサイドダックを吹っ飛ばす。

 ラ・プンツェルの意識がプーウォルトとシーサイドダックに向いているうちに俺はマジンガの腕輪に魔力を流した。

 チャージ。

 両腕を突き出して発射態勢をとると。

「無駄だ。そなたの攻撃など効かぬ」

 くるりと首だけ動かしてラ・プンツェルが告げた。

 サークレットの目が赤く光る。

「!」

 マジックパンチのチャージがキャンセルされた。。

 何て奴だ。

 これじゃ、まるでマリコー・ギロックと戦った時みたいじゃないか。

 ふわり、とラ・プンツェルが宙に舞う。

 その顔は信じられない速さで復元していた。イアナ嬢が切り落とした右腕も既に再生し終えている。

 ただ、右袖は切られたままだった。さすがにそこまで都合良くいかないようだ。

 ラ・プンツェルが嘲笑する。

「妾は滅びぬ。妾はリビリシアの意思(ウィル)に選ばれたのだ。故に管理者であろうと妾を破壊できず封印などという小賢しい真似しかできなかった」

 ラ・プンツェルから黒いオーラが漂い彼女に寄り添うように長い髪の女のシルエットが浮かぶ。

 頭部に現れる一つ目。

「卑小な力しか持たぬ者共よ、妾をこの地に縛りつけておこうとしても無駄だ。じきに妾の力はこの地を覆う結界の魔力を超えるであろう。さすればもう妾を縛るものはない。自由だ。新たな女王としてこの国に、いや大陸全土に君臨してやろうぞ」
「……」

 俺は嫌悪のあまり唇を噛んだ。

 ふざけるな、と思った。

 新たな女王として君臨するだと?

 いや、それ以前にリビリシアの意思(ウィル)に選ばれただと?

 頭湧いてるのか?

 てめーみたいなのがリビリシアの意思(ウィル)に選ばれる訳ないだろうが。

 もし選ばれるのだとしてもそれはてめーじゃない。

 俺のお嬢様だ。

 てめーじゃない。

 俺の中に膨れ上がる感情に「それ」が反応した。

 囁き、煽ってくる。

 怒れ。

 怒れ。

 怒れ。

 俺はぐっと両拳を握った。

 応えるように黒い光のグローブが発現し、両拳の甲に漆黒の宝石を浮かび上がらせる。

 ダーティワーク!


『確認しました』
『ジェイ・ハミルトンの同時発動可能な魔法・能力の限度数が解除されました』
『以降、魔力が続く限り無制限に発動できます』


「はぁ?」

 突然聞こえてきた天の声に俺は吃驚した。

 天の声にというかその内容に驚いたのだ。

 同時に発動できる魔法・能力の数が無制限になっただと?

 おいおい、人間は二つまでが限度じゃないのかよ。

 つーか、そもそも増やせるの?

 それアリなの?

 ええっと……。

「ま、いいか。とりあえず使える魔法と能力が増えてラッキーってことで」

 有難く有効活用させてもらうことにしよう。

 俺は思考を放棄してダーティワークを発動させたまま飛翔の能力を使った。

 ラ・プンツェルへと飛びながらサウザンドナックルを発動する。

 収納から射出された銀玉たちがラ・プンツェルへと撃ち込まれる。

 様々な方向から放たれる銀玉の攻撃がラ・プンツェルを襲った。

「ウダダダダダダダダダダダダダダダッ!」

 銀玉によるオールレンジ攻撃によってラ・プンツェルがボロボロに……ならなかった。


 キラリ。


 群がる銀玉の中心で赤い光が煌めき、爆発とともに全ての銀玉が吹き飛んだ。

 爆煙から飛び出すように無傷のラ・プンツェルが現れる。

 その姿に寄り添うように黒いシルエットが浮かんでいる。

 長い髪の女の姿をしたシルエットだ。

 頭部には一つ目。

「無駄だ。妾の目はあらゆる魔法と能力を無効にできる。先程は油断したが妾が本気になればそなたたちの攻撃など無いも同然よ」
「……」

 クソ、まだ勝てないか。

 だが、いくらラ・プンツェルに魔法と能力を無効にできる力があったとしてもどこかに打つ手はあるはずだ。

 真に無敵な訳がない。

 もしラ・プンツェルが無敵の存在ならあの内乱の時に封印されたりはしないだろう。

 運命(シナリオ)は奴にこの国や大陸を与えたりはしない。

 リビリシアの意思(ウィル)は奴を選んだりはしない。

 俺はさらに力強く拳を握った。

 身体の奥から声が聞こえる。

 ずっと俺に囁き続け、煽り続けていた「それ」の声だ。

 怒れ。

 怒れ。

 怒れ。

 ラ・プンツェルが俺を指差す。

「そなたのことは下僕にしてやろうかとも一時は思ったのだがな。こうも反抗的では妾も……な?」

 まるで俺が悪いかのような言い草だ。

 ラ・プンツェルの後頭部から伸びた触手の先端が俺に向いた。

 触手の先端にある一つ目たちとラ・プンツェルの悪魔の顔を模したサークレットの目が禍々しく赤く光る。

 鮮血のような赤さだ。

 俺は光線から逃れようとしたが身体が動かなかった。

 ラ・プンツェルの強大な魔力が俺を抑えつけていた。これでは光線を避けることもできない。

 やばい。

「さあ、滅びるが良い」

 収納は……ワォ、これも封じられてる!

 詰んだ。

 あまりのやばさに俺が吐きそうになっていると「それ」の声が絶叫に変わった。

 怒れ!

 怒れ!

 怒れ!

 そして、聞こえてくる天の声。


『お知らせします』
『ジェイ・ハミルトンとその身体に宿る怒りの精霊との同調率が狂戦士化への危険域に達しました』
『女神プログラムによる強制介入を開始します』
『エーテルリンクを解除、ジェイ・ハミルトンと怒りの精霊とのリンクを強制解除します。エレメンタルコアとの接続を開始』
『女神プログラムによる特例によりコードX10Aを実行。ジェイ・ハミルトンのマナブースターおよびマナコンバーターを強制作動。限定的にリミッターを解除します』


「うっ……」

 俺の体内で何かが発熱していた。

 のたうちまわる程ではないが結構苦しい。


『エレメンタルリンクとの接続を保持。女神プログラムに指定されている(ピーと雑音が入る)のアクセス権を有効にしてディメンションコアとの接続を開始します』
『ディメンションコアとの接続を確認。女神プログラムの緊急時の条件設定に従いマジンガの腕輪を魔神化の腕輪に転送変換します』


 俺の意識では捉えられない速さでマジンガの腕輪が魔神化の腕輪に変わった。

 魔神化の腕輪が妖しく光る。

 これは……マリコーの権限を打ち破ったあの力を……。

 よし、これならラ・プンツェルに勝てるぞ。


『魔神化の腕輪のスペシャルパワーを解放します』
『お知らせします』
『ジェイ・ハミルトンに第一級管理者の称号が授与され……』


 俺がラ・プンツェルとの戦いに勝利を確信していると誰かの声が聞こえた。

「コードA613を発動。直前の称号授与をキャンセルし、転送変換していた魔神化の腕輪を元の腕輪に戻すっ!」
「……」

 え?
 
 
 
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