第192話 俺が冒険者ギルドに向かっていると
文字数 3,920文字
「さあさあ、幸運の加護が欲しい人はぜひとも買っておくれ。十天使のレブン様の加護が込められた指輪だよ」
俺が冒険者ギルドへと向かっていると快活な若い男の声が聞こえてきた。。
噴水のある広場でタレ耳の犬獣人の男が声を張っている。
その足下には商品と思しき指輪の入った木箱が置かれていて隣のザルには「一個銀貨二枚(だいたい日本円で二千円くらい)と書かれた木製の札が貼られていた。
犬獣人の男は白地に黒のまだら模様の短い毛並み(世の中の犬には「ダルメシアン」って犬種がいるって以前お嬢様が言っていたなぁ)でいかにもといった旅商人風の格好をしている。ひょこひょこと振られる尻尾に妙な愛嬌があって何だか親しみを持てた。短毛なのでもふもふ感はあまりなさそうだがまあそれは気にしなくてもいいだろう。この犬獣人をもふる機会なんてなさそうだし。
彼から一歩下がった位置にもう一人犬獣人がいる。
周囲に睨みを利かせるように立っているこの犬獣人はその鋭い目つきと左頬の大きな傷痕のせいもあって凶悪さが八割増しになっていた。たるみのある丸い顔は昔お嬢様から教わった「ブルドック」という犬を連想させる。
長く愛用していそうな皮鎧の下はかなりの筋肉なのかもしれない。そんな想像をしたくなるくらい強者の貫禄があった。
きっとあの背中の大剣をブンブン振り回して敵を一掃するんだろうな。
いやぁ、恐い恐い(棒読み)。
旅商人風の犬獣人が言葉を続ける。
「これさえあればいつでもどこでも十天使様に祈りを捧げられるよ。しかも、幸運の御加護のあるレブン様だ。幸運に恵まれたら人生ハッピー。仕事も恋も友情も健康もどーんと来いってもんだ」
と、そこで犬獣人は口上を止め、近くにいた八歳くらいの男の子に手招きした。
男の子が少しおどおどしながら犬獣人の傍に近寄っていく。
犬獣人はしゃがんで男の子に耳打ちすると、彼に何かを渡して再び立ち上がった。
男の子がその何かを指に填めた。件の指輪である。
「はいはい、それでは物は試し。こちらは五枚の何の変哲もない板だよ」
犬獣人は周囲の見物人によく見えるように五枚の板を掲げた。
手の内にすっぽり収まる程度のサイズの板である。
犬獣人はその五枚の板の中から一枚を選びその表面を指でなぞった。
どうやら彼は火の魔法を使えたらしい。なぞった部分が焼けて黒く焦げ目を残した。
「はいはい、私ちょーっと火の魔法ができたりするんですよ。薪に火を点けたりするのに便利ですよこれ」
おどけた調子で犬獣人がそう言うと見物人から笑いが起こった。
「それじゃ歩く火打ち石だな」
「今度旅に出る時に付き合っておくれよ」
「毎朝の飯の支度に呼んでいいかい?」
「おいおい、引っ張りだこだな。指輪よりあんたを売ったらどうだ?」
どっと見物人が湧いた。
犬獣人が苦笑しながら返す。
「おやおや、それじゃ私一人しか売り物がないじゃないですか。お一人に私を売ったらそれでお終いですよ。わぁ、そんな殺生なぁ」
また笑いが生じた。
コホン、と犬獣人が咳払いし、場を静かにさせる。
「ま、まあそれはさておきこちらの彼に運試しをして貰いましょう。この五枚の板に一枚だけ印を付けました。彼にはそれを当てて貰いますね」
犬獣人は男の子に背を向かせると五枚の板をシャッフルする。
再度男の子に向き直って貰うと犬獣人は告げた。
「もし当たりを選んだら良い物をあげるよ。さてさて、この五枚の板野どれが当たりかな?」
もちろん男の子には印の付いてない面を向けている。
「えーとえーと」
「さあさあどれが当たりかな? これかな? それともこの真ん中の奴かな?」
芝居がかった口調で犬獣人が持っている板を一枚だけ上にずらしたり戻したりまた上にずらしたりする。
男の子はそれに惑わされてなかなか選べないようだ。
「わからないなら適当でも良いんだよ。これは運試しなんだからね。ほらほら、指輪に向かって祈ってごらん。きっとレブン様の御加護が得られるはずだよ」
「う、うん」
男の子が素直に応じて指輪に向かって祈る。
その祈り文句は小声過ぎて俺には聞こえなかった。てか見物人のざわめきが地味にうるさい。お前ら黙って見守ってやれよ。
男の子が祈り終えた。
こくんと自分を鼓舞するようにうなずき、一枚の板を選ぶ。
「こ、これ」
「おやおや、これかい? 本当にこれでいいのかい?」
犬獣人が尋ねる。なかなかに意地の悪そうな口調である。
だが、男の子は迷わない。
「うん、これ」
「ファイナルアンサー?」
「えっと、ファイナルアンサー」
「では、他の板は全て燃やしちゃいますよぉ」
言って、犬獣人は男の子に選ばれなかった板を全て燃やした。
四枚の板が青白い炎を上げながらゆっくりと燃えていく。
犬獣人は燃える板を持っていたのに全く熱がらない。火傷した様子もない。
我慢?
いや、それも違うようだ。
さらに奇妙なことに男の子に選ばれた板だけは燃えていなかった。焦げてさえいない。
犬獣人の魔法のせいと言ってしまえばそれまでだがそれにしたところでこれは見る人を驚かせるだろう。実際見物人からは驚愕の声が上がっていた。
つーか、いっそこっちをメインにした見世物で稼いだ方がいいんじゃないか?
とか俺が思っている間に犬獣人の手持ちの板は男の子の選んだ物だけとなった。他の板は灰も残さず燃え尽きている。
何気にあの魔法凄くね?
「はいはい、では結果発表♪ この板は当たりかな? それとも?」
場に緊張が走る。
見物人の何人かがゴクリと唾を呑んだ。
男の子と犬獣人の視線が交差する。
無駄に強くなる犬獣人の眼力。
それに負けない男の子も大したものだ。
選ばれた板は当たりか否か。
ゆっくりと板がひっくり返される。
その表面には……。
「あ」
「おおっ」
男の子の口から声が漏れる。
どよめく見物人たち。
選ばれたのは印のついた板。
つまり、当たりだ。
「お見事! いやぁ、当てるなんてついてるねぇ」
犬獣人が男の子を讃える。
ちょっと恥ずかしそうに男の子が笑う。
「では彼にはその指輪をプレゼントするよ。これからもレブン様への祈りを忘れないでね。そうすれば幸運に恵まれるよ」
「あ、うん。ありがとう」
見物人の拍手に送られて男の子は犬獣人から離れた。照れているからか見物人の輪には戻らずどこかに行ってしまう。
「おい、ちょっとどいてくれ」
何人かの見物人を押し退けながら皮鎧姿の中年風の男が現れた。冒険者ギルドにいそうな感じのいかつい顔の男である。
真っ直ぐ犬獣人へと歩み寄っていく。
ブルドック似の護衛(?)が動こうとしたのを犬獣人が手で制した。
「どうもどうも、その後お仕事はどうです?」
「あんたすげーよ。いや、すげーのはあんたじゃなくてこの指輪か」
男が上機嫌に応じながら左手の中指の指輪を見せた。
「これをあんたから買ってから急に運が向いてきた。採取に出れば高額で売れる薬草の群生地が見つかるし魔物を狩りに行けば超レアな魔物のメタルオークと遭遇する。しかも寝起きでふらふらのところを襲えたから楽々討伐だ。ギルドに持ち帰ったら肉も素材も高品質でプラス評価ときた」
「へぇ、そいつは良かったね」
「しかもそれだけじゃない。酒場のカウンターで飲んでたら俺好みのすげーおっぱいの美人が隣に座るし、向こうから話しかけられて滅茶苦茶会話が弾むし、それが縁で付き合うことになったし……ムフフ」
何を思い出したのか男がいやらしそうに笑った。何となくどんなことを思い出したのか想像できてしまったよ。
何人かの見物人が白い目を向けたり生温かい視線を送ったりしている。数人がめっちゃ羨ましそうな顔をしているけど……まあお前ら頑張れ。
「それで俺もう冒険者辞めて彼女と一緒に故郷に帰ることにしたんだ」
「おや、せっかく運が向いてきたのに故郷に帰っちゃうのかい?」
「実は俺の親戚の叔父さんが先日病気で亡くなってさ、その人結構な金持ちだったんだけど連れ合いも子供もいなくて俺が相続人として指名されたんだ。あっちで叔父さんの遺した金を元手に彼女と商売でもしようかと思ってる」
「へぇ、そいつはまたその叔父さんは気の毒だけどラッキーだったねぇ」
「ああ、それもこれもこの指輪のお陰だ」
男が指輪を大切そうに撫でた。
うんうん、と犬獣人がうなずく。
「レブン様への感謝と祈りを忘れずにね。私も幸運のお手伝いができたようで嬉しいよ」
「ああ、ありがとう。あんたにも感謝の言葉を伝えておきたかったんだ。本当にありがとう」
男はそう言って深々と頭を下げると何処かへと行ってしまった。
「……」
それを見送っていた見物人の中から一人が犬獣人へと駆け寄る。
「お、おい。俺にもその指輪を一つくれ!」
「あっ、俺も欲しい。売ってくれよ」
「あたしには二つ頂戴!」
「僕も買う!」
「十個くれっ!」
「じゃあ俺は二十個くれっ!」
「おい押すなよ」
「俺が先だぞ、後から来て割り込むなよ」
「はいはい、皆さん在庫はたっぷりありますからねぇ。仲良く並んで並んで♪」
最初の一人をきっかけに次々と見物人が客となって犬獣人へと殺到した。
犬獣人の声が嬉しい悲鳴となってあたりに響く。
「……」
あの火の魔法は凄かったけど、なーんか、胡散臭くね?
そう思えてしまったのは俺がひねくれているからだろうか。
うーん。
あと、これ「次に出会う精霊王はレブンです」って意味の前振りとかじゃないよね?
本当にそういうのめんどいから辞めてよね?
そう俺は心の底から願いながら冒険者ギルドへと向かうのだった。
**
ウィル教の教会では精霊王のことを「十天使」と呼んだりします。
俺が冒険者ギルドへと向かっていると快活な若い男の声が聞こえてきた。。
噴水のある広場でタレ耳の犬獣人の男が声を張っている。
その足下には商品と思しき指輪の入った木箱が置かれていて隣のザルには「一個銀貨二枚(だいたい日本円で二千円くらい)と書かれた木製の札が貼られていた。
犬獣人の男は白地に黒のまだら模様の短い毛並み(世の中の犬には「ダルメシアン」って犬種がいるって以前お嬢様が言っていたなぁ)でいかにもといった旅商人風の格好をしている。ひょこひょこと振られる尻尾に妙な愛嬌があって何だか親しみを持てた。短毛なのでもふもふ感はあまりなさそうだがまあそれは気にしなくてもいいだろう。この犬獣人をもふる機会なんてなさそうだし。
彼から一歩下がった位置にもう一人犬獣人がいる。
周囲に睨みを利かせるように立っているこの犬獣人はその鋭い目つきと左頬の大きな傷痕のせいもあって凶悪さが八割増しになっていた。たるみのある丸い顔は昔お嬢様から教わった「ブルドック」という犬を連想させる。
長く愛用していそうな皮鎧の下はかなりの筋肉なのかもしれない。そんな想像をしたくなるくらい強者の貫禄があった。
きっとあの背中の大剣をブンブン振り回して敵を一掃するんだろうな。
いやぁ、恐い恐い(棒読み)。
旅商人風の犬獣人が言葉を続ける。
「これさえあればいつでもどこでも十天使様に祈りを捧げられるよ。しかも、幸運の御加護のあるレブン様だ。幸運に恵まれたら人生ハッピー。仕事も恋も友情も健康もどーんと来いってもんだ」
と、そこで犬獣人は口上を止め、近くにいた八歳くらいの男の子に手招きした。
男の子が少しおどおどしながら犬獣人の傍に近寄っていく。
犬獣人はしゃがんで男の子に耳打ちすると、彼に何かを渡して再び立ち上がった。
男の子がその何かを指に填めた。件の指輪である。
「はいはい、それでは物は試し。こちらは五枚の何の変哲もない板だよ」
犬獣人は周囲の見物人によく見えるように五枚の板を掲げた。
手の内にすっぽり収まる程度のサイズの板である。
犬獣人はその五枚の板の中から一枚を選びその表面を指でなぞった。
どうやら彼は火の魔法を使えたらしい。なぞった部分が焼けて黒く焦げ目を残した。
「はいはい、私ちょーっと火の魔法ができたりするんですよ。薪に火を点けたりするのに便利ですよこれ」
おどけた調子で犬獣人がそう言うと見物人から笑いが起こった。
「それじゃ歩く火打ち石だな」
「今度旅に出る時に付き合っておくれよ」
「毎朝の飯の支度に呼んでいいかい?」
「おいおい、引っ張りだこだな。指輪よりあんたを売ったらどうだ?」
どっと見物人が湧いた。
犬獣人が苦笑しながら返す。
「おやおや、それじゃ私一人しか売り物がないじゃないですか。お一人に私を売ったらそれでお終いですよ。わぁ、そんな殺生なぁ」
また笑いが生じた。
コホン、と犬獣人が咳払いし、場を静かにさせる。
「ま、まあそれはさておきこちらの彼に運試しをして貰いましょう。この五枚の板に一枚だけ印を付けました。彼にはそれを当てて貰いますね」
犬獣人は男の子に背を向かせると五枚の板をシャッフルする。
再度男の子に向き直って貰うと犬獣人は告げた。
「もし当たりを選んだら良い物をあげるよ。さてさて、この五枚の板野どれが当たりかな?」
もちろん男の子には印の付いてない面を向けている。
「えーとえーと」
「さあさあどれが当たりかな? これかな? それともこの真ん中の奴かな?」
芝居がかった口調で犬獣人が持っている板を一枚だけ上にずらしたり戻したりまた上にずらしたりする。
男の子はそれに惑わされてなかなか選べないようだ。
「わからないなら適当でも良いんだよ。これは運試しなんだからね。ほらほら、指輪に向かって祈ってごらん。きっとレブン様の御加護が得られるはずだよ」
「う、うん」
男の子が素直に応じて指輪に向かって祈る。
その祈り文句は小声過ぎて俺には聞こえなかった。てか見物人のざわめきが地味にうるさい。お前ら黙って見守ってやれよ。
男の子が祈り終えた。
こくんと自分を鼓舞するようにうなずき、一枚の板を選ぶ。
「こ、これ」
「おやおや、これかい? 本当にこれでいいのかい?」
犬獣人が尋ねる。なかなかに意地の悪そうな口調である。
だが、男の子は迷わない。
「うん、これ」
「ファイナルアンサー?」
「えっと、ファイナルアンサー」
「では、他の板は全て燃やしちゃいますよぉ」
言って、犬獣人は男の子に選ばれなかった板を全て燃やした。
四枚の板が青白い炎を上げながらゆっくりと燃えていく。
犬獣人は燃える板を持っていたのに全く熱がらない。火傷した様子もない。
我慢?
いや、それも違うようだ。
さらに奇妙なことに男の子に選ばれた板だけは燃えていなかった。焦げてさえいない。
犬獣人の魔法のせいと言ってしまえばそれまでだがそれにしたところでこれは見る人を驚かせるだろう。実際見物人からは驚愕の声が上がっていた。
つーか、いっそこっちをメインにした見世物で稼いだ方がいいんじゃないか?
とか俺が思っている間に犬獣人の手持ちの板は男の子の選んだ物だけとなった。他の板は灰も残さず燃え尽きている。
何気にあの魔法凄くね?
「はいはい、では結果発表♪ この板は当たりかな? それとも?」
場に緊張が走る。
見物人の何人かがゴクリと唾を呑んだ。
男の子と犬獣人の視線が交差する。
無駄に強くなる犬獣人の眼力。
それに負けない男の子も大したものだ。
選ばれた板は当たりか否か。
ゆっくりと板がひっくり返される。
その表面には……。
「あ」
「おおっ」
男の子の口から声が漏れる。
どよめく見物人たち。
選ばれたのは印のついた板。
つまり、当たりだ。
「お見事! いやぁ、当てるなんてついてるねぇ」
犬獣人が男の子を讃える。
ちょっと恥ずかしそうに男の子が笑う。
「では彼にはその指輪をプレゼントするよ。これからもレブン様への祈りを忘れないでね。そうすれば幸運に恵まれるよ」
「あ、うん。ありがとう」
見物人の拍手に送られて男の子は犬獣人から離れた。照れているからか見物人の輪には戻らずどこかに行ってしまう。
「おい、ちょっとどいてくれ」
何人かの見物人を押し退けながら皮鎧姿の中年風の男が現れた。冒険者ギルドにいそうな感じのいかつい顔の男である。
真っ直ぐ犬獣人へと歩み寄っていく。
ブルドック似の護衛(?)が動こうとしたのを犬獣人が手で制した。
「どうもどうも、その後お仕事はどうです?」
「あんたすげーよ。いや、すげーのはあんたじゃなくてこの指輪か」
男が上機嫌に応じながら左手の中指の指輪を見せた。
「これをあんたから買ってから急に運が向いてきた。採取に出れば高額で売れる薬草の群生地が見つかるし魔物を狩りに行けば超レアな魔物のメタルオークと遭遇する。しかも寝起きでふらふらのところを襲えたから楽々討伐だ。ギルドに持ち帰ったら肉も素材も高品質でプラス評価ときた」
「へぇ、そいつは良かったね」
「しかもそれだけじゃない。酒場のカウンターで飲んでたら俺好みのすげーおっぱいの美人が隣に座るし、向こうから話しかけられて滅茶苦茶会話が弾むし、それが縁で付き合うことになったし……ムフフ」
何を思い出したのか男がいやらしそうに笑った。何となくどんなことを思い出したのか想像できてしまったよ。
何人かの見物人が白い目を向けたり生温かい視線を送ったりしている。数人がめっちゃ羨ましそうな顔をしているけど……まあお前ら頑張れ。
「それで俺もう冒険者辞めて彼女と一緒に故郷に帰ることにしたんだ」
「おや、せっかく運が向いてきたのに故郷に帰っちゃうのかい?」
「実は俺の親戚の叔父さんが先日病気で亡くなってさ、その人結構な金持ちだったんだけど連れ合いも子供もいなくて俺が相続人として指名されたんだ。あっちで叔父さんの遺した金を元手に彼女と商売でもしようかと思ってる」
「へぇ、そいつはまたその叔父さんは気の毒だけどラッキーだったねぇ」
「ああ、それもこれもこの指輪のお陰だ」
男が指輪を大切そうに撫でた。
うんうん、と犬獣人がうなずく。
「レブン様への感謝と祈りを忘れずにね。私も幸運のお手伝いができたようで嬉しいよ」
「ああ、ありがとう。あんたにも感謝の言葉を伝えておきたかったんだ。本当にありがとう」
男はそう言って深々と頭を下げると何処かへと行ってしまった。
「……」
それを見送っていた見物人の中から一人が犬獣人へと駆け寄る。
「お、おい。俺にもその指輪を一つくれ!」
「あっ、俺も欲しい。売ってくれよ」
「あたしには二つ頂戴!」
「僕も買う!」
「十個くれっ!」
「じゃあ俺は二十個くれっ!」
「おい押すなよ」
「俺が先だぞ、後から来て割り込むなよ」
「はいはい、皆さん在庫はたっぷりありますからねぇ。仲良く並んで並んで♪」
最初の一人をきっかけに次々と見物人が客となって犬獣人へと殺到した。
犬獣人の声が嬉しい悲鳴となってあたりに響く。
「……」
あの火の魔法は凄かったけど、なーんか、胡散臭くね?
そう思えてしまったのは俺がひねくれているからだろうか。
うーん。
あと、これ「次に出会う精霊王はレブンです」って意味の前振りとかじゃないよね?
本当にそういうのめんどいから辞めてよね?
そう俺は心の底から願いながら冒険者ギルドへと向かうのだった。
**
ウィル教の教会では精霊王のことを「十天使」と呼んだりします。