第207話 俺……まあ、いっか
文字数 4,070文字
「私と手を組みませんか? お互いのためにも協力し合うべきだと思うんですよねぇ」「……」
お嬢様(今はシスター仮面一号の姿をしている)の差し出した右手をイチノジョウがじっと見つめた。
イチノジョウは第一級管理者だ。
第二級管理者だったマリコー・ギロックよりも格上、しかもかつて「七罪」と呼ばれた暴食のラ・ドンと怠惰のラ・パンと行動を共にしている。
彼が味方になってくれればかなり心強い。
もちろんお嬢様を守る役目を譲るつもりはないが戦力として彼ほど頼もしい相手はいないだろう。
だって第一級管理者ですよ。
管理者と言えば精霊王より偉くて強いんですよ(イメージ込みの意見です)。
そしてあのマリコーよりも上の資格持ちなんですよ。当然権限だって第二級より上なんですよ。
うんうん、お嬢様もわかってるなぁ。
こんな強力な戦力、味方に引き込まない手はないよね。
返事をしないイチノジョウにお嬢様が尋ねる。
「どうですか? 今後のこともありますし手を組んで損はないと思うのですが」
「そうだね」
イチノジョウはお嬢様の右手から目を離さず応じる。
「君絡みのアーカイブは大体見たよ。だからこれから君がどうしたいのかも何となく想像できる」
「あら、アーカイブをご覧になったんですか。嫌だわ、恥ずかしい」
「別に恥ずかしがることはないよ。僕が初めてこっちの世界に来た当時に比べたら全然マシだし。むしろ僕の方が恥ずかしくなるくらいさ」
「そう言って頂けると助かります。それで、私の提案へのお返事は?」
にこやかに尋ねるお嬢様の顔をイチノジョウが見た。
静かに首を振る。
「残念だけど答は『ノー』だよ。僕は君に協力できない」
「なっ」
俺は思わず声が出た。
イチノジョウがお嬢様の提案を拒むとは微塵も思わなかった。今度のワークエの敵がやばいという共通の認識を持っているのに、しかもそれが女神プログラムに介入できる程の相手だと理解しているのにどうして力を合わせようとしないんだ?
「おい、あんた……」
「あんた馬鹿ぁ?」
俺が詰問しようとした時、イアナ嬢が声を荒げた。
わぁ、目が吊り上がってる!
人間ってあんなに目を吊り上げられるんだ。吃驚だよ。
「せっかくシスター仮面一号さんが協力しましょうって手を差し出してきたのよ。それを断るだなんて頭おかしいんじゃない?」
「え、いや、僕は」
おおっ、イチノジョウがイアナ嬢に押されてる。
イチノジョウのピンチにドンちゃんが翼を広げて威嚇した。
「んだよてめー、誘いを断ったくらいでそこまで言うことねぇだろーが。あんまりガタガタ言ってると喰うぞ」
「うっさい、カラスは黙ってなさい!」
一括。
それに気圧されたのかドンちゃんが一瞬ビクリとした。
そこでできた隙をイアナ嬢は逃さない。
追撃の言葉を発しようとして……。
「はいはい、ストップストップ」
お嬢様が修道服の袖口から二本の黒い棒を取り出し、それを交差させるように打ち鳴らした。
奇妙なことに打撃音はない。見た感じ結構派手に二本の黒い棒を打ち合わせているのに何一つそれらしい音がしないのだ。
もう何度も似たような魔道具を目にしているため、あれが「止めまスティック」の類だとはわかる。前回見たのは王都の『シスターラビットのお店』だった……はず。
イアナ嬢がピタリと動きを止めた。おおっ、効果抜群。さすがお嬢様。
そしてその場でばったり倒れるイアナ嬢。
「……」
あれ、そういやイアナ嬢も状態異常を無効にできなかったっけ? ほら「女神の指輪」を装備してるよね?
てことは状態異常無効を突破しちゃうレベルの威力なのか。
止めまスティック恐るべし。
「イチノジョウさんすみません、彼女に悪気はないんですよ。ただ、ちょっとアレなところがあるだけで」
お嬢様が謝罪しつつフォローを入れてるけど……ちょい待って。それってフォローになってないような?
イチノジョウは気にしてないといったふうに手を振った。
「いえいえ。それより僕の用事を済ませていいかな? 少し時間を無駄にしちゃったから大急ぎで帰らないとまずいんだよね」
ドンちゃんが「そりゃあんだけ古代金竜(エンシェントゴールドドラゴン)と遊んでたら時間無くなるだろ」とつっこんだがそれはスルー。それとも反応する余裕もないとかか?
俺が気を失ったイアナ嬢を抱き起こしているとシュナが訊いた。
「あの黒い棒、量産したらすっごく便利だと思わない?」
「便利だろうな」
黒い棒(止めまスティック)を修道服の袖口に仕舞うお嬢様を見ながら俺は答えた。
「だが、あれが大量に出回ったら冒険者なんて要らなくなるぞ」
仕組みは未だに良くわからんが狙った相手を簡単に無力化してしまうような魔道具なんて完全にチートアイテムだ。
もしくはバランスクラッシャー?
うん、あれは広めたら駄目な魔道具だと思う。
下手したら幼児でもドラゴン無力化してしまいそうだし。
いや試しませんよ?
何かあっても責任取りたくないし(「責任持てない」ではないのがミソ)。
「……」
ん?
あれ、俺何でこんなすんなりとイアナ嬢が無力化されたのを受け容れているんだ?
まあ確かにお嬢様相手だし、イアナ嬢にも悪いところはあったんだけどさ。
でもいきなり止めまスティックでって。
あ、あれ?
それってセーフ?
セーフかもしれない、とか思ってしまう俺がいる訳で。
あれ?
何だろう、もやもやする?
あーでもこう、もやもやするんだけどまあいっかとも思えてくるし。
「……」
うん。
まあいいか。
それよりお嬢様可愛い。
ウサギの仮面付けていてもお嬢様可愛い。
「うーん、僕何か妙な気分だったんだけど何だろう? 疲れてるのかなぁ?」
シュナがブツブツ言ってる。
こいつ大丈夫か?
「ジェイ、イアナさんは勇者さんに任せてこちらに来てください」
「はい」
お嬢様に呼ばれ、俺はすぐにイアナ嬢をシュナに預けた。
そのあまりの速さにシュナが苦く笑う。
いやだってお嬢様が俺を必要としているんですよ。
一瞬でも早く応じないと駄目じゃないですか。
俺は自分が飼い犬になったようなつもりでお嬢様の下に駆けつけた。
まあそんなに距離はないのだけど。十歩もない距離です。
「何でしょう、おじ……シスター仮面一号」
途中まで「お嬢様」と言いかけたが何とか言い直す。
お嬢様の笑みが深いけど怒ってないよな?
二年前にノーゼアの教会で修道女のシスターエミリアとして暮らすようになってからお嬢様は「お嬢様」と呼ばれるのを嫌がるようになっていた。
だから俺も普段は「シスターエミリア」と呼ぶようにしている。
そして、今の姿のお嬢様には「シスター仮面一号」と呼んでいる。
でもやっぱり気を抜くとつい「お嬢様」って呼びそうになるんだよなぁ。
いやお嬢様はお嬢様だし。
それがたとえ修道女(シスター)だろうと何だろうと俺のお嬢様には違いない訳で。
「ジェイ」
お嬢様がとってもとおっても静かな声で言った。
「私、シスター仮面一号ですよ」
「……はい」
うん。
以後気をつけよう。
いや今までだって気をつけていたんだけどね。
これからはもっと気をつけるってことで。
「(ピーと雑音)様は恐いのう」
エディオンがしみじみといったふうに言葉を発する。
俺も同感だが一切の言動は控えた。そうするべき状況なのは理解しているからね。
「んー何だか微妙な空気だけどいっか。あのさ……」
イチノジョウが俺に声をかけてきた。
「マリコーのラボにあったお人形を持ってるよね?」
「お人形?」
何となく心当たりがあるものの一応とぼけてみた。
お嬢様が説明する。
「サンジュウのことですよ。ほら、マリコーが自分の新しい身体にするつもりだった」
「ああ、あれですか」
やっぱそうか。
俺は自分の収納の中にある最新型のギロックのことを思った。
あれをお嬢様から受け取ったせいで変な称号を授かっちゃったんだよなぁ。
「お人形遊びしたいかも?」て、知らない人が聞いたら間違いなく白い目で見てくるよな。俺みたいな成人男性がそんな称号持ってたらそりゃ変態と誤解されても仕方ない。
イチノジョウがそれはもうとてもいい笑顔で告げた。
「仮に知らないふりをしても無駄だよ。君のその称号はばっちりチェックしてあるから。さあさあ、君のお人形を出して出して」
「ジョウ、こいつ急に崩れたぞ」
俺がメンタルダメージを食らって膝をつくとドンちゃんが驚いて声を上げた。
周囲から痛ましそうな視線を感じる。
めっさ辛い。
思わぬ場面でのクリティカルヒットだよ。
「ええっと、何かごめん」
俺が立ち直れずにいるとイチノジョウの声が降ってきた。
「べ、別にジェイがいい歳してお人形遊びするような変態とは思ってないから。ちゃんとわかってるから」
「……」
俺は顔を上げた。
めっちゃ笑いを堪えたイチノジョウがいた。その後ろには俺に背を向けて小刻みに震えているお嬢様とエディオンがいる。
シュナ? あいつは俺の背後ですが何か?
まあどうせあいつも笑いたいのを我慢しているんだろうさ。コンチクショウ!
*
気を取り直して。
俺は収納から最新型のギロック「サンジュウ」を出した。
ジュークたちと同じ銀髪を腰のあたりまで伸ばしたなかなかの美人さんだ。年齢は十七歳くらい。身体にフィットした銀色の服を着ている。服は継ぎ目がなくどうやって仕立てたのか全く謎だ。
首には「30」と記された紫のチョーカー。
数字の順番から俺たちはこのギロックを「サンジュウ」と呼んでいる(まあマリコーもそう呼んでいたし)。
「……」
あれ?
何だか前に見た時よりお胸が成長してないか?
うーん、気のせい?
胸には二つの膨らみとその間に丸い窪みがある。
イチノジョウが言った。
「じゃあ、前回のワークエで手に入れたチケットをこのお人形に貼ってね。これからこの子をジェイ専用のお人形にカスタマイズするからさぁ」
「……はい?」
俺は目を瞬かせた。
おい、イチノジョウ。
今、おかしなこと言わなかったか?
お嬢様(今はシスター仮面一号の姿をしている)の差し出した右手をイチノジョウがじっと見つめた。
イチノジョウは第一級管理者だ。
第二級管理者だったマリコー・ギロックよりも格上、しかもかつて「七罪」と呼ばれた暴食のラ・ドンと怠惰のラ・パンと行動を共にしている。
彼が味方になってくれればかなり心強い。
もちろんお嬢様を守る役目を譲るつもりはないが戦力として彼ほど頼もしい相手はいないだろう。
だって第一級管理者ですよ。
管理者と言えば精霊王より偉くて強いんですよ(イメージ込みの意見です)。
そしてあのマリコーよりも上の資格持ちなんですよ。当然権限だって第二級より上なんですよ。
うんうん、お嬢様もわかってるなぁ。
こんな強力な戦力、味方に引き込まない手はないよね。
返事をしないイチノジョウにお嬢様が尋ねる。
「どうですか? 今後のこともありますし手を組んで損はないと思うのですが」
「そうだね」
イチノジョウはお嬢様の右手から目を離さず応じる。
「君絡みのアーカイブは大体見たよ。だからこれから君がどうしたいのかも何となく想像できる」
「あら、アーカイブをご覧になったんですか。嫌だわ、恥ずかしい」
「別に恥ずかしがることはないよ。僕が初めてこっちの世界に来た当時に比べたら全然マシだし。むしろ僕の方が恥ずかしくなるくらいさ」
「そう言って頂けると助かります。それで、私の提案へのお返事は?」
にこやかに尋ねるお嬢様の顔をイチノジョウが見た。
静かに首を振る。
「残念だけど答は『ノー』だよ。僕は君に協力できない」
「なっ」
俺は思わず声が出た。
イチノジョウがお嬢様の提案を拒むとは微塵も思わなかった。今度のワークエの敵がやばいという共通の認識を持っているのに、しかもそれが女神プログラムに介入できる程の相手だと理解しているのにどうして力を合わせようとしないんだ?
「おい、あんた……」
「あんた馬鹿ぁ?」
俺が詰問しようとした時、イアナ嬢が声を荒げた。
わぁ、目が吊り上がってる!
人間ってあんなに目を吊り上げられるんだ。吃驚だよ。
「せっかくシスター仮面一号さんが協力しましょうって手を差し出してきたのよ。それを断るだなんて頭おかしいんじゃない?」
「え、いや、僕は」
おおっ、イチノジョウがイアナ嬢に押されてる。
イチノジョウのピンチにドンちゃんが翼を広げて威嚇した。
「んだよてめー、誘いを断ったくらいでそこまで言うことねぇだろーが。あんまりガタガタ言ってると喰うぞ」
「うっさい、カラスは黙ってなさい!」
一括。
それに気圧されたのかドンちゃんが一瞬ビクリとした。
そこでできた隙をイアナ嬢は逃さない。
追撃の言葉を発しようとして……。
「はいはい、ストップストップ」
お嬢様が修道服の袖口から二本の黒い棒を取り出し、それを交差させるように打ち鳴らした。
奇妙なことに打撃音はない。見た感じ結構派手に二本の黒い棒を打ち合わせているのに何一つそれらしい音がしないのだ。
もう何度も似たような魔道具を目にしているため、あれが「止めまスティック」の類だとはわかる。前回見たのは王都の『シスターラビットのお店』だった……はず。
イアナ嬢がピタリと動きを止めた。おおっ、効果抜群。さすがお嬢様。
そしてその場でばったり倒れるイアナ嬢。
「……」
あれ、そういやイアナ嬢も状態異常を無効にできなかったっけ? ほら「女神の指輪」を装備してるよね?
てことは状態異常無効を突破しちゃうレベルの威力なのか。
止めまスティック恐るべし。
「イチノジョウさんすみません、彼女に悪気はないんですよ。ただ、ちょっとアレなところがあるだけで」
お嬢様が謝罪しつつフォローを入れてるけど……ちょい待って。それってフォローになってないような?
イチノジョウは気にしてないといったふうに手を振った。
「いえいえ。それより僕の用事を済ませていいかな? 少し時間を無駄にしちゃったから大急ぎで帰らないとまずいんだよね」
ドンちゃんが「そりゃあんだけ古代金竜(エンシェントゴールドドラゴン)と遊んでたら時間無くなるだろ」とつっこんだがそれはスルー。それとも反応する余裕もないとかか?
俺が気を失ったイアナ嬢を抱き起こしているとシュナが訊いた。
「あの黒い棒、量産したらすっごく便利だと思わない?」
「便利だろうな」
黒い棒(止めまスティック)を修道服の袖口に仕舞うお嬢様を見ながら俺は答えた。
「だが、あれが大量に出回ったら冒険者なんて要らなくなるぞ」
仕組みは未だに良くわからんが狙った相手を簡単に無力化してしまうような魔道具なんて完全にチートアイテムだ。
もしくはバランスクラッシャー?
うん、あれは広めたら駄目な魔道具だと思う。
下手したら幼児でもドラゴン無力化してしまいそうだし。
いや試しませんよ?
何かあっても責任取りたくないし(「責任持てない」ではないのがミソ)。
「……」
ん?
あれ、俺何でこんなすんなりとイアナ嬢が無力化されたのを受け容れているんだ?
まあ確かにお嬢様相手だし、イアナ嬢にも悪いところはあったんだけどさ。
でもいきなり止めまスティックでって。
あ、あれ?
それってセーフ?
セーフかもしれない、とか思ってしまう俺がいる訳で。
あれ?
何だろう、もやもやする?
あーでもこう、もやもやするんだけどまあいっかとも思えてくるし。
「……」
うん。
まあいいか。
それよりお嬢様可愛い。
ウサギの仮面付けていてもお嬢様可愛い。
「うーん、僕何か妙な気分だったんだけど何だろう? 疲れてるのかなぁ?」
シュナがブツブツ言ってる。
こいつ大丈夫か?
「ジェイ、イアナさんは勇者さんに任せてこちらに来てください」
「はい」
お嬢様に呼ばれ、俺はすぐにイアナ嬢をシュナに預けた。
そのあまりの速さにシュナが苦く笑う。
いやだってお嬢様が俺を必要としているんですよ。
一瞬でも早く応じないと駄目じゃないですか。
俺は自分が飼い犬になったようなつもりでお嬢様の下に駆けつけた。
まあそんなに距離はないのだけど。十歩もない距離です。
「何でしょう、おじ……シスター仮面一号」
途中まで「お嬢様」と言いかけたが何とか言い直す。
お嬢様の笑みが深いけど怒ってないよな?
二年前にノーゼアの教会で修道女のシスターエミリアとして暮らすようになってからお嬢様は「お嬢様」と呼ばれるのを嫌がるようになっていた。
だから俺も普段は「シスターエミリア」と呼ぶようにしている。
そして、今の姿のお嬢様には「シスター仮面一号」と呼んでいる。
でもやっぱり気を抜くとつい「お嬢様」って呼びそうになるんだよなぁ。
いやお嬢様はお嬢様だし。
それがたとえ修道女(シスター)だろうと何だろうと俺のお嬢様には違いない訳で。
「ジェイ」
お嬢様がとってもとおっても静かな声で言った。
「私、シスター仮面一号ですよ」
「……はい」
うん。
以後気をつけよう。
いや今までだって気をつけていたんだけどね。
これからはもっと気をつけるってことで。
「(ピーと雑音)様は恐いのう」
エディオンがしみじみといったふうに言葉を発する。
俺も同感だが一切の言動は控えた。そうするべき状況なのは理解しているからね。
「んー何だか微妙な空気だけどいっか。あのさ……」
イチノジョウが俺に声をかけてきた。
「マリコーのラボにあったお人形を持ってるよね?」
「お人形?」
何となく心当たりがあるものの一応とぼけてみた。
お嬢様が説明する。
「サンジュウのことですよ。ほら、マリコーが自分の新しい身体にするつもりだった」
「ああ、あれですか」
やっぱそうか。
俺は自分の収納の中にある最新型のギロックのことを思った。
あれをお嬢様から受け取ったせいで変な称号を授かっちゃったんだよなぁ。
「お人形遊びしたいかも?」て、知らない人が聞いたら間違いなく白い目で見てくるよな。俺みたいな成人男性がそんな称号持ってたらそりゃ変態と誤解されても仕方ない。
イチノジョウがそれはもうとてもいい笑顔で告げた。
「仮に知らないふりをしても無駄だよ。君のその称号はばっちりチェックしてあるから。さあさあ、君のお人形を出して出して」
「ジョウ、こいつ急に崩れたぞ」
俺がメンタルダメージを食らって膝をつくとドンちゃんが驚いて声を上げた。
周囲から痛ましそうな視線を感じる。
めっさ辛い。
思わぬ場面でのクリティカルヒットだよ。
「ええっと、何かごめん」
俺が立ち直れずにいるとイチノジョウの声が降ってきた。
「べ、別にジェイがいい歳してお人形遊びするような変態とは思ってないから。ちゃんとわかってるから」
「……」
俺は顔を上げた。
めっちゃ笑いを堪えたイチノジョウがいた。その後ろには俺に背を向けて小刻みに震えているお嬢様とエディオンがいる。
シュナ? あいつは俺の背後ですが何か?
まあどうせあいつも笑いたいのを我慢しているんだろうさ。コンチクショウ!
*
気を取り直して。
俺は収納から最新型のギロック「サンジュウ」を出した。
ジュークたちと同じ銀髪を腰のあたりまで伸ばしたなかなかの美人さんだ。年齢は十七歳くらい。身体にフィットした銀色の服を着ている。服は継ぎ目がなくどうやって仕立てたのか全く謎だ。
首には「30」と記された紫のチョーカー。
数字の順番から俺たちはこのギロックを「サンジュウ」と呼んでいる(まあマリコーもそう呼んでいたし)。
「……」
あれ?
何だか前に見た時よりお胸が成長してないか?
うーん、気のせい?
胸には二つの膨らみとその間に丸い窪みがある。
イチノジョウが言った。
「じゃあ、前回のワークエで手に入れたチケットをこのお人形に貼ってね。これからこの子をジェイ専用のお人形にカスタマイズするからさぁ」
「……はい?」
俺は目を瞬かせた。
おい、イチノジョウ。
今、おかしなこと言わなかったか?