音を重ねて。#3 Side Yellow
文字数 1,105文字
地下のスタジオは、ちょっと小さめだけど三人で使うにはちょうどいいくらいのサイズで、ドラムセットやアンプ、必要最低限のものは十分揃ってそうだった。
「さっきのなおっちゃんじゃないけど……テンション上がるね」
ケースから楽器を取り出しながら、思わずつぶやいた。あたしの楽器は、茶色と黒のグラデーションのジャズベース。入学のときに買ってもらったけど、軽音に入らなかったせいで、しばらく押し入れにしまいっぱなしだった。少ししてから、休みの日とかにちょこちょこ練習するようになったけど、誰かと合わせるために練習するのも、こうやって家じゃない場所で楽器を弾くのも初めてだった。
「でしょでしょ? ワクワクしないわけがないよね」
向かいで頷くなおっちゃんのギターは、黄色のレスポール。ヒマワリみたいな明るい色がなおっちゃんにぴったりだ。
一方部屋の隅でちなっちゃんが手にしていたのは、鋭い角が二本生えたような形の、真っ赤なSG。
「ちなっちゃん、そのギター……」
「『意外』は、聞き飽きたからね」
バレちゃった。ちなっちゃんはわざとらしく顔をしかめて、ギターのストラップを肩にかけた。彼女のふわっとした雰囲気とは正反対のトガったフォルムだけど、なんでだろう、そのふたつの組み合わせが、すごくしっくりくる。
「うわー、ちーちゃんかっこいい!」
その姿を見てなおっちゃんが歓声を上げると、ちなっちゃんは「ありがと」と微笑んでから、
「見かけ倒しにならないといいんだけど」
そう言って、ギターとアンプをシールドでつないだ。なおっちゃんとあたしも、それに倣って楽器をつなぐ。アンプからジジ……と聞こえてくる微かなノイズと、試しに弦を弾いたときの身体を震わす感じが、家での練習じゃないことを実感させてくれる。
なんだろう、まだ何も始まってないのに、すごくどきどきする。
「それでは、一回目の曲合わせを始めまーす! ……ごめんちーちゃん、スコアの予備あったりしない?」
「忘れたの? わたし暗譜したから、わたしの使っていいわよ」
「えっ、ちなっちゃんコレもう覚えたの? すごくない?」
「それよりナオ、マイクいらないの?」
「あ、いるいるいるー!」
ばたばたと譜面やマイクのセッティングを済ませて、みんなで向かい合ってスタンバイ。まだ見ぬドラムメンバーの代わりに、ちなっちゃんがかけたメトロノームでテンポを取る。
マイクチェックを終えたなおっちゃんが、大きく深呼吸した。緊張してるのかな、心なしか表情がこわばってる。
「まずは、一回通してみるね。それじゃ、いくよ……ワン、ツー、スリー――」
「さっきのなおっちゃんじゃないけど……テンション上がるね」
ケースから楽器を取り出しながら、思わずつぶやいた。あたしの楽器は、茶色と黒のグラデーションのジャズベース。入学のときに買ってもらったけど、軽音に入らなかったせいで、しばらく押し入れにしまいっぱなしだった。少ししてから、休みの日とかにちょこちょこ練習するようになったけど、誰かと合わせるために練習するのも、こうやって家じゃない場所で楽器を弾くのも初めてだった。
「でしょでしょ? ワクワクしないわけがないよね」
向かいで頷くなおっちゃんのギターは、黄色のレスポール。ヒマワリみたいな明るい色がなおっちゃんにぴったりだ。
一方部屋の隅でちなっちゃんが手にしていたのは、鋭い角が二本生えたような形の、真っ赤なSG。
「ちなっちゃん、そのギター……」
「『意外』は、聞き飽きたからね」
バレちゃった。ちなっちゃんはわざとらしく顔をしかめて、ギターのストラップを肩にかけた。彼女のふわっとした雰囲気とは正反対のトガったフォルムだけど、なんでだろう、そのふたつの組み合わせが、すごくしっくりくる。
「うわー、ちーちゃんかっこいい!」
その姿を見てなおっちゃんが歓声を上げると、ちなっちゃんは「ありがと」と微笑んでから、
「見かけ倒しにならないといいんだけど」
そう言って、ギターとアンプをシールドでつないだ。なおっちゃんとあたしも、それに倣って楽器をつなぐ。アンプからジジ……と聞こえてくる微かなノイズと、試しに弦を弾いたときの身体を震わす感じが、家での練習じゃないことを実感させてくれる。
なんだろう、まだ何も始まってないのに、すごくどきどきする。
「それでは、一回目の曲合わせを始めまーす! ……ごめんちーちゃん、スコアの予備あったりしない?」
「忘れたの? わたし暗譜したから、わたしの使っていいわよ」
「えっ、ちなっちゃんコレもう覚えたの? すごくない?」
「それよりナオ、マイクいらないの?」
「あ、いるいるいるー!」
ばたばたと譜面やマイクのセッティングを済ませて、みんなで向かい合ってスタンバイ。まだ見ぬドラムメンバーの代わりに、ちなっちゃんがかけたメトロノームでテンポを取る。
マイクチェックを終えたなおっちゃんが、大きく深呼吸した。緊張してるのかな、心なしか表情がこわばってる。
「まずは、一回通してみるね。それじゃ、いくよ……ワン、ツー、スリー――」