トレジャーハント。 #6 Side Red
文字数 1,352文字
コウさんの力強い声が、シュウさんの駆け抜けるようなギターが、キーボードが、ベースが、ドラムが、いろんな色の曲を編み上げていく。この前ちゃんと聴いてなかったのが惜しいくらいに、どの曲も熱く胸に響いてきた。
Phantomが演奏する曲たちは、どれもハイテンポでノリがよくて、知らない曲でも身体が勝手にリズムを刻んで動き出したくなっていた。そんなあたしたちを誘導するみたいに、メンバーが手を叩いたり、拳を突き上げたりしてフロアを引っ張っていく。お客さんの手拍子と楽器隊のリズムがぴったりと合わさるところなんか、もう鳥肌が立つほどだった。
それでいて、歌詞もすっと心に入ってくるから不思議だ。コウさんが夢に向かう気持ちだったり、ちょっぴりほろ苦い恋心だったりを歌い上げれば、フロアには拍手と一緒に感嘆のため息が混じる。
(この人たち、やっぱりすごい……)
あんなに来るのを渋っていたちーちゃんも、コウさんやシュウさんに噛みつき気味だったてんちゃんも、いつの間にか身体を揺らし、ときにはじっくり耳を傾けてステージに魅入っていた。まきちゃんがPhantomを巻き込み上手って言ったのは、きっとこういうことなんだろう。
あたしもそのステージを、いつしか憧れの気持ちを抱きながら見つめていた。こんなふうになりたい。知らない人も一緒くたになって、騒いで楽しんで、心を動かせるようになりたい。
『なおっちゃんの得意分野だと思うんだよね、お客さんと仲良くなるの』
まきちゃんの言葉を思い出す。ほんとに、あたしにも出来るかな。この人たちみたいに、観る人の心を掴むことができるかな……
「なおっちゃん、大丈夫?」
まきちゃんに声をかけられる。アンコールも終わって、人の波が出口へと向かい始めた頃だった。あたしは、夢から覚めたようにまきちゃんのほうを見た。
「……すごかったね」
「うん、すごいもん見た」
あたしの言葉に、まきちゃんもすこぶる満足そうに頷いた。その隣で、ちーちゃんは何故か渋い顔をしてる。
「……悔しいわね」
「え?」
「悔しいけど、このバンドがすごいってことは、認めないわけにはいかないわ」
きっぱりとそう言った。このバンドに――というかコウさんに対して、なにか思うところがあるみたいだけど、Phantomの実力はその気持ちをも上回ったらしい。
それはてんちゃんも同じだったようで、楽しいのやら怒ってるのやら、ずいぶん複雑な表情をしていた。
「ボクも、あのボーカルがナンパ野郎じゃなかったら、手放しで誉めるんだけど……」
気にしてるのはそこらしい。呆れてツッコミを入れようとすると、
「てんちゃん、そんなこと言うとコウが泣くよ?」
あらぬ方向からツッコミが飛んできた。てんちゃんは振り返ると、声をかけてきた男性に顔をしかめてみせた。
「山口さん! あんたでしょ楽器屋 のことバラしたの!」
「何が悪いの、いい宣伝じゃない。僕のおかげで、みんな今日ここに来られたんだし。この前のライブ映像といい、いい仕事してるでしょ?」
コウさんに楽器屋のことを教えたのはこの人らしい。対バンライブの映像をくれたのも。慌ててお礼を言おうとすると、山口さんはふいに声を潜めて、
「そうだ、世間話をしに来たんじゃないんだよ。キミたちを呼びにきたんだ」
「……え?」
Phantomが演奏する曲たちは、どれもハイテンポでノリがよくて、知らない曲でも身体が勝手にリズムを刻んで動き出したくなっていた。そんなあたしたちを誘導するみたいに、メンバーが手を叩いたり、拳を突き上げたりしてフロアを引っ張っていく。お客さんの手拍子と楽器隊のリズムがぴったりと合わさるところなんか、もう鳥肌が立つほどだった。
それでいて、歌詞もすっと心に入ってくるから不思議だ。コウさんが夢に向かう気持ちだったり、ちょっぴりほろ苦い恋心だったりを歌い上げれば、フロアには拍手と一緒に感嘆のため息が混じる。
(この人たち、やっぱりすごい……)
あんなに来るのを渋っていたちーちゃんも、コウさんやシュウさんに噛みつき気味だったてんちゃんも、いつの間にか身体を揺らし、ときにはじっくり耳を傾けてステージに魅入っていた。まきちゃんがPhantomを巻き込み上手って言ったのは、きっとこういうことなんだろう。
あたしもそのステージを、いつしか憧れの気持ちを抱きながら見つめていた。こんなふうになりたい。知らない人も一緒くたになって、騒いで楽しんで、心を動かせるようになりたい。
『なおっちゃんの得意分野だと思うんだよね、お客さんと仲良くなるの』
まきちゃんの言葉を思い出す。ほんとに、あたしにも出来るかな。この人たちみたいに、観る人の心を掴むことができるかな……
「なおっちゃん、大丈夫?」
まきちゃんに声をかけられる。アンコールも終わって、人の波が出口へと向かい始めた頃だった。あたしは、夢から覚めたようにまきちゃんのほうを見た。
「……すごかったね」
「うん、すごいもん見た」
あたしの言葉に、まきちゃんもすこぶる満足そうに頷いた。その隣で、ちーちゃんは何故か渋い顔をしてる。
「……悔しいわね」
「え?」
「悔しいけど、このバンドがすごいってことは、認めないわけにはいかないわ」
きっぱりとそう言った。このバンドに――というかコウさんに対して、なにか思うところがあるみたいだけど、Phantomの実力はその気持ちをも上回ったらしい。
それはてんちゃんも同じだったようで、楽しいのやら怒ってるのやら、ずいぶん複雑な表情をしていた。
「ボクも、あのボーカルがナンパ野郎じゃなかったら、手放しで誉めるんだけど……」
気にしてるのはそこらしい。呆れてツッコミを入れようとすると、
「てんちゃん、そんなこと言うとコウが泣くよ?」
あらぬ方向からツッコミが飛んできた。てんちゃんは振り返ると、声をかけてきた男性に顔をしかめてみせた。
「山口さん! あんたでしょ
「何が悪いの、いい宣伝じゃない。僕のおかげで、みんな今日ここに来られたんだし。この前のライブ映像といい、いい仕事してるでしょ?」
コウさんに楽器屋のことを教えたのはこの人らしい。対バンライブの映像をくれたのも。慌ててお礼を言おうとすると、山口さんはふいに声を潜めて、
「そうだ、世間話をしに来たんじゃないんだよ。キミたちを呼びにきたんだ」
「……え?」