何もないまま。#8 Side Red
文字数 1,200文字
ちーちゃんの言葉に呆気に取られてたら、「はいはーい!」とまきちゃんが元気よく手を挙げた。
「結成一か月で初ステージ踏めるだけの演奏スキルと行動力があると思います!」
「本番一週間前にもう一曲仕上げようって言われたときは焦ったけど……そういう勢いも大事よね」
「あと、あたしとかてんちゃんをメンバーに引き込むときのなおっちゃんの熱量、すごかったよね」
「ほんとに、てんちゃんは正直入ってくれると思ってなかったから。あれはナオのお手柄よね」
「あとちーちゃんは音のバランスを見る力がすごい!」
「マキだって、場の雰囲気とか、人の気持ちを感じ取るの得意でしょ?」
「あ、あのー……」
矢継ぎ早な『あるもの合戦』に割って入ると、二人がこっちを向いた。まきちゃんの力強い目と、ちーちゃんの優しい目を見て、あたしは忘れちゃいけない、大事なことに気が付いた。
「ナオ、わたしたちに『あるもの』、見つかった?」
ちーちゃんの問いに、あたしは小さく頷いた。二人の目を真っ直ぐ見返して。
「ふたりがいるんだから、『何もない』なんてこと、ありえないよね。ごめん」
「なおっちゃん、ちょーっと違くない?」
「え?」
まきちゃんがテーブル越しに手を伸ばして、ちーちゃんの手ごとわしわしと頭を撫でてきた。
「なおっちゃんがいなかったら、あたしたちは何もなかったんだよ。今あたしたちが力を出せるのは、なおっちゃんのおかげ」
「そうよ、ナオが『バンドやろう』って言ったときから、『何もない』なんてありえないの。わかる?」
「え、え?」
頭を撫でられるがままにされながら、あたしはもう一度二人を見た。えっと、二人が言いたいことは、つまり、
「あたしも、『何もない』じゃない、ってこと……?」
「まあ、そういうことね」
「そうそう。だから、なおっちゃんもあたしたちも、(NULL)なんかじゃないよ!」
にかっと笑うまきちゃんと、安心したように微笑むちーちゃんと。二人の笑顔を見てたら、なんか考え込んでうじうじしてたのが恥ずかしくなってきた。
あたしは鞄からペンケースを取り出して、
「ちーちゃん、ケースからジャケット出して」
ちーちゃんにDVDのジャケットをもらうと、三番目、あたしたちのバンド名のところを、決意を込めて油性ペンで塗り潰した。
「……もうこれで、あたしたちは(NULL)じゃない」
「なおっちゃん、思い切ったねえ!」
真っ黒になったバンド名を見つめて、またまきちゃんがけらけらと笑う。ちーちゃんはぽんぽんとあたしの頭を撫でながら言った。
「それじゃ、これから『足りないもの』探しね」
「……うん」
あたしは力強く頷いた。もうあのときのことも、あの男の子のことも、頭から追い出したりしない。あたしたちに足りないもの、必ず見つけ出して、向き合って、手に入れてみせるから。
「結成一か月で初ステージ踏めるだけの演奏スキルと行動力があると思います!」
「本番一週間前にもう一曲仕上げようって言われたときは焦ったけど……そういう勢いも大事よね」
「あと、あたしとかてんちゃんをメンバーに引き込むときのなおっちゃんの熱量、すごかったよね」
「ほんとに、てんちゃんは正直入ってくれると思ってなかったから。あれはナオのお手柄よね」
「あとちーちゃんは音のバランスを見る力がすごい!」
「マキだって、場の雰囲気とか、人の気持ちを感じ取るの得意でしょ?」
「あ、あのー……」
矢継ぎ早な『あるもの合戦』に割って入ると、二人がこっちを向いた。まきちゃんの力強い目と、ちーちゃんの優しい目を見て、あたしは忘れちゃいけない、大事なことに気が付いた。
「ナオ、わたしたちに『あるもの』、見つかった?」
ちーちゃんの問いに、あたしは小さく頷いた。二人の目を真っ直ぐ見返して。
「ふたりがいるんだから、『何もない』なんてこと、ありえないよね。ごめん」
「なおっちゃん、ちょーっと違くない?」
「え?」
まきちゃんがテーブル越しに手を伸ばして、ちーちゃんの手ごとわしわしと頭を撫でてきた。
「なおっちゃんがいなかったら、あたしたちは何もなかったんだよ。今あたしたちが力を出せるのは、なおっちゃんのおかげ」
「そうよ、ナオが『バンドやろう』って言ったときから、『何もない』なんてありえないの。わかる?」
「え、え?」
頭を撫でられるがままにされながら、あたしはもう一度二人を見た。えっと、二人が言いたいことは、つまり、
「あたしも、『何もない』じゃない、ってこと……?」
「まあ、そういうことね」
「そうそう。だから、なおっちゃんもあたしたちも、(NULL)なんかじゃないよ!」
にかっと笑うまきちゃんと、安心したように微笑むちーちゃんと。二人の笑顔を見てたら、なんか考え込んでうじうじしてたのが恥ずかしくなってきた。
あたしは鞄からペンケースを取り出して、
「ちーちゃん、ケースからジャケット出して」
ちーちゃんにDVDのジャケットをもらうと、三番目、あたしたちのバンド名のところを、決意を込めて油性ペンで塗り潰した。
「……もうこれで、あたしたちは(NULL)じゃない」
「なおっちゃん、思い切ったねえ!」
真っ黒になったバンド名を見つめて、またまきちゃんがけらけらと笑う。ちーちゃんはぽんぽんとあたしの頭を撫でながら言った。
「それじゃ、これから『足りないもの』探しね」
「……うん」
あたしは力強く頷いた。もうあのときのことも、あの男の子のことも、頭から追い出したりしない。あたしたちに足りないもの、必ず見つけ出して、向き合って、手に入れてみせるから。