空白を埋める人。#4 Side Blue
文字数 717文字
「サクラ、おめでと」
「……はい?」
数日後、バイトでスタッフルームに現れたわたしに、てんちゃんは顔を合わせるなりそう言った。心当たりが思いつかなくて、とっさに間抜けな声しか出なかったのが悔しい。
「なにか……祝われるようなことあったかしら」
誕生日でもないし……といろいろ考えていると、てんちゃんはもともと目つきの悪い目をさらにむすっとさせて、
「バンドのこと! バンド結成おめでとうって言ってんの」
ああ、と納得しかけたけど、この前会ったときのことを思い返して眉をひそめる。
「あのバタバタでよく状況が把握できたわね」
「いや、あのあと親父から聞かされた」
「……なるほどね」
今度こそ納得すると、彼女は不機嫌そうに「頼んでもないのに」と付け加えた。それを言ったらわたしたちも頼んではいないけど。嬉々としてわたしたちのことを話す店長と、うるさそうにいなすてんちゃんのやりとりが目に浮かぶようで、心の中でひっそり苦笑する。
「サクラ、バンドやりたいって前に言ってたじゃん。だから、よかったね、って」
表情を和らげて、彼女が言う。そういえば、ここに勤め始めてすぐのとき、そんなやり取りをしたことを思い出した。彼女がひとりで音楽をやりたいと話していたのも、たしかそのときだ。
それ以来バンドの話はしたことがなかったけど、ちゃんと憶えていてくれたらしい。
「……ありがと」
わたしも笑って返す。些細なことでも、こうやってわざわざ寿 いでくれる。やさしい子なのだ、彼女は。
この流れでバンドのお誘いを……と意気込んでいた、そのとき、
「あ、でもボクは入らないからね」
先手を打たれた。
「……はい?」
数日後、バイトでスタッフルームに現れたわたしに、てんちゃんは顔を合わせるなりそう言った。心当たりが思いつかなくて、とっさに間抜けな声しか出なかったのが悔しい。
「なにか……祝われるようなことあったかしら」
誕生日でもないし……といろいろ考えていると、てんちゃんはもともと目つきの悪い目をさらにむすっとさせて、
「バンドのこと! バンド結成おめでとうって言ってんの」
ああ、と納得しかけたけど、この前会ったときのことを思い返して眉をひそめる。
「あのバタバタでよく状況が把握できたわね」
「いや、あのあと親父から聞かされた」
「……なるほどね」
今度こそ納得すると、彼女は不機嫌そうに「頼んでもないのに」と付け加えた。それを言ったらわたしたちも頼んではいないけど。嬉々としてわたしたちのことを話す店長と、うるさそうにいなすてんちゃんのやりとりが目に浮かぶようで、心の中でひっそり苦笑する。
「サクラ、バンドやりたいって前に言ってたじゃん。だから、よかったね、って」
表情を和らげて、彼女が言う。そういえば、ここに勤め始めてすぐのとき、そんなやり取りをしたことを思い出した。彼女がひとりで音楽をやりたいと話していたのも、たしかそのときだ。
それ以来バンドの話はしたことがなかったけど、ちゃんと憶えていてくれたらしい。
「……ありがと」
わたしも笑って返す。些細なことでも、こうやってわざわざ
この流れでバンドのお誘いを……と意気込んでいた、そのとき、
「あ、でもボクは入らないからね」
先手を打たれた。