空白を埋める人。#4 Side Blue

文字数 717文字

「サクラ、おめでと」
「……はい?」

 数日後、バイトでスタッフルームに現れたわたしに、てんちゃんは顔を合わせるなりそう言った。心当たりが思いつかなくて、とっさに間抜けな声しか出なかったのが悔しい。

「なにか……祝われるようなことあったかしら」

 誕生日でもないし……といろいろ考えていると、てんちゃんはもともと目つきの悪い目をさらにむすっとさせて、

「バンドのこと! バンド結成おめでとうって言ってんの」

 ああ、と納得しかけたけど、この前会ったときのことを思い返して眉をひそめる。

「あのバタバタでよく状況が把握できたわね」
「いや、あのあと親父から聞かされた」
「……なるほどね」

 今度こそ納得すると、彼女は不機嫌そうに「頼んでもないのに」と付け加えた。それを言ったらわたしたちも頼んではいないけど。嬉々としてわたしたちのことを話す店長と、うるさそうにいなすてんちゃんのやりとりが目に浮かぶようで、心の中でひっそり苦笑する。

「サクラ、バンドやりたいって前に言ってたじゃん。だから、よかったね、って」

 表情を和らげて、彼女が言う。そういえば、ここに勤め始めてすぐのとき、そんなやり取りをしたことを思い出した。彼女がひとりで音楽をやりたいと話していたのも、たしかそのときだ。
 それ以来バンドの話はしたことがなかったけど、ちゃんと憶えていてくれたらしい。

「……ありがと」

 わたしも笑って返す。些細なことでも、こうやってわざわざ寿(ことほ)いでくれる。やさしい子なのだ、彼女は。
 この流れでバンドのお誘いを……と意気込んでいた、そのとき、

「あ、でもボクは入らないからね」

 先手を打たれた。
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登場人物紹介

★アナウンス★

・アイコンイラスト(ちびキャラVer)を追加しました。

(2020/07/24)


・奈桜・真希・千夏の夏私服と所有楽器のイメージイラストを

ツイッターに公開中です。

*第2章-#3 を読んでからご覧いただくとより楽しめるかと思います。

斉藤 奈桜《さいとう なお》


高校二年生。いつも明るく、誰とでも仲良くなれる少女。

バンドではギター・ボーカルを務める。

佐倉 千夏《さくら ちなつ》

奈桜の同級生。学校ではおとなしい文学少女。

バンドではギター担当。

井川 真希《いがわ まき》

奈桜の同級生。薙刀部所属の文武両道少女。

バンドではベース担当。

富士森 天音《ふじもり あまね》

千夏のバイト先の店長の娘。高校一年。

バンドにはドラムのサポートメンバーとして参加。

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