刃を交えて。#1 Side Blue

文字数 1,114文字

「当たり前だけど……あたしたち以外はみんな軽音のバンドだよね」

 渡されたプリントを見ながら、マキが苦笑する。わたしも周りを見渡して、若干の孤立感というか、居心地の悪さを感じていた。
 夏休みが明けて、いよいよ学園祭の準備が本格的になってきた。わたしたちはいま、ステージでのバンド発表を行う団体向けの説明会に来ている。が、そこかしこで話し声が止まらない。

「あのー、これから説明会を……」

 実行委員の子が、説明を始めたいのに話しづらそうにしているのが見える。
 マキの言う通り、わたしたち以外全員軽音楽部からの参加。部では終日音楽教室を押さえてたはずだから、学校の入口に面して人目につくステージに上がるのは、そのなかでも『精鋭バンド』なのだろう。
 夏休み前に行った、音楽教室でのライブが始まる前のような身内感が漂ってて、その時点で居心地が悪い。ただその浮ついた身内感がだんだんと収まってきて、代わりにちらちらとわたしたちに向けられる視線が増えた。よく軽音に出入りしているナオは問題ないとして、本が友達と思われがちなわたしと、体育会系のマキがいるのは違和感があるのだろう。まあこの反応も致し方ないが、それでも気分がいいものではない。

「井川、佐倉、参加する説明会間違えてないか……?」

 しまいには、事情を知らない担当の先生にもそう声を掛けられる始末。大丈夫です、と返しながら、演奏で見返してやるんだからと心に誓った。
 やっと始まった説明では、当日の流れ、使用する機材など、プリントを読み上げるだけの時間が続いた。メインはステージ準備と片づけの役割分担で、初日のラストに演奏するわたしたちは、その前のバンドと初日の片づけを担当することになった。

「片づけは各担当の楽器に分かれてやらないといけないのね……てんちゃんいないから、ドラムはわたしが担当するわ。ナオ、ギターのほうはお願い」

 パートごとの打ち合わせに向かうためにそう言うと、なぜかナオは慌てた様子で、

「あ、あの、ドラムはあたしが行くから、ちーちゃんはギターのほうに行ってもらっていいかな」
「え、わたしがドラム担当したらまずいの?」
「いや、そうじゃなくて、ええと……」

 本格的に様子がおかしい。追求しようとしたそのとき、ドラムパートの輪の中から、ひとりの男子生徒がこちらに向かってきた。ナオは「あー見つかっちゃった」と言いたげな顔をしてる。

「ナンシー先輩……」

 ナオにナンシーと呼ばれたその人は、初対面(だったはず)のわたしにずいぶんと冷たい、厳しい目を向けてくる。
 ナンシー先輩は、わたしの目の前まで来ると、厳しい目をさらに細めて、

「キミだよね、夏休み前のライブで開始早々に出てったの」
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登場人物紹介

★アナウンス★

・アイコンイラスト(ちびキャラVer)を追加しました。

(2020/07/24)


・奈桜・真希・千夏の夏私服と所有楽器のイメージイラストを

ツイッターに公開中です。

*第2章-#3 を読んでからご覧いただくとより楽しめるかと思います。

斉藤 奈桜《さいとう なお》


高校二年生。いつも明るく、誰とでも仲良くなれる少女。

バンドではギター・ボーカルを務める。

佐倉 千夏《さくら ちなつ》

奈桜の同級生。学校ではおとなしい文学少女。

バンドではギター担当。

井川 真希《いがわ まき》

奈桜の同級生。薙刀部所属の文武両道少女。

バンドではベース担当。

富士森 天音《ふじもり あまね》

千夏のバイト先の店長の娘。高校一年。

バンドにはドラムのサポートメンバーとして参加。

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