宝石のように。 #8 Side Yellow
文字数 1,370文字
「……で? 結果全曲、サクラもコーラス入れることになったって……『余裕を持つ』が目標だって聞いてたんだけど、逆に追いつめてない?」
呆れ切ったてんちゃんの言葉に、あはは、と笑いながらそっぽを向いた。まったくその通り、返す言葉もない。
あのあと委員会室に乗り込んだなおっちゃんは、何を思ったかあたしとちなっちゃんの二人分のマイクを機材リストに追加してもらい、事後報告を受けたちなっちゃんにこっぴどく叱られていた。それでも、その日の夜に二人分のコーラス用の譜面(しかも全曲分)を送ってくれたあたり、もしかしたらちなっちゃんもコーラスやりたかったのかな……なんて思ったり。
そして数日経った今日、夏休み最後の合わせ練習でマイクとスタンドを二本追加で借りて、現れたてんちゃんに白い目で見られたのがついさっき。
「でもさ、あたしは、まきちゃんがコーラスやりたいって言ってくれてよかったって思ってる。こんなにカッコよくなったんだもん、すごいよ!」
最終テイクの録音を聴きながら、なおっちゃんが興奮したように言う。それはあたしもほんとに同感だった。正直まだ完璧とは言えないけれど、コーラスが入るとこんなに変わるんだっていうくらい、声の厚みが違って聴こえる。ちなっちゃんと三人でハモるところなんか、録音を聴くだけでも鳥肌が立ちそうだった。
「この短期間でここまで仕上げてきて、二人ともすごいよ! まきちゃんは下から支えてくれる感じで安心できるし、ちーちゃんも高音のハモりめっちゃキレイだし。ね?」
急に話を振られて、隅のほうで録音を聴いていたちなっちゃんは少し驚きながら、でも何食わぬ顔で話す。
「わたしは、もともと合唱もアルトだし、ハモりは慣れてるから……」
「でも今回上ハモだから、合唱とは感覚違くない? サクラのことだからまた夜な夜な猛練習してたんじゃ……」
「てんちゃん!」
てんちゃんの呟きを慌てて遮るちなっちゃん。前から薄々気づいてはいたけど、最近てんちゃんのおかげで、ちなっちゃんの努力家な一面を発見できたのがなんか嬉しい(はっきり言うとちなっちゃんに嫌がられそうだけど)。
「……でも、最初のライブから腕が上がってるのは、確かよね」
ちなっちゃんが呟くと、みんなそれぞれに頷く。あたし自身も、それから他のメンバーも、この短期間で出来なかったことが出来るようになって、出来てたことはさらに上達してるのが判る。何より、みんな表情がきらきらしてる。
「あたし、いますっごく楽しいよ」なおっちゃんが噛み締めるように呟いた。「余裕をもって、なんて言ってたけど、いろいろやりたいこと詰め込んで練習して、レベルアップできるのが楽しくて。他にもいろんなことに挑戦したら、もっともっといろんなことできるようになるのかな、って……」
意味ありげに言葉を区切ったなおっちゃんに、「なにか挑戦したいこと、あるのね?」と尋ねるちなっちゃん。あたしも、なおっちゃんが隠し持っている『挑戦したいこと』を知りたかった。
「ねえ、なおっちゃんが次にやりたいこと、教えて?」
なおっちゃんは意を決したような顔をして、カバンから紙の束を取り出してあたしたちに差し出した。
「今までより、もっと余裕がなくなりそうなことなんだけど……いいかな?」
三人で覗き込むと、それは手書きのバンドスコアだった。
呆れ切ったてんちゃんの言葉に、あはは、と笑いながらそっぽを向いた。まったくその通り、返す言葉もない。
あのあと委員会室に乗り込んだなおっちゃんは、何を思ったかあたしとちなっちゃんの二人分のマイクを機材リストに追加してもらい、事後報告を受けたちなっちゃんにこっぴどく叱られていた。それでも、その日の夜に二人分のコーラス用の譜面(しかも全曲分)を送ってくれたあたり、もしかしたらちなっちゃんもコーラスやりたかったのかな……なんて思ったり。
そして数日経った今日、夏休み最後の合わせ練習でマイクとスタンドを二本追加で借りて、現れたてんちゃんに白い目で見られたのがついさっき。
「でもさ、あたしは、まきちゃんがコーラスやりたいって言ってくれてよかったって思ってる。こんなにカッコよくなったんだもん、すごいよ!」
最終テイクの録音を聴きながら、なおっちゃんが興奮したように言う。それはあたしもほんとに同感だった。正直まだ完璧とは言えないけれど、コーラスが入るとこんなに変わるんだっていうくらい、声の厚みが違って聴こえる。ちなっちゃんと三人でハモるところなんか、録音を聴くだけでも鳥肌が立ちそうだった。
「この短期間でここまで仕上げてきて、二人ともすごいよ! まきちゃんは下から支えてくれる感じで安心できるし、ちーちゃんも高音のハモりめっちゃキレイだし。ね?」
急に話を振られて、隅のほうで録音を聴いていたちなっちゃんは少し驚きながら、でも何食わぬ顔で話す。
「わたしは、もともと合唱もアルトだし、ハモりは慣れてるから……」
「でも今回上ハモだから、合唱とは感覚違くない? サクラのことだからまた夜な夜な猛練習してたんじゃ……」
「てんちゃん!」
てんちゃんの呟きを慌てて遮るちなっちゃん。前から薄々気づいてはいたけど、最近てんちゃんのおかげで、ちなっちゃんの努力家な一面を発見できたのがなんか嬉しい(はっきり言うとちなっちゃんに嫌がられそうだけど)。
「……でも、最初のライブから腕が上がってるのは、確かよね」
ちなっちゃんが呟くと、みんなそれぞれに頷く。あたし自身も、それから他のメンバーも、この短期間で出来なかったことが出来るようになって、出来てたことはさらに上達してるのが判る。何より、みんな表情がきらきらしてる。
「あたし、いますっごく楽しいよ」なおっちゃんが噛み締めるように呟いた。「余裕をもって、なんて言ってたけど、いろいろやりたいこと詰め込んで練習して、レベルアップできるのが楽しくて。他にもいろんなことに挑戦したら、もっともっといろんなことできるようになるのかな、って……」
意味ありげに言葉を区切ったなおっちゃんに、「なにか挑戦したいこと、あるのね?」と尋ねるちなっちゃん。あたしも、なおっちゃんが隠し持っている『挑戦したいこと』を知りたかった。
「ねえ、なおっちゃんが次にやりたいこと、教えて?」
なおっちゃんは意を決したような顔をして、カバンから紙の束を取り出してあたしたちに差し出した。
「今までより、もっと余裕がなくなりそうなことなんだけど……いいかな?」
三人で覗き込むと、それは手書きのバンドスコアだった。