あの音は待っている。 #6 Side Red

文字数 1,286文字

「!? ナオ、これ……!」

 ペンダントを突き返すてんちゃんから一歩離れて、あたしはにこっと笑ってみせた。

「これは、昨日くれたペンダントのお礼と、これからもよろしくの気持ち」
「これからもって、だって昨日……」
「ちーちゃんとまきちゃんと相談して決めたんだ。あたしたちは、ドラムのいない三人のバンドとしてやっていく。ライブがあるときには、ドラムを叩いてくれる『仲間』を迎え入れる」

 それが、てんちゃんとこれからも活動していくための、あたしたちの答えだった。

「昨日てんちゃんに言われて思ったの。メンバーとかサポートとか関係ない、あたしたちは『仲間』だって。それがあたしたちの形だって」

 だから今日はステージで、あえて『メンバー』とは言わずに『仲間』という言葉を使った。てんちゃんが気づいてくれてたかわからないけど。

「そんなの……屁理屈だよ」

 戸惑うてんちゃんに、「そうかしら」とちーちゃんが首を傾げる。

「世の中には、毎回サポートを呼んで活動をしてるバンドもたくさんいる。珍しいことじゃないわ」
「でも! またあのナルシストみたいなやつが出てきたら……」
「ナンシー先輩のことももう解決済みだよ」

 まきちゃんの言葉に、てんちゃんが眉をひそめる。

「……解決って、なんだよ」
「今日、ナンシー先輩のバンドの人に聞いたんだ。なんであんなに正規メンバーじゃないことに突っかかってくるのか」

『ナンシー、二年の夏から編入してきて、しばらく所属バンドが決まってなかったんだ』

 ナンシー先輩の絡みを見かねて、後夜祭の後、ボーカルを務めてた先輩がこっそり謝りに来てくれたことがあった。そのときに、ナンシー先輩の昔の話を教えてもらったのだ。

『去年の学園祭ではいくつかバンドのサポートもしてたんだけど、目立ちたがりというか、プライドの高さが演奏にも出てさ。メンバーからさんざん言われてたの、「サポートのほうが目立つな」って』

「先輩の中で、サポートは『目立たない引き立て役』ってイメージが強かったんだと思う。だから、学園祭で重役任されたてんちゃんが羨ましかったんじゃないか、って。だから、あの言いがかりは先輩の勝手な嫉妬ってこと」
「あとは、てんちゃんの喧嘩腰も影響してたでしょうね。このなかでいちばん沸点が低いから」
「だってそれは……!」
「あたしたちが悪く言われるのを聞いてられないから、でしょ。昨日言ってたもんね」

 あたしはもう一度てんちゃんに近づいて、その手を取り直した。

「あたしね、嬉しかったんだ。てんちゃんが、人一倍Gemstone(あたしたち)のことを想ってくれてるんだって。今までも、演奏以外のこともいろいろ手伝ってくれて。だから、ちょっと甘えてたところもあった」

 だから、と、掴んだ手をぎゅっと握りしめた。

「今日でサポートはいったん(・・・・)おしまい。あたしたちに使ってもらってた時間を、てんちゃんに返すよ。てんちゃんのやりたいこと、邪魔しちゃいけないから」
「ナオ……」
「きっとてんちゃんは、ひとりですごいことができるんだと思う。だから、そのすごい力を、今度はライブのときだけでいいから、ときどき分けてほしい。どうかな?」
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登場人物紹介

★アナウンス★

・アイコンイラスト(ちびキャラVer)を追加しました。

(2020/07/24)


・奈桜・真希・千夏の夏私服と所有楽器のイメージイラストを

ツイッターに公開中です。

*第2章-#3 を読んでからご覧いただくとより楽しめるかと思います。

斉藤 奈桜《さいとう なお》


高校二年生。いつも明るく、誰とでも仲良くなれる少女。

バンドではギター・ボーカルを務める。

佐倉 千夏《さくら ちなつ》

奈桜の同級生。学校ではおとなしい文学少女。

バンドではギター担当。

井川 真希《いがわ まき》

奈桜の同級生。薙刀部所属の文武両道少女。

バンドではベース担当。

富士森 天音《ふじもり あまね》

千夏のバイト先の店長の娘。高校一年。

バンドにはドラムのサポートメンバーとして参加。

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