刃を交えて。#4 Side Yellow
文字数 1,102文字
「……マキ、来るの早くない?」
背後からてんちゃんに声をかけられて、あたしはちょっと笑った。
「てんちゃんこそ」
「ボクは特に行くところがないだけ」
学園祭当日、お昼頃。屋外ステージにはすでにバンドセットが組まれていて、一組目の登場を待ち構えるお客さんがステージ前に集まっていた。
出演バンドは全部で八組。八番目のあたしたちの集合時間はまだだけど、あらかじめステージを見ておこうと思って早めに来たのだ。
「あの作戦、うまくいくと思う?」
横に並んだてんちゃんに尋ねる。あのあと、あたしたちなりにどうやったらお客さんを引き込めるか作戦を立てていた。バンド部門で最後の出番だから、うまくやらないと、その場にいたお客さんは帰っちゃうだろう。
「うまくいかせるしかないだろ、どうやっても。まあ、ナオの言ったとおりにあのくそナルシストが動けばの話だけど」
まだ見ぬ先輩へ向けた言葉とは思えない。コウさんのときもこんな感じだったけど、今回は明らかな敵意を向けられてるからか、容赦がない。
「もし先輩がドラムから動かなくっても、力ずくでどけたりしないでね……?」
「ステージ上では手荒な真似はしないよ、やるなら場外乱闘で」
「ダメ、それもダメだから」
てんちゃんの口調が冗談かわからなくて本気で心配になる。あたしの慌てようを見て、てんちゃんは少し目を細めた。
「……緊張、少しはマシになった?」
心境を当てられて、まいったなあと笑っちゃった。たしかに、今までにないくらい緊張していたのは事実だ。
目の前のステージを眺めながら、初めてのステージを思い出す。完璧を目指して、気張って、でも何かがうまくいかなくて。
「言っても本番は二回目だからね。また間違えちゃったら……とか思っちゃって」
「初ステージのときに『相手が誰でも話題かっさらうんだ!』って言ってたの誰だよ」
「よく覚えてるなあ。あたし忘れちゃってたよ」
てんちゃんは呆れた顔をしてから、肩にかけてたトートから何かを取り出した。
「ほら、これ」
「?」
受け取ると、それは鉱石のようなトップがついたペンダントだった。ごつごつとした粗い表面で、レモンイエローのグラデーションが奥底で輝いてる。まるで磨く前の宝石みたいに。
「てんちゃん、これは……?」
「お守り。邪魔だったらポケットにでも入れといて」
ナオとサクラにも渡してくる、と言ってその場を離れようとする。あたしはお礼を言う前に、ふと気になって口を開いた。
「ねえ、てんちゃんの石は何色?」
てんちゃんはちらっと振り返ると、さも当然のように言った。
「ないよ」
「え?」
「ボクのはないよ、メンバーじゃないから。ボクがサポートだって忘れてない?」
背後からてんちゃんに声をかけられて、あたしはちょっと笑った。
「てんちゃんこそ」
「ボクは特に行くところがないだけ」
学園祭当日、お昼頃。屋外ステージにはすでにバンドセットが組まれていて、一組目の登場を待ち構えるお客さんがステージ前に集まっていた。
出演バンドは全部で八組。八番目のあたしたちの集合時間はまだだけど、あらかじめステージを見ておこうと思って早めに来たのだ。
「あの作戦、うまくいくと思う?」
横に並んだてんちゃんに尋ねる。あのあと、あたしたちなりにどうやったらお客さんを引き込めるか作戦を立てていた。バンド部門で最後の出番だから、うまくやらないと、その場にいたお客さんは帰っちゃうだろう。
「うまくいかせるしかないだろ、どうやっても。まあ、ナオの言ったとおりにあのくそナルシストが動けばの話だけど」
まだ見ぬ先輩へ向けた言葉とは思えない。コウさんのときもこんな感じだったけど、今回は明らかな敵意を向けられてるからか、容赦がない。
「もし先輩がドラムから動かなくっても、力ずくでどけたりしないでね……?」
「ステージ上では手荒な真似はしないよ、やるなら場外乱闘で」
「ダメ、それもダメだから」
てんちゃんの口調が冗談かわからなくて本気で心配になる。あたしの慌てようを見て、てんちゃんは少し目を細めた。
「……緊張、少しはマシになった?」
心境を当てられて、まいったなあと笑っちゃった。たしかに、今までにないくらい緊張していたのは事実だ。
目の前のステージを眺めながら、初めてのステージを思い出す。完璧を目指して、気張って、でも何かがうまくいかなくて。
「言っても本番は二回目だからね。また間違えちゃったら……とか思っちゃって」
「初ステージのときに『相手が誰でも話題かっさらうんだ!』って言ってたの誰だよ」
「よく覚えてるなあ。あたし忘れちゃってたよ」
てんちゃんは呆れた顔をしてから、肩にかけてたトートから何かを取り出した。
「ほら、これ」
「?」
受け取ると、それは鉱石のようなトップがついたペンダントだった。ごつごつとした粗い表面で、レモンイエローのグラデーションが奥底で輝いてる。まるで磨く前の宝石みたいに。
「てんちゃん、これは……?」
「お守り。邪魔だったらポケットにでも入れといて」
ナオとサクラにも渡してくる、と言ってその場を離れようとする。あたしはお礼を言う前に、ふと気になって口を開いた。
「ねえ、てんちゃんの石は何色?」
てんちゃんはちらっと振り返ると、さも当然のように言った。
「ないよ」
「え?」
「ボクのはないよ、メンバーじゃないから。ボクがサポートだって忘れてない?」